「――ない」
標的を仕留め、屋敷中を探し回るが帝具のての字すらない。
今回はガセネタを掴まされたのかもしれない。
「こっちもハズレだったよ」
「ならそういうことだろう」
毎度疑問なのだが帝具とそうでないものを見分けるコツってなんだろうか。
俺が知ってるものでも普通の武器と変わらなそうな見た目の帝具はかなりある。
実際俺が手に入れた帝具も最初はそれが帝具だと分からなかった。
そう話すと皆は驚いた顔をするが、俺が変なだけなのだろうか。
「それとね、ナイトレイドがこっちに向かってきてる」
「ナイトレイドが?」
「うん、ラバックと女の人の声が聞こえてくる」
「……相変わらずレムスの臣具は便利さもあるよな」
「それとね、実は……」
既に人のいないこの場所でナイトレイドを待つ。
帰っても別に問題は無いのだが、無駄足だったと報告ぐらいは一応してもいいだろう。
「……来たよ」
「今は見える。ラバに会うのは久しぶりだな」
久しぶりに再会した仲間に手を振り、合流する。
メンバーはラバックとブラート、シェーレは分かるが、最後の一人は誰だ?
パンプキンを持っていることからナジェンダ将軍が認めた狙撃手なのだろうから、実力はあるのだろう。
「ニール!? お前、なんでこんなところに!」
「本部からここに帝具が存在するって情報を聞いたから一時間前ぐらい前に来たけど、無駄足だったんだよ」
「ついでにここの標的もさっき全員始末したよ〜」
「全員って……情報通の数だとすればかなりいたはずよ!?」
「ニールの帝具を実際に見た身としては相変わらずぶっ飛んでる帝具だなとしか言いようがないな」
「お兄ちゃんの帝具と私の臣具は凄いからね!」
「だな!」
さすが妹。前世でもこれぐらい可愛げのある妹が欲しかった。
以前はシスコン男性を理解出来なかったが、こうも可愛い妹がいるとシスコンになるのも分かる気がする。
だってレムスの彼氏とか想像した瞬間にそいつぶん殴ってるイメージしかない。
「てか、そっちは依頼で来たんだろうけどアカメとレオーネはいないのか?」
「あの二人ならタツミ……最近仲間に加わったやつと一緒だ」
「また増やしたのか。そのタツミってのも強いのか?」
「あいつはいつかきっと化けるさ。ニールも怠けてると追い抜かれるかもな」
ブラートが太鼓判を押す素質か。
それは革命軍にとっても期待の新人だ。
「かなり興味が湧いたけど、今はまだ鍛えてる最中だろ?」
「フン、あの調子じゃ強くなるといってもいつになるか分からないわね」
「……それもそうだ。だからこそ、そのタツミってのに加えてお前らがもっと成長したらその時は俺が試してやる」
「一対一ってこと?」
「いいや、俺一人に対してナイトレイド全員でだ。将軍一人に手こずるようじゃエスデスになんて勝てやしないからな」
「……上等じゃない」
名前聞き忘れたピンク髪が帝具を構える。
別に今戦うつもりはないのだが……。
「武器、それも帝具を構えるなら俺も加減はしないぞ」
「この距離で敵は将軍クラス。かなりピンチね」
帝具、浪漫砲台「パンプキン」。
ピンチであればあるほど威力が上昇する強力な帝具。
エスデス将軍があまりにも強大すぎたために存在感は薄かったが、奴がいなければナジェンダ将軍と帝具パンプキンが帝国最強の称号を手にしていたかもしれないほどだ。
「――来いッ! ドラグヌーン!!」
俺の声に応えるように全身の筋肉が変質する。
視野も倍ほど広がり、背中には龍の翼のようなものが生える。
「……これが、ニールの帝具」
「古龍顕現「ドラグヌーン」。今じゃ既に絶滅した危険種のエキスを使用していることから臣具を作り出した皇帝すらこれと同じものを作ることを最初から断念していた帝具」
「ニール、さすがにここで戦うのは……」
「敵を騙すにはまず味方から。仮にも俺は将軍だからナイトレイドが帝都に来たなら始末する姿勢を見せないと怪しまれるだろ? 理由なら他にも作れるぞ」
「レムス! レムスならなんとか……」
「ごめんなさい! 暴走したお兄ちゃん止めるのは無理です〜!」
「マジかよ……マイン、今すぐ謝っとけ!!」
「……元々私はこいつを信用していないのよ。革命軍のスパイと言いながら帝国の将軍をやっているし、必要な犠牲といって革命軍のメンバーも殺してるじゃない」
「……あんの野郎。こうなるからナイトレイドにも報告しとけって言ったのに……」
ちょっとした報告のし忘れがこんなことになる。
革命のための計画ももちろん重要だが、組織のリーダーになったならそういう連絡はするべきだろ。
それぐらい察しろの精神じゃこんなことになるんだから。
「……加減してやる。だからラバ」
「お、おう」
翼を羽ばたかせ、一気に距離を縮める。
それと同時に拳に力を込めて、腹部に狙いを定める。
「っ!! かわしきれ……」
「そいつ連れてさっさと帰っとけ。他にも俺のこと誤解してるやつらを説得するために本部に用事が出来た」
目先まで近付き、思いっきり一発入れてやる。
「かっ……うぁ……」
ドンッと鈍い音がし、マインと呼ばれていた彼女はそのまま気絶した。
遠距離戦に特化しているからか近付かれた時の対処が遅れていた。
だが、あの一瞬でマインは引き金をひこうとしていた。
「……マインか。射撃センスだけでいくとナジェンダ将軍を超えるパンプキン使いになるかもな」
このナイトレイドに更に期待の新人も加入しているらしいし、いよいよ本格的に革命が始まるのかもしれない。
「……これなら、いけるかもしれない」
久しぶりに再会したナイトレイドを見て、俺は期待を膨らませた。