時がたつのはなんて早いのか。
去年も考えていた気がするが……。今年の一大行事を終えた私は、日記を見ながら改めてそう感じていた。
ほんとに、一年なんてあっという間だ。
二人にからかわれながら、この日記を書き始めた日のことも、しっかりと覚えているのに、日付を見たらもうすぐ一年なんて。
そんな私の意識とは別に、日記は何か月分にも積み重なっていて、確かな時間の流れを教えてくれる。それをカチカチとクリックしながら振り返っていくと、
「書いてる内容は……」
「からかわれてる話ばっかりだね……」
「そりゃあ、毎日一緒にいるんだからね」
後ろから覗き込んでくる加蓮がそう言うので、私は思わず笑ってしまった。自分の文章ながら愉快な日常だけど、からかい上手な二人と一緒ならこうもなろう。
それに、変わらない日常だって大切だ。
一年は早いと思えるくらい、加蓮と奏は成長をしてきた。目標を定めて、夢へ向かって。
けれど、帰る場所もない冒険の旅は、道に迷うものともなりがちだ。来た道も分からなければ、進む道も見つけられないのだから。
二人がどれだけ先に進もうと、こうしてからかい、からかわれる楽しい日常は、戻る場所としてあって欲しい。
(からかわれやすい私の性分も役には立つもんだ)
彼女と出逢ってから、からかいをどうにかしようとしてないあたり、言葉でなんと言おうと本心はわかりきったもの。奏じゃないけど、語らぬ方がいいこともある。
そんな変わらない日常に想いを馳せていると、奏が私たちへと声をかけてくる。
「二人とも。準備できたからこっちに来てちょうだい」
顔を上げるとそこでは、奏がお茶の用意をしてくれていた。新田さんがお土産にくれた、海外の上等なものだということで、ちょうど良いから開けてもらったのだ。机の上にはほかにも、簡単なケーキやら、お菓子やら。
いつものティータームというには豪華な内容なのは、今日という日だからだろう。
私は日記を閉じて、加蓮と一緒に奏の方へ。ソファに座り、紅茶のカップを手に取ると、すぅっと華やかな香りが広がる。ローズティ―とは、オシャレで面白い。
一仕事を終えた後の飲み物は、どうしてこんなにおいしいのだろうか。
美味しいお茶を飲んで、体から力を抜いた私たちは、それぞれの恰好に笑いながら会話を始めた。
「一か月、長かったねー」
「みんなだけじゃなく、世間も雰囲気が違うのが面白かったわね。毎日一喜一憂して」
「お祭り騒ぎがほんと好きだよなー」
改めてしみじみと。
今日は総選挙最終日だ。一か月の長きにわたった第9回シンデレラガール総選挙も終了。私たちも、最後の票を投じて、こうして部屋へと戻ってきた。
このあとは、例年通りに事務所を挙げたお疲れ様パーティーもあるのだが、それは数時間先。それまでの間、こうして私たちだけの簡単な打ち上げを開いている。
大規模なパーティーだと、中々のんびりと感想を話し合う機会も作れないので、このくらいの穏やかな時間も必要だろうと、誰ともなく言い出したのだ。
ケーキやフルーツをつまみながら。私たちを取り巻く空気は、先の総選挙が嘘のようにゆっくり。
「忙しかったけど、楽しかったよね……」
「ライブをしたり、イベントで全国を跳びまわったり」
「レッスンもハードだけど、充実してて」
「あと、事務所内でも毎日、何かしらの騒動が起こっていたわね」
記憶に残るだけでも、『セクシーデリバリー vs 棟方さん』とか、『フライングエクステ』とか、『城ヶ崎姉妹の乱』とか、『ギャル専務誕生事件』なんて、何故あんなことが起こったのかも分からない。
それらを一つ一つ挙げていく中、奏は悪戯笑顔を加蓮へと向け、
「加蓮の第二次写真合戦も、大騒動だったけど?」
なんて、中盤を彩った加蓮の一騒動を話題に出した。
すると加蓮は視線を遠くへと向けながら零すように言う。
「あれは忘れて欲しいんだけどなー」
「こらこら、なんか酷い目に遭ったと言いたげだが、一番の被害者は私だぞ」
第一次の時も大概だったが、第二次は輪をかけて酷かった。
その騒動だけでなく、こうして語りながら、あれやこれやと記憶が鮮明になっていく。とかくこの事務所は愉快で、いろんなことが起こり、飽きることがない。もちろん思い出すのは、愉快で漫画みたいな日常だけでもなくて……。
話が一息ついたところで、私は一息を吐いた。
「……ほんと、この一年、みんな無事に過ごせてよかったよ」
愉快で楽しい記憶の裏で、加蓮と奏の努力の毎日があった。
ライブに、写真集に、握手会に、料理番組に出たり。それら、大の大人でも緊張して、しり込みしてしまう舞台を前にしても、アイドル二人はいつも果敢に挑んで成長してきた。
それら全てを、大きなけがも病気もなく過ごしてくれたことがなにより嬉しい。
「あら、こんなに早くしんみりしてしまっていいの?」
「結果発表もまだなのに」
「……そりゃ結果が出るのも待ち遠しいけど、ね」
加蓮がトップを狙える位置にいたり、プロデューサーとして気にならないわけがない。ただ、それとは別に、二人の安心と安全の方が大事だ。
そう言うと、加蓮も奏も、くすくすと優しく笑いだしてしまった。
「ほんと、この人は!」
「まあ、らしいっていったら、らしいけど、ね」
「なんだい急に?」
「別に? アイドルがアイドルなら、PさんもPさんだなって」
加蓮は明るく言うと、小さなケーキを美味しそうに食べる。私が言うのもなんだけれど、これからトップアイドルになろうかという時には、普通な女の子の笑顔を浮かべて。
「もちろん、トップは狙っていくし、夢は絶対叶える」
「けれど、それが全てではないし、選挙だけがお仕事じゃないものね」
加蓮と奏はきらめくアイドルだ。
偶像となることを選んだ、強くて可憐な女の子だ。
だが、そんな彼女たちも一人の人間。アイドルが全てではなく、仕事だけが全てではない。全てであっては、いけない。
「これからも毎日、レッスンして」
「お仕事して」
「買い物したり」
「お菓子を食べたり」
「それから……」
「貴方をからかったり♪」
けれど、二人は心配ないだろう。
加蓮も奏も、仕事だけじゃなく、こうして笑顔を見せて、友達に囲まれている。こうして、からかったり、からかわれたりの日常も変わらずに帰る場所として残っていく。
たとえ、誰がトップに立とうとも。
二人はそこで顔を見合わせ、私の言葉を待つよう。期待されるなら、ちょっとした〆の言葉を言うとしよう。
「それじゃあ、二人とも」
「うん」
「ええ」
「総選挙はひとまずおしまいだけど、これからも……」
「「「よろしくお願いします」」」
これからも加蓮と奏の日常は続いていく。アイドルとしてステージで舞い踊って、女子高生として日常をにぎやかに楽しんで、そんな彼女たちの変わらない日常が。
第9回シンデレラガール総選挙、お疲れ様でした!!
今年は毎日更新もなんとかできて、個人としても選挙を楽しむことができました!!
モノクロームリリィはいいぞー!!