過保護な兄   作:かるな

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今回はちょっと長めです!




第8話

「はぁ・・・」

 

 

ここは大学の講義室。中では哲学の講義が行われているが、殆どの学生は内職をしたり睡眠を取ったりと自由であった。

 

そんな中、真琴は机に突っ伏してため息をついている。

 

彼にしては珍しく、かなり落ち込んでいる様子だ。しかも朝からずっとである。

 

 

「ため息ムカつくから寝てなさい。アンタどうせ講義聞いてないんだし」

 

「辛辣過ぎない?」

 

 

そんな彼の隣に座る菜々花は、今日は少々ご立腹である。

 

 

「菜々花にしては珍しいね。僕の事以外でイライラしてるなんて」

 

「自覚があるなら少しは気を付けなさいよ。アンタこそ、いつものマイペースはどうしたの」

 

「実は・・・・・・巴と喧嘩しちゃったんだよ」

 

「はあっ?!」

 

 

あのシスコンである真琴が妹と喧嘩することなんて無いと思っていた菜々花は、素っ頓狂な声を上げてしまう。そのせいで教授に注意され、「すみません」と謝罪をしてから真琴から事情を聞き始めた。

 

 

「喧嘩っていうか、悪いのは全面的に僕なんだよね。でも、普段の巴ならあそこまで怒ることは無いはずなんだけど・・・約束を、すっぽかしちゃって・・・」

 

「そりゃ怒るわよ!」

 

「で、でも!普段は『いつも兄さんには世話になってるから』とか、『次は気を付けろよ』とか言ってくれてたのに・・・」

 

「で、今回は何て?」

 

「『兄貴のバカっ!』って・・・うぐっ・・・ぐす」

 

 

講義中だというのに泣き崩れる真琴。どうやら先日の巴の言葉は相当突き刺さったらしい。さらに詳しく話を聞いた所、それ以降いくら呼んでも無視され、目すら合わしてくれないという。

 

 

「でも、あこちゃんならまだ分かるけど、巴ちゃんがそこまでの反応をするって確かに変ね」

 

「でしょ?だから困ってるんだよ・・・」

 

「ねぇ真琴。一つ気になったんだけど、アンタ最後に巴ちゃんと一緒に出掛けたのっていつ?」

 

「え、巴やあこが出掛ける時は僕も付いてくよ?ほら、この前の浜辺のライブだったり、学園祭だったり・・・」

 

 

一つ一つ思い出すように言葉を並べる真琴。だが菜々花は「そうじゃなくて」と言って遮った。

 

 

「巴ちゃんと二人っきりで出掛けたかって事よ」

 

「え・・・あっ」

 

 

菜々花の言葉にハッとした真琴は、再び思い出すように考え始めた。そして数秒後、おずおず口を開いた。

 

 

「多分、入学祝いでご飯に連れてったのが最後・・・かも」

 

「多分それ。最近構ってもらえなくて、ストレスが溜まってたんでしょ。ほら、あこちゃんはよくアンタにオネダリするでしょ?でも巴ちゃんはしない。何故ならあこちゃんの姉である手前、あんまり自分が甘える姿を見せたくないんでしょうね」

 

「・・・・・・。」

 

「アンタの考えてる事、当ててあげようか?」

 

 

机に突っ伏したままの真琴に問いかける菜々花。真琴はというと、それに対して力なく首を横に振った。

 

 

「その様子じゃ、大体合ってそうね。で、これからどうすんの?」

 

 

再びの質問に、真琴は上体をゆっくりと起こした。

 

 

「今の巴は、話を聞いてくれない」

 

「うん」

 

「怒ってる理由を言っても、巴はプライドが高いから、多分もっと怒らせちゃうかもしれない」

 

「うん」

 

 

真琴は「だから・・・」と言うと、意を決したように言葉を続けた。

 

 

「菜々花に、協力して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

 

ここは宇田川家にある巴の部屋。その中では部屋主である彼女が、ベッドにうつ伏せの状態でため息をついていた。服装は制服のままで、学校から帰ってきたばかりである。

 

 

「兄さんに悪い事しちゃったな。いや、でも約束をすっぽかしたのは兄さんで、そもそも!兄さんがもっとアタシに構ってくれれば・・・いやいや、それはワガママがすぎるか・・・」

 

「いいんじゃない?ワガママでも」

 

「え?うひゃあ!」

 

 

巴が声のした方へ向くと、そこには何故か菜々花がいた。

 

 

