過保護な兄   作:かるな

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今回で最終回です!

PS.少し前の話で変更したところがあります。


第13話

~6年前~

 

「皆さん、入学おめでとうございます。早速ですが、これから出席を取ります。名前を呼ばれたら立って返事をして、そのまま軽く自己紹介もお願いします」

 

新入生のクラスを任された先生はテンプレ通りに学級活動を始めていた。一人一人が自己紹介をしていく中、度々大きな笑い声が教室内に響く。ある生徒は自らの体験談を、ある生徒は自慢話を、ある生徒は笑いを取ろうとして滑り、周りからのフォローを貰ったりなど、様々であった。

 

 

「じゃあ次、桜井 菜々花さん」

 

「はい。桜井 菜々花です・・・よろしくお願いします」

 

 

"桜井 菜々花"と名乗った少女は、その一言だけで座ってしまった。普通ならこの時点でクラスの輪から外れたようなものなのだが、それまでの自己紹介のテンポが良かったお陰か、殆んどの人が気にせずに盛り上がっていた。

 

 

「(はぁ、もっとちゃんと喋ればよかった・・・)」

 

 

ただ一人、菜々花はスタートダッシュに失敗して落ち込んでいた。さらに彼女は小学校卒業と同時に転校してきたため、それを心配してくれる友達はいない。それもあってか、さっきから顔は暗いままだ。

 

学級活動が終わり、その日はそのまま帰宅となった。周りがグループで帰る中、皆の記憶に残っていない菜々花は周りが帰るのを待っていた。その行動に特に理由は無いが、今までの友達と別れてからすぐに新しい友達を作りたいとは思わなかったのだ。

 

だが、そんな彼女に声をかける人物がいた。

 

 

「ねぇ、桜井さん」

 

「えっと・・・ごめん、誰?」

 

 

声のした方を向くと、そこにはかなり深い紺色の髪をした生徒が立っていた。彼は手に鞄を持っており、これから帰ろうとしてることが分かる。

 

 

「あはは、やっぱ覚えてないかな。自己紹介は気の利いたこと言えなかったし。僕は宇田川 真琴。取り敢えず、今年1年よろしくね」

 

 

初対面で、しかも異性に話し掛けてくる真琴に、菜々花は不信感を抱いた。周りを見ても彼と同じグループであろう人物は見当たらず、かと言って自分と同じ転校生というわけでもなさそうだった。

 

 

「なんで、私に話し掛けたの?」

 

 

この言葉を言った途端、菜々花は「しまった」と感じた。折角向こうから話しかけてきてくれたのに、これでは台無しである。

 

 

「うーん、純粋に桜井さんと友達になりたかったんだ。僕友達いな・・・少なくてさ。妹に中学になったら友達作れって怒られちゃったんだよね」

 

「宇田川君は妹さんがいるんだね」

 

「うん。3つ下と、4つ下の妹がいるよ。2人とも凄く社交的でさ、友達が多いんだ。それと、僕のことは真琴って呼んでよ。妹たちがいるから苗字で呼ばれることに慣れてないんだ」

 

「分かった、じゃあ私のことも菜々花って呼んで。この苗字嫌いなの」

 

 

この時のお互いのファーストコンタクトは決して良いとは言えなかった。

 

だが、初めてこの土地で出来た知り合いに、菜々花は不思議な何かを感じていた。

 

 

 

それから数か月後、菜々花は少しずつではあったが話せる人を増やしていった。だが、気の許せる友達かと言うとそうでもなく、ただ単に暇な時間に話をするぐらいで、放課後に一緒に遊ぶなんてことはない。部活に入っていないのもその原因だろう。

 

しかし真琴だけは違った。彼は傍から見れば鬱陶しい程に菜々花に話しかけるのだ。それなのに彼女の機嫌が悪いときは、それを察してからか挨拶程度で済ませる。彼女がグループ活動などで孤立しそうになると、浮いてしまう前に決まって真琴が声を掛ける。

 

菜々花はそんな彼との関係に心地よさを感じ始めていた。しかしその反面、彼に対してある一つの疑問が浮かび上がった。

 

 

「(あいつ、あんなにやさしいのに・・・何で友達いないんだろう?)」

 

「どうしたの菜々花さん?そんなに難しい顔して」

 

