モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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総選挙結果発表まで229日な9月29日


9月29日「洋菓子の日」

「ビターと」

 

「スイート♪」

 

「「どっちがお好き?」」

 

 

 

「どっちもです!!」

 

 

 

 チョコレート片手に加蓮と奏が微笑み、最後に三村かな子大先生が両方とも美味しそうに食べて、満足げに。

 

 どちらが好きかと言われて、両方食べてしまうという大物っぷりだが、そこが良いと評判のCMだ。

 

 ライブが始まる前の提供紹介のように、番組のスポンサーでもある、そのCMがモニターに流れていた。そして、スタジオの中央には、落ち着いた色のエプロンを着た加蓮たちが立ち、観客へ笑顔を向けている。

 

 今日の収録は、料理番組。その名も、

 

『どっちも料理でショー』

 

 料理じゃなかったら何が出るんだ、とツッコみ入れられがちなタイトルである。

 

 とはいえ、この名前も的外れではない。番組で調理を担当するのはゲストのタレントたち。だが、彼等には料理アドバイザーが一切つかないのだ。当然、料理経験がない者が起用されたときは四苦八苦することになる。

 

 ハンバーグのはずなのに、岩石が出てきたり、

 

 カレーにマグロの眼が浮いていたり、

 

 コールタールのようなホットケーキが顕現したり。

 

 青く染まった鳥料理だったり。

 

 まあ、それらは極端な例だが、作られる料理の出来がお世辞にも褒められないことは……多々ある。芸人さんは、そこらへん上手くネタに繋げたり、料理上手アピールをしたりするんだが。

 

 ある意味で、現代らしい番組だ。結果が明らかなことに人々は興味を抱かない。完成までドキドキの方が、エンタメとして好かれる。失敗した料理も、失敗しても絵的には美味しい。そのような要素があって、バズりやすく、このSNS全盛期に視聴率も上々で推移していた。

 

(とはいえ、今回は笑い話にはならないぞ)

 

 スタッフルームから二人を見守りつつ、胸を張る。

 

 世間では広がっていないが、二人は料理上手だ。奏はデビューしたての頃に仕事でチョコレートケーキを作っているし、加蓮もあのネタに振りきった料理番組をトラプリ三人娘で盛り上げた。プライベートでも、料理を練習していたりと経験豊富。

 

 クールな彼女らが家庭的な面をもっているのも、ファンにはギャップとして刺さると思うし、仕事の幅を広められるだろう。ここで一つ、見事な手並みで周りを驚かせて欲しいと考えていた。

 

 何よりこの番組は、我らのホームグラウンド。

 

 番組MC兼試食係は、私も崇拝する三村かな子大先生。多少、ゲストが料理を失敗しても、あの魔法の言葉『美味しいから大丈夫』によってゲストを持ち上げてくれると、大人気。三村さんが傍にいることで、二人もリラックスしているように見えた。

 

「はい! そろそろ本番入ります!!」

 

「あ、もうそんな時間か」

 

 考えている間にCMも一通り終了していたようで、ADのアナウンスを合図に収録がスタート。

 

「よろしくね♪」

 

「「キャァアアアアア!!!」」

 

 その早々に奏が観覧席へとウインクと投げキッスを贈り、観客の女性全員が一斉に黄色い歓声を上げて顔を覆った。初見の人は驚くだろうが、加蓮も三村さんも慣れたもの。

 

 三村さんは元気な声で進行を戻していく

 

「さて、今日の『どっちも料理でショー』。ゲストはモノクロームリリィの北条加蓮ちゃんと、速水奏さんですっ♪ 私とは、同じ事務所で仲良しなんですよ」

 

「よろしくね、かな子!」

 

「お手やわらかに♪」

 

「こちらこそ! 今日のテーマは『お菓子』ですけど。奏さんは少し甘いのより、ビターな味がお好きでしたよね?」

 

「そうね。甘いお菓子も好きだけど。好みっていったら、刺激的でビターな方よ。加蓮は?」

 

「スイーツ? ビターもいいけど、甘い方が好きだよ。マカロンとか、プリンとか!」

 

