モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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総選挙最終日まで315日な7月5日。



7月5日「ビキニスタイルの日」

「ねぇ? プロデューサーさん?」

 

「ん?」

 

 なんで、とぼけた声なんだろ。

 

「こっち、見ないの?」

 

「……加蓮、空を見てみなよ。カモメが、ほら、一、二、三と」

 

 あ、なるほど。誤魔化す気なんだ。

 

「寝たりしたら、悪戯しちゃうよ? それとも、そっちのほうがよかったり?」

 

「!」

 

 声に真剣な感じを混ぜたのが良かったね。

 

 Pさんはギクリとした表情になると、勢いよく立ち上がって、慌てて私の方を見る。砂浜のさらっとした爽やかな音も、Pさんにかかったらコミカルな効果音。思わず、大人っぽくしてた表情が崩れて、笑ってしまった。

 

 いつもと違う服装なのに、そんなところはいつものまま。からかわれやすい、私たちのプロデューサーのままだ。

 

 けど、私は彼の姿を見ながら、少しだけ胸の奥が高鳴る。事務所でも、仕事場でも、もしくはオフの時でも。よほどのことがない限り、スーツ姿のプロデューサーさん。それが、今、夏の陽ざしに照らされた水着姿で目の前にいる。

 

「ふーん」

 

「な、なに?」

 

 薄いパーカーを羽織って、腰から下は短パン。もう少しお腹が出ているかも、と予想していたけど、ちゃんと痩せてて、腹筋も割れているのは良いね。

 

 奏に報告してあげないと。去年のPさんダイエット計画、大成功だって。

 

 アイドルやっていると、皆、水着を着る機会はあるし、それが男の人に人気だっていうのも分かるけど、実は女の子も、男の人の水着姿にドキドキしたりするってこと、知らない人は多いみたい。

 

 それは、目の前のPさんも同じで、

 

「水着も似合ってるよ、Pさん♪」

 

 わりと本音を言ってあげると、Pさんは耳まで真っ赤になってしまった。

 

 

 

 白い砂浜。群青の空。碧い海。そこに吹き抜ける夏風。

 

 あの部屋で夢見ていた真夏のビーチは、アイドルになってからは身近になったけど、今でも変わらず特別だ。私の横で真っ赤になっている魔法使いさんが、連れ出してくれて、たくさんの思い出をつくった場所だから。

 

 この青色を見るたびに、女の子らしいワクワクが溢れてくる。でも今日は少しだけ、違うドキドキが隠れていたり。

 

 だって、この広いビーチに、人は二人だけ。Pさんと私だけ。

 

 カメラマンさんも、大勢のスタッフさんも。奏も、凛も、奈緒も、だれもいない。夏の海に水着姿で二人きりなんだから、デートって思ってもいいはず。

 

「よっ、と!」

 

 そんなチャンスにのんびりするのも、もったいない。まだ顔の赤さが取れないPさんと目線を合わせるように、私も立ち上がってみる。ずっと寝ころんでいたから、ちょっと体が重いかな。水で遊ぶならちゃんと準備運動しないと。

 

 体を前に、後ろに傾けて。それが終わったら、脚を伸ばして。

 

 ちょっと刺激的? 大丈夫、狙い通りだから。

 

「ほら、Pさんも! 一緒に!」

 

「あ、ああ」

 

 ふふっ、と屈伸しながら緩んだ顔を隠す。

 

 今、私のこと、ちゃんと見惚れてくれてたよね?

 

 夏らしいカラフルなビキニ。もちろん、体のメンテナンスはばっちりで、今の私に隙は無い。

 

 現役アイドルの水着姿なんだから、見る人みんなを魅了できないとね。特に、Pさん相手なんだから、ドキドキさせられなかったら、自信なくなっちゃうもん。

 

 それに今日の水着には秘密がある。

 

(だーれかさんの好み)

 

 彼が選んだ水着。

 

 北条加蓮の仕事として、私に一番似合ってると思って着せてくれたもの。

 

 昨日、この場所で私たちはグラビア撮影をした。少し時期は早かったけど、ちょうど気温は暑いくらい。だから私とプロデューサーさんは、事務所所有のビーチでてきぱきとお仕事をした。

 

 その次の日をオフにしてたのは、私とちひろさんの内緒話だったけど、ね。

 

 あとは、スタッフさん達も昨日のうちに帰って、オフをそろえた……、そろえてもらった私たちだけでプライベートを満喫中! ちゃんと水着は衣装さんから、もう一着買っていたから、準備も完璧。そのことを教えた時のPさんの顔は、今思い出しても緩んでしまうくらいに面白くてかわいかった。

 

 そうしてつくった時間。私のアイドルとしての水着が、完全プライベートのビーチにいる。その組み合わせがどんな効果を生んだかは、Pさんを見たら丸わかり。

 

「あれー? Pさん、どうしたの? いつもより、ぼーっとしてるけど?」

 

 準備運動は終わったのに、Pさんは気恥ずかしそうな顔で、私へ視線を送ったまま。それは、望んだとおりの反応だった。

 

(大成功♪ いつもは水着を見ても、Pさん、そんなにリアクションくれないもんね)

 

 からかわれ上手のPさんは、プロ意識がしっかりしてる。アイドルにしてもらってから、水着グラビアも何度も撮ったけど、撮影現場では、真剣に私たちへアドバイスを貰えてきた。信頼が置ける頼もしい姿だと思う。下品に鼻の下を伸ばされるよりは、ぜんぜん良いし、好印象。

 

 だけど、オフの日にまで、同じ態度でいられるのは、なんか嫌だ。

 

(前に事務所のプールで水泳練習を頼んだ時なんて、一瞬見惚れてくれたけど、その後はコーチモードで、水着には興味なさそうにしてたよね?)

