仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

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第十九話 限界突破

 夜の街を眼下に臨むブルーローズ社長室。大きな机に付いたこの部屋の主、神崎明日香は、緩やかに波打つ長い茶髪を手の甲で後ろに送り、頬杖をつく。

「天海、報告を」

 神崎に促され、部屋の中央、白い戦闘服のまま直立していた天海が口を開く。

「ハッ……専務の手によりリバースライダーを捕獲することに成功いたしました。現在は中区にある隠し施設に隔離、専務が監視しております。しかし、私の指揮下でアント兵を27体、さらにカノンボアまでも失うという損害を出しました」

 己の出した損失を口にしたところで、天海は目を伏せ、滲み出る悔しさを握りつぶすかのように手を握りしめる。

 二人の間に流れる沈黙。

 数秒の間の後、天海は握り拳を解き、背筋を改めて伸ばす。

「これまでに出した損害も含め、いかなる処罰も受けるつもりです……!」

 微動だにせず社長の下す判決を待つ天海。神崎はそんな天海の姿を眺め、僅かな間を置いて頷く。

「あなたが積み上げてきた功績は対リバースライダーでの損害を補って余りあるほどです。この程度のことで有能な側近を失いたくはありません」

 神崎はそこで一度口を閉じる。そして椅子を回し、壁一面のガラスの向こうに広がる浜永中心街の夜景に目を向ける。

「今後、戦闘指揮は専務に一任し、貴方には私の身辺警護に専念してもらいましょうか……」

 夜景を眺め、呟く神崎。それに天海は、椅子越しに社長の背中に声をかける。

「社長! でしたら私を、02に改造する許可をッ!?」

 側近の口から出たその意見に、神崎は椅子を90度回して振り返る。

「貴方を02に……?」

 神崎の視線を真っ向から受け止め、頷く天海。

「はい。リバースライダーから得られたデータを基に、より完全なアドバンスドヒューマンとして研究開発が進められている02……現在、最も高い適性を示しているのは私です。ここで私が改造人間としての力を得るのは、我々にとって大きなプラスとなります」

 それを聞き、神崎は口元に手を添え、軽くまぶたを閉じる。

 そして僅かな沈黙の後、長いまつげを備えたまぶたが持ち上がる。

「いいでしょう。貴方の意見を認めます。博士には私から指示を出しましょう」

「ありがとうございます! 社長!」

 神崎からの許可に、天海は腰を折り深く頭を下げる。そこで神崎から、頭を下げ続ける天海に質問が投げかけられる。

「……ところで、ミゼンはどうしたのかしら?」

 その問いに、天海は再度背筋を伸ばす。

「ハッ……専務が戦闘不能に追い込み、交戦した場所に放置しました。最早利用価値もなく、脅威にも成り得ませんので専務の判断は妥当であると思いました」

 それを聞いて、神崎は再度椅子を動かし、夜景へ目を向ける。

「そうですか……確かにそれが妥当でしょう」

 

 ※ ※ ※

 

「……ッ!? ここは?」

 目を覚ました茜は、最初に飛び込んできた見慣れぬ円形の照明に呟く。ゆっくりと身を起こし、周囲を見回す。すると、整理整頓の行き届いた部屋の中、所々緑色のインテリアが目に付く。本棚には料理の本の他、背表紙が紫色のマンガも並んでいる。

「……ッツ!?」

 不意に走った痛みに茜が頭に手をやる。そこで感じた巻かれた布の感触に、自身の体に視線を落とす。すると、白いTシャツを着たあちこちに包帯が巻かれ、傷の治療がされていることに気づく。

