「ヤアッ! ヤアッ! イヤアッ!!」
リバースの振るう左拳の連撃が、巨大な複眼を持つハエ怪人の顔面に突き刺さる。
「うぐえあっ!?」
「セイヤアアッ!!」
仰け反り、がら空きになった怪人の胴。そこへリバースはすかさず右拳を叩き込み、手近なビル壁へ殴り飛ばす。そこを狙い、背後から別のハエ怪人が拳を叩きつける。
「クッ!?」
背中を撃つ痛みをこらえ、怪人の脇腹に左肘を打ち込む。そして怪人の姿勢の崩れたところで、振り返りもせずにその腕を掴んで背負い投げる。
「ギエッ!?」
アスファルトの道路を弾んで転がる怪人。それを無視してリバースは踵を返し、また違うハエ怪人の上段蹴りを掻い潜る。
「イヤアッ!」
「グゥッ!?」
そして足の伸びきった怪人のあごに、低い姿勢からアッパーを打ち込んで、道路端の植え込みへ沈める。
「おおおおおおッ!?」
そこを狙い、別のハエ怪人が横合から飛びかかってくる。
「セイィヤアアアッ!?」
しかしリバースは、右の回し蹴りでカウンターを入れて怪人を蹴り飛ばす。そして足を大きく回して地に下ろし、肘を前、拳を顔に添えた構えを取る。呼吸を整えつつ周囲を見回せば、こちらの様子を窺うハエ怪人達に包囲されていた。
「……なんて数だ……! 早く浜永湖まで行かなくちゃならないのに……!!」
抜ける隙間の無い包囲網を睨み、拳を固めるリバース。
※ ※ ※
話は少し前に遡る。テンペストによる水門の破壊によって被害を受けた浜永の中心街。そこかしこで工事の行われている街並みを眺めながら、健はオーバーカムを走らせる。
『この機会に、テンペストが何かしかけてこないとも限らない……』
封鎖された道路や地下道の入り口を見て、健は心中で呟く。そうして周囲を警戒しながら、ブツ切れの交通網を辿り、浜永駅目の前の路肩でオーバーカムを止める。そして駅の傍らにそびえる浜永セントラルタワー。それと、駅を挟んで対になるように建つ、白く輝くビルを交互に見上げる。そのビルに刻まれた、青いバラを意匠化したエンブレム。それを健は眉根を寄せて睨む。
「ブルーローズ……」
そのビルの持ち主の名を、低い声で呟く健。
『……だが、街の危機を前に、もどかしくは思う』
『でもボク、おとーさんがあぶないばしょにいかないほうがいいよ?おかーさんもシンパイするもん』
しかし、先日名前を知ったブルーローズに勤める金原の、息子との会話を思い出し、健は目元の険しさを緩めて首を左右に振る。
『ブルーローズの全てが、茜さんや俺……テンペストの連中を作りだすような連中じゃない。それは分かっていただろうが……』
健は頭の中で自嘲して、前髪をくしゃりと掻く。
「うわああああああッ!?」
「ギャアアアッ!?」
「て、テンペストだぁッ!!?」
不意に響いた爆音と破砕音、そしてそれに続く悲鳴に、健は弾かれたように顔を音の源へ向ける。その先では、翡翠色の鱗で皮膚を覆うトカゲの怪人と、ハエの怪人の集団が修復作業中の作業員や一般人に襲いかかっていた。
「あいつらッ!?」
その様に健は目元を引き締め、上着からリバースドライバーを取り出し、装着する。
「変身ッ!!」
ドライバーを装着して左に振り抜いた右手を、バックルに引っ掛けて右に振り戻す。
《Ride ON》
上下反転し、中央部の展開したリバースドライバーから光が渦を巻く。
「セイヤアッ!!」
渦巻く光を纏ったまま、気合の声と共に跳躍するリバース。
「くたばれッ! ブルーローズに従う働きアリがあッ!!」
「ヒィイッ!?」
そして今まさに、作業員へ振り下ろされようとしているトカゲ怪人の爪の前に割り込み、それを弾く。
「なッ!? 貴様あッ!?」
乱入に戸惑うトカゲ怪人に、リバースはすかさず右の拳を叩きこむ。
「デイヤアアアッ!!」
「うおおおっ!?!」
胸にパンチの直撃を受け、くの字に折れ曲がって飛んでゆくトカゲ怪人。
「り、リバースライダー……ッ!? ラジオでやっていた?」
背中に触れた呆然とした呟きに、リバースは拳を引っ込めながら上半身だけで振り返る。
「早く逃げてくださいッ!」
しかしそこへハエ怪人の一人が両腕を大きく広げて躍りかかってくる。
「くッ!?」
それを真っ向から組み合って受け止めるリバース。組み合ったまま、未だに呆けて座りこんでいる作業員を一瞥して強い声をぶつける。
「何してるんです!? 早くッ!?」
「あ、ああ……!!」
手足をバタつかせながら立ち上がり、離れて行く作業員。それを尻目に、リバースは組み合っているハエ怪人に膝蹴りを打ち込んで投げ飛ばす。