「っ!? い、いきなり話しかけないでよ!ビックリするじゃない!」

 

「ご、ごめん! つい・・・」

 

 

頬杖を突きながら窓の外を見ていた菜々花だが、不意に真琴から声を掛けられる。いつもは急に話しかけても動揺しない彼女だが、今日は違った。考え事をしていたからか、それもあるが、悩みの種である本人が現れたことによるものの方が大きい。

 

 

 

「あ・・・ごめん、真琴君は悪くないの。それで、何の用?」

 

「何だか考え事をしてるみたいだったから。よかったら相談に乗るよ?折角の昼休みだし、有効に使わなきゃ」

 

「ありがと。でも、そんな大したことじゃないから」

 

「そう? 菜々花さんがそう言うなら気にしないでおくよ」

 

 

相談に乗ってもらうものではないため、ここははぐらかした菜々花は、気になっていたことを聞くことにした。

 

 

「ねぇ真琴君。何で私にばっか話しかけるの? あっ、勘違いしないでね? 真琴君の事が嫌いな訳じゃないから。たまに鬱陶しいけど」

 

「鬱陶しい・・・。ゴホンっ。恥ずかしながら未だに他の友達が居ないんだ。僕、小学校のころから付き合い悪いからさ。ほら、学校終わったらさっさと帰っちゃうでしょ? そんな感じで誘いを断るうちに、誰からも誘われなくなっちゃったんだ」

 

「用事があるなら、ちゃんと言えば分かってくれるんじゃない?」

 

「それが中々言いにくくてさ・・・」

 

 

難しい顔をする真琴に、菜々花は意地悪な顔を向けた。

 

 

「へぇー。それ、私にも言えない?」

 

「うっ! ひ、卑怯だよ・・・」

 

「大丈夫。どんな理由でも、私は真琴君の傍から離れないから」

 

 

そう言って笑顔を見せる菜々花に、真琴は少しだけ頬を赤らめる。そして観念したかのように窓ガラスに背を預けた。

 

 

「実は、妹の面倒を見てるんだ」

 

「あー、良く言ってる巴ちゃんとあこちゃんだっけ?」

 

「そうそう。2人は僕と違って友達がたくさんいて、良くその子たちが家に遊びに来るんだよ。でも、結構頻度が高くてさ。母さんが毎日大変そうにしてたから、家で遊ぶ時は僕が保護者役のような事をしてるんだ」

 

「へぇ、家族思いなんだね」

 

 

その理由を聞いて、菜々花は感心したような反応を示した。

 

 

「え、引かないの?こういうのってシスコンだって言われるもんだと・・・」

 

「そんなこと考えてたの?どっからどう見ても妹思いの良いお兄さんじゃない」

 

「で、でも! 学校帰りとか遊びに出かける時とか心配で、小学校の時は何の違和感もなく付いてけたんだけど、今だとだいぶ厳しいというか、巴なんか恥ずかしいから付いて来ないでって言ってくるし・・・」

 

「あー、何となく真琴君の事が分かった気がする。もし妹に好きな人が出来たらどうする?」

 

 

菜々花の質問に真琴は間髪入れずに答える。

 

 

「勿論寂しいけど、巴やあこが決めたんなら僕が口を挟むことじゃないかな。まぁ、気が気じゃないけどね・・・」

 

「もしかしなくても、真琴君はシスコンだね。でも皆が思うようなシスコンじゃなくて、心配性のシスコン。だから今みたいな妹ちゃんの事で取り乱してる君を見ない限り、シスコンだと思う人はいないと思うよ。だからもっと自信持ちなって、シスコン君」

 

「そう思うんなら連呼しなくてもいいじゃないか・・・」

 

「ははは、ごめんって!」

 

 

唯一の友達である真琴の事を深く知れたと感じた菜々花は、ここに引っ越して以来、初めて心の底から笑っていた。

 

 

それから2年が経ち、菜々花たちは受験生となった。初めての受験ということもあり、皆がピリピリとした空気を発しているが、菜々花と真琴だけはいつも通りであった。彼らは2年次にクラスが離れてしまったが、奇跡的に3年でまた一緒のクラスになったのだ。

 

 

「真琴君、どこの高校受けるかもう決めた?」

 

「うん。〇〇高校を受けるよ」

 