「一体、誰が……?」

 茜が包帯を撫でながら呟く。そこでドアが蝶番を鳴らして開く。

「亮子さん……それに薫ちゃんも」

 ドアを潜り入って来る浅井母子。

「目は覚めたみたいだね。茜? 金原さんが、あんたをオーバーカムに乗せて運びこんできたときは何事かと思ったけど、大丈夫そうじゃないか」

 そう言って亮子は手に持った救急箱を床に下ろし、ベッドの傍らに膝をつく。そこで薫がベッドに手を着き、茜と額をぶつけ合うような勢いで詰め寄る。

「お兄ちゃんは!? 一緒だったんじゃないんですかッ!?」

「健君?」

 レンズの奥の目を涙で潤ませ、身を乗り出してくる薫。焦りのままに問い詰められ、拘束衣を着せられて車へ担ぎ込まれる健の姿が、茜の脳裏によぎる。

「そうだ、健君ッ!! 急いで助けに……ッ!」

 慌ててベッドから跳び起きたところで、茜は口元を抑えて浅井母子を見やる。すると、呆然と目を見開く薫と、じっとこちらを見据える亮子の顔があった。

「……やっぱり、あいつが抱えてる面倒ごと絡みかい?」

 静かな声音での亮子の問いに、茜は眼を逸らす。

 沈黙に包まれた数秒。

 その静寂を亮子の深いため息が押し流す。

「ハァァ……アタシらに、何か出来ることは無いかい?」

 亮子の問いに、茜は眼を逸らしたまま口を開く。

「……お二人は健君の帰る場所を守り、支え続けてください……健君は私が必ず連れ戻します。この命に代えても……!」

「待って!」

 赤いジャケットを掴み、部屋を出ようとした茜の背を、静止の声が掴む。振り返った茜が見たのは、真剣な眼差しでこちらを見る薫の姿であった。

「命に代えてもなんて言わないで、必ず二人で、無事に帰ってきてください!!」

 そんな薫の言葉に、今度は茜が目を瞬かせて呆ける。すると、一度動きを止めていた薫の唇が再び動く。

「茜さんだって、お兄ちゃんに……ううん、私たちにとって大切な人なんです! だから、必ず二人で無事で戻って、ずっと、みんなで……!!」

 途中から涙を溢れさせながらの薫の言葉に、茜もこみ上げる物を抑え込み、笑みを浮かべて頷く。

「ありがとう、薫ちゃん」

 薫に短く礼を言い、亮子と頷きあう茜。そして二人に背を向けると、部屋を後にする。

『……ずっとは、約束できないんだ……薫ちゃん……』

 茜は後ろ手にドアを閉め、心中で一人呟くと、小走りにオーバーカムが居るであろうガレージへ向かう。

 

 ※ ※ ※

 

 全身を蝕む苦痛と締め上げる様な圧迫感。大蛇に締め上げられ続けているような感覚の中、意識が引き吊り上げられる。

「うッ……ぐうぅ……ッ!?」

 呻き声が漏れ出ると同時に瞼が開き、健は周囲の状況を脳に送る。

「ここは……?」

 薄暗く狭い、硬質な部屋。目の前にあるドアに付いた小さな窓。そこから差し込む光だけが、部屋を照らしている。その光へ向かい立ち上がろうとする健。

「グッ!?」

 だが、体の自由が利かずに立ち上がり損ない、その場であごを強かに打ちつける。そこで健が自身の体に目を向ければ、幾重にも重ねられた布とベルトに、爪先まで包まれた自分自身の姿があった。

「クッ! こんなもの……ッ!!」

 深く息を吸い込み、全身の筋肉のリミッターを解除。自身を縛る拘束衣を引き千切らんと力を込める。

「グゥウ……ッ!? デ・イィ・ヤアァァ……アッ!!」

 しかし、変身前とはいえ、改造人間としての渾身の力にも、健を包む拘束衣はびくともしない。やがて息が切れ、健は糸の切れたように、硬い床へ左側頭部を落とす。

「ハァ……ハァ……ッ! そうだ、俺を捕まえたのはブルーローズ……当然か」

 意識を失う直前に戦った相手、ヴァイパーの姿が健の脳裏をよぎる。

『……となると、ここはブルーローズ絡み施設か……』

 床に熱を奪われるかのように冷えてゆく頭で、自身の置かれた状況を推し量る健。そこへゆっくりと床を叩く足音が、床を通じて健の耳に届く。だんだんと近づいてくるそれに健が顔を上げる。すると、まるでタイミングを見計らったかのようにドアが左に滑る。

「ウ……ッ」

 不意に溢れた光に健は思わずあごを斜めに引き、左目を閉じる。そして閉じた左目をゆっくりと開けて顔を上げると、そこにはライフルを両手で持つ、黒いフルフェイスヘルメットに黒い戦闘服を着たブルーローズ戦闘員がいた。その戦闘員は銃から片手を離すと、その手で束ねたロープを取り出す。

