モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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総選挙最終日まで198日な10月30日


10月30日「初恋の日」

 今日は某所で奏と加蓮による握手会イベントが開催されていた。

 

 モノクロームリリィの新曲CDの購入者が応募できるという仕組みで、ファンの皆さんは遠く向こうまで長い列を作っている。

 

 それら一人一人を遠巻きに見ていると、私は何だか温かい気持ちになってくる。

 

 皆、楽しそうにしているのだ。ぎこちなさそうだったり、これからの一瞬が念願である分、緊張はしているけれども、笑顔があふれている。

 

 アイドルが輝いているときと同じくらい、プロデュースの喜びはここにある。これほど、喜びと楽しさが集まる空間は他にあるだろうか、と思わずにはいられない。加蓮が、奏が、こんなに多くの人を幸せにしているということを教えてくれる。

 

 同時にこの時間は、二人にとってもアイドルへの強いモチベーションとなっている。加蓮も奏も、ファンの笑顔を見ることが好きだから。今も、列の先頭では満面の笑顔と共に、ファン一人一人と視線を合わせ、握手し、言葉を交わしているだろつ。

 

 二人に力をもらって仕事がうまくいった、大学への進学が決まった。二人に感想を聞くと、ファンの皆はそんな前向きな言葉をくれて、自分達が逆にエネルギーを貰ってしまうという。

 

 それに、

 

(トラブルが起きそうにないのにも、感謝しないとな)

 

 加蓮と奏のファンに丁寧な人が多いのは、プロデューサーとしても誇らしい。

 

 ライブやイベントでの彼らは、サイリウムやコールを駆使して、強い感情で盛り上げてくれるけれど、トラブルを起こさず、皆が同士として認めあい、交流も盛んなことも知っている。こうしてアイドルとファンが間近で接するイベントを開けるのも、その信頼があってこそ。

 

 今日もこれまでと同様に、トラブル一つなく、和やかに握手会が終わるだろう。

 

 そう思っていた私の耳を、大きな声が打ったのはその時だった。

 

 

 

「すきです!!!」

 

 

 

 幼そうな声だ。

 

 次いで、激しい泣き声が加蓮たちがいる場所から聞こえてくる。

 

 何かがあったのではないか。私は即座に彼女たちがいる場所へと向かった。二人の傍には警備スタッフがおり、揉め事や争いの気配はないが、万が一があれば取り返しがつかない。

 

 そうしてファンやスタッフを掻き分け、息を切らして加蓮たちの元へとたどり着いた私は、

 

「……ああ」

 

 安堵で胸をなでおろした。 

 

 加蓮と奏は穏やかに微笑んで、泣きじゃくっている『ファン』の頭を撫でていたから。

 

 握手会の範疇は超えているサービスだが、相手が相手。その景色を眺めている他ファンの方々は、むしろ良いものを見たと言いたげに満足げに頷いてくれていた。

 

 加蓮と奏へ、泣きながらも懸命に愛を伝えていたのは、まだ小学生にも満たない女の子だ。

 

 このイベントは年齢制限もなく、保護者同伴なら小さい子でも来られることになっている。隣では母親らしき女性がスタッフへと平謝りしているので、一人で迷い込んだということもない。それに以前にも、モノクロームリリィへ幼い子どもたちからファンレターが届いたこともある。こうしたことも、初めてではあったが、あり得ること。

 

 なにより、

 

『だいじょうぶ』

 

 と、奏が私へと口パクで伝えてくれた。チャーミングなウィンクと共に。それを見れたなら、私は二人を信頼し任せるだけだった。

 

 

 

 女の子は、その後泣き止み、加蓮と奏のハグをお土産に帰っていった。

 

 撤収作業を行っているスタッフの中、スマホ片手にファンの反応を探ってみるも、他のファンから『奏ちゃん、かっこいいのに優しいとか反則!』とか『加蓮ママ尊い』とか、単純に『尊死』という書き込みがあるので、世間は好意的と捉えていいだろう。あとは私が会場と事務所に謝りついでの報告を上げればいいだけだ、問題ない。

 

(それにしても、夢見さんのママ発言の反響はすさまじいな。まだ『加蓮ママ』って言われてる)

 

 以前に某可燃系アイドルがぶち上げてくれたあだ名は、まだネットの海をダイビングしているようだ。面倒見がいいのも、加蓮の一面だが、変な広がり方したら困る。やはり炎上系は取り扱い注意だ。などなど、イベント終わりは反省やら次のプランやら考えることが多い。

 

 そして何より、二人に感想を聞かないと。

 

 スタッフの皆と挨拶を交わしながら、控室へ向かった私は、ノックをしてから部屋に入る。既にそこでは、加蓮も奏も衣装から私服へ着替え、思い思いに過ごしていた。

 

「お疲れ様」

 

 労いの言葉をかけると、加蓮はにっこりしながら手を差し出してくる。いつもの通り、姫様は貢ぎ物が欲しいようだ。

 

「はい。今日はコーラで良かった?」

 