「へぇ、もっと上の所目指すと思ってた・・・。私もそこを受けるんだよ」

 

「じゃあ、菜々花さんとはライバルだね」

 

 

そんな返答をする真琴に、菜々花はジト目を向けた。

 

 

「そこは一緒に頑張ろうとかじゃないの?」

 

「ははは、冗談冗だ・・・痛い痛い!ごめんって、だから腕つねらないで!」

 

「ふんっ!」

 

 

 

2人が目指している高校はレベルは高いものの、周辺で一番というわけではなかった。そのため元々勉強が出来た真琴は、菜々花の苦手教科克服に尽くしていた。

 

待ちに待った合格発表日。掲示されている番号を確認すると、見事2人の番号があった。嬉し涙を流す菜々花をなだめ、合格記念にと夜までカラオケし、帰りが遅くて親に怒られた。

 

その数日後に卒業式があり、式が終わった後に真琴は菜々花に呼び出された。

 

 

「どうしたの菜々花?」

 

「えっと・・・真琴君、卒業おめでとう」

 

「うん。菜々花さんもおめでとう」

 

「そ、それでね!記念というか、その・・・真琴君のネームプレート、貰ってもいいかな?」

 

 

菜々花の要求を真琴はすんなりと受け入れた。制服に縫い付けられているプレートをポケットから取り出したハサミで切り取ると、それを菜々花に渡す。

 

 

「ありがとう。大事にするね」

 

「うん、そうしてくれると嬉しいよ。じゃあ菜々花さん、そろそろ行こ「真琴君っ!」な、何?」

 

 

学年の集合写真を撮る時間が近づいているため、戻ろうとした真琴を菜々花が呼び止める。

 

 

「すぅ・・・はぁ・・・。あ、あのね! 私・・・・・・真琴君の事が好き!冗談じゃなくて、遊びじゃなくて、本当に好きなの!」

 

「・・・・・・。」

 

 

菜々花からの予期せぬ告白により、真琴の頭が一瞬真っ白になった。

 

 

「迷惑だったらごめん・・・」

 

「・・・迷惑じゃないよ」

 

「っ!」

 

「でも、ごめん・・・」

 

 

真琴の返事に、菜々花は苦笑いを浮かべた。

 

 

「そう・・・だよね。ははは・・・」

 

「菜々花さんの気持ちは嬉しいよ。でも今は「ごめん、ちょっと後ろ向いてて・・・!!」」

 

 

言われるがままに真琴が後ろを向くと、すぐに菜々花が鼻をすする音が聞こえた。続いて必死に泣くのを我慢するように声が漏れ、そのたびに真琴を胸が締め付けられるような罪悪感が襲った。

 

しばらくして音が聞こえなくなると、「向いていいよ」と言われ、真琴はゆっくりと向き直る。目の前にいたのは目を赤くし、制服には涙の粒が残っている菜々花だった。

 

 

「私、絶対に真琴を振り向かせる!転校してきて・・・寂しい思いをしてた私にここまで優しくしたんだから、絶対に逃がさない!!」

 

 

菜々花はそう言い残すと、走ってその場を去っていった。

 

残された真琴は、携帯を開いた。

 

 

「もう、振り向いてるんだけどなぁ・・・」

 

 

その待ち受けは、机の上で腕を枕代わりにして寝ている菜々花の写真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

話を聞いたアフグロのメンバーは、全員が真琴に冷たい目を向けていた。

 

 

「で、断った理由は何なんですか?」

 

「つぐちゃんから今までに感じたことのない圧が・・・」

 

「内容によっては容赦しないから」

 

「蘭ちゃんまで・・・」

 

 

今すぐにこの場から逃げ出したい真琴だが、逃げ道はつぐみによって塞がれているため逃げようにも逃げられず、頼みの綱である巴は彼の腕を掴んでいた。

 

 

「分かった言うよ・・・。菜々花の告白を断ったのは、菜々花と付き合いながら巴やあこの面倒を見ることは出来ないと思ったからなんだ。ほら、あの時まだ小学むぎゅっ・・・!」

 

 

理由を説明していた途中で、巴の右手によって両頬を挟まれた。

 