「リバァ~ス……ショウ・タイムだ」

 どこか楽しげな戦闘員の言葉に、健はただ黙って睨み返す。

 縄を打たれ、半ば引きずられる形で連行される健。そうして押し込まれたのは、壁も天井も床も白い、広く殺風景な部屋であった。そのまま戦闘員は健を放り出すような形で部屋の中央に転がす。

「グッ!」

 顔から床にぶつかった健は、歯を食いしばり、身を捩って自分を放り出した戦闘員の方向を睨む。その瞬間、健の顔面に黒いブーツの爪先が突き刺さる。

「ガッ!?」

 頬に痛みと熱が走る中、視界の隅に赤い飛沫が散る。そこへ間髪入れず、腹を衝撃が貫く。

「グゥッ!?」

「No.85の分ッ!」

 直後、上から鋭い重みが降ってくる。

「ガァ!?」

「これは131! 168!! 193の分ッ!!!」

「グッ!? ウグッ!?」

 立て続けに降り注ぐ衝撃に呻く健。

「そしてこれはァ……」

 衝撃が止んだ刹那、足を大きく後ろへ振った戦闘員の姿が、健の目に映る。

「226の恨みだァアッ!!」

 その怨嗟の声と共に振られた足が、健の体を蹴り飛ばす。

「ゴッ……フ!?」

 床にぶつかり、その勢いのまま横転する健。そして回転が止まり、口の中から鼻に抜ける錆臭さと血の味に顔を顰めていると、髪を掴まれ、体を強引に引き起こされる。

「リバースライダー……お前は知らんだろうな!? お前がどれだけのアント兵を……仲間を殺してきたのか!?」

 バイザー越しで見えはしないが、明らかにこちらを憎悪を込めた目で睨みつけてくる戦闘員。それを真直ぐに受け止めながら、健は切れて血に濡れた唇を動かす。

「……前回までの時点で、284人だ……」

「なに……!?」

 健の告げた数に、戦闘員の髪を握る手が僅かに緩む。固められた両足で床を踏み、体を支えながら、健は怯む戦闘員に続ける。

「……テンペストのメンバーたちも含めれば、俺はもっと多くの人の命を奪ってきた。護りきれなかった人たちを含めればまだ足りない。信じるもののままに、名も知らずに奪ってきた命に対し、俺は自分の罪として数え、覚えておくことしかできない……ッ!」

 そこで健は、戦闘員の手を振りほどき、そのヘルメットへ頭を叩きつける。

「ギヤッ!?」

「いずれ俺には、罪の報いが下るだろう……だが、俺の奪ってきたモノの為にも、道の半ばで……ここでお前に殺されてやるわけにはいかないッ!!」

 叫び、再度頭突きを繰り出そうと健は首を振る。だがその瞬間、健の脳髄を耳鳴りのような音が貫く。

「……ッ!? ガァッ!?!」

 脳を駆け廻り続ける激痛に姿勢を崩し、健はその場に倒れこむ。

「……先の戦いでも確認したが、やはり貴様の拘束には有効なようだな……泳がせるには邪魔だが、いずれ利用できると独立化させた社長の判断は正しかったな」

 不意に響いた低い声に、健は深みを増す苦痛に脂汗を浮かべながら身を捻る。

「お……前は……ッ!?」

 悠然と歩み寄る黒い靴、右手にリモコンを持ち、蛇の頭を模した仮面で顔の上半分を覆った男、ヴァイパー。戦闘員の敬礼を受けたヴァイパーは、健の目の前で立ち止まると、露わになった口の端を僅かに持ち上げる。

「さすがの回復力だな……栄養剤の投与と僅かな睡眠でここまで持ち直すとは」

 そこでヴァイパーは口を閉ざし、左手を軽く振る。すると、健の全身を締め上げていた拘束衣が緩み、真っ二つに裂ける。

「ぐ……ッ! こ、のぉ……ッ!!」

 解放された健は、脳髄を蝕む苦痛に歯を食いしばりながら、両腕を支えに体を起こす。痛めつけられた体を二本の足で支えて立ちあがる健。その姿に、ヴァイパーは感嘆の息を漏らす。

