新年を迎える準備として、冬の寒い時期殆にはどの家でも大掃除を行っている。ここ、宇田川家でもそれは例外ではない。
「真琴起きなさい!今日は皆で大掃除をするって言ってあったでしょう?何時まで寝てるの!!」
暖かい布団の中で丸くなっていた真琴は、家族の中で最高権力を持つ母親によって叩き起された。
「早く着替えて降りてきなさい、分かった?」
「は~い・・・」
母が部屋から出ると、真琴はのそのそとベッドから出る。そして布団の中と部屋の気温差に身震いし、急いでタンスの中からジャージを取り出して着替えた。おぼつかない足取りで部屋から出ると、そのまま下のリビングへと向かう。
「あ、お兄ちゃんやっと来た!」
「遅いぞ兄さん!目覚ましかけたんじゃないのか?」
「う~ん、一回起きたけど、眠かったから寝ちゃった」
そこでは先に掃除を始めていた巴とあこ、そして父と母がいた。
「真琴、取り敢えずそこにあるゴミ出してきちゃって」
「え~・・・最後に纏めて出せばいいじゃん」
「掃除明日までかかりそうだから、今のうちに少しでも出しておきたいでしょ?家にゴミ置いときたくないし。あとついでにお昼ご飯買ってきてちょうだい。車使っていいから」
「はいはい、それじゃ行ってきます。あ、巴!後で皆の食べたいものリスト、L〇INEで送っといて」
ベンチコートを羽羽織り、鍵と財布、スマホをポケットに入れてからゴミ袋4つを両手で持ってそのまま家を出る。外の寒さにまた身震いし、体を温めるために車の暖房を全開にしてゴミ捨て場へと向かった。
ゴミを出し終えた真琴は、そのままの足でコンビニへと寄った。店に入ると、この前聞いた気の抜けた出迎えではなく、はきはきした声が聞こえた。
「いらっしゃいませー!あれ?真琴じゃん!」
「おはようリサちゃん。朝から頑張ってるね」
「さっき入ったばかりだけどね。今日は菜々ちゃんと一緒じゃないの?」
「皆それ聞くね・・・。流石の菜々花も、年末は忙しいみたいだよ。一人暮らしだし、アパートの住民で大掃除してるんだって」
客が真琴しかいないため、レジをしているリサと軽く会話をしてから目的の物をかごに入れる。
「リサちゃんお願い」
「はーい!あ、お弁当は温める?」
「そのままでいいよ。リサちゃん、今日はだいぶフランクだね。何かいい事でもあった?」
「お、流石真琴!よく気付いたね。実は、バイトが終わったらRoseliaの皆で遊びに行くんだ~」
メンバー全員ととは驚いた真琴だが、年末ぐらいは遊びたいのだろうと考えた。
「成程ね。だからあこが急いでたんだ」
「何かあったの?」
「今日と明日で家の大掃除をするんだけど、そのときに自室も掃除するんだよね。本当は今日やろうと思ってたんだけど、あこが昨日手伝ってくれって」
「妹の部屋を漁れるなんて役得じゃん。はい、詰め終わったよ」
リサの問題発言を聞きつつ、真琴は袋を受けとる。
「言い方・・・。ま、あこの部屋は物が多いから、結構大変だったけどね」
「あー、確かにそんな感じする」
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん、また来てねー」
「ただいまー」
「お帰りお兄ちゃん!」
「あこ、遊ぶのもいいけど、時間まではしっかり掃除するんだよ?」
「分かってるって!・・・・・・あれ?何でお兄ちゃん知ってるの?」
玄関で迎えてくれたあこの頭を撫でつつ、「リサちゃんから聞いたよ」と返す。皆が掃除をしてるであろうリビングに昼食を届けると、そのまま自室の掃除へと向かった。
「さて、どこからやろうかな」
サッシや本棚の整理、小物の仕分け、やることは山ほどある。どれから手を付けようかと真琴が悩んでいると、いきなり巴とあこが部屋の中へと入ってきた。
「手伝うぞ兄さん」
「昨日手伝ってもらったお礼!」
「2人ともありがとう。でも・・・せめてノックはしてほしいな」
巴とあこの協力もあり、思った以上に早く掃除が終わった。その後リビングの掃除を済ませ、あこは約束があるので離脱。巴は真琴が買い物をしてる最中に自室の掃除を終えたらしく、家の残りは父と母がやるとのことで、残された2人は本格的にやることが無くなってしまった。
