今回は普段と違い、一風変わったミステリー仕立てでお送りします。
人里離れた山奥に、その洋館は佇んでいた。
稀代の実業家であり、宝石コレクター、そして裏社会においては犯罪組織の総締めとして知られた黒田金雄。心の辞書に『信用』の二文字が存在しない男の別荘。
夜より深い漆黒に仕上げられ、月の光を写し出すことから、『月光館』の名で知られた豪奢な建造物は、しかし今、月の光の代わりに煌々とした赤いランプに照らされていた。
館を取り囲むパトカーの中から、一人の女性が現れる。
若く小柄で、美人という形容詞が物足りないほどの顔立ち。けれど、目は勝気に、振る舞いは堂々と。
男物のトレンチコートを靡かせながら帝都警察が誇る女警部、北条加蓮は事件現場へと向かう。
(……冷たくて、寂しい場所)
加蓮は重苦しい扉を開けると、館へとそんな感想を得た。聞くに、館の主の疑心暗鬼のせいで、内部で働く者は数人の使用人だけ。このような建物を作っておきながら、客さえめったに呼び寄せないらしい。
本来なら、無人であっただろうこの場所は現在、加蓮の部下である警察官たちで溢れている。指紋や毛髪、犯人の形跡を探そうと、あちらこちらへ視線を飛ばす彼等を横目に、加蓮はまっすぐ先へ。
そうしてたどり着いたのは、広間の隅、ひっそりと飾られた西洋甲冑のショーケース。通常なら、ぐるりと広間を探さないと気にも留めないそれは、今だけは人目を集めていた。
その横にはぽっかりと隠し扉が開いているのだ。ショーケースの角にスイッチがあり、それによって開けられる仕掛けなのだと、鑑識は語る。
「お金持ちが考えることって、ほんと小説じみてるね」
加蓮は呆れを一つ残しながら、隠し扉の先、地下へと続く階段へ。
狭い。人一人がやっと通れる通路。
元から、館の主だけが通ればいいと、そんな自己中心的感情で作られたのだろう。それを二十段ほど下り、最後に待つのは生体認証とパスワードが待つ鋼鉄の扉。もっとも、それら強固なセキュリティは意味なく、扉は開けっ放しになっていた。
ようやくと光が入り、開けた視界には、やはり大量の警察官が現場検証に勤しんでいる。
陰気な館の中と比べれば、その部屋は加蓮にとって興味深くはあった。地下にあるとは思えない、広々とした円形の室内。中央から放射状に整然と並んだ強化ガラスケースの中には、色とりどりの宝石が光り輝いている。
ここは黒田が贅を尽くし集めた、黒田のみを客とする宝石コレクション。
しかし部屋の中央は、不自然にスペースができていた。
黒田コレクション最大のダイヤ『白芙蓉』が、そこには飾られていたはずだが、痕跡すらない。
僅か数十秒の停電の合間に、白芙蓉が盗人によって奪われたのだ。
それが加蓮がこの場所へ呼ばれた理由。
代わりに立つのは、宝石よりも存在感を放つ、一人の女性。
加蓮は彼女の姿を認めると、大げさに息を吐き、『不満です』という感情を表に出しながら話しかけた。
「宝石どころか、ケースごと綺麗さっぱり! 階段から持ち出せる大きさじゃないし、監視カメラには何も映ってない。認証もパスワードも、人が入った形跡一つない! ……ついでに」
「私がいて、この体たらくって?」
女性が呟いた。
凛として、どこか蠱惑的で、囁くような声なのに、誰もの耳にも届く声。
加蓮は渋々頷いた。
「……認めるのは嫌だけどね。『LiPPS探偵社』の速水奏がいて、まんまと盗まれるなんて」
細身のスーツを身に纏い、けれども男装で妖艶な表情を持つ女性。
彼女こそは名探偵として声望を欲しいままとする、LiPPS探偵社の速水奏。加蓮とは共に『迷宮入りなし』と称され、帝都の紙面でライバルと呼ばれる美貌の探偵だった。