「ほぉ……暴走もなくこちらの指令に抗うか……さすがに強靭な精神力だ。だが……」

 そこでヴァイパーは左手をコートに入れる。そして取りだしたものを健に見えるように示す。

「変身できなければ、ただ耐えることしかできまい?」

 そう言ってヴァイパーの示したリバースドライバーに、健は手を伸ばす。

「クッ! 返せ……ッ!」

 しかし健の伸ばした手は空を切り、ヴァイパーに足を払われて床にうつ伏せに倒れる。すぐさま両腕を支えに立ち上がろうとする健。その背に鋭い衝撃が叩きつけられる。

「ぐあッ!?」

 足の重みで床に縫い止められながらも、健は自身を踏みつけるヴァイパーを、振り仰いで睨む。

「……これは元々、我々ブルーローズのものだ……そして、市民と兵の姿を併せ持つ超人兵、アドバンスドヒューマン1号である貴様もな……」

 ヴァイパーはそう言って、リバースドライバーをコートに仕舞う。

「ところで、リバースライダー……いや、伊吹健。浜永と人類の発展の為に、我々の同志となるつもりはないか? 貴様の力は潰してしまうにはあまりにも惜しい。それなりの待遇で……」

「断る!!」

 ヴァイパーの言葉を遮り、健は拒絶の答えを突きつける。それに対し、ヴァイパーは軽く鼻を鳴らし、右手に持ったリモコンを健の前にかざす。

「……そうか。ならば仕方がない」

 その言葉と共に、リモコンを持つヴァイパーの指が動くや否や、更に激しさを増した痛みが健の脳髄を貫く。

「あ……ッ!? グゥウッ?! ……ガ、ァアアァァァアアアアッ!?!」

 今までにない痛みに苛まれ、肘から先を床に付き、床に爪を立てる健。血と混じった脂汗が顎先から滴り、床に水たまりを作る。

「オ……グゥウ……あ、ガァッ!?!」

 苦悶の声を漏らす健。その背中に、ヴァイパーの呟きが降る。

「ほお、ここまで強制力を高めても耐えるか……? 流石だ……だが、この街に、いや、今の人類そのものに、貴様がそこまでして守る価値があるのか?」

「フゥッ……フゥッ……」

 肩で息をしながらも、再度ヴァイパーを振り仰ぎ、睨みつける健。だが、ヴァイパーは気にした様子もなく、話を続ける。

「これまでテロリストの脅威から街を守ってきたお前に対し、あの報道以後、この街の人間が取った行動はどうだ?」

 そのヴァイパーの言葉に、健の脳裏に、怯えた作業員たちの顔がよぎる。

「街の守護者として持て囃してきておきながら、街の有力者が敵と定めれば、あっさりと掌を返す……そんな強者に尾を振る、家畜の如き連中に、お前が命を賭して守る価値があると、本当に思っているのか?」

 ヴァイパーはそこで一度言葉を切り、首を傾げてこちらを覗き込んで来る。健はそれに答えずに、黙って睨み返す。

「人間は弱い……いつの時代にも、強く賢明な指導者を必要としてきた。一握りの強者が造った秩序の下でこそ、真に人類はまとまり、幸福になることが出来る。個の自由が認められた、現代のこの国でさえそうなのだ……望んで家畜同然に生きる連中の自由を守ることに、何の価値がある?」

 その問いかけに、健は食いしばっていたあごを動かす。

「価値のあるなしなんて、関係ない……ッ!!」

「何……?」

 こちらを見下ろし続けるヴァイパーへ、健はさらに言葉をぶつける。

「俺はただ……生まれ育ったこの街と、日々を生きる人々を愛しているから戦うんだッ!!」

 健はそう言い切ると、深く息を吸い込む。その脳裏には、ライダーを信じてくれた金原親子。真実をねじ曲げられた悔しさに涙する文香の顔が浮かぶ。

「それに、自分の信じるモノを貫ける、強い人々を俺は知っているッ!!」

 夫を失いながらも強い母であり続ける亮子。父を失った悲しみに負けず、健やかに育った薫。そして、自分よりも前から街を守って戦ってきた茜の顔を思い浮かべ、健は叫ぶ。

「そうか……」

 上から返ってきたひどく冷たい声。その声に背筋を冷たいものが駆け抜ける。健が怖気に体が震えるのを感じながらも睨み続ける中、ヴァイパーは手元のリモコンを、カウントダウンでもするかのようにゆっくりと操作していく。

