仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

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第十八話 敗北

 夜風の吹くブルーローズ所有の工場前。

 眼前に迫るエネルギー弾を、上体を左へ逸らし、左足から踏み込んでかわすリバース。その直後、迎え撃つように迫る光の弾丸を、右のステップで避ける。そして着地点を狙った弾丸を跳び越える。

「セェヤアアッ!?」

 リバースは気合の声と共に、振りかぶった右拳にエネルギーを渦巻かせる。そのまま、イノシシ怪人が苦し紛れに放った両肩のカノン砲の砲撃をすり抜け、怪人の懐に跳び込む。同時に、エネルギーの漲った拳が怪人の胸に突き刺さる。

「ゴオアアッ!?」

 拳から返る衝撃。その直後、胸から火花をまき散らしながら、苦悶の叫びを上げるイノシシ怪人。後ろへ下がるそれを睨みつけながら、リバースはドライバーのバックルを左腕に取りつけ、引き絞る。

「トドメッ!!」

《Full Open》

 バックルの展開と同時に、後ろに引いた左腕を輝くエネルギーの螺旋が包み込む。

 そしてリバースが踏み込もうと足に力を込めた瞬間、イノシシ怪人のカノン砲が火を噴く。

「グッ!?」

 目の前で巻き起こる爆発に、身構えるリバース。巻き起こる粉塵と断続的な爆音に、視覚、聴覚を塞がれたまま、強襲に備えて警戒を続ける。だが爆発が収まり、周囲を覆う粉塵が晴れた時、イノシシ怪人の姿は影も形もなかった。

「……逃げられたか」

 リバースは静かに呟き、左腕に付けたバックルを腰に戻す。そこへ、フルフェイスのヘルメットを被った人物が二人駆け寄ってくる。

「健君!」

「伊吹君!」

「茜さん! 金原さん!」

 バイザーを上げ、こちらの名前を呼ぶ二人の姿に、リバースはドライバーを上下反転させ、変身を解除する。

「二人とも無事でしたか」

 無造作に流した髪を夜風に揺らす健の言葉に、茜と金原は首を縦に振る。

「ああ、健君が改造人間を引きつけてくれたおかげだ」

 茜に続き、金原が口を開く。

「こちらも、戦闘員製造施設への爆弾は問題なく設置出来た」

 二人の成功報告に、健は指で額を掻きながら応える。

「俺の方は残念ながら、敵を逃がしてしまいました」

 そう言う健の側へ無人のオーバーカムが駆け寄り、停車する。赤い二つのヘッドライトを明滅させるオーバーカムと、頷く茜と金原。健は緑色のフルフェイスヘルメットを手に取りながら、それらに笑みを向ける。

「とにかく、この場は撤収しましょう」

 

 ※ ※ ※

 

「申し訳ありません! アント兵製造プラント012号の防衛、及びAh-01リバースライダーの破壊に失敗いたしました!!」

 窓の外に浜永の夜景が広がるブルーローズ本社ビル社長室。その中央部で両手両膝を付き、鼻を床に擦りつけるイノシシ怪人。その背中を、青いバラの飾られたデスクに付く神崎を始めとする幹部陣が見下ろしている。沈黙する幹部陣の中、黒いコートに蛇の仮面の男、ヴァイパーが一歩進み出る。

「アント兵部隊のみならばともかく、改造人間たるお前が付いていながら、これほどの損失を出すとは……」

 そこでヴァイパーは音もなく剣を抜き、その刃でイノシシ怪人の首に触れる。

「ひィ……ッ!?」

 刃を突きつけられ、息を呑むイノシシ怪人。その後頭部にヴァイパーは低い声で問いかける。

「この償いをどうするべきか……分かっているだろうな?」

 震えて土下座を続ける怪人へヴァイパーは刃を振り上げる。そしてイノシシ怪人が黙って下げ続ける首目がけて振り下ろす。

「お待ちくださいッ!」

 そこへ鋭い声と共に天海が割り込む。ヴァイパーの振り下ろした刃は、天海の首の紙一重手前で止まる。剣を挟み、睨み合う天海とヴァイパー。

 張りつめた沈黙の中、天海が刃を突きつけられたまま口を開く。

「彼の活躍で集められた素体は少なくありません。さらに彼自身もまだ数の揃っていない新世代改造人間の一人、彼はここで処刑するのではなく、今一度チャンスを与えるべきです」