「な、菜々花さん!?いつからそこに・・・」

 

 

驚きのあまり、バランスを崩してベッドから転げ落ちてしまった。

 

痛む頭を擦りながら立ち上がる巴だが、先程までの独り言のせいでかなり動揺している。そんな彼女を宥めるように、菜々花は巴をベッドへ腰掛けさせると、自分も隣へと座った。

 

 

「その、どの辺りから聞いてたんですか?」

 

「もっとアタシに~ってところかな?驚かせちゃってごめんね。ノックはしたんだけど、返事が無かったから」

 

「あ、いえ。こちらこそすみません。それにしても、どうして菜々花さんが?」

 

 

巴は今一番気になっていることを菜々花に質問した。それもその筈、今日菜々花が来ることは知らされていない。さらに真琴はこの時間はバイトへ行っているのだ。

 

 

「巴ちゃんと話したい事があったんだ」

 

「兄さんの・・・事ですか?」

 

「違うよ?」

 

「え?」

 

 

予想外の返しに固まってしまう巴。彼女の驚きの顔を見た菜々花は、その表情の面白さにこらえ切れず、吹き出してしまった。

 

 

「あっはっはっは!私はそこまでお人好しじゃないって。真琴と巴ちゃん、喧嘩してるんでしょ?」

 

「喧嘩というか、私が一方的に怒ってるだけで・・・」

 

「ま、それはいいとして、私がお話したいのはあこちゃんのこと」

 

「え,あこですか?」

 

 

突然妹の名前を出されて戸惑う巴。あこが何かしたのかと不安になる彼女だったが、菜々花の表情からそれは無いだろうと悟った。

 

 

「あこちゃんって、ホントに可愛いよね~」

 

「は、はい。そりゃあ自慢の妹ですから」

 

「うんうん。あこちゃんの無邪気さはあの位の年代じゃ中々見れないよ~。それに、肌のモチモチ感なんてもしかしたら蘭ちゃんより上かもしれないし」

 

「は、はい・・・」

 

「この前あこちゃんにマッサージしてあげたんだけどね、触り心地がもう最高なの!」

 

 

菜々花のあこ語りを聞いているうちに、巴は段々顔が引きつっていき、さらには身の危険を感じたのか彼女から少しずつ距離を取り始めていた。

 

 

「末っ子っていいよね」

 

「っ!」

 

「お父さんやお母さん、兄、姉、色んな人に甘えられる」

 

「・・・・・・。」

 

 

菜々花の言葉に、巴の表情は段々と曇っていった。

 

 

「真ん中の子は辛いよね。甘えたいけど、下の子に弱い所は見せたくない」

 

 

「な・・さ・に・・が・・」

 

 

「でも、もっと甘えていいと思うよ」

 

 

「何が分かるんですか!兄弟のいない菜々花さんに!アタシだって、兄さんにもっと甘えたい!構ってもらいたい!でも、それはあこの役目だから、アタシは我慢しなくちゃいけなくて・・・でも!最近になって、また兄さんと一緒にいたいって思うようになって・・・・・・!」

 

 

菜々花の言葉を聞いていただけの巴が、我慢出来ないといった様子で彼女に自分が思ってる事の全てをぶちまけた。言い終えた巴の目からは、一筋の涙が零れていた。

 

 

「分からないよ、私には」

 

「そ、そんなの無責任ですよ!」

 

「そうかな?巴ちゃんには甘えられるお兄さんがいるじゃない。たとえ甘えてる所をあこちゃんが見ても、巴ちゃんが思ってるようなことにはならないと思う。だって、二人のお兄さんでしょ?それにね、昔友達がこんな相談をしてきたの。『僕の妹はしっかりし過ぎてる。兄として嬉しいけど、まだワガママを言って欲しいし甘えて欲しい。兄離れをするには早すぎる』ってね。正直その時は『知るか!』って思ったけど、最近の巴ちゃんを見てると私もそう思う。多分、周りから『しっかりしてるね』とか、『まだ小さいのに偉いね』とか言われてきたんだと思う」

 

「そ、そんな、こと・・・」

 

 

菜々花は俯いてしまった巴の側により、その頭を軽く撫で一言。

 

 

「兄に甘えるのは、妹の特権だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~3週間後 大学内のコンビニにて~

 

「ねぇ菜々花」

 

「ん?」

 

「最近手持ちの減りが早い気がするんだけど・・・」

 

「気のせいだから、早くご飯買ってきなさい。講義が長引いたせいで時間無いんだから」

 

 




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