加蓮をこの場所へと呼んだ通報の主は奏だ。
夜中に前ぶりもなく、加蓮の携帯を鳴らしてきたのだ。けれど、『月光館で白芙蓉の盗難事件が起きた。至急警察をよこせ』という奏の言葉を、加蓮は最初に疑った。
公僕である警察として、あくまで素人である探偵へ競争心は存在するも、数々の事件を共にし、奏の探偵としての能力は認めがたくとも、加蓮は認めている。
奏が現場に居ながら、白芙蓉を奪われたとは、にわかに信じられなかったのだ。
しかも、犯人が国中を騒がせる大怪盗だということも。
「怪盗ヨリコ……。たしか、奏が前に一泡吹かせた義賊気取りだよね?」
「ええ。強欲な資産家から宝飾品を奪うのが彼女の流儀。ご丁寧に予告状を送り付けてね」
「古典的な……。で、それでも警察が捕まえられなかったのを、奏がお縄にしたと」
「すぐに逃げられたけど♪」
言いつつも、奏の顔に悔しさなどはなく、むしろ好敵手への賛辞のようなものが感じられれ、加蓮はそんな態度に三度目となるため息を吐いた。この探偵は事件解決よりも、謎やスリルを求める傾向が強い。そこが何より警察とは相いれない部分。
「予告が届けられたのは?」
「一昨日。この館の主で……」
奏はそこで部屋の奥を見つめ、
『なにが名探偵だ! 聞いて呆れる!! 貴様らも、警察ごときがわしの館にずけずけと!! いいか! わしは必ず宝石を取り返すぞ!! いいか、必ずだ!! 貴様の悪評もまき散らしてくれるぞ!! 名探偵など……うっ、し、心臓が!!!」
階段の上から届けられる、しゃがれ、冷静をかいた叫びへと肩をすくめた。
「騒いでいる品性が足りない人へ。それで私たちに依頼が」
「警察じゃなくて、探偵へなんて。後ろ暗いのが丸わかり……」
「でも、判断は悪くなかったと思うわよ。これでも帝都一の探偵を自負してるから」
「結局、怪盗に出し抜かれたんじゃ意味ないでしょ?」
加蓮の嫌味ともとれる言葉に奏は、
「ふふっ、どうかしら」
と、意味深な微笑みを浮かべる。
「……」
「さて、ここで問答をしてるのも勿体ないわ。一緒に事件でも検証しない? 加蓮」
「はぁ……」
奏は呆れ顔の加蓮を連れて、入口へと。
加蓮は奏についていきながら、事件の状況を整理した。
館の警備体制は隠し扉、パスワード、指紋認証、探偵速水奏。
さらに、それらを華麗に突破し、白芙蓉を持ち出したとして、続く難関は階段だ。狭く、小柄な加蓮でも窮屈に感じた。宝石だけならともかく、ケースごと持ち運ぶことはできない。更にそれを山奥から持ち出すには大型の車両が必要。トラック痕などは、現在発見されていない。
(一見すると不可能犯罪。だけれど、探偵ヨリコは不可能も可能にするって言われてる)
万人の見守る中、美術館から王冠を盗み出した。
帝国一の金庫から金塊を奪った。
それが怪盗ヨリコ。奏に敗れるまで、百戦して無敗。彼女の存在を思えば、この不可思議な現象にも、トリックが存在するのではないかと考えざるを得ない。
(でも……)
一方で、加蓮の中には別の疑念があったが……。
「……このセキュリティ、元から手が加えられていた可能性は?」
それを胸の中に留めて奏の説明を待つことにする。奏が何を考えているかは分からない以上、下手に自分の考えをぶつけない方が良い。
奏は扉を細長い指で触りながら、話を続ける。
「ないわね。予告の一時間前に志希が調べて、異常なしと判断してる。館のシステムは独立しているし、外部から手出しはできない。それに、犯行時刻は私がこの扉の前に張り付いてたから」
「でも、停電は発生したんでしょ?」
「消えるのは灯りだけで、警備には影響しない仕組みになっていたの。館の主は詮索されるのが嫌いなようで、地下に関連するシステムしか触らせてくれなかったけど。