「……これから強制力を最大まで引き上げる。最悪死ぬだろうが……このまま野放しにするには、貴様はあまりにも危険すぎる……」

 そう言ってヴァイパーは仮面越しにこちらを一瞥する。だが、健はその目の鋭さを緩めない。すると、ヴァイパーは軽く鼻を鳴らし、指を最後のキーへ動かす。

「ク……ッ」

 痛みと悔しさに眉根を寄せながら、歯噛みする健。そしてヴァイパーの指が今にもキーを打たんとする瞬間、衝撃と共に入口が弾け飛ぶ。

「何ッ!?」

 ドアを突き破った黒い影は、勢いのままに戦闘員を撥ね、唸りを上げてヴァイパーへ跳びかかる。

「チッ!」

 舌打ちと共に健から足を放し、黒い影の突撃を身を翻してかわすヴァイパー。黒い影が健の頭上を駆け抜ける中、赤い影が白い尾を引いて舞い上がる。

「ハアアッ!!」

 健から離れたヴァイパーへ風を纏った飛び蹴りを繰り出すミゼン。

「フッ」

 しかし、それは右半身を引いたヴァイパーの横を通り過ぎる。だがミゼンはそこから、着地と同時に足を包む旋風に乗って身を捻り、左裏拳を繰り出す。

「ハッ!」

 それも軽く身を逸らしたヴァイパーにかわされ、続く右の掌打に合わせた左拳がミゼンの腹を打つ。

「あぐッ!?」

 ミゼンが打たれた腹部を左手で庇いながら、健の目の前まで下がってくる。

「茜さんッ!?」

 目の前にある赤い背中の主の名を呼ぶ健。その横にはオーバーカムも駆け寄り、ヘッドライトを明滅させてくる。

「オーバーカムも……」

 駆けつけてくれた仲間と愛車の名を呟いていると、ミゼンは首だけでこちらを振り返り、頷く。

「すまない、遅くなった」

 ミゼンはそう言って、白いマフラーを左手の甲で払い、背中に流す。それに対し、ヴァイパーは右手に指令電波のリモコン、左手にリバースドライバーを握ってこちらに示す。

「フ……出来そこないの0号、ミゼンか。わざわざ自分から死ににきたか?」

 奪えるものならば奪って見ろと言わんばかりに、見せびらかすヴァイパー。

「この命、ただでくれてやるつもりはないがな?」

 そう返したミゼンは、右踵で床を払い、右手を前、左手を顔の横に添える。そして深呼吸を一つ、ヴァイパーが両手に持ったものを上に放ると同時に、その懐目がけ踏み込む。

「ハッ! ハァアッ!?」

 踏み込みながら放つ左右の掌打。それを片手で止められるや否や、右のローキックを繰り出す。だがそれもヴァイパーの靴底に受け止められてしまう。

「ッ! ハアッ!!」

 すぐさま止められた足を引き、左の掌打をあご目がけ突き出す。しかしそれも、その場で身を翻したヴァイパーに避けられ、反撃に回転に乗った右フックが迫る。ミゼンはとっさに両腕を盾に拳を防ぐものの、続く右のローキックに左足の脛を打たれる。

「ウッ!?」

 軸足を襲う衝撃に、微かに呻いて姿勢を崩すミゼン。その顔を、ヴァイパーの左拳が叩く。

「グッ!? ウグッ!?」

 傾くミゼンの頭を迎え撃つように、ヴァイパーの右拳が叩き揺さぶる。

「フ……」

 衝撃に仰け反るミゼン。その浮かびかけた右足を、ヴァイパーが踏みつけ、その場に縫い止める。そして薄笑いをこぼして、左拳をミゼンの右側頭部に打ち込む。

「が……ッ!? あうッ!? グゥッ!?」

 さらに左脇腹、右腕の付け根、左頬と、立て続けに拳が叩きこまれる。

「茜さんッ!!」

 一方的に殴られるミゼンの姿に、立ち上がり損ないながらも叫ぶ健。直後、ミゼンをその場に縫い止めていたヴァイパーの足が外れ、止めとばかりに右回し蹴りが繰り出される。

「……ッ! ハアアッ!!」

 しかし、ミゼンは仰け反った体を引き起こし、その勢いで跳躍。ヴァイパーの蹴りを紙一重でかわし、その頭上を跳び越える。宙返りをしながら踵をぶつけ合い、タイフーンライダーを起動。風を纏った足を揃え、ヴァイパーの背後に着地する。