「ふふっ、お菓子の好みって人によっていろいろですよね♪ 私も一緒に食べる人の好みを考えて作ってますっ。

 あ! さっきのCMで流れていた新作のチョコレートも、お二人の好みに合わせてビターなチョコと、すっごい甘いホワイトチョコのセットでお取り扱いされていますから、ぜひ、買ってくださいね!」 

 

 その他、皆で買い物に行った話や、事務所でのお茶会等、仲の良さが伝わるフリートークが五分ほど続いて。とうとう二人のクッキングタイムとなる。腕まくりし、気合も十分な加蓮と奏。そんな彼女たちが選んだお菓子は、

 

(ガトーショコラか)

 

 しっとりと、口溶けなめらかなチョコケーキ。

 

 料理の中でも、お菓子作りは時間がかかってしまうのが常だが、ガトーショコラの場合、効率よく作業を行えば、時間は短くて済むそうだ。収録放送だから編集できるとはいえ、半日も時間はかけられない私たちにもちょうどいい。

 

 もちろん、それは二人に料理スキルがあればの話であるが、だからこそ、PRにもってこいともいえる。何より、難しいくらいの方が二人は燃える。

 

 そんな期待を二人は裏切らず、スタッフが驚くほどの見事な手際で作業は進められていった。小麦粉や卵や砂糖を混ぜ合わせて生地を作り、チョコも湯煎に。合間にはトークを挟み込む余裕もある。

 

「二人は最近、印象に残ったスイーツってありますか?」

 

「最近かー。あ! この間、話題のカフェに行ったよ。タバスコパフェがあるとこ」

 

「えぇ!? あのパフェに挑戦したんですか!?」

 

「あら、かな子は試さなかったの?」

 

「もちろん試しましたよー! でも、すっごく辛くて甘かったから……。加蓮ちゃんは大丈夫でした?」

 

「ふふ、大丈夫だったよ。それに、ああいう体験も、面白いよね」

 

 などと楽し気に。

 

 しかし、番組を見る者は知らないだろう。加蓮は一口だけ食べて、後は私が平らげたことを。そして事情を知る奏はといえば、自信満々に話す加蓮を生暖かい眼で見守っていた。

 

「奏さんは?」

 

「そうね……。私、映画を見た後、喫茶店でお茶をすることが多いのだけど、行きつけのお店で新作ケーキを頂いたの。ラズベリーを使っているから、少しだけ酸っぱくて、けれど爽やかな甘さに夢中になっちゃった」

 

「ラズベリーですかー♪ ケーキにアクセントでいれると、美味しいですよね!」

 

「実は今日も……」

 

 そう言いながら、奏はキッチンの下に置かれた冷蔵庫を開け、タッパーを取り出す。その中には、奏がちょうど話していた紅色の果物が入れられていた。

 

「チョコレートケーキにラズベリーっていうのも、ぴったりでしょ? 今日の隠し味にしようと持ってきたの。チョコレートの甘さに蕩けて溶けて、けれどその中にはピリッとした刺激が。大人のキスみたいに、夢中になってしまいそう♪」

 

「キ、キスですかぁ……。やっぱり、奏さん、すごく大人」

 

「ねえねえ、奏? 一人だけ隠し味持ってくるのはずるいんじゃない? 私には何かないの?」

 

「ふふ、そういうと思って、ちゃんと持ってきたわよ」

 

 奏は微笑みながら、もう一度冷蔵庫を探る。

 

 加蓮は何が出てくるかと、好奇の視線を向けて、奏を待ち――。

 

 そして出てきたのは、

 

「はい、タバスコ」

 

「……っ!?」

 

 瞬間、北条加蓮はロボットのようにフリーズした。

 

 

 

 後日、加蓮はこの時のことを私に語ってくれた。

 

 夕日がさす窓に寄りかかり、黄昏ながら。

 

「思い出していたの、遠い昔の、辛かった記憶。私がどうしても忘れたい思い出……」

 

 それは、

 

 

 

「トライ……、お菓子づくり対決……」

 

 

 

 タバスコを見た時、加蓮の脳裏に浮かんだのは、その番組と繰り広げられた狂気の宴。

 