どちらにせよ、私がここに立っている間、扉は開かれなかった。このルートの侵入者は可能性が低い。中の様子も、手元のタブレットで確認を続けていたわ。停電が起こる間を覗いてね」
「……だったら、監視映像のすり替え」
加蓮が考えたのは、よくある手だ。変化のない映像だからこそ、数日前の画像をループさせ、監視の目を外す。奏が来る前に部屋に忍び込んでおけば、内部に入るという一つの関門は突破可能だ。
しかし、奏はそれも否定した。
「あり得ないわね。事前に中は確認したし、その時に目印となるボールも置いておいたの。画像のすり替えなら、すぐに分かるわよ」
「ボール?」
「ええ。スイッチを押したら、刺激的な不思議なボール。白芙蓉が消えた後にはちゃんと起動しておいたわ」
「うわっ、それ……」
部屋に置いたものと同形状らしい、奏の細い指に挟まれた銀色の金属球を見ながら、加蓮は苦い声を出す。
彼女には、その球へ警戒するに足る記憶が存在していた。彼女の脳裏にはLiPPSが誇る科学者であり、更にはトラブルメーカーとして名高い女性の奇妙な笑い声が響き渡っていく。
一方で奏は、そんな加蓮の様子へ微笑みを浮かべていた。可愛らしい友人を愛でる様な仕草だった。
「ええ、これは加蓮も知っての通り、スイッチを押すと無色の催涙ガスが出るの♪ 中に人がいたら、誰一人として意識を保てなかったはずよ」
「強烈だもんね、それ。ほんとに……。
ちなみに今日は他の娘は? 美嘉なんて一緒じゃないのが珍しいくらいなのに」
「依頼人が『館の人数は減らしてくれ』って、追い出しちゃって」
「それでこの結果、か」
「あら? 私たち五人がそろってたら、こうはならなかったって。そう言ってくれるのかしら?」
「……騒がしくて、怪盗も入る気がなくなるってだけ」
そうしておくわ、等とくつくつと奏が喉を鳴らしながら言う。
この美貌の探偵が加蓮と出会ってから、既に長い時間が経っているが、見た目に似ず古いタイプの刑事が挑みかかってくるのを、内心で楽しんでいることは明らかだった。
加蓮がいると、金の瞳が鋭く輝いているとは探偵仲間の談。
そこまでの説明を受け、加蓮は腕を組みつつ、奏へと問う。
「なに企んでるの?」
説明を受けて、やはり、違和感はあった。
どうやって侵入されたのかも不明。どうやって逃げられたのかも不明。なのに、奏はまるで焦っていない。
加蓮が知る限り、この奏に限って、事件未解決はあり得ないのだ。仮に真実へとたどり着けないとしても、証拠の一つも見つけられないはずがない。
そして何より、自分と同じくらいに負けず嫌いな奏が、出し抜かれて黙っているなど、天地がひっくり返るような出来事だ。
考えられるのは一つ。
(もう、奏は真相を掴んでる)
だからこそ、美貌の探偵は余裕でいるのだ。怪盗を追う気もないのだ。
そんな刑事の勘を見抜いているのか、奏は加蓮の肩に細い手を置くと、耳元でささやく。夜の危険へといざなうような、妖艶な言葉を。
「教えてあげてもいいわよ……? 今夜、私のワトソンを務めてくれるなら、ね」
並の人間なら魂さえ奪われかねない魔的な言葉。それが加蓮の脳裏を包み込もうとするも、加蓮とて誇りある刑事。それを意にも解さず、手を払いのけてみせる。
逆に不思議な色を放つ瞳をまっすぐに見つめながら、加蓮は笑った。
「冗談。奏がホームズを気取るなら、私はコロンボ。後ろに付いていくだけなんて、ガラじゃないの」
言い放つ。
そうすると今度こそ、奏は声を立てて笑い出した。先ほどの傾国の美女のごとき声とは裏腹な、年相応の明るい笑い声だった。