「アアアッ!?」

 そして着地と同時に身を捻り、風を纏った蹴りをがら空きの背中目掛け突き出す。

「……惜しかったな」

「な……ッ!?」

 しかしミゼンの蹴りは、振り向きざまのヴァイパーの右手に受け止められてしまう。

「シャッ!」

「うわッ!?」

 そして鋭い気声と共に、ミゼンの体を右手一本で振り上げ、床に叩きつける。

「ガァッ!?」

 激突の反動で浮かび上がるミゼン。ヴァイパーは落下してきたドライバーを左手で取りながら、ミゼンの背中を右の回し蹴りで蹴り飛ばす。

「か……はっ!?」

「茜さんッ!?」

 ミゼンが苦悶の息を漏らして飛ぶ。そんな中、ヴァイパーは蹴りの勢いのまま一回転、リモコンが床に触れる直前に右手で拾う。その間にミゼンは健の頭上を飛び越え、二度、三度と繰り返し床に激突。そのまま横転して部屋の壁にぶつかって止まる。

「グ……あ、茜さんッ!?」

 脳髄を激痛に苛まれながらも、健は広い部屋の端で倒れ伏すミゼンに呼びかける。

「やはり出来そこないではこの程度か。あのまま、大人しく寝ていればよかったものを……愚かな女だ」

 退屈気なヴァイパーの呟きに、健は首だけで振り返り、睨みつける。

「……まだ、眠るわけには、いかないな……」

 その声に健が振り返れば、笑う膝に鞭を打ち、立ち上がるミゼンの姿があった。

「茜さんッ!?」

「ほぅ……その体でまだ立ち上がるか?」

 一歩一歩、足を引きずるようにして歩みを進めるミゼン。スーツの隙間からは血が滴り落ち、煙が立ち上る。しかし緩やかではあってもミゼンは決して足を止めない。その姿に、健は歯を食いしばり、立ち上がろうと四肢に力を込める。

「健君を、必ず、連れて帰ると……約束したんだ。ここで、呑気に寝ていては……女が、廃るってものだろう……」

 ミゼンはそう言って、立ち上がろうとする健に並ぶ。すると、赤いフルフェイスのヘルメットで覆われた顔で健を見下ろす。

「ここは、私に任せてくれ……何、キミが越えてきた、逆境に比べれば……なんてことは、ない……!」

「あ、茜さん……」

 ヴァイパーへ向き直り、軋む体で構え直すミゼン。そして踏み込みと同時にタイフーンライダーを再起動、風に乗って一気に突っ込む。

「ア・ア・ア・アッ!!」

 途切れ途切れの気合の声と共に、白い尾を引いて疾走するミゼン。真正面から突っ込んでくるミゼンへ、ヴァイパーは悠々と、打ち頃の球を引き付けるスラッガーのように、カウンターを狙って上段蹴りを振り上げる。

 しかし直撃の瞬間、ミゼンの上体が深く沈む。

「ム……ッ!?」

 ミゼンはその勢いのまま滑り込み、風を纏った蹴りでヴァイパーの右手を蹴り上げる。

「ハアアッ!!」

 鋭く硬質な激突音と共に火花が散り、ヴァイパーが手に持つ指令電波用のリモコンが爆散する。その瞬間、健の頭を蝕む激痛が霧散する。

「ッ! 頭痛が……」

「ぐッ!?」

 手の中の爆発にヴァイパーが腕を引く中、ミゼンは足を包む風の勢いに乗って跳び上がり、リバースドライバーを持つ左腕も蹴る。

「ムッ!?」

「ハッ!」

 ヴァイパーの手から離れ、宙を舞ったドライバーを追い、飛び上がるミゼン。そして照明を反射し、銀色にきらめくそれを取ると、空中で身を捻って健へ投げ渡そうと右手を振りかぶる。

