ブルーローズ本社ビルの廊下。撫でつけ髪にスーツを乱れなく着こなした男、天海輝司が規則的なリズムの足音を鳴らしながら進んでいく。
その歩みは「KIMI’s Lab」と書かれたプレートのついた扉の前で止まる。
そして左足を軸に向きを変え、扉の脇についた呼び鈴を押す。
《はぁ~い。どちらさまぁ?》
呼び鈴越しのしなのある低音に、天海は背筋を伸ばしたまま応える。
「天海輝司です。白柳博士」
《あら! もうそんな時間だったかしら!? さ、入ってちょうだい》
すると白柳の返事と共に、ドアがスライドして開く。それに続いて、天海は研究室への扉を潜る。部屋の中央にたたずむ手術台と、それを取り巻く機械の中、デコレーションされた白衣を着たスキンヘッドの巨漢、白柳公彦博士が踊るように体をくねらせていた。
「いらっしゃぁ~い輝司ちゃん。新しい演習場予定地は、残念だったわねぇ」
つやのある厚い唇に指を添えて言う白柳に、天海は頭を下げる。
「申し訳ありません。再改造した改造人間をお借りしておきながら……」
すると白柳は、体をくねらせて返事をする。
「ああん! いいのよォ! 頭を上げて輝司ちゃん!? 元が悪ければあんなものよぉ~」
その言葉に従い天海は頭を上げる。
すると、白柳が今一度腰をくねらせる。そして顎と頬に指の背を添えて、再び口を開く。
「そ・れ・よ・り・も! 新しい改造人間の素体の集まり具合は、どうかしら?」
「量はそれなりに揃っていますが、質に関しては今一つです。博士の御眼鏡にかなうレベルの者は正直なところ……」
その報告を聞き、白柳は眉根を寄せて首を傾げる。
「あらぁ、そうなの? 残念ねぇ……」
その白柳の言葉に頷き、天海は口を開く。
「そこで手元の改造人間を使い、テンペスト残党を装った素体集めの作戦を予定しています」
その予定を聞き、白柳が目を瞬かせ、両手を頬に添えて体をくねらせる。
「あらぁ。面白そうじゃなぁい!? アタシも同行、しようかしらぁ!?」
白柳の言葉に、天海は眉一つ動かさずに頷く。
「了解しました。今回の作戦には博士にも同行していただきます」
すると、白柳は両腕を胸の前で立て、それを互い違いに回しながら、上半身を左右に揺らす。
「アタシの占いによると、近々人生に関わる人物との再会があるらしいのよォ! 乙女座のアタシには、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないわぁ~ッ!?」
昂るままに声を上げる白柳に対し、天海は唇を結んだまま天井を見上げる。
※ ※ ※
「いらっしゃいませ」
澄んだドアベルの音色の響くスカーレットジョーカー。ドアを開けて入ってきた二名の客を、白いシャツとジーンズの上に赤いエプロンを付けた茜が、艶やかなセミロングの黒髪を揺らして迎える。
「こちらへどうぞ。ご注文がお決まりでしたらお呼びください」
客を席へ案内し、メニューを渡す茜。その姿を見て、手足に包帯を巻いた亮子が黒く艶のあるポニーテールを揺らして振り返る。
「なかなかどうして、様になってるじゃないか。彼女に助っ人を頼んだのは正解だったね、健?」
そう言われて、黒いシャツにジーンズ、緑のエプロン姿の健は、鯖味噌定食に鯖の頭を盛り付けると、無造作に流した髪を揺らして頷く。
「そうだね。茜さんが引き受けてくれて、本当に助かったよ」
健は鯖味噌定食の乗ったトレイを持ち、ジーンズの裾から覗く、固くテーピングされた亮子の左足に目を落とす。
数日前、ムラマツサーキットで怪人に襲われ、怪我を負った亮子。幸い命に関わるほど深いものではなかったものの、普段通りに働けるほど軽いものでもなかった。そこで亮子は茜に助っ人としての白羽の矢を立てた。
