造っていくヒーローアカデミア(リメイク)   作:KEA

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第2話

 

「落ち着け、落ち着け……」

 

自室にて、椅子に座りながら自由は深呼吸を繰り返していた。

彼の机の上には真っ白な封筒が一枚。

送り主は雄英高校からだ。

 

ドクドクと心臓の鼓動が五月蠅く感じる。

 

ここに合格の安否が記された紙が入っている筈だ。

何でも、合格していれば中身は重いらしい。

合格していればクラスや必要な教材などの資料も含まれるため、との事だ。

不合格ならばきっと一枚の紙しか入っていないだろう。

 

少なくとも、自由はまだ封筒に触れていない。

母親がそれを自由の机の上に置いておいてくれていた。

そして、母親からは何も聞いていない。

 

覚悟を決めて恐る恐る封筒に触れ、それを持ち上げた。

 

 

――――軽い。

 

 

人差し指と親指で簡単に持ち上げられる軽さ。

これは、つまり……?

 

不合格、という三文字が彼の頭を過る。

筆記の自己採点でもギッリギリ合格点は超えていた。

実技だって全力で――。

 

そこで思い出す。後半、0Pを倒すために躍起になっていた自分を。

 

顔が青ざめ、血の気が引いていくのを初めて感じた。

 

0Pから素直に逃げて、他の仮想敵を相手にしていれば確かにもっとポイントを

稼げただろう。といっても、時間が経つほど敵の数が減るだろうから

あの状況から敵を探しに行ったとしても、ほんの数ポイントが関の山だ。

だが、数ポイントで合格のラインを越えられなかったという事だって考えられる。

 

震える手で封筒を開くと、一枚の紙がヒラヒラと落ちた。

 

(終わった……!)

 

と直感的に感じると同時に、金属音が響き渡る。

紙の下に何か入っていたらしいそれは、円盤状の何かだった。

これは――

 

「……投影、機?」

 

最近テレビでも話題になった超小型の投影機。

短い時間とはいえ、簡単に映像を送れることで話題になった投影機だ。

確か、テレビでやっていた使い方だと出っ張りを押せば映像が表示されるはず。

記憶を頼りに、スイッチを探せばそれらしき物を発見できた自由は押した。

 

『――私が投影された!!』

 

「どわああ!?」

 

予想以上の大画面で金髪マッチョの顔面が表示されれば誰だってこうなる。

胸を抑えつつ映像を見れば、それは自由がよく知る人物が映っていた。

よく知る、といっても彼が一方的に知ってるだけだが。

 

『始めまして! 創設少年! 私がオールマイトだ!!』

 

「いや、知ってますよ」

 

つい、本人とリアルタイムで会話している気がしてしまって敬語になってしまった。

それぐらい映像が鮮明だ。それに、こんな人が目の前にいたらそりゃ敬語にもなる。

 

知らない人はいないレベルのヒーロー。

それがオールマイトだ。

 

「というか何でオールマイトが投影されたんだ?」

 

『なぜ私が投影されたか? それは、私が今年雄英高校に勤めるからさ!!』

 

タイミングが良すぎる映像につい苦笑してしまった。

そんなことをお構いなしにオールマイトは話を続ける。

というか、続けようとした彼に急かすように誰かの腕が現れた。

 

『おっと、すまない! 私のことはまた学校で話すとして。

結果を伝えよう!!』

 

「…………」

 

いや、いまの貴方の台詞で結果が分かってしまったんですが。

というより、彼の映像が出た時点でほぼ合格だろうと自由は考えた。

不合格者全員にまでオールマイトが一人一人言葉を贈るわけにもいかないだろうし。

今年の合格者だけにこれを送っていると考えるのが妥当だろう。

 

『筆記は少し危なかったが、合格している!』

 

なんだかそう考えると気が抜けてしまった。

だが、まだ確定したわけではない。そう思わせて落としてくるドSの可能性も

まだあるかもしれない。

 

『そして問題の実技なのだが――』

 

ここで少し間を取るのを辞めてほしい。

確か、自分が獲得したポイントは――

 

『君の敵ポイントは32ポイント! このポイントは平均以下だ。

君の個性ならばもっと多くのポイントを取ることができただろう』

 

オールマイトの言葉が凄く耳に痛い。

彼が言いたいのは、『0Pに時間を取らなければ、もっとポイントが稼げた』という事だ。

確かにそうだ。ぐうの音も出ない。

 

ああくそ、合格したと勘違いしてしまった。

平均以下……それはつまり、俺は不合格という事か?