「何となく察した。全く・・・兄さんは昔からあこやアタシに甘すぎるんだ。外食するときだって、何を食べるか迷ってたら片方頼んで分けてくれるし、何か欲しいものがあってもお金が足りなくて買えなかったとき、気づいたら部屋にそれが置いてあるし、何か頼んだって断ったことなんて無い。もっと自分の時間を、お金を、周りの友人を大切にしてくれ」

 

 

言い終わると同時に巴は手を離した。

 

 

「巴・・・」

 

「ほんと、真琴はシスコンだね。早く菜々花さんの所に行きなよ」

 

「蘭ちゃん・・・」

 

 

未だに迷っている真琴に対して、アフグロのメンバーは無理やり店の外へと追い出した。外に残された真琴は、告白するまで家に帰ってくるなと巴からL〇INEを送られ、苦笑いを浮かべた。

 

 

「はぁ・・・あの時の事、正直に話したら怒られそうだなぁ」

 

 

真琴は怒る菜々花を想像しながら、彼女の番号へと掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後(元旦)~

 

 

「お兄ちゃん、行ってくるね!」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 

新年早々Roseliaは練習があるらしく、あこは朝からスタジオへと向かった。見送りを終えた真琴はリビングへと戻る。

 

 

「巴、暖房の設定高すぎるよ」

 

「うっ、だって朝だし・・・」

 

「だめ。寒いなら少し着込むこと。温度下げとくから、勝手に変えたら怒るよ?」

 

「前までは何も言わなかったのに・・・」

 

 

ソファに座ってテレビを見ていた巴に注意をすると、上着を取りに渋々と二階へと上がっていった。

 

あの日以来、真琴は巴とあこに対して少し厳しくなった。と言っても、あこに対しては金銭面で。巴に対してはほぼすべての事に対してだ。

 

 

「さて、僕も行こうかな」

 

 

真琴も約束があるため、外出用の服に着替えて家を出た。車で向かった先はアパートである。駐車スペースに車を停め、階段を上がってある部屋の前に行く。

 

ポケットから鍵を取り出して開ける。中に入ると電気は付いており、少しだがテレビの音が聞こえた。

 

 

「菜々花、そろそろ行くよ」

 

 

玄関先で呼びかけるも、返事は無い。ため息をついて部屋に上がると、テレビの前で毛布にくるまった何かが居た。

 

 

「ほら菜々花、起きてよ。もうそろそろ集合時間なんだから」

 

「うぅ、寒いから欠席で・・・」

 

「そういうわけにはいかないでしょ?ほら早くっ!」

 

 

菜々花を起こすために、毛布を取り上げようとする真琴。だが彼女は必死に抵抗して中々毛布を離さない。

 

 

「こうなったら・・・」

 

 

もう行かないと非常にまずいので、真琴は最終手段を取ることにした。毛布で体を包んでいる菜々花だが、首から上は完全に出ていた。

 

横になっている彼女の上体を起こし、さらけ出されている首筋を・・・

 

 

「私は絶対に外には出うひゃあああぁぁぁ!!!」

 

 

ペロッと舐めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、まだ変な感じがする・・・」

 

 

助手席では気持ち悪そうに首筋をさする菜々花がおり、運転席では見事な紅葉を左頬に作った真琴が運転していた。

 

 

「菜々花は首筋弱いもんね」

 

「うっさい。あの時アンタが余計な事しなければこんな事には・・・」

 

「まぁ、惹かれちゃったものはしょうがないよ」

 

「次舐めたら股間蹴り飛ばすから」

 

 

菜々花の睨みを効かせた警告に、真琴は口笛を吹きながら無視を決め込んだ。

 

 

「それにしても、期間限定とはいえCircleでバイトすることになるとは思わなかったよ」

 

「バイトっていうよりかはお手伝いみたいなもんだけどね。まぁでも、あの子たちの音楽活動を手伝うのって初めてじゃない?」

 

「そうだね。会場への送迎は別だろうし、新曲の感想を求められたこともないからね」

 

「じゃ、気合い入れてかないとね」

 

 

 

~END~




皆さん今までありがとうございます!
無事完結いたしました!

この後ですが、番外編をいくつか出したいと思います。ですが、全く内容を決めていません()。もし何かリクエストがあれば、@karuna_runa までお願いします!

ハーメルンのメッセージ的なものでも構いません!
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