白と黒、二色の花びらが舞い散る舞台、そこに二人の歌姫が立っている
白のベールと黒のベール。
顔は見えない。
私は静かにそこへと近づいていく。ふらふらと誘われるままに。
花に惹かれる蝶のように、あるいは、火に飛び込む蛾のように。
面前に二人がいる。そっと手が引かれた。
触れ合うほどの距離。
ベールの下、瑞々しい唇と、いたずらな瞳。
そしてベールがめくられて
「ねえ、」
「どちらにキスしてほしい?」
『白の純情、黒の誘惑』
『貴方の唇を虜にするのは、どちら?』
『BANDAMリフレッシュガム。スイートミント、ブラックブラック、新発売』
と、そんなCMであった。
4月18日、よい歯の日。狙ったのか、狙ってないのか、そんな日に封切られた二人が出演するCM。ひたすらに蠱惑的で、誘惑するような。一度味わったら二度と戻ってこれないような。そんなCMは多くのファンを虜にするだろう。
切なく求める加蓮と挑発するように誘う奏。
二人のユニットとしての初仕事であった、あのウェディングの時とコンセプトは似ている。やはり、あの仕事の世間に与えた影響は大きかったのだろう。今回の会社も、同じような構図の絵が欲しいということで、ウェディングではないが黒と白のドレス姿で撮影を行ったのだ。
そんなCMを私は自宅で見ている。
時刻は午後11時。今日も二人の仕事を見届け、ようやく家に帰りついたところだった。仕方ないことだが、この時期は仕事が忙しい! 軽く夕食を自作し、疲れをいやすように腹に力の源を取り込んでいった。
ふとネットを見てみると、『やばい』、や『マジ興奮した』といった語彙力を失ったファンたちの叫び声がSNS上にあふれている。まだこの者たちはマシな方で、熱心なファンの皆さんは言葉すら失っていただろう。
内容知ってた私だってそうなったんだから。
「いや、これは反則だって」
しかもHPではロングバージョンも公開中。覗いてみようと思ったら、重くてアクセスができなくなっていた。
二人の評判が上々なことに一安心。さあ、もう少し仕事をして寝るとしよう、なんて考えていた私の携帯がフルフルとなる。
なんだろう、と思い、着信元を確認。少しの疑問を持って電話に出る。
「もしもし、どうした?」
『ねえ』
「うん?」
『キスしても良い?』
と、艶やかな、脳天を突き抜けるような甘い声に私は……、
「ダメ」
『もー、そこはノリに付き合ってくれてもいいじゃない!』
何を言っているのだ、この小娘は。と、こんな夜中にかけてきた加蓮にお小言をくれてやる。
そのノリに付き合ったらどこまで引きづりこまれるか分かったものではない。
「今何時だと思ってるんじゃい」
『あー、忙しかった? ごめんね?』
と、加蓮はちょっと不安げな、しおらしい声。そんな声出されると、怒るに怒れないじゃないか。つくづく彼女たちには甘くなってしまう私である。
「いや、忙しくしてないから大丈夫だよ。ちょうど夕飯食べたところ」
『よかった。ちゃんとご飯作ったの? コンビニ弁当ばっかりじゃ体に悪いんだからね』
「ジャンク大好きの君が言うセリフかい。ちゃんと自炊してますよ。今日は豚汁だ」
簡単に作れて、栄養価が高く、しかも安い。ひと工夫で味もだいぶ変わるため、いろいろと試行錯誤してみるのも楽しいのだ。
『男の人の一人暮らしって感じだね。あ、今日は、とか言ってるけど、毎日豚汁つくってるんじゃない?』
「うぐっ、そんなことないぞ。今度フランス料理のフルコースを作って見せてもいい」
『やっぱりそうなんだ! ふふ、料理、作りに行ってあげようか? これでも練習してるんだよ?』
それは魅力的な提案かもしれないが、我が家という最後の聖域にまで侵入されると、二人に対する防波堤がなくなってしまう。ましてプロデューサーの家に連れ込んだとなるとスキャンダルどころではないじゃないか。
『えー、ケチ!』
断ると、加蓮は電話の向こうでへの字顔。声の調子でどんな顔しているかも想像できてしまう。そんな様子に苦笑い。
「それで、電話したのは何か相談事とか?」
『ううん。ただ、ちょっと電話したかっただけ。卯月じゃないけど、たまには何でもない話したかったから』
「そっか」