 再度沈黙に包まれる社長室。

 時の止まったように微動だにしない幹部陣と怪人。

 そんな中、神崎の薄く口紅を引いた、形の良い唇が動く。

「天海の意見を認めます。カノンボアにはもう一度チャンスを与えましょう」

「フム……己から機会を求めなかった者に、出来ることなど知れていると思うがな……」

 神崎の言葉を受けて、ヴァイパーは剣を収める。そこで怪人が顔を上げ、再度鼻先を床に擦りつける。

「ありがとうございます! 神崎様! 天海様!」

 怪人から感謝の声が上がり、社長室に張り詰めていた空気が落ち着いたものに変わる。そこで今まで沈黙を守っていた、白柳の艶のある分厚い唇が開く。

「じゃあ次の作戦でボアちゃんに出てもらうのは決まりねぇ。だけど、この子と輝司ちゃんだけで確実なのかしら?」

 白柳から上がった言葉に、怪人は土下座したまま身を強張らせる。神崎、白柳、そしてヴァイパーからの視線が集まる中、天海は動じることなくその視線たちに答える。

「博士のおっしゃる通りです。そこで専務の力も借りたいのです」

 その言葉に、ヴァイパーは仮面に覆われていない口の端を吊り上げる。

「私か……? いいですとも!」

 

 ※ ※ ※

 

 窓から差し込む夕日で店内の赤みが増したスカーレットジョーカー。そのカウンター席にあごを乗せ、咥えたストローを上下させる文香の姿があった。その後ろをエプロン姿の薫が通りすぎる。そのついでに文香の顔の横にある氷だけになったグラスを取り、回収する。

「もう……いつまでダレてるの?」

 コップを下げるついでに投げかけた薫の言葉に、文香は不満げに眉を八の字に寄せて体を起こす。

「だって、悔しいじゃないですか……この間からどの新聞やニュースでもライダーの仕業、ライダーの仕業。こっちがいくら訴えても子どものたわごとで終わり……」

 そこまで言って、文香は視線を落とす。そして握りしめた両手をカウンターに叩きつける。

「記者を夢見た身としても、リバースライダーに命を救われた身としても……こんなの、悔しいじゃないですか!?」

 拳をぶつけ、うつむいたまま肩を震わせる文香。

「新田さん……」

 そんな友人の姿に、薫は躊躇いがちにその名を呟く。

 健はそこへ得意料理の一つ、娼婦風とも言われるプッタネスカスパゲティを片手に、嗚咽を漏らす文香の頭に手を置く。

「……お兄さん?」

 涙と鼻水に濡れた顔を起こし、こちらを見上げる文香に、健は笑みを浮かべて頷く。

「そうやって文香ちゃんが信じてくれるなら、ライダーも嬉しいと思うよ?」

 そこで健は、一度言葉を切り、文香の頭に乗せた手を軽く弾ませる。

「でも、ライダーの為に無理をして、文香ちゃんが危険な目に合ったとしら、ライダーは絶対に悲しむ。もちろん、俺達もね」

「グスッ……お、お兄さん……」

 鼻をすすりながら目を潤ませる文香に頷く健。

「とにかく、意地を張って危険なことはしないようにね?」

 そう言って健は、プッタネスカを注文した客の着いた席へ足を向ける。すると、薫がこちらを笑みを浮かべて見上げてくる。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 眼鏡の奥の目を細めて礼を言う妹分に、健も笑みを浮かべて首を縦に振る。

 

 ※ ※ ※

 

 夜も更け、高く上った弧を描く月。微かな月明かりに照らされる、舗装された山道。その山道を、輝く赤い二つのヘッドライトが闇を切り裂き、その軌跡を辿るように、二つの人影を乗せた黒いマシンが唸りを上げて駆け登る。

「この上の展望台を潰して建てている電波塔が、奴らにとって重要な施設なんですか?」

 黒いマシン、オーバーカムを道に沿って曲がらせながら、健はフルフェイスのヘルメットの中で問う。すると、タンデムシートに跨る茜からではなく、右耳のイヤホンから雑音を潜りぬけた低い声が響く。

《俺がブルーローズを辞める以前に、警備を集中させていた箇所の一つなのは確かだ。仲間たちからの情報によれば、現在はそこの建設を急いでいる。ということだ》

 ブルーローズを辞職し、こちらへ影ながら協力してくれるようになった金原。彼が、かつての同僚たちから得た情報に耳を傾けていると、不意に後方からのエンジン音が健の耳を付く。