「……払おうと思ってた給料が、食事代の天引きで消えかねない勢いってのは、さすがに予想外だったけどさ」
亮子がそう言うと、茜がカウンターの陰に置いてあったサンドイッチを取りながら入ってくる。
「亮子さん、パンケーキとカプチーノを2つ。あと、食後にジョーカーのお客様がそろそろです」
茜は取ってきた注文内容を伝え、手に持ったサンドイッチを齧る。それを聞いて、亮子は口元を持ち上げて頷く。
「オッケーオッケー、かしこまり。すぐに入れるから、茜は待っててよ」
亮子は左足を引きずりながら向きを変え、コーヒーを淹れ始める。
「じゃ、鯖味噌は俺が持ってくから」
健はそう言って、トレイを持ったまま客席の方へ足を向ける。そして茜の隣りを抜けるときに、体を捻り、料理へ伸びてきていた茜の手を遮る。そうして茜へ苦笑を向けると、茜はサンドイッチを持った手と空いた手を顔の横に挙げて見せる。
「はいはい、定番のじゃれ合いはいいから、健はさっさと料理持って行きな」
そこで投げかけられた亮子の言葉に、茜は口元を緩めて頬を掻き、健はトレイを軽く上下させて頷く。
「はは、すみません」
「ゴメンゴメン、じゃあ今度こそ持ってくよ」
苦笑交じりに言いながら、健は再度客席へと向かう。
※ ※ ※
健が客席へ出ていくのを見送って、茜は手に持ったサンドイッチを再び齧る。
「しっかし、なんだねえ……あんたらって本当に恋仲とかじゃないのかい?」
「ンッ……グッ!?」
不意の亮子の言葉に、茜は飲み込み掛けたサンドイッチを喉に詰まらせる。
「ケホッ……いきなりなんなんですか、亮子さん」
胸を軽く叩いてそれをしのいだ茜は、むせ込みながらコーヒーを淹れる亮子を見る。
「あいつがあんたに接する態度がさ……信頼、もあるけど、それだけじゃないように見えてさ」
顔を上げた亮子の視線を辿れば、穏やかな顔にさわやかな笑みを浮かべて客に接する健の姿があった。
「あんたが側にいると、健の奴、普段よりいい顔するんだよ? 少なくともあいつは、あんたに惚れてると思うよ?」
その亮子の言葉に、茜は視線を足元に落とす。
『私も健君のことは……けど、私は……この思いは……』
茜は胸元で左手を固めながら、心の内で呟く。そして首を左右に振り、冗談めかした笑みを亮子に向ける。
「いいんですか、そんなこと言って? 薫ちゃんが聞いたら泣きますよ?」
すると亮子は軽く首を傾げ、半目にした左目で茜を見る。が、直に口元に笑みを浮かべて応える。
「構わないさ。薫は可愛い娘だけど、健だってかわいい甥っ子さ。あいつが自分で選んだ相手と幸せになるならそれでいいじゃないか」
「ただいま」
「お邪魔様でーす」
そこへ狙いすましたかのようなタイミングで扉が開き、セーラー服姿の薫と文香が店内に入ってくる。
「ああ、おかえり! 文香ちゃんもいらっしゃい」
亮子は二人を迎えながら、コーヒーの入ったカップをソーサー越しにトレイに乗せ、茜に差し出す。茜はそれを受け取ると、踵を返して客席に足を向ける。するとそこで、茜の背中に亮子が言葉をかぶせてくる。
「……あんたが何を思ってるかは知らないけどさ、思いのままに動いたって、いいんじゃないかい?」
しかし茜は無言のまま、客席に向けて足を踏み出す。
※ ※ ※
「ありがとうございましたー」
ドアベルを鳴らして出て行く客を見送り、健は空いたテーブルの拭き掃除を始める。
「え! リバースライダーを見たって本当ですかッ!?」
不意に響いた大きな声に振り向けば、鼻息荒く薫へ詰め寄る文香の横顔があった。
「う、うん……この前の休みに行ったサーキットで、怪人と戦ってるのを……」
「怪人……やはりテンペストが滅んでいないという噂は本当のようですな!」