もう少し多くのポイントが取れれば合格できたかもしれないのに。

両手を顔を覆い隠して、あの時のことを少し後悔した。

そうだ、あれは試験なんだ。他人を蹴落としてでも受からなければならなかった場所なんだ。

 

『――そう。確かに敵ポイントだけなら、君は不合格だった』

 

「……だけ、なら?」

 

なんだこの人は。上げたり落としたりして。

また少し期待してしまうだろう。両手を離して自由は顔をあげた。

 

『まずはこのVTRを見てもらおう!!』

 

オールマイトはそういいながら、リモコンを操作した。

すると、一つの映像が映り出す。

自由が他の受験生達を助けたりD型に向かったときの映像だ。

 

『君たちに気づかれないように、市街地には大量の監視カメラが仕込まれていたのさ!

そのカメラで採点されるのは救助活動(レスキュー)P(ポイント)! これは審査制で行われる!

我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力という訳さ!』

 

さっきまでと打って変わって、自由の口角が吊り上がる。

 

『他の受験生を救い、そしてD型を破壊せずに無力化した君はあの時

正しくヒーローだった! 君には43ポイントの救助P付与される!』

 

両手を大きく上げて自由は喜んだ。

ここまできて不合格が言い渡されることは絶対にないだろう。

 

『おめでとう、創設少年! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

その言葉を最後に、投影機が映し出した映像は終了した。

 

「……マジかあ」

 

両手を降ろし、椅子に深く腰掛けて自由は項垂れた。

これからあの雄英高校での生活が始まるのか。

きっとこれからが大変なんだ。

 

まあ今は合格できたことを喜びたい。

その投影機を掴み取り、自由はリビング行ってそのことを家族へと報告をした。

 

両親は自由が雄英高校に合格できたことをとても喜んでくれた。

二人ともヒーローでは無いが、あの高校がどれだけ入るのか大変かという事は理解している。

今日はそれなりに豪勢な料理を食べ、自由はぐっすりと寝て終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、大丈夫だな」

 

鏡に映る、雄英の制服に身を包んだ自分に満足しつつ自由は頷いた。

前に雄英高校に行ったときとは気持ちが全然違う。

あの時は不安や緊張が潰れそうにもなったが、今は期待しかない。

 

ボタンを閉め、ネクタイを付けた自由はバックを掴んで玄関へと向かう。

今日から高校生となった自由はいつもより若干テンションが高かった。

 

「――自由。気を付けてね」

 

「ん、行ってくるよ」

 

玄関まで見送りに来た母親に軽く手を挙げて応え、扉を開けて自由は学校に向かった。

 

 

 

雄英まで行くには、基本二つの行き方がある。

電車か地下鉄のどちらかだ。それらを乗り継いでいけば雄英まですぐに行ける。

自由は電車を利用して高校へと向かった。

 

この時間帯はそれほど混んではいない。余裕をもって席について携帯を眺める。

少なくとも、あと二十分ほど遅れて家を出ても十分に学校には間に合うだろう。

だが、雄英高校は規格外の大きさを誇っている。

万が一迷子になる可能性も考え、自由は速い時間に学校に行くと決めた。

 

速くついてもゆっくりして待っていればいいだろうし、他の生徒達と友好を深めていれば

すぐに時間になるだろう、と考えていた。

 

 

 

雄英高校には特に問題もなく着くことが出来ている。

校舎の中に入った自由はバックの中から一つの紙を取り出し、それを眺めた。

それには校舎内の地図が書かれており、どこにどんな教室があるかすぐにわかる様になっている。

 