「健君! 後ろからッ!」

 その瞬間、茜の警告がヘルメットを震わせる。その声に後方を一瞥する健。するとこちらを追いかけるいくつもの光が、健の目に刺さる。

「ウッ……!?」

 健が呻いた刹那、小さな光が瞬く。直に正面へ向き直り、ハンドルを右に切る。すると、今までオーバーカムの走っていたラインにいくつもの火花が散る。

「クッ!」

 歯噛みし、オーバーカムの車体を左右に振る健。その都度路面に火花が弾け、後方からのエンジン音が近づいてくる。やがて黒いフルカウルバイクが、健たちの乗るオーバーカムの左右に並ぶ。

「ブルーローズの戦闘員ッ!?」

 オーバーカムを挟み込むように走るアントライダーに跨る黒尽くめの戦闘員。茜の叫びに続き、両サイドから銃身の短いマシンガンの銃口が向けられる。それを健は左側、茜は右側の物をそれぞれに弾く。

「チィッ!?」

「ハァッ!」

 両サイドから振るわれる、銃による打撃を捌き続ける二人。そんな中、前方にバリケードとそれらを盾にしてライフルを構える戦闘員が現れる。

「ッ!? セイヤアッ!?」

「ハアアッ!?」

 塞がれた道を見て、同時に両サイドのアントライダーを蹴りつける二人。そして前方からマズルフラッシュの瞬いた瞬間、健はオーバーカムの車体を跳躍させる。銃弾がかすめ飛ぶ中、健と茜は夜空へ舞い上がったオーバーカムの上で各々のドライバーを取り出し、装着。

「変身ッ!」

《Ride ON》

 そして掛け声と共にバックルを上下反転、渦巻いた光を振り切り、その身を仮面ライダーリバースとミゼンへと変える。

 道路が山肌に沿って大きく左へ曲がり、眼下に木々に覆われた斜面が現れる。それにリバースは愛車のスロットルを捻る。甲高い駆動音を上げてオーバーカムのタイヤが輝き、大きく弧を描いた光のレールの上を、真横になって走り抜け、山頂へ伸びる道路へ戻る。

 着地の反動で弾むオーバーカム。再度上り坂を踏み、駆け上がるリバースたち。その背後に、アントライダーたちのヘッドライトの光が迫る。後方から銃弾が乱れ飛び、路面やガードレールに火花が散る。

「クッ!?」

 それから逃れるため、上り坂の果てに向けて愛車を加速させるリバース。そこへ、坂の上からバギーの集団が駆け降りてくる。

「フゥッ!!」

 一台目を右へかわし、一台目との間に挟み込もうと加速してくる二台目との間を、車体を傾けすり抜ける。そして真正面から三台目が横滑りに壁になって降りてくる。

「セェヤアアアアッ!!?」

 跳躍するオーバーカム。そのタイヤとバギーのボンネットとの間で火花が弾ける。車を乗り越え、坂を上がりきったリバースたち。その眼前で突如炎が爆ぜる。

「グアアアアアアアッ!!?」

「うぅああああああッ!?!」

 爆発に煽られ、苦悶の叫びを上げながら宙に投げだされるリバースとミゼン。そのまま激しい音を立てるオーバーカムに続いて地面に激突、二転三転と横転する。

「ぐ……うッ」

「かは……ッ」

 二人が痛みを堪え立ち上がろうとする中、周囲が騒然とし始める。

「……何があったッ!?」

「爆発!?とにかく消火を……」

 ざわめきと共に近づいてくるいくつもの足音。リバースが肘を支えに顔を上げれば、消火器を携えて駆けこんできた一般作業員たちと目が合う。作業員たちは倒れているリバースの姿を見るなり、手に持った消火器具を放り出して踵を返す。