文香の口にした噂を聞いて、健は手を止めて顔を上げる。
「テンペストが……?」
健の声に振り返った文香は、薫を解放して首を縦に振る。
「はい、ここ何日かブルーローズ関係の施設で行方不明者が出ていましてな? それがテンペストの仕業ではないかと言われているのですよ」
言いながら文香はメモ帳を取り出し、ページをめくって行く。そしてあるページで止めて健に見えるように示す。
「この通り、どんどん被害者数が増えているのですよ。次当り、大きなところが狙われるんじゃないか、と私は睨んでいるんですよ」
文香の示したページに視線を走らせる健。
「へぇ……物騒な話だね……」
そして一通り目を通し終えると、カウンターの向こうで洗い物をしていた茜へ目を向ける。すると、ちょうどこちらを見ていた茜と視線が絡み合う。
「……あの、お兄さん? 茜さん?」
そうしているうちに、不意に文香からどこか遠慮がちな声がかかる。
「ん? どうかした?」
茜とのアイコンタクトを止め、文香に視線を移すと、引きつった笑みの張り付いた文香の顔が視界に入る。
「いやその……委員長がメダルで出来たカブトムシとクワガタの怪物を生み出しそうになっているので……」
文香の後ろから覗く、両目を潤ませ、眼鏡越しに睨んでくる妹分に、健は思わず苦笑を浮かべた。
※ ※ ※
《良いものいつでもお値打ちびっくり! シャウト!》
店舗内で軽快なメロディに乗って流れるCM。そんな中、フードコーナー内にあるハンバーガーショップの席の一つで、緑のジャケットの健と赤いジャケットの茜が向かい合って座っていた。
「本当にテンペスト残党の仕業なんでしょうか……?」
健はそう言って、食べかけのチキンカツバーガーに齧りつく。すると手元に丸めた包装紙を山盛りにした茜が、口の中のものをジュースで流しこんでから口を開く。
「可能性がないとは言い切れない……が、私はブルーローズの偽装だと考えている」
「自作自演、ということですか?」
フロアのそこかしこを歩く警備員を見やり、健はハンバーガーの残りを口に入れる。すると茜はフライドポテトを一本つまみあげて頷く。
「そう。私が知る限り、テンペストにはもう力が残ってはいない。それに殺害ではなく行方不明なら、新しい怪人を作り出す設備の無いテンペストよりも、ブルーローズが実験の為に拉致している可能性の方が高い」
そう言って茜はつまんだフライドポテトを口に放り込む。
「ブルーローズから脱走した時に、テンペストに助けられたんでしたっけ?」
健は近藤との戦いの後に聞いた、茜とテンペストとの関係を思い出して尋ねる。それに茜はポテトをもう一本口に入れてから頷く。
「ああ、街を滅ぼす計画を聞いて袂を分かったがね。世話になっている間に見た彼らの状況からして、彼らはこの前の戦いで力を使い果たしているよ」
「なるほど」
茜の説明に頷き、健も自分のジュースのストローに口を付け、ずずごっと音が鳴るまで吸い込む。そして氷のみになったカップをトレイの上に置く。
「しかしどちらにせよ、ここに来ている人達が巻き込まれることは避けなくては……」
健がそう言うと、茜は静かに頷いて立ち上がる。
「そうだね。じゃあそろそろ行こうか」
「はい」
頷いて立ち上がった健は、トレイを持ち、食事の後片付けを始める。そうして食事の片付けをすませた二人は、ハンバーガーショップを後にする。
そしてフード―コーナーから出ようと、並んで歩く健と茜。
「うっ……ううっ……」
フードコーナーを後にしようとエスカレーター近くに差し掛かったところで、低いすすり泣きが聞こえる。
「? なんだ……?」
すすり泣く声に足を止め、周囲を見回す健。すると、茜が肩を軽く叩き、ある方向を視線で示す。