「イィヤアアアアッ!?」
「ぎえっ!??」
そして、周囲を見回し、逃げる民間人を追いかける別のハエ怪人に目を付ける。
「させるかッ!!」
その怪人に向かって走り、勢いに乗せて飛び込み蹴りを繰り出す。
「デイヤアァッ!!」
「ぐおわっ!?!」
ハエ怪人を吹き飛ばし、着地と同時に構え直すリバース。そして右のサイドステップでその場から飛び退く。
「おおらあッ!?」
その直後、頭上から降ってきたトカゲ怪人の拳が、一瞬前までリバースの踏んでいたアスファルトを砕く。
「ふんッ!?」
追撃に振り回された腕を、リバースはバックステップでかわす。そこへさらに踏み込んで突き出された怪人の右拳をリバースは左掌で受け止める。
「シエアアアッ!?」
さらに足元を狙って振り回された尻尾を、その場で跳躍して避ける。
「セイイヤアアアアッ!?」
飛び上がったリバースは宙返りして、トカゲ怪人目がけ、足から踏みつける形で急降下。しかし、怪人がすぐさまその場を離れたため、アスファルトを踏みつぶすに終わる。
「シャアアアッ!!?」
そこを狙い、トカゲ怪人が爪を突き出す。だがリバースはその手首を掴んで受け止め、続く牙も下顎を握って止める。
「っが!?」
「デヤアッ!?」
反撃の膝蹴りを怪人の脇腹へ打ち込むリバース。
「うがっ!?」
苦悶の声を上げて固まった怪人から手を放し、リバースは両の拳を怪人の腹へ連続で叩きこむ。
「イィヤアアアアアアアアアアアアッ!?」
ガトリングガンさながらのボディへのラッシュに続けて、大きく引いた右腕でのストレートをボディへ打ち込む。
「デイヤアアアアアッ!!?」
「ゴハアアッ!?」
再び飛んでゆくトカゲ怪人。それを拳を突き出して睨んだまま、リバースは頭部クラッシャーから熱気を吐き出す。
その間に、打撃で痛めつけられた腹部を押さえながら、トカゲ怪人が片手を支えに立ち上がる。
「ぐっ……余計なものまで釣れていたが……この分ならば陽動には十分か……」
立ち上がりながら怪人の漏らした言葉に、リバースはクラッシャーを閉じて問いかける。
「陽動!? 本命は別ということかッ!?」
リバースの問いに、怪人は僅かに口の端を歪めながら、じりじりと後退する。
「そうだ! 機能低下させても、我々にとってここに仕掛けるのは犬死するも同然ッ! 本命は浜永湖を広げ、この地を水底に沈めることよッ!?」
「なんだとッ!?」
「ふははッ! 貴様はここで、街と共に水底に沈むがいいッ!!」
そう言ってトカゲ怪人は跳躍し、ビル壁を蹴って逃げていく。
「待てッ!」
それを追おうと、リバースは駆け出そうとする。だが、その周囲を四方八方から現れたハエ怪人の大群が取り囲む。
「ク……ッ!?」
リバースは身構え、周囲を見回しながら歯噛みする。
※ ※ ※
浜永湖と太平洋の境。境界線を描くようにかかる巨大な水門と鉄道橋を臨んで、茜は海から吹く潮風をその身で受け止めながら、右手に持つ握り飯を頬張る。
頬張った米を噛み締め、飲み込むと、茜は右手の親指を軽く舐めて、足音のする方へ振り向く。
「やはりここに来たか……近藤、そして南葵」
その視線の先には、両拳を地につけたゴリラ怪人の近藤と、その左側に並ぶアロエの女怪人、南が立っていた。
「今日ここに来ることをよく読んだな、茜?」
その南の言葉に、茜はジャケットのポケットに両手を突っ込んで、湖を見て口を開く。
「昨日の戦いでもしや、と思ってね? 私がお前達と袂を分かつと決めた計画、ブルーローズごと街を沈めるテンペスト作戦の最終段階か、と」
「あの青年……仮面ライダーリバースはどうした? お前一人で我等を止めるつもりか?」
低く太い声で尋ねる近藤に、茜は湖から視線を戻して答える。
「その通りさ……彼は、健君は……“伝説”の手の届かなかった浜永に生まれた希望なんだ」
言いながら茜は、自身のドライバーを取り出し、目の前にかざす。それに対して、南が口元を歪めて嘲笑を浮かべる。
「フッ……自分の後釜を、その“伝説”に仕立てあげようとしている女が何を言う」
茜はそれから目をそらさず、真正面から受け止める。
「言い訳はしない……だからこそ、お前たち復讐者の始末は……街の希望ではなく、復讐を捨てることも、街を見限ることもできない半端者がしなくてはならない……!」
言い終ると同時に、茜は手に持ったドライバーを腰に装着する。
「変身……ッ!」
バックルの左端に左手をかけ、肘を基点にV字を描く形で撥ね上げる。
《Ride ON》