「健君ッ!!」

 しかし、投げ渡そうとした瞬間、ミゼンの振りかぶったドライバーが音を立てて爆ぜる。

「あぐあッ!?」

「茜さんッ?!」

 右腕から煙を上げ、落下するミゼン。それを見上げながら、ヴァイパーはコートからもう一つのドライバーを取りだす。

「少々小細工をさせてもらった。本物はこちらだ」

 健は、ヴァイパーの持つドライバーと、落下するミゼンを交互に見、オーバーカムに跳び乗ってスロットルを捻る。

「おおおおおッ!!」

 雄叫びを上げ突撃する健。ヴァイパーはこちらを見ると、ドライバーを上に放り投げ、迎え撃つように手をかざす。

「焦りすぎだ……伊吹健」

 その掌から黒と紫のエネルギーが健へ向けてほとばしる。

「イヤァッ!?」

 だが着弾の瞬間、健はシートを両足で踏んで跳ぶ。

「なッ!? クッ!?」

 オーバーカムの突進を避けるヴァイパーの頭上へ舞い上がり、空中でミゼンと己のドライバーを回収、そのままリバースドライバーを装着し、バックルを上下反転させる。

「変……身ッ!!」

《Ride ON》

 渦を巻く光を抜け、ミゼンを両腕に乗せるように抱いて降り立つリバース。

「健君……」

 アーマースーツの所々が破損し、煙を上げるミゼン。その細い体をしっかりと抱き抱え、リバースは頷く。

「お待たせしました」

 そう言ってリバースはミゼンをそっと足から下ろす。するとミゼンはリバースの右隣に並び立ち、比較的軽傷な左手で右肩を叩く。

「なに、構わないさ……それよりも、力を合わせて、奴を倒そう」

 ボロボロなミゼンの姿に、リバースは僅かに迷う。だが、決して力を失っていないその姿に、リバースははっきりと頷き返す。

「……はい! やりましょうッ!!」

「奴は強い……だが、フフ……負ける気はしないな……」

 そしてリバースとミゼンは、背中を合わせて構えを取る。それに対し、ヴァイパーはコートを左手で軽く払い、細身の刃を持つ剣を右手に握る。

「来るがいい」

 左手をかざして言うヴァイパーに向かい、リバースとミゼンは一斉に駆けだす。

「ハアアアアアッ!!」

「デイヤアアアッ!!」

 正面から迎撃に飛ぶ黒い電撃を、リバースが前に出て受け止める。

「ハアッ!!」

 その陰からミゼンが飛び上がり、空中前転からの両踵を振り下ろす。

「甘いッ!」

 それは半歩下がったヴァイパーにかわされ、着地の瞬間を狙った刃が迫る。

「セェアッ!!」

「ムッ!?」

 だがリバースの突き出した右拳がそれを許さない。左腕を盾にそれ受け止めるヴァイパー。その隙にミゼンは刃の軌道を潜り、刃を持つ腕を蹴る。

「ハッ!!」

「イヤァッ!!」

 それに合わせ、リバースの右足がヴァイパーの膝裏を叩く。

「グッ!?」

 膝を折った隙を狙い、リバースとミゼンが左拳を挟み込むように振るう。

「セイッ!」

「ハアッ!」

 だが、その拳が届くより早く、ヴァイパーの体が深く沈む。空を切った拳の下を見たリバースの目に、身を沈めながら黒いコートを翻し、刃と足で螺旋を描こうとする毒蛇の姿が飛び込む。

「シャアアアアアアッ!!」

 二人の中心から巻き起こる、雷と刃を纏った黒い竜巻。

「ぐああッ!?」

「あぐッ!?」

 体から火花を上げて弾き飛ばされる二人。着地した瞬間、文字どおりに伸びてくる刃。それをかすめながら、リバースとミゼンは渦巻く刃の中心へ踏み込む。

「セッ! セッ! セイッ! セヤッ! セエヤアッ!」

「ハッ! ハッ! ハアッ! ハッ! ハアアッ!」

 リバースの左拳の連撃は左手で捌かれ、ミゼンの右連続掌打も首を捻ってかわされる。続くリバースの右ローキックとミゼンの左ハイキックも、バックステップで避けられる。反撃に迫る刃を、リバースとミゼンは揃って装甲に滑らせながら、右拳と左掌打を突き出す。だがそれも左腕一本で止められてしまう。

「シャアアアッ!」

 そして眼前にまとめられたリバースとミゼンへ、伸びた刃が襲いかかる。

「あっぐああああッ!!」

「う、あああああッ!!」

 全身を切り刻まれ、激痛に声を上げる二人。

「さあ、止めを刺してやろうッ!!」

 そして二人をまとめて切り裂こうと、ヴァイパーが刃を振り下ろす。煌く剣はリバースの心臓、そしてその後ろのミゼンの頭が重なる軌道を真直ぐに奔る。

「……何ッ!?」

 だが、ヴァイパーの刃はリバースの左肩とミゼンのヘルメットに微かに食い込んだ所で静止する。その刃の根元は、緑の装甲に覆われた左手と、赤いスーツに包まれた右手が握り止めていた。そして動揺するヴァイパーを、リバースとミゼンはその目を輝かせて睨みつける。