「健君……あれだ」
茜の真剣な視線の示す方向を辿る健。しかし、その先に居たのは、休憩スペースのベンチに腰をかけて、マンガを片手に、涙を浮かべるスキンヘッドの巨漢であった。
「頑張るのよ、まひるちゃん……! 男の子が怖くても、宗太ちゃんなら大丈夫! 宗太ちゃんを信じるのよッ!」
「な、なんなんです、あの人……?」
ピンクの水玉模様のハンカチで涙をぬぐう、オネエ言葉の男に頬を引きつらせる健。
「あいつは……ッ!」
しかしそんな健に反して、茜は眉根を寄せて、切れ長の目を刃のように鋭くさせる。するとスキンヘッドの男がこちらを一瞥し、マンガを閉じると、目元を拭っていたハンカチをきれいに畳んでポケットに収める。
「あらぁ? あなたたちは……」
磨き上げたスキンヘッドを輝かせながら、体をくねらせて男が立ち上がる。
「茜さん……この人は?」
「私がブルーローズで製品テストをしていた頃の上司で、私たちを改造した科学者……ドクター白柳」
健の問いに、茜は眼前の男を睨みつけながら、その正体を告げる。すると白柳と呼ばれた男は、眉を八の字にし、艶のある唇を尖らせると、白衣の裾を揺らしながら腰をくねらせる。
「ンもうッ! キミちゃんって呼んでって言ってるでしょッ!? 相変わらず茜ちゃんったら冷たいんだからァンッ!」
白柳はそこで健を一瞥すると、口元を緩め、身を翻して顔を向ける。
「アナタを改造した時以来だけど、はじめまして、になるのかしらァ? ブルーローズ技術開発部部長、白柳公彦よォ? 愛をこめて、キミちゃん、って呼んでね? 仮面ライダー?」
しなを作った口調で白柳の告げた内容に、健も身構える。
「アンタが俺たちを改造人間に……ッ!?」
拳を握り締め、白柳を睨みつける健。すると白柳は肩を交互に回すようにして体をくねらせる。
「ああんッ! その引き締まった表情! 素敵じゃない!? 二十年後が楽しみになっちゃうわぁッ!?」
白柳は昂るままにそう言って、両手で頬を挟み込むようにする。そんな白柳に向かって、健は詰め寄ろうと足を踏み出す。だが、その前に茜が踏み出る。
「相変わらずふざけた態度をッ!? ここにも弄ぶ命を探しに来たのだろうッ!?」
憎悪を乗せて吐き出される茜の怒声。しかしそれをぶつけられている白柳は、唇を尖らせて鼻を鳴らす。
「いやぁねぇ……アタシはいつでも真剣よぉ? それに、今日はただの付き添いなんだからぁ~」
不満げにそう返した白柳は、白衣を翻して二人に背を向ける。そのまま軽やかに歩きだす白柳の背中を追って茜が駆けだす。
「待て! 貴様だけはッ!!」
しかし、茜が肩を掴もうとした瞬間、耳鳴りのような空気の振動が健たちの耳を叩く。
「こ、これはッ!?」
「超音波!?」
とっさに耳を抑える二人。そのまま周囲を見回せば、一般客や従業員、警備員が次々と倒れ始める。
「ごめんなさぁ~い。もう時間なのよぉ~……じゃぁあねぇ~」
そんな中、手をひらひらとさせて、足取りも軽く立ち去る白柳。そこへ黒いフルフェイスメットに黒いバトルスーツを着た青いバラの社章を付けた戦闘員が雪崩込んでくる。
「コイツらッ!? ブルーローズのッ!?」
一般客や警備員を乱暴に引きずって行く戦闘員らの姿に、健は耳から手を放して駆け出す。
「セェヤアッ!?」
「ギィッ!?」
男の子の首根っこを掴む戦闘員へ、気合の声と共に拳を叩きこむ健。
「キミッ!? 大丈夫ッ!?」
解放された男の子を抱きかかえる健。そして苦悶の声を上げる子どもへ呼びかける中、引きずっていた人々を放り出した戦闘員から、一斉に銃口が向けられる。
「ハァアッ!?」
「ギエッ!?」
しかし引き金が引かれる直前、飛び込んだ赤い影、茜が最寄りの戦闘員を蹴り飛ばす。その瞬間、僅かに足並みが乱れ、隙が生じる。