私だってふと誰かの声を聴きたくなることがある。特に夜とくれば猶更。普段は奏や、渋谷さん、神谷さんがいるのだろうが、私を選んでくれたというのは嬉しいことでもあった。
「そういえば、あのCMもう見たか? ちょうどさっきのドラマ枠で流れていたんだけど」
『見た見た。自分が出てるCMってちょっと照れちゃうけど、あの撮影で撮った映像が、あんなふうに変わるんだなって思うと、楽しいよね。
それに、奏の目とか仕草、思わずドキッとしちゃった』
「加蓮も負けてないさ。きっと、ファンだけじゃなくてお茶の間の人全員が二人に見惚れたと思う」
『ありがと。それじゃあ……、Pさんはどっちが魅力的だったと思う?』
といたずら心たっぷりな、難しい質問。さて、素直な感想では、
「魅力的なのが加蓮で、魅力的なのが奏だ」
『もー、そういうの八方美人っていうんだよ?』
君らくらいにしかこんなこと言わないから安心しろ。
だーめ、厳正な評価を期待します! なんていう加蓮をなだめる。そうはいっても二人とも違った持ち味があって、どちらも虜にされるほど魅力的だ。優劣なんて決められるはずがないだろうに。
『それじゃあ、ガムの味だったらどっちが好き?』
「それは加蓮の白いやつの方だなあ。刺激強すぎるのは少し苦手」
『やった勝っちゃった! 明日奏に自慢しちゃおっと』
「それ言った後の奏の反応が怖いんだけど!?」
奏なら『それじゃあ、味見してみる? きっと甘いわよ』なんて言いながら顔を近づけてくるんじゃないだろうか。容易に想像できる。
『ふふ、私も今、同じようなの考えちゃった! きっとそうなるよねー。さすがPさん、私たちのことわかってる♪』
「もう、どうやってからかわれるかも想像できてしまうのが悲しい。しかも回避はできないだろうからね」
ちょっと警戒したところで、その網をやすやすとすり抜けてくるのだ。困ったものである。
そんな何でもないことをのんびり話していると、そろそろ日付が変わる時間。
久しぶりの長電話だった。いつも会っているとは言え、この近いようで遠い距離間は、常とは違う心地よさもあった。島村さんが長電話にはまってしまうというのもよくわかる。
「それじゃあ、そろそろお仕舞にするか」
『そうだね。……ありがと、付き合ってもらっちゃって』
「こっちも楽しかったよ、ありがとう。まあ、たまにはこういうのもいいかもな」
『じゃあ、また今度も電話しちゃおうっと! ふふ、楽しみ!!』
はしゃいでいるような加蓮の声に少しの名残惜しさを感じる。ふと、明日が早く来ればいいのにと願っている自分がいた。
「それじゃ、お休み」
『お休みなさい、Pさん。また明日ね』
そんなやさしい声を聞き、電話から耳を放そうとする。すると、
『あ! そうだ、Pさんのスーツのポケット、寝る前に探ってみて! 忘れないでね!!』
と最後に残した謎の言葉。
電話が切れた後、なんだなんだと探ってみると、胸ポケットの奥になにやら硬い手触りを感じた。
「これって」
ほんの小さな袋に包まれたそれは、小さなハートマーク入り。口紅だろうか、これ?
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないな」
開けてみると、ガムの2ピース。さっきのCMのミントとブラック。きっと椅子に掛けていた時に仕込んだのだろう。
『ねえ、どっちを選ぶの?』
そんな二人の声が聞こえた気がした。
「夜はミントで、朝はブラック、ということで勘弁してください」
私はそう言ってミントを放り込む。加蓮のように、甘くて、少し刺激的な爽やかさ。
今夜はいい夢が見れそうだった
北条加蓮の長電話
加蓮は電話が長いイメージありますね。凜や奈緒と一緒に夜更かししてそうなイメージ。加蓮は表情も感情表現も豊かですから、長電話していても飽きそうにないです。
電話口からあの甘い声が聞こえてきたら、きっと時間も忘れてしまうでしょうね。
明日は少し冒険の日かな?
モバマスの方ではぷちこれ、デレステでも新イベントが始まりますね。Spring screamingの後に未完成の歴史来ないかな?と期待している筆者です。
それでは、明日も加蓮と奏の応援、投票をよろしくお願いいたします。