地図を頼りに歩くが、他の生徒達と全くと言っていいほど出くわさない。

もしかして時間が間違ったか? なんて不安に駆られつつ自由は1年A組の教室へとたどり着く。

教室の扉はとても大きかった。少なくとも3メートル以上はあるだろう。

確かにこれだけ大きければ、見た目が大きく変わってしまう個性を持っていても難なく入ることが

できるかもしれない。

 

ふう、と息を吐いて扉を開く。

 

教室にそう多くの人はいない。

また、お互いの距離感を測りかねているのか会話もない教室だった。

 

自分の席は何処だろうか、と首を傾げる。

黒板の方を見てもそれらしき物は無いし、それともまだ席は決まっていないのか?

名前の順だとすれば、『そ』だからちょうど真ん中あたり?

取り敢えずは適当な所の席に腰を下ろし、バックも机の上に乗せておく。

 

……会話が無い。

 

くそう、この重苦しい空気を誰か何とかしてくれないか。

せめて知り合い――そう、緑谷とかはお互い顔を知ってるし、来てくれれば――

 

大きな音を立てて開かれた扉へと、クラスにいた何人かの生徒達が目を向ける。

勿論自由も視線を向けるが――

 

「――チッ、クソが」

 

舌打ちされてがん飛ばされたんだけど。

 

爆発的な髪型と赤い眼が特徴的な彼は、自由と同じ中学校だった。

確か、唯一の雄英進学者になる、とか言ってた記憶がある。

それが俺と緑谷によって阻止されてしまったからか、以来彼には敵視されている。

 

爆豪(ばくごう)勝己(かつき)。それが彼の名前だ。

 

爆豪と同じクラスかあ……中学でもそんなに話してないからなあ。

仲が悪い、という訳ではない。彼の周りを見下す態度がどうしても気にくわなかった。

しかも敵視されてしまっては、こちらから話しかけることもできない。

現実逃避も兼ねて、自由は窓から見える晴天を眺めてぼーっとしていた。

 

その後も扉が開き、誰かが席に着くらしき音が何度も続いて、大体の生徒が揃い始めたころ。

誰かが席を立ち歩き始める。

どうしたのだろうかなんて思っていると、眼鏡をかけた彼は爆豪に向かって歩いている。

 

「――机に足をかけるな! 雄英の先輩方や、机の製作者方に失礼だと思わないか!?」

 

真面目が服を着てるような人だな、と言葉で分かった。

言葉をかけられた爆豪は残念ながら失礼だと思わないだろう。

 

「思わねーよ! てめえ、何どこ中だよ。端役が!」

 

「ボ……俺は私立聡明(そうめい)中学出身。飯田(いいだ)天哉(てんや)だ」

 

「聡明ィ!? クソエリートじゃねえか。ブッ殺し甲斐がありそだな」

 

「君ひどいな! 本当にヒーロー志望か!?」

 

彼――飯田の言葉にクラスの大多数が同意を示していた。

少なくとも、ブッ殺し甲斐なんて言葉はヒーローが言う台詞じゃあない。

そしてどこ中だよなんて台詞も映画や漫画の不良くらいでしか聞いたことが無い。

 

ホントにいう人いるんだな、なんて思っていると扉から覗いている顔に気づく。

 

緑谷出久。中学で俺と爆豪、そして彼は担任に受かったことを報告した。

そこで彼が受かったことを知ったのだが、その時は本当にびっくりしてしまった。

無個性の筈の彼がどうして受かったのか後で聞きたいところだ。

 

(それにしても、個性的な奴が多いな)

 

チラリと、他の生徒達を一瞥する。

 

ピンク色の肌を持つ女子や、金髪に黒のメッシュが入った男子。

他にも、透明で服だけの子もいれば、蛙みたいな顔の子も――。

 

ピタリと蛙顔の女の子で視線が止まる。

あんな特徴的な顔の子を忘れるわけがなかった。

 