「セイッ! セェヤアアッ!?」
それに乗じて、健は男の子を抱えたまま、手近な戦闘員に右肩からぶち当たり、銃をこちらへ向けようとする戦闘員の腕を蹴り飛ばす。
その背中を狙い、銃口を向ける戦闘員。
「フゥッ!」
その銃身を駆けこんできた茜の右掌低が叩き落し、あごを左掌低がはね上げる。そのまま健と茜は駆けより背中を合わせる。そこを狙い、戦闘員たちが一糸乱れぬ動きで銃を構える。
「セヤッ!」
「ハッ!」
だが二人はアイコンタクトすら無く、同時に足元に落ちていたライフルを戦闘員集団へ蹴り飛ばし、銃弾の乱れ飛ぶ中、物陰へ転がりこむ。
その物陰に子どもを寝かせた健は、手近なところにあったテーブルや椅子と茜とを交互に見る。そして茜と視線を交わして頷きあうと、健はテーブル、茜は椅子をそれぞれに掴んで物陰から飛び出す。
「セイヤアアアッ!」
「ハアアアッ!」
そして飛び出した瞬間に、それぞれが手に持ったものを投げつけ、床を踏み込んで駆け出す。
「ギヒィィッ!?」
テーブルと椅子の投擲で乱れた銃弾を掻い潜り、悲鳴を上げる戦闘員集団へ飛びこむ二人。
「セエイッ!」
「ハアッ!」
健の右拳が戦闘員の鳩尾を撃ち、その背後では茜の左掌低が戦闘員の頭部を揺らす。そして戦闘員が落としたライフルをもぎ取り、弾倉を外すと、背中合わせに回転。その勢いを乗せたフルスイングで戦闘員をなぎ倒す。
「ガァッ!?」
「ギャアアアッ!?」
割れたバイザーや陥没したヘルメットから苦痛の声を漏らす戦闘員。それらを踏み越えて、飛び掛る黒尽くめの雑兵。それらを、健は曲がった銃で受け止め押し返し、茜は槍の要領で銃を突き出し迎え撃つ。
「デェイヤアアアアアッ!?」
「ハアアアアアアアアッ!?」
そしてすかさずに健は銃を投げつけ、茜は右蹴りを叩きこむ。吹き飛び、転がってゆく戦闘員たち。健がそれを目で追うと、うつ伏せに倒れた雑兵の向こうにスラックスに革靴を履いた足が見える。
「行きなさい、ハウリングバット」
次の瞬間、静かな声音の指令に続き、巨大な影が健の視界を覆い尽くす。
「キィエエエエエエッ!!」
「クッ!?」
奇声と共に振るわれる翼の鉤爪を、健は両手で組み合う形で受け止める。
「健君ッ!?」
コウモリの怪人と組み合った健の背後で茜が叫ぶ。健が背後を一瞥すれば、殺到する戦闘員を捌く茜の姿があった。正面へ視線を戻すと、怪人の大きな耳の陰から覗く天海と視線がぶつかる。
「お前ッ!?」
「優秀な改造人間の素体を集めに来たのですが……余計なものが紛れこみましたか」
そう言って肩をすくめる天海。それに対し、健は怪人越しに怒りの声をぶつける。
「お前らは、俺達だけでは飽き足らず、まだ人々を! 命を弄び続けるのかッ!?」
だが天海はその怒声を涼しい顔で流す。
「ええ、まだまだ足りません。安定して優秀な超人を生み出す為には……まだ実験が必要です。しかし、新世代型改造人間であるそいつのスペックは、すでに貴方を上回るレベルに達しています。やりなさい!」
「死ねいッ! 分をわきまえぬ実験体めッ!!」
天海の一声に、怪人が鋭い牙を輝かせて襲いかかる。
「ッ! セェヤッ!?」
「ガッ!?」
だがそれを、健は下顎への頭突きで防ぐ。
「セイ! ヤアッ!」
そして力の緩んだ手を放し、左右のワンツーを胸に打ち込む。
「イヤァアッ!」
続けて放つ左のストレート。だが、それは飛び上がった怪人にかわされる。
「調子に乗るなよ! 旧型ッ!」
その声に吊られて顔を上げれば、天井に張り付いたコウモリ怪人が牙の並ぶ口を開き、こちらへ向けている。
「茜さん!」
「ああ!」