 神谷さん、渋谷さんと出演した加蓮は、妙なテンションの司会者と、ノリだけはよい審査員、そして負けず嫌いな仲間達がそろったことで、知らず知らず暴走した。

 

『センスの違いを見せてあげる!!』

 

『トライアドプリン!』

 

『ドライカレー&ライス!!』

 

 記憶にこだまするのは、ノリノリな宣言。もはや、アイドルとして立っていたことも忘れ、この珍番組で渋谷さんにガチ勝負を挑んでいた。

 

 オンエアー後、燃え尽きたように横たわる加蓮と、その横でプリンを黙々と食べる奏という光景を見たことは、私にとっても忘れ難い。

 

 そして、再びの料理番組で現れたネタ調味料を前に、加蓮は考えた。

 

(これを使った方が、ウケは良いかもしれない……)

 

 番組に染め上げられていたと、加蓮はしみじみ語る。

 

「ふふふふ、お料理番組に求められるものが、私には分からなかったんだ……」

 

「普通に料理すれば良かったんじゃ?」

 

「それだけ、あの体験は強烈だったのよ」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 では、番組の進行はどうなったのか。

 

 加蓮はかつての忌まわしい狂気によって、全身が支配されようとしていた。

 

 バラエティ番組はウケが命。それを一度体験してしまった以上、呪いは加蓮と共にあり続ける。

 

 加蓮は奏が冗談で差し出したタバスコを掴み、ボールの中へと入れようとした。

 

 

 

『美味しいから大丈夫だよ!』

 

 

 

 司会者もそう言っているじゃないか、と考えながら。

 

 けれど、

 

 がしっ、と加蓮の暴挙は二つの手によって抑えられる。呆然と、腕から伝う温もりに正気を取り戻しながら加蓮が見たのは、自分を優しく見守る、二人の顔。

 

「かなで……、かなこ……」

 

「大丈夫よ、加蓮。ここはネタ番組じゃない。私も、かな子もいる。たとえ、私たちが勝負をしていても、貴女は一人じゃないわ」

 

「加蓮ちゃん、料理は愛情、だよ」

 

「っ!!」

 

 加蓮は手の中のタバスコを見る。これを入れれば、ショコラはどうなる? 見た目だけはチョコレートで、中身は灼熱地獄。それが果たして、愛情と言えるのか、と。

 

(Pさんにだったら、愛情で通じるけど)

 

 おい。

 

(今、私はここにアイドルとして立っている! アイドルは、夢と希望を届ける存在! 私がみんなに届けたいのは、いっぱいの愛情!!)

 

 そしてそっと、加蓮はタバスコを、おいた。

 

 こつんと置かれた瓶はとても軽かった。

 

「加蓮……」

 

「加蓮ちゃん……」

 

「ごめんね、奏、かな子。私、また呑まれそうになってた。料理番組とバラエティの呪いに。

 そして、ありがとう。私はもう、迷ったりしない。北条加蓮として堂々と、この料理で魅せてあげる!!」

 

 流れるBGMは『薄荷』。

 

 加蓮を支え続けたソロ曲を聞きながら、今度こそ本当の隠し味を取り出す。

 

「私らしいお菓子、それは……」

 

 ミント。

 

 濃厚なチョコレートの中に、爽やかな薄荷の香りを。

 

「これが正真正銘、私の愛を込めたガトーショコラ!!」

 

 加蓮の宣言。

 

 盛り上がる会場。

 

 微笑む奏に、ごくりと喉を鳴らす三村さん。

 

 そうして一騒動を乗り越えた二人は無事、チョコレートを三村さんへ差し出すことになる。特徴豊かなそれらを、もぐもぐといただいた三村さん。

 

 宣言するのは今度こそ、心の底からの賛辞。

 

 

 

「おいしいー♪」

 

 

 

 こうして、加蓮と奏の料理対決は、無事に幕を閉じた。

 

 ……後日、例の下りが強調された放送を見た加蓮は、しばらくタバスコを避けるようになったが、それは別の話。




加蓮はコミカルな役どころもおいしい。

総選挙も一週間が過ぎ、ますます過熱してきましたね。

どうかモノクロームリリィの二人への応援を、お願いいたします!
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