「それじゃあ、ルテナント? 彼らしく犯人の目星はついているの?」
疑問へと、加蓮は強く頷く。
白芙蓉が消失したトリック。それ自体は見当もつかない。だが、それは謎が好きな奏が勝手に解けばいい。刑事としての仕事は、一に犯人を捕らえること。そして加蓮が武器とするのは直感は、狙う標的を明確に告げていた。
数分後、奏は館に散らばった警察官を全員、展示室の中央へと集めていた。
「さて、素敵な謎解きを楽しみましょう」
奏は舞台上の役者のように。立ち姿だけで、年若い幾人もの警官を赤面させた奏は、それも楽しむように口角を上げる。そして、細く通り抜ける声が滔滔と真相を語り始めた。
この場所で引き起こされた謎。ケースどころか、痕跡すら残さず、白芙蓉はどのようにして持ち去られたのか。
「まずは前提条件。
事件の発生当時、この館の警備システムは正常に働いていた。地上へ続く、あの狭い階段だけが此処へと繋がる道。入口には私が詰めていて、当然、出入りはなかったと断言できる。
犯人が行動を起こせたのは停電が起こった十秒くらい。その後、白芙蓉はケースごと消えた……」
奏が歌う様に諳んじると、警察官たちが困惑気に言う。
「それじゃあ、まるで魔法だ」
侵入方法はなく、脱出方法もない。
いかなる手品をもってすれば、怪盗ヨリコは白芙蓉を盗み出せるのか、と。
「そうね。これは魔法のような出来事。部外者が短時間で細工をし、巨大なケースとダイヤモンドを私の前から持ち出すなんて。
……けれど、これは決して魔法じゃない」
奏は言いながら、小さく円を描くように歩く。
コツコツコツコツ。
「かの名探偵は言ったわ。全ての不可能を除外したものが真実、と。
私も彼に倣って考えてみたの。この部屋で起こった事象は、どんな『不可能』から構成されているか。
入ることも不可能。出ることも不可能。私の眼から逃れることも、不可能」
探偵小説では、トリックや仕掛けによって不可能は可能となる。しかし、それは次のように言い換えることもできる。
それは不可能じゃない。元から可能であっただけだ。
「真に不可能という存在は、どこまで突き詰めても不可能で不変。トリックは、『不可能』という仮面によって、『可能』を隠しているだけのこと」
ならば、
「出ることも、去ることも、私という番人も。この犯人は何一つ乗り越えていないのよ。ではそこから導かれる真実は一つ。……私たちが行動する前から、事件は起こっていた」
「しかし、貴女は白芙蓉を確認したのでしょう? この部屋にあった! 監視カメラも確認している!」
「ええ」
「じゃあ、どうやって怪盗は白芙蓉を盗んだというんですか!?」
追及の声を聞き、奏はただ黙って、部屋を見渡す。
きらめく金色の瞳が、一片の隙もなく。
ぐるりと、天上から床まで一巡し、
「ここよ」
奏はブーツの音高く、床を鳴らした。
警察官たちの視線がそろって、奏の芸術品のような脚を伝い、靴が置かれた床を見る。
何もない、タイルが敷き詰められた床を。
「この部屋から持ち出すことは不可能だった。クレーンや重機を使わない限り、ここから上へ出すのは、ね。
だったら手段は一つ。この下へ白芙蓉は移動したのよ。重いケースを持ち上げるのは大変だけど、下へと落とすのは楽でしょ?」
「ば、ばかな!」
今度こそ、警官たちはおかしなものを見たように叫び、それへと奏は微笑まし気に顔を緩める。
「馬鹿げてるかしら?」
「だって、この床を見てください! 壊れてもいないし、傷一つもない! 下から穴を掘ったなら、こうはならないでしょう! 跡が残らないよう、装置を仕込んでいた!? それこそ無理だ! 何十日どころじゃない時間がかかる!