背筋を走る悪寒に従い、茜と共にその場から飛び退く健。その直後、甲高い耳鳴りのような音と共に床に亀裂が走る。
「ギィイイイイイイイイッ!?」
絶叫を上げる戦闘員を吹き飛ばす衝撃波から、転がり逃れる二人。そして揃って両足と片腕でブレーキをかけ、怪人と天海を睨みつけながら、空いた手でドライバーを取り出す。
「貴様らが命を弄ぶ流れを作り出すのなら、俺がそれを逆転させるッ!!」
叫び、右手でドライバーを取りつける健。その隣では茜も自身のドライバーを腰に取りつける。
「変身ッ!!」
《Ride ON》
そして声を揃え、ドライバーを上下反転させる。渦巻く光に包まれる二人。
「キィエエエッ!!?」
そこへ再度襲いかかる衝撃波を、二人は纏った光を引き千切りながら跳び上がる。
「イヤアッ!」
「ハアアッ!」
光の尾を引き、現れたリバースとミゼン。怪人と天海の前に並び降り立つ二人。すると天海と怪人の間に壁を作るように集まる戦闘員たち。
「さあ、行きなさい!」
そして天海の号令に従い、戦闘員が左右に分かれ突撃してくる。
「セイッ! ヤアッ!」
左から迫る戦闘員に左拳の二連撃を浴びせるリバース。
「フッ! ハアアッ!」
一方右に並んだミゼンが、ローキックと掌低で戦闘員を押しのける。そこ瞬間、腕の伸びきったミゼン目がけ、コウモリ怪人が翼を広げて飛びかかる。
「くたばれポンコツがァッ!?」
「させるかッ!」
だがそれを、リバースの右回し蹴りが、姿勢を低くしたミゼンの頭上を越えて迎え撃つ。
「ギィエッ!?」
奇声を上げ天井へ飛んでゆく怪人。だがそれもつかの間、ナイフを構えた戦闘員が突っ込んでくる。しかし、リバースはバク宙で突き出される刃をかわし、ミゼンの放った水面蹴りが戦闘員たちの足を薙ぎ払う。
「セイヤアッ!」
「ハアアッ!」
そしてリバースは着地と同時に、ミゼンは水面蹴りの勢いのまま立ち上がり、互いの背後に迫っていた敵に蹴りを打ち込む。
「キィィィェエエエエエエエエッ!!?」
だがその瞬間。倒れた戦闘員を巻き込んでの衝撃波が、横殴りに二人を襲う。
「ぐぅあッ!?」
「うああッ!?」
戦闘員もろともに、装甲から火花を散らして吹き飛ばされる二人。同時に、周囲のガラスが割れ、蛍光灯などの照明器具が破裂する。
「ぐッ……!」
横転の勢いが死ぬと同時に、両手をついて顔を上げるリバース。その眼前に、怪人の足が迫る。
「ガッ!?」
真正面から蹴り上げられるリバース。その胸部装甲を、怪人の鉤爪が切り裂く。
「ぐあああッ!?」
胸を火花が走り、打撃の勢いに乗って体が左向きに回る。そのまま床に叩きつけられるリバース。
「うっ……グゥ!?」
リバースは肘を支えに立ち上がろうとする。だが、その背に強い打撃が降り、リバースの体を床に縫い止める。顔を上げれば、こちらの背を踏みつける怪人の顔があった。
「健君ッ!?」
体勢を立て直したミゼンがこちらへ駆けこんでくる。だが、コウモリ怪人はリバースの背を踏みつけたまま片翼を振るい、ミゼンを殴り飛ばす。
「うああッ!?」
「茜さんッ!?」
宙を舞う仲間の名を呼ぶリバース。
「仲間の心配をしている場合かッ!?」
その直後、怪人の爪がリバースを掴み上げ、左右の鉤爪を連続で振り下ろす。
「グウアアッ!?!」
激痛に仰け反りながらも、踏みとどまるリバース。そこへ追いうちをかけるため、怪人は右の翼を振り上げる。だがその刹那、怪人の右腕に戦闘員のライフルが突きささる。
「ギィアッ!?」
「健君! 今だッ!?」
ミゼンの声に背中を押され、健は振り返らずに、怪人の胸を右ストレートで貫く。
「デイヤアッ!?」
「ギィッ!?」
胸を撃つ衝撃にたたらを踏む怪人。その隙にリバースは怪人の懐へ踏み込む。
「この旧式どもがあッ!?」