「り、リバースライダーッ!?」

「こ、コイツらのテロだったのかッ!?」

 文字通り一目散に逃げ出した作業員たち。その姿をリバースは痛みをこらえて立ち上がりながら、黙って見送る。

「健君……」

 左肩にそっと置かれたミゼンの右手に、リバースは右手を重ねて頷く。

「……彼らの建てる物を壊そうとしているのは事実ですから……それに、逃げてくれた方がやりやすいです」

 そう言ってリバースが視線を向けた先には、白いバトルスーツ姿の天海と、それに従う戦闘員たち。そして両肩のカノン砲から煙を上げるイノシシ怪人の姿があった。

「ようこそ。我らが浜永に反旗を翻す仮面ライダー、リバース……そしてミゼン。今日こそ用済みの役者として、舞台から引きずり下ろしてさしあげましょう」

 慇懃な天海の言葉に続き、戦闘員とイノシシ怪人が一斉に各々の銃や大砲を構える。リバースはそれらから、ミゼンを背後に隠すようにして、真っ向から向かい合う。

「せっかくだけど、まだまだアドリブでやらせてもらう。あんたらの書いたシナリオをひっくり返すまではね……!」

 リバースの皮肉を込めた返事に、天海の右眉が微かに動く。

「やれるものなら、やってみせなさいッ!!」

 その鋭い声と共に引き金が一斉に引かれる。が、それと同時に、リバースの背後から飛び出したミゼンが消火器を二本投げつける。

「何ッ!?」

 消火器は怪人の砲撃とぶつかり合い、天海の驚きの声を呑みながら白い粉塵をまき散らす。

「! 撃ち続けなさいッ!」

 白い煙幕を貫いて乱れ飛ぶ銃弾の中、リバースとミゼンは両足を揃えて跳躍する。

「セェヤア!」

「ハアッ!」

 宙返りし、それぞれに戦闘員を蹴り倒して密集地帯に飛び込む二人。上空からの強襲に戦闘員たちは、慌てて手に持ったライフル、あるいは素手で殴りかかってくる。

「セイッ! セェヤッ!」

 リバースは左側で銃を振りかぶる者を左裏拳で殴り飛ばし、右から迫る拳を潜って鳩尾に右の肘を突き刺す。

「ギィッ!?」

 体を折り、崩れてきた戦闘員を押しのけると、正面からライフルが振り下ろされる。

「ハアアッ!」

 だがそれを、リバースの頭上を飛び越えたミゼンの蹴りが弾き飛ばす。そしてリバースは高く上がったミゼンの右足を潜り、背後からナイフを突き出す戦闘員の胸を蹴る。

「セエアッ!!」

「ギェッ!?」

 足を徹して伝わる、骨を砕き潰す感触。胸を足型に陥没させた戦闘員は、くぐもった奇声を上げて背後の戦闘員らを巻き込み吹っ飛んでいく。その直後、ミゼンが跳び上がり、宙に舞ったライフルを取って戦闘員集団に向かって引き金を引く。

「ギィッ!?」

「ギィエッ!?」

 降り注ぐ銃弾の雨に隊列を乱す戦闘員。

「何をしているのです!? ボア! ミゼンを撃ちなさいッ!!」

「ハッ!」

 天海から飛ぶ鋭い声に、腰を落とし、カノン砲を構えるイノシシ怪人。それを見て、リバースは躍りかかってきた戦闘員の拳を捌き、鳩尾に左拳を叩きこんで襟首をつかむ。

「させるかあッ!!」

 そしてその戦闘員を、砲撃体勢に入った怪人に向けて投げ飛ばす。

「ぬあッ!?」

 戦闘員の衝突に、下を向くカノン砲。そこから放たれた砲撃が戦闘員の一団を吹き飛ばす。その隙にリバースの背後に降り立ったミゼンが、持っていたライフルを投げ捨て、近くに落ちていた別のライフル二丁を拾う。

「健君ッ!」

「はいッ!」

 ライフルを持ったミゼンの手に背を押され、駆けだすリバース。真正面から迎え撃とうとする戦闘員の肩を掴み、跳び越えると、その斜め後ろに控えていた戦闘員の頭に蹴りを叩きこむ。

「セイ!」

「ガッ!?」

 蹴りを受け、頭からもんどりうって倒れる雑兵。そして支えに使った者の背骨にも左肘を突き刺し、リバースは再び走りだす。そこへ再び、行く手を遮るように黒尽くめの兵士が銃を構えて立ちはだかる。

「イィヤアッ!」

 雑兵のあごを左のフックで打ち、ガードの開いた左わき腹を右拳で叩く。さらに足を払って転ばせたところで、こちらに銃口を向けた天海が現れる。

「フッ!!」

 二つの銃口から放たれる弾丸を、上半身を逸らしてかわすリバース。眼前を銃弾が空気を掘り進み行く中、怪人の砲門がこちらを向く。

 だが砲口に輝きが灯った瞬間、怪人の顔に銃弾が火花を上げて突き刺さる。ミゼンが援護射撃で作ってくれた隙に、リバースは両足を揃えた跳躍で迫るエネルギー弾を跳び越える。