魔法以上に不可能ですよ!!」
「警察官さん、あなたは誰にとってこの犯行が不可能だといっているの?」
「それはもちろん、かいと……」
瞬間、興奮に浮かされ、声を荒げていた若い警官は、突如として声を失った。
驚きに顔を硬直させた男へと、奏は目を細め、頷く。彼らが知らず、真実へとかぶせていた仮面。それが剥がされたのだ。
「ええ、そうよ。
犯人が怪盗だったら、この犯行は不可能。でも……不可能を可能にする人間が一人だけいる。
さあ、ここで素敵な刑事コロンボに登場してもらおうかしら。……貴女は気づいていたのよね、加蓮?」
ステージでアシスタントを紹介するように、嫋やかに加蓮へと手を向ける奏。そして、その仕草に不満を感じつつ、加蓮は前へと出て、告げる。
「この館の主なら犯行は可能だった。つまり、これは自作自演」
「加蓮の言う通り。彼は世間に伝わる怪盗ヨリコの風評を逆手に取ろうとしたのよ」
魔法を使いこなす大怪盗なら、このような出来事も不思議じゃない。人知を超えたトリックで、この犯行を成し遂げた、と。皆に思わせようとした。
予告状、停電、探偵への依頼は、誤認させるための小道具。
そして、これが自作自演だと分かったら、仕組みは簡単だ。
「最初から装置はあったのよ。むしろ、無ければおかしい。
外へと持ち出しが不可能な展示室は、ひるがえって、宝石に逃げ場がないということ。地震、火災、それらから宝石を守るには、非常用の持ち出し手段、地下へ避難させるベルトコンベアなどが必要だったの」
「動機は!?」
「ああ、それは私から。黒田は放蕩が祟って、かなりの借金を負ってる。その完済のために、白芙蓉にかけた保険金が欲しかったみたい」
「スマートじゃないわね。欲に踊らされた資産家の最後の抵抗。
怪盗ヨリコの名を騙ったのが、ただの保険金詐欺だなんて。ここへ私を呼んだのも、目撃証言を作るためよ。
それで? 加蓮はいつから気が付いたの? 犯人が黒田って」
問われた加蓮は、どこか悔し気に奏へと伝える。
「刑事の勘って言いたいけど……。
奏達の評判はこの国に知れ渡ってる。なのに、奏一人を置いて他は引き揚げさせるなんて、あり得ないでしょ? このコレクションが大事なら。奏こそ、床下の装置のことはいつ?」
「不可能を不可能と認め、可能を探したら自然と。
それに、床に仕掛けがあることは、白芙蓉が消えてすぐに。私の眼は特別だから、床にあった小さな傷すら記憶する。けれどそれは、盗難の前後で少しずれがあったの」
「じゃあ、すぐに黒田を問い詰めれば良いじゃない」
「この館には彼の部下しかいないから。足止めされて逃げられたら癪だもの。だったら、騙されたふりして、優秀な警察官達を待った方が確実よね?」
「……私たちは、黒田を逃がさないための人手ってだけか」
「ふふっ、加蓮なら信頼に足る働きをしてくれると信じていただけよ。だから、今この瞬間にも監視をしているのでしょう?」
黒田の予期せず集まった大量の警察官。彼にとって、その存在は鬱陶しかっただろう。元からのプランでは、探偵の前で白芙蓉を消し、怒ったふりをして彼女を追いだし、喧伝するだけだったから。
だが今、警官の大部分は地下に集まっている。すぐにでも逃亡、あるいは工作を行いたい黒田にとっては絶好のチャンス。
奏が予期していた通りに。
美貌の探偵は謎解きいうステージを降りると、満面の笑顔を作った。そして、まんまと利用されていた加蓮は、悔し気に歯を噛みしめ、無線機へと声を飛ばす。
けれどもすぐ、その顔色が変わる。
「黒田を確保して! ……逃げた? 控室に隠し扉? もうっ! なんでこんな漫画チックな!!」
「行先は白芙蓉の隠し場所かしらね? ちょうどいいから案内してもらいましょ」
いうなり、加蓮と奏は互いに先を争いながら、地上へと向かう。
警官が案内した、黒田の控室には、確かに戸棚の奥に隠し扉が存在した。コレクションと同じく、狭く、そこまで長くはない階段。それを走り抜け、更に一本道を超えると――。
「っ!?」
「……やるわね」
加蓮は驚愕に顔を強張らせ、奏は静かに賞賛の言葉を贈った。
対象は、
「むぅー! むぅー!?」
芋虫のように縛られ、転がった強欲な詐欺師相手ではない。
黒田の隣には、空のショーケースだけが整然と置かれ、その中には、
『白芙蓉、たしかに頂きました』
と、怪盗ヨリコが残した洒落たメッセージが残されていた。
次週『怪盗ヨリコの逆襲 後編』
「ここで続くの!?」
「連続ドラマだから、これ」
「ふふっ、探偵な私と加蓮も似合うでしょ?」
真実を見通す名探偵と、勝気な刑事のコンビって奏と加蓮に似合うと思いませんか?
いつか探偵イベントでの出演とか、期待しています。
それでは、今日も加蓮と奏の応援を、よろしくお願いします!