「ありがと、Pさん」

 

「奏には紅茶」

 

「ほんと、注文していないのに、欲しいのをもってくるわね」

 

「そこは年季があるから」

 

 二人の好みは完璧に把握してる。

 

 自信満々に言うと『でも、からかわれるのには慣れないんだね』なんて、加蓮が笑った。そこは君達の方が上手なだけだ。

 

 ドリンクを飲んで、一息ついて。

 

 二人が落ち着いたところを見計らって話を切り出してみる。

 

「少しトラブルっていうか、あの子のことがあったけど、大丈夫だった?」

 

「ふふっ、私たちは大丈夫よ。あの子、最初はもじもじしてたの。だけど、少し待ってたら、勇気を出して言ってくれて。けれど安心したのね、最後は泣いちゃった。

 周りのファンのみんなも理解してくれたでしょうし、私たちからは何も言うことはないわ」

 

「あの子、可愛かったなー。来年から小学生だって。あの子のお母さんが言ってたんだけど、毎日私たちの番組見てくれてるの。幼稚園に行ってるから、録画忘れてないか何度も確認したり」

 

「そりゃ、熱心なファンだね」

 

「そうでしょ? しかも、今の夢はアイドルだって! 私たちみたいにステージに立ちたいって……」

 

 そこで加蓮は、はにかむように口元を抑えると、少しだけ震える声で言った。

 

「……私の夢、一歩一歩叶ってるんだよね。私がそうだったみたいに、皆に夢を届けられるアイドルになりたいって思って。それでみんなと一緒にここまで登ってこれた。

 今は、あんなに小さい子が私のこと、憧れだって言ってくれてる」

 

「……ええ、そうね。あの子がアイドルになるかは私たちには分からないことだけれど。辛い時、寂しい時に今日のことが支えになったら、そして夢への道しるべになったら。

 私たちにとっても幸せな事よね」

 

 病院の一室で、テレビの中で輝くアイドルに憧れた加蓮。

 

 理解されずとも、目指す理想をストイックに追い続けていた奏。

 

 そんな二人がアイドルになって、誰かの憧れに、理想になろうと歩みを進めてきた。

 

 二人の夢がどれだけ叶っているのかということへ明確な答えは出せないものだし、果てもない。けれど、ファンの皆が見せてくれる笑顔と想いは、アイドル北条加蓮、速水奏が進んできた道のりが間違っていなかったと、証明してくれている。

 

 私の知らない先人たちが二人に夢を与え、そして二人のアイドルが、更にたくさんの子どもたちへ夢を届ける。

 

 夢で繋がる世界だ。

 

「それで、あの子もアイドルになって、もっと多くの人へ……」

 

「ロマンがあるわよね? 夢想家が望むように、素敵で。でも、ただの夢物語じゃない。私たちもその途上にある。眼を閉じないで見れる、この足元に」

 

 奏の歌うような言葉は私に一つの幻想を見せた。加蓮と奏と、ファンと、スタッフと、皆が笑顔でバトンを届けながら、さらにさらに未来へと。

 

「……優しい顔してる」

 

「ん? ……そうだね。二人がそんな素敵な未来を作ってくれるってそう思ったら嬉しくて」

 

 囁くように言う加蓮へと、私は笑顔を浮かべる。

 

 すると加蓮は、目を輝かせながら私の頬を突っついてきた。

 

「二人、じゃなくて。私たちでしょ? ……貴方もその夢の一人だよ? 私と奏をこの場所へ連れてきてくれた、それで未来まで導いてくれる魔法使い」

 

「灰かぶりは一人でお姫様になったわけじゃないわよ? 魔法使いが城へ連れて行って、希望と夢を叶えた。いつか魔法が解けたとしても、貴方がかけた魔法はガラスの靴になって、誰かの足をまた城へと導く」

 

「……うん」

 

 私がしたことは、きっとわずかだと思う。二人に夢を見て、二人がやりたいことを支えてきただけ。でも、そうして一緒に歩いてきた分、夢を運べる手伝いができたなら。きっと、私が歩いてきた道も、魔法と夢で満ちている。

 

「そういえば、聞いたことなかったわね……」

 

 ふと奏が尋ねてきた。

 

「Pさんの子どものころの夢。憧れたヒーローとか、職業とか、貴方にもあるでしょ?」

 

「あ! それ聞きたいなー! やっぱり宇宙好きだし、宇宙飛行士とか?」

 

「ふふ、Pさんなら、正義の味方とかでも似合いそう。……それに、初恋の人とかも、知ってみたいわ」

 

「そんなに、面白い話ではないかもしれないけど」

 

 だが、私の過去がどうであろうとも、今の夢は一つだ。

 

 加蓮と奏をトップアイドルにする。

 

 それが私の唯一つ、命を懸けてやり遂げたい夢。




加蓮と奏の握手会とか、行ってみたい。なぜ私はアイマス世界にいけないのか……

今日も加蓮と奏の応援をお願いいたします!
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