「せぇああああああああああああああッ!!?」

「はぁああああああああああああああッ!!?」

 リバースはクラッシャーから、ミゼンは関節の隙間から、雄叫びと共に熱を吐き出す。二人で刃を握り止めたまま、拳、肘、膝、足を次々とヴァイパーへ叩きこむ。

「おッ! ゴッ!? ぐッ! がハァッ!?!」

 絶え間なく打ちこみ続ける打撃に、途切れ途切れの苦悶の声を漏らすヴァイパー。

「セイィィヤアアアアアアアッ!!」

「ハァァアアアアアアアアアッ!!」

 そのがら空きの胸目がけ、リバースは左、ミゼンは右の足を、背を合わせる形で揃えて叩きこむ。

「ぐおあああああああッ!?!」

 叫び、吹き飛ぶヴァイパー。その姿を見据え、リバースとミゼンは背中合わせに構え直す。

「いくぞ、健君ッ!!」

「はいッ!茜さんッ!!」

 二人は揃ってドライバーを外し、リバースは右、ミゼンは左にそれぞれ取り付ける。

《Full Open》

「貴様の生み出す流れ……」

 右足にエネルギーを漲らせ、腰を落とすリバース。

「私たちが……」

 左足にエネルギーを漲らせ、膝を曲げるミゼン。

「逆転するッ!!!」

 声を揃えて床を踏み砕き、垂直に飛翔する二人。

「お、おおお、おおおおおッ!?」

 同時に天井を蹴り、その場で足をばたつかせるヴァイパーへ、向き合う形で両手をつなぎ、一つの隕石となって降るリバースとミゼン。

「デェイィィヤアアアアアアアアアアッ!!!」

「ハァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 共鳴する裂帛の気合。完全に一つとなった二人の蹴りが、ヴァイパーの胸を貫く。鈍い音と衝撃が爆ぜ、ヴァイパーの足下にクレーターが広がる。

 分離した二人は、蹴りの反動で宙返り、寸分の乱れなく着地する。

「……ダブルッ!」

 右膝をついた姿勢のまま、関節の隙間から蒸気を出すミゼン。

「ライダー……ッ!」

 左膝をつき、クラッシャーから熱気を吐き出すリバース。

「キックッ!!」

 そして二人が声を揃えて技の名を叫び、リバースのクラッシャーが音を立てて閉じる。

「ぐぅああああああああああああッ!!?」

 直後、ヴァイパーが絶叫と共に爆炎に包まれる。爆風の駆け抜けた後、リバースとミゼンは揃って床に手をつく。しかしその目は立ち込める粉煙の中心部から外れない。

「ど……どうだ!?」

 肩で息をしながら、リバースが望みを込めて呟く。だが、晴れ行く煙の奥に、人の影が現れる。

「……そんな、まさか……」

 煙に浮かぶ影に絶句するミゼン。やがて煙が散り、露わになったのは、胸を抑えて肩で息をしているものの、未だ健在のヴァイパーの姿であった。

「ぐォッフゥオッ!?」

 ヴァイパーは咳と共に血を吐き出し、その場に膝をつく。しかし、地をしっかりと踏み直して立ち上がると、胸を抑えながら部屋の出口へと向かう。そして壁に背を預けてこちらを一瞥する。

「この勝負、預けたぞ……!」

 そう吐き捨て、部屋を後にするヴァイパー。ヴァイパーの撤退の直後、リバースは張り詰めていた気を吐きだすように深い息をつく。

「……ありがとう、茜さん。おかげで切り抜け……」

 言いながらリバースが左に居るミゼンへ視線を移す。すると、ミゼンの変身が強制解除され、血まみれの茜の姿に戻る。

「う……グェッ!? ぐぅ、ゲェええええッ!?」

 直後、茜の口から黒ずんだ血が溢れ出し、床に濁った水音を立てて広がる。そのまま崩れ落ちる茜の体を、リバースはとっさに手を出して支える。

「茜さんッ? 茜さんッ!?」

 力なく、ただリバースの腕に引っ掛かる茜に、リバースは繰り返し呼びかけを続ける。だが腕の中の茜から、答えは返ってこない。

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