ドライバーから渦巻く光が解けて、潮風に白いマフラーを靡かせたミゼンが姿を現す。それを見て、近藤は腰を落として相撲の仕切りに似た構えを取り、南は両腕を八の字に広げ、軽く膝を曲げる。
「始めるぞ……なりそこない!」
近藤の低い声に、ミゼンは右足の踵で地面を払い、右腕を下げて軽く開いた左手を顔の横に添える。
「もとより名乗る資格もなければ、そのつもりもないさ……ッ!」
ミゼンはそう吐き捨てて、二人の怪人へ飛びかかる。
※ ※ ※
「セイッ! イヤアッ!」
左手のジャブを正面、右足による飛び後ろ回し蹴りを背後のハエ怪人に叩きこむリバース。
「セイヤアアアッ!!」
そして着地と同時に、ジャブに仰け反っていた怪人を左足で蹴りつける。しかし、それもつかの間、すぐに次のハエ怪人が迫る。
「くそッ! 強くは無いが、キリがない……ッ!!」
横薙ぎのチョップに突き出すミドルキック、さらに背負い投げと、次々に迫る怪人たちを迎え撃ちながら、一向にほつれる気配すらない包囲網に苦り切った声を出すリバース。その間も怪人たちによる包囲網はじりじりと狭められていく。そこへ轟音と共に銃弾が降り注ぎ、連続で巻き起こる爆発が怪人たちを吹き飛ばしてゆく。
「なにッ!?」
リバースは腕を盾にして、ステップや横転を駆使して飛び交う銃弾から逃げる。
そのうちに包囲網の一部を突き破って、一台のジープが突っ込んでくる。青いバラのエンブレムを付けたそれは、リバース目と鼻の先に横滑りに停車する。間を置かずに助手席のドアが開き、白いバトルスーツを着た、撫でつけ髪の男が現れる。鋭い目元に猟犬のような雰囲気を纏う男は、車から降りながら、ハエ怪人に向けた大型拳銃の引き金を引く。全弾撃ち切った男は、空になった弾倉を落とし、新しい弾倉をリロードしながらリバースに目を向ける。
「はじめまして、リバースライダー。ブルーローズ社長秘書、天海輝司(あまみこうじ)と申します」
自己紹介を終えるや否や、天海は拳銃を構えて引き金を引く。
「ブルーローズ社長秘書……!?」
背後から迫る怪人を殴りながらオウム返しに尋ねるリバース。
「ええ、以後お見知り置きを……市民の防衛、社長に代わって御礼申し上げます」
慇懃に言いながら、二発立て続けに別方向へ発砲する天海。そして新しい弾倉を取り出しながら、三方向へ発砲する。
「しかし、本体とほぼ同等の能力を持つ分身体を生産可能なフライとはいえ、この数を作り続ければただでは済まないはずですが……」
そしてリロードの隙に接近してきた分身体を蹴りつけ、頭部へ零距離で銃弾を叩きこむ。そこで天海へ飛びかかる分身体を、リバースは殴り飛ばし、天海も別方向から迫るモノを、二丁目の拳銃を取り出して迎撃する。
「ともかく、フライの勢いはもう続きません。ここは我々に任せて、あなたには浜永湖をお願いします」
「……何故俺を助けて、浜永湖へ行かせようとする?」
真正面から来る分身体を蹴りで迎え撃ちながら、背中を合わせる天海へ問うリバース。
「簡単な話ですよ。我々だけでもコングを倒すことは出来ますが、多大な消耗は避けられません」
銃声と共に放たれる言葉を、背中で聞きながらリバースは分身体を左右のパンチで迎撃する。
「しかし、貴方がコングと戦ってくれれば……最高でテロリストの首魁と反抗的な実験体の共倒れ、最悪でも消耗したコングを殲滅するだけで済みます」
そこでジープに乗った戦闘員がバズーカを撃ち、包囲網をこじ開ける。破れた包囲網の先に続く道を見、続いて天海に視線を移したリバースは低く、静かな声で問う。
「……その目論見を聞いて、俺が黙って行くとでも思ってるのか?」
それに対し、天海は拳銃を交互にリロードしながら、薄い笑み返してくる。
「我々に利用されているとしても、貴方はこの街を救いに行かずにはいられない……そうでしょう?」
リバースは無言で包囲網の綻びに視線を戻す。そして走りだしながら愛車の名を叫ぶ。
「オーバーカムッ!!」
それに応え、オーバーカムが唸りを上げて包囲網を飛び越えてくる。
「イヤアッ!」
掛け声と共に跳躍するリバース。そして空中で愛車のハンドルを握る。そのままシート越しの着地の衝撃を受け止め、片足をついて振り返る。
「浜永湖は任せてもらう……だが、忘れるな。お前たちにもこの街を弄ばせはしないッ!!」
そう言い捨てて、リバースはオーバーカムのスロットルを捻る。それに応え、唸りを上げて走り出すオーバーカム。
「邪魔をするなああッ!?」
包囲網を繕おうと集い始めた分身体を振り切り、リバースは浜永湖へ向かってオーバーカムを急がせる。