「セェヤアッ!!」

「ブゥッ!?」

 気合の声と共に、跳び込みながらの右蹴りを怪人のこめかみに突き刺す。

「イィヤアアッ!!」

 着地の衝撃を殺す為に曲げた膝をバネにして、怪人の右側頭部に右踵と左爪先を叩きこむ。

「ゴヘェアッ!?」

 唾液交じりに苦悶の声を吐き、右へ大きく反れるイノシシの頭。リバースは大きく上がった喉を右手で掴み、腰を左手で掴んで頭上で時計回りに回転させる。

「デェヤアアアアアアッ!!」

「ぶぅあ・あ・あ・あ・あッ!?」

 そのままコマのように回転しながら、夜空へ舞い上がる怪人。それを見上げ、リバースはドライバーのバックルを右足に取りつけ腰を落とす。

《Full Open》

「セイィヤアアアアアアアアアッ!!?」

 右足にエネルギーを渦巻かせ、跳躍。上空で回転し続ける怪人の腹にリバースの流星の如き蹴りが突き刺さる。

「ぶるぅうあああああああッ!?!」

 突き刺さったリバースの右足を中心に、絶叫を上げる怪人の体が捻れていく。そして捻れが止まった瞬間、怪人の体が爆散。その爆発を貫いて、リバースがクラッシャーから熱気を吐きだしながら夜空に飛びだす。

「ライダー……キックッ!!」

 左膝と右足、左手を地に着けて着地したリバースが、技の名を告げると同時に、クラッシャーが音を立てて閉まる。

「クッ……!? カノンボアがこうも簡単にやられるとはッ!?」

 背中を叩く悔しげな声に、リバースは立ち上がりながら振り返る。じりじりと後退する天海を見据え、リバースが一歩踏み出す。

「うぅああああああああああッ!!?」

 その刹那、悲鳴を上げるミゼンが宙を舞い、二度、三度と地に体を打ちつけリバースの傍まで転がり来る。

「茜さんッ!?」

「うっ……くぅ……ッ!?」

 強制的に変身が解除され、血塗れで地に伏せったまま苦悶の声を漏らす茜。リバースがその体を抱き起こそうと、腰を落としかけたその瞬間、リバースの背筋にひどく冷たいモノが駆け抜ける。

「ッ!? ……この気配はッ!?」

 リバースが寒気に誘われるまま視線を巡らせると、微かな月明かりの中、人型に浮かび上がった闇が目に付く。

「暫くぶりだな……01?」

「……ヴァイパー……ッ!?」

 夜風に黒いコートを靡かせる蛇の仮面の男、ヴァイパー。一歩一歩地を踏みしめ、ゆっくりと歩み寄るヴァイパーに向かい合い、リバースはうつ伏せに倒れた茜を庇う形で前に出る。

「更に力を増したか……より強く進化し続ける。素晴らしい性能だ……」

「わ、私に構わず……逃げるんだ、健君……ッ!?」

 声を絞り出し、撤退を促す茜。背後で倒れる茜を見やったリバースは、歩み寄るヴァイパーへ向き直り、無言で拳を握り固めて構え直す。

 ヴァイパーが、あとほんの数歩といった間合いに踏み入った瞬間、リバースとヴァイパーはほぼ同時に地を鳴らして踏み込む。

「セイッセイッセエアッ!?」

 リバースが踏み込みと同時に左裏拳を振るう。ヴァイパーの右腕とぶつかり合い、反動で引いて二発、三発と繰り出す。だが三発目は鼻先を掠めるにとどまり、反撃の左拳が迫る。

「フンッ!」

「セ、イヤアッ!」

 それをリバースは右手で捌き、勢いに乗せた右蹴りを放つ。

「フッ!」

 だがヴァイパーのバックステップで、リバースの右足は空を切る。そしてヴァイパーからも右蹴りが突き出される。

「ジャッ!」

「セアッ!」

 それにリバースは、右足の着地と同時に左足を突き出してぶつけ合う。激突の衝撃が足を駆け抜ける中、両者同時に足を引き、再度蹴りを繰り出す。

「ジャッ! ジャッ! ジャッ!」

「セッ! セッ! セッ!」

 下段、上段、中段と蹴りをぶつけ合う二人。そしてリバースとヴァイパーは揃って足を下ろし、逆の足を振るう。

「シャアアッ!!」

「セェアアッ!?」

 一際大きな衝突音と空気の破裂と共に、両者の繰り出したハイキックがぶつかり合う。

 同時に足を下ろし、後ろへ跳ぶリバースとヴァイパー。クラッシャーから熱い息を吐き出し、構え直すリバース。それに対し、ヴァイパーは軽く肩を回し、コートの裾を払う。

「セエヤアアッ!!」

 気声を上げて再度踏み込み、右拳を突き出すリバース。捌かれた直後に左拳を続け、それも止められた次の瞬間、右回し蹴りを繰り出す。それも、左腕で受け流されてしまう。だが、右足が接地すると同時に左後ろ回し蹴りを続ける。