「うーん、どうしよっか」
「そうだ兄さん、つぐの家に行こう!今日は冬休みの宿題をするってみんな集まってるんだよ」
「じゃあそうしよう。暖かいコーヒーも飲みたいしね」
行く先が決まった2人は、身支度を済ませて家を出る。家から羽沢珈琲店は割と近いため、車を使わずに歩いていくことにした。
着いて早々、つぐみの元気な声が2人を出迎える。
「いらっしゃいませ!あ、巴ちゃんに真琴さん、掃除終わったんだ!」
「巴とあこが手伝ってくれたからすぐに終わったよ。折角だし、皆集まってるなら行こうかなって」
「皆あっちにいますよ!」
つぐみはAftergrowのメンバーが集まっているテーブルへと案内し、まだやることがあるのか厨房へと下がっていった。
席は6人席と大きく、蘭・ひまり、モカ・巴が向かい合うように座っており、巴の隣に真琴が座っている。
「琴さんまた会ったねー」
「相変わらず兄さんへの呼び方が安定しないなモカは」
「むむむ・・・モカちゃんがしっくりする呼び方が見つからないのだよ」
「ははは、好きに読んでくれていいからね」
唸るモカに苦笑いしながらどのケーキを食べようかとメニュー表を見てると、先程から落ち着かない様子の蘭が目に入った。
「蘭ちゃんどうしたの?」
「あ、いや・・・今日は菜々花さんいないんだなって」
「蘭は菜々花さん大好きだもんねー!」
「ひまり!そんな訳ないでしょ!?真琴がいると大抵一緒にいるから、何処かに潜んでるんじゃないかって・・・」
菜々花に怯える蘭と、それを茶化すひまり。彼女の蘭好きにも困ったものだが、たまに蘭もまんざらではない様子を見せるため、これがツンデレというものなのかと感じた真琴は、密かに菜々花へと誘いのL〇INEを送ったのだった。
「そうだ真琴さん!私聞きたいことがあるんですけど、クリスマスは何をして過ごしたんですか?」
「うーん、特別なことは特に無かったよ。家族でご飯食べに行ったり、菜々花と買い物を「菜々花さんとデートしたんですか?!」デ、デートというか・・・まぁ、菜々花もデートだって言ってたし、多分合ってるのかな」
「それでそれで、何を買ったんですか?!」
「ほとんど菜々花の買い物に付き合ってただけだよ。まぁ、いつも通りなんだけどね。いつもと違うのは、クリスマスだったし、お互いにプレゼント買ったぐらいかな。後は映画やイルミネーションも見たり、レストランで夕飯食べたりかな」
真琴の言葉にメンバーの時間が一瞬だけ止まった。先に言葉を放ったのは蘭で、その口調は呆れたようなものだった。
「それ、もう完全に恋人じゃん・・・」
「これで付き合って無いなんて・・・」
「信じられない・・・」
「甘々ですなー」
流石幼馴染だなと真琴が息ぴったりの返答に感心していると、たまたま近くにいたつぐみも話を聞いていたらしく、聞くべきか聞かないべきかと迷いながらも、意を決して言葉を放った。
「その、真琴さんは、菜々花さんの事どう思ってるんですか?」
「好きだよ」
『え?』
またもやメンバーの時が一瞬止まる。
「あっ!友達じゃなくて、女性としてね?それに、菜々花の方も僕の事が好きだからね」
「え、じゃあ兄さん、告白とかはしないのか?」
「あはは・・・そのことなんだけど、かなり気まずくて・・・」
苦笑いを浮かべながら、言いにくそうに顔を反らす真琴。そんな彼を逃がすまいと、つぐみが彼の傍に立ち、巴と一緒に挟むような立ち位置を取る。
「真琴、ちゃんと説明して」
「そうですよ真琴さん!」
「マーさんお覚悟をー」
「私も気になります!」
逃げ道が無くなった真琴はわずかな希望を巴に託そうとするも、彼女は全て吐けと言わんばかりの顔で真琴を睨んでいた。
「うっ、誰にも言わないでね?」
『もちろん』
「はぁ・・・菜々花と会ったのは中学1年生のころで、よく話すようになったのが2年生の時。で、実は3年生の卒業式の時に、告白されたんだ」
そして、真琴は濃密な中学3年間を語り始めたのだった。
次回は過去回です!
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