踏み込むリバースを左の爪で迎え撃つコウモリ怪人。
「セェヤアッ!」
だが、エネルギーを集中した、リバースの左チョップが翼を切り上げる。
「ギエッ!?」
切断された翼に苦悶の声を上げる怪人。その隙を逃さず、リバースは続けて右のチョップを左肩へ振り下ろす。
「デェイヤアアッ!!」
そして両手でXを描くようにして、脇から肩にかけて下から切り上げる。
「ギャアアアアアッ!?」
切断面にそって火花を走らせ仰け反る怪人。だが、痛みに叫びながらも、牙の並ぶ口を開き、リバースへ向ける。
「ハアアアアアアアッ!?」
そこへ、リバースの頭上を飛び越えたミゼンの右蹴りが突きささる。
「ガ……ッ!?」
そのまま怪人の顔を踏み切って跳ぶミゼン。
「やれッ! 健君ッ!?」
空中で前転しながらのミゼンの言葉に頷き。リバースはコウモリ怪人の右肩と左腰を掴む。
「デェヤアアアアアアッ!!?」
気合の声と共に、怪人を時計回りに回転させて天井へ投げ飛ばすリバース。そして天井へめり込んだ怪人を睨みながら、ドライバーのバックルを右足に付け替える。
《Full Open》
ドライバーからの電子音声と共に、右足を光が包む。
「セイィヤアアアアアアアッ!!?」
そしてリバースは、光り輝く右足をその場で回し蹴りの要領で振るう。その瞬間、天井に埋め込まれた怪人目がけ、渦巻くエネルギーが空を走り、その胸を貫く。
「ギ、ギィヤアアアアアアアアアアッ!?!」
胸に突き刺さった光から、怪人の体に光る亀裂が広がる。それを睨み据えながら、リバースは頭部クラッシャーから熱気を吐き出す。
「ライダー……シュートッ!!」
技の名を告げ、クラッシャーが音を立てて閉まる。それと同時に、天井に突き刺さった怪人が爆散する。
「ば、バカな……リバースライダーのデータを反映し、スペックで上回るはずのハウリングバットが……」
瓦礫の振る中、愕然としたうめき声に振り返るリバース。声のした方向には、目を剥いて穴のあいた天井を見上げる天海の姿があった。
「さあ、観念しろ……ブルーローズ!」
「お前は、この場で倒す」
並び立ち、天海を睨みつけるリバースとミゼン。
「く……っ!?」
歯噛みし、じりじりと後退する天海。それを追って一歩を踏み出すリバースとミゼン。だがその瞬間。二人を八本の触腕が縦横無尽に叩く。
「ぐわあああああああああッ!?」
「う、あああああああああッ!?」
一撃ごとに打ち込まれる電撃に悶えながら、その場に倒れる二人。その瞬間、揃って変身が解除され、血まみれになった健と茜の姿が露わになる。
「う、ぐ……こ、これは……ッ!?」
「こ、この攻撃は……ッ!?」
健と茜が激痛をこらえながら顔を上げれば、そこには八本の触腕を白衣の下にしまう白柳の姿があった。
「輝司ちゃんみたいな20年後の楽しみなイケメン、やらせはしないわよォ~」
「し、白柳ィ……ッ!?」
怒りの込もった茜の言葉を無視して、白柳はステップを踏むように天海へ歩み寄る。
「もお~……だめじゃない輝司ちゃん。スペック以上の動きなんて今までいくらでも観測されてるんだからぁ~」
無毛の頭を撫でながらそう言う白柳に、天海は眉根を寄せたまま頷く。
「ええ……私の油断です。ありがとうございます、博士」
「そ、じゃあ撤収しましょうか?素質がありそうなのは確保したから、大丈夫よ?」
満足げに頷き、天海の肩を叩いて撤収を促す白柳。
「く、そぉ……!」
「グゥ……! に、逃がすかぁ……!」
踵を返し、離れていく二人の背中を、健と茜は動かぬ体に鞭を撃ち、這って追いかける。しかし、それをあざ笑うかのように白柳たちの背中は遠ざかって行く。やがて見えなくなった背中に、健と茜は、床に爪を立て拳を握り固めた。