「イィヤアッ!?」

「フンッ!」

 しかし、左の踵も軽く鼻を鳴らしたヴァイパーに捌かれ、反撃のワンツーパンチがリバースの胸を打つ。

「がっ!?」

 追撃の右回し蹴りは左腕を盾に防御したものの、防御ごと流され、背中を向けさせられてしまう。

「クッ! イヤァッ!?」

 その勢いを利用し、リバースは右後ろ回し蹴りを放つ。だが、身を翻したヴァイパーに避けられ、その勢いに乗せての抜き打ちの剣に、胸を深く切り裂かれる。

「ぐああッ!?」

 胸から激痛と共に火花が走り、仰け反るリバース。その頬にヴァイパーの拳がぶつかる。

「ぐ!?」

 その直後に脛を打たれ、リバースの膝から力が抜ける。そこへ、ヴァイパーの突き出した刃の先端が眼前へ迫る。

「シャアアアアアアッ!!」

「アアアッ!?」

 しかしそれを、リバースは首を逸らしてかわす。頬を掠める刃が火花を咲かせる中、伸び切った手首を掴む。

「シャアァッ!」

 だが、指が食い込むより早く、掴もうとした手ごと腕を撥ねあげられ、がら空きになった胸にすかさず蹴りが突き刺さる。

「ゴフッ!?」

 装甲、そして胸の内が軋み、開いたクラッシャーから僅かな熱と押し出された空気が漏れる。その衝撃に足が地から離れ、視界が回る。

「う……グゥ……ッ!」

 転がり倒れながらも、裂け目からひびの入った胸を抑え、立ち上がるリバース。ぐらつく膝に鞭を打ち、剣を片手にこちらを見据えるヴァイパーを睨み返す。

「これで、さようならといこうか……仮面ライダー」

 ヴァイパーの低音での宣言と共に、月明りを弾く刃が、リバースの頭めがけて振り下ろされる。

「イィヤアッ!?」

 瞬間、リバースは一息にヴァイパーの懐目掛け踏み込む。

「なッ!? がァッ!??」

 振り下ろされる刃に肩を切り裂かれながらも、リバースが突き出した頭がヴァイパーのあごをかちあげる。

「セェエアアアアアアアッ!!」

 そのまま右の拳を脇腹に連続で叩きつけ、立て続けに左のボディブロー、右蹴りを打ち込んで距離を開ける。

「う、ぐあ……ッ!?」

 たたらを踏み、後退するヴァイパー。リバースはそれを睨みつけ、バックルを右足に取りつける。

《Full Open》

 バックルから音声と共に光が渦巻き、リバースの全身を疲労感が襲う。

「フウウ……セェイヤアアアアアアアアアッ!!」

 二度目のフルオープンの負荷を堪え、裂帛の気合と共に跳躍するリバース。そのまま空中で反転、右足を突き出し、ヴァイパーへ流星のように飛び込んでいく。

「フッ……」

 しかし、ヴァイパーの口から漏れた微かな笑みがリバースの耳を突く。直後、ヴァイパーの片手が何かのスイッチを押す。その瞬間、リバースの頭を激痛が襲う。

「ガッ!? これはッ!?」

 激痛に目を赤黒と明滅させ、姿勢を崩すリバース。明滅を繰り返す視界の中、リバースは銀色に輝くモノが走るのを捉える。

「独立チャンネルで残していた甲斐があったというものだ」

 ヴァイパーの声が耳を打つや否や、リバースの全身に鋭い痛みと爆ぜる様な痺れが駆け巡る。

「ギッグアアアアアアアアアアアアッ!??!」

 辛うじて残っていた力が霧散し、衝撃が背中から突き抜ける。健は薄れてゆく意識の中、どこか距離感のあるヴァイパーの声を聞いていた。

「……リバースライダーを確保しろ。……ああ、ミゼンは要らん、放っておけ……」

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