 

 ただでさえ、私と比べたら大人っぽい奏も傍にいるんだから、こういう時に女の子として意識してもらわないと。何かを期待している訳じゃないけれど、そこは負けたくない私の意地だ。

 

「よしっ! 準備運動もできたし、Pさん、なにする?」

 

「なにって?」

 

「Pさんもお休みは久しぶりでしょ? ちゃんとこのビーチを満喫しないと。ゴムボールも持ってきたし、ビーチボールとかどう?」

 

 明るく快活に。茜みたいな元気の良さで言うと、Pさんも乗っかりやすい。

 

 その狙い通りにPさんも楽しそうに頷く。私と見つめあって寝そべっているよりは意識しないで楽そうだ。……けど、

 

「あ! その前に日焼け止めしないと」

 

「っ!?」

 

「Pさん、背中お願いしても、いい?」

 

 演技もだいぶうまくなった私。ギャップって、良いでしょ?

 

 子どもみたいに明るくして、貴方の気が緩んだところで妖艶に。色っぽさをいつも出してる奏とは違う、私だけの武器。

 

 それがトドメだったみたいで、Pさんは諦めたように苦笑いしながら、私のお願いを聞いてくれた。ちょっとだけ仕事の時とは違う、プライベートのPさんとして。

 

 

 

 ただ楽しい時間が続いてく。

 

 誰もいないから、騒いだり、駆けまわったりしても大丈夫。他の所で、そんな風に私が遊んでいたら、ファンのみんなにも気づかれちゃうけど、ここなら自由で開放感いっぱい。

 

(こういうの、めったにないよね)

 

 私が毎日を楽しめるようになったのは、Pさんと出会って、アイドルになってから。アイドルの仲間と海で撮影をしたり、ちょっとの自由時間を楽しむことはあったけど、プライベートの海で遊ぶことは少なかったと思う。これでも芸能人だから、周囲を騒がせないようにしないといけない。

 

 でも今日は、ビーチバレーをしたり、砂に大きな文字を書いたり、お昼にはスイカ割りをしたり、もちろん、海に浮き輪を浮かべたり。

 

 はしゃいで笑って、楽しんで。思い出が私の中に満たされていく。凛は私のこと『エネルギッシュ』って言うことあるけど、そのエネルギーの源はこれ。楽しんだ分だけ、私はどんどん先へ進む勇気を貰える。

 

 そんな一日は、あっという間に過ぎていって。

 

「あー! 楽しかったー!!」

 

 光が少し陰り始めた砂浜で、私は大声で叫んでいた。肌寒くなってきたから、上着を羽織って、でも、足元はまだひんやりな海に浸して。体から出てくる熱を冷ましながら歩く私の隣は、Pさんがエスコート。雰囲気は悪くない。

 

「満足した?」

 

「まんぞくまんぞく♪ でも、夏はまだ始まったばっかりだし、またこうやって遊びたいなー。今度は、事務所のみんなと一緒にね」

 

「了解、ちゃんとスケジュール調整できるようにしておくよ」

 

「さっすがPさん、仕事できる人!」

 

 嬉しいな。楽しいな。私の幸せを守ってくれる人がいる。この先の未来にたくさんの思い出が待ってる。

 

 あとはもう少しだけ、Pさんにも大人だって思ってもらいたいけど、どれだけ効果あったかな? 最後は、子どもみたいにはしゃぎ回っちゃったから。

 

 一日を思い返しながら上を見上げた時だった。

 

「きゃっ!?」

 

「加蓮!?」

 

 足が滑った。水に濡れた砂が柔らかくて、大きな一歩で地面がほぐれたから。

 

 このまま転んでも、きっと怪我はしない。それはビーチだから、安心。だけど、この一日の最後が、砂だらけで汚れちゃうのは、いやだな。

 

 スローモーションみたいにゆっくりと体が傾く感覚の中で、私がそんなことをぼんやり考えていたら、

 

「っ!!」

 

 背中と腰と。私を支えてくれる固くて暖かい感覚。

 

 目を開けたら、Pさんが私を真剣に見下ろしていて、それから顔も近くて。

 

(ああ、ずるいな……)

 

 今日は私がドキドキさせる日だったのに。

 

 大人っぽい私の魅力に気づいてもらって、もっと夢中になってもらうはずだったのに。

 

「加蓮、大丈夫?」

 

「……うん、ありがと」

 

 ドキドキしているのは私で、こんなに優しくしてもらえるなら、まだ子ども扱いでもいいかなって思っちゃった。

 

 夕焼けにも感謝しないと。

 

 こんなに赤くなった顔、Pさんに見せられないから。




デレステの夏に現れた加蓮の水着、色々と衝撃的でした。甘すぎる。可愛すぎる。

どうか、加蓮に清き一票をお願いいたします!
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