女の子――梅雨ちゃんが自由の視線に気づくと、ヒラヒラと小さく手を振ってくる。

どうやら彼女も自由の事を覚えていたらしい。

 

「――ハイ、君たちが静かになるまで8秒かかりました」

 

緑谷と丸顔の女の子の後ろから男の声が響く。

視線を移せば、少し小汚い男性が教室に入ってきた。

 

ここにいるということは、少なくともプロヒーローの一人だろう。

だがあまりヒーローに詳しくない自由は彼が誰なのか知らない。

 

「担任の相澤(あいざわ)消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

やはり名前を聞いてもピンとは来なかった。

担任という事は、これからの動きを指示されるだろう。

入学式があるだろうし、体育館にでも移動かな、なんて思っていた自由の予想は裏切られた。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

教室中の生徒達がポカンとした顔になる。

それもそうだ。突然体操服に着替えてグラウンドに出ろ、なんて言われても……。

ほぼ全員が頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、先生の指示に従った。従うしかないだろう。

 

 

 

 

 

『個性把握……テストォ!?』

 

全員の声が一丸となってグラウンドに響き渡る。

グラウンドに揃ったA組に言い渡されたことがそれだった。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

緑谷と共にいた女の子が声をあげるも、相澤は冷静に言葉を返す。

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る余裕はないよ」

 

これには自由も動揺は隠せなかった。

まさか初っ端、それも入学式がある日にテストなんてする学校があるのか?

確かにヒーロー科は特別な学科だ。普通ではないだろう。

だがここまでの事をするとは思ってもいなかった。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

ああ、つまりこれは先生の独断で行っているのだろう。

先生の好きなように生徒達をプロのヒーローへと育てていく、と?

 

「お前たちも中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。

国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。

まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 

確かに相澤先生のいう事も一理ある。

個性禁止の体力テスト、と言っても個性が常に発動してしまっている者もいる。

そういった個性持ちを異形系と言うのだが。そういった子達にどうやって個性を禁止させるのか。

確かに今どき個性禁止のテストなんて合理的ではない。

 

「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

 

「67m」

 

「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 

相澤先生から投げ渡されたボールを受け取って、軽くストレッチをしてから

爆豪が大きく振りかぶった。

 

「んじゃまあ――死ねえ!!!」

 

個性により、爆音をまき散らしながらボールは空へと飛んでいく。

言葉や態度は悪いが、爆豪の実力は悔しいが俺よりもきっと上だ。

 

少しして、相澤先生の持つ端末に今のボールの飛距離が表示された。

浮かんでいる数値は『705.2m』。普通ならあり得ない数値だ。

 

「まずは自分の「最大限」を知る。それがヒーローの素地を形成する

合理的手段」

 

「なんだこれ!! すげー面白そう!」

 

「705mってマジかよ……」

 

「個性思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」

 

相澤先生の言葉に、生徒達が騒ぎ出す。

確かにこれは楽しそうかもしれない、と自由も同じだった。

これまでの人生で個性を思いっきり使えた機会は少ない。

小学校や中学校でも、一度も個性を使う事はしなかった。

まあ、隠れて少し使ってはいたが。

 

ここではそんな縛りもなく、全力で臨むことが出来る。

 

最大限を知る、という事に確かにいいかもしれない。

だが、楽しそうにしている生徒達に相澤先生は眉を顰めていた。

 

「…………面白そう、か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

空気が凍り付いた、という言葉はこういう時にあるのだろう。

相澤先生のさっきまでダラリとした雰囲気とは一転して、鋭利な物に変わっていた。

プロの眼光というのはここまで恐ろしいモノなのか、と。

冷や汗が落ちる。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し――除籍処分としよう」

 

「はああああ!?」

 

幾人かの生徒が声をあげて驚きを現した。

自由も同じく、口を大きく開けて相澤先生へとくぎ付けになる。

必死こいて雄英に入学して、その初日で最下位? それは幾ら何でも可笑しくはないか?

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

入学初日の試練が、幕を開ける。


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