仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

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第二十一話 心、つないで

「これでよし……」

 宵闇に高く上った月の下、茜は粗大ゴミ置き場にまとめてビニールで包んだ家具たちの上に、「まだ使えます。欲しい方はどうぞ」と書いた紙を張る。

 そして赤いジャケットのポケットから、ゼリー飲料を取り出して口を付けると、銀色のパックの中身を吸い込みながら、ゆっくりと歩き出す。

 夜風が頬を撫で、艶やかなセミロングの黒髪が後ろに流れる。切れ長の目で前方を真直ぐに見据えながら、茜は飲み干したゼリー飲料のパックをポケットに突っ込み、黄色いハードビスケットの箱を取り出す。

「これが……最後の戦いになるだろうな」

 茜は包装紙を破り、その中身に齧りつきながら呟く。それらを頬張り、続いて取りだした栄養ドリンクで流し込む。一つ息をついてゴミの全てをポケットに押し込むと、その代わりに銀色に輝くドライバーを取り出す。そうしてドライバーを握ったまま、髪を流す風に誘われる様に振り返る。

「……別れを告げたのは私の方からだろう……」

 呟き、唇を引き結んだ茜は、目を閉じて後ろ髪引く未練を切り捨てるかのように前を向く。そして瞼の裏に浮かぶ健の笑顔から逃げるように、足早に夜道を歩く。

 茜は歩きながら、手に持ったドライバーを腰に装着。

「……変身……ッ!」

《Ride ON》

 小声で呟きながら、バックルの左端を撥ね上げて上下反転。ドライバーから渦巻き広がる光に包まれながら走り出す。やがて光を振り払い、姿を現す赤い女戦士、ミゼン。その両足から風が吹き荒れ、ミゼンは白いマフラーの尾を引きながらその風に乗って走る。

「戦い抜く……! 最後の瞬間までッ!」

 

 ※ ※ ※

 

《いつまで遊んでおれば気が済むのだ、このたわけめがッ!!》

 画面に浮かぶ蓋のずれた棺のエンブレム。そこから放たれるしわがれ声の罵りに、神崎は眉間に指を添えながら、ため息交じりに首を左右に振る。

「顧問。何度も申し上げていますように、今はこの街を本拠として地盤を固めている所なのです」

 そこで神崎は一度言葉を切ると、白地に青バラを描いたティーカップの紅茶に口を付け、再度口を開く。

「アント兵のクローニングによる各国軍への安定供給。医療、兵器、電子機器を始めとした各部門の発展は順調です。支社の発展も行っております。何が問題だというのですか?」

 言葉こそ丁寧ではあるが、駄々をこねる幼子を諭すように問い返す神崎。その神崎の物言いに対し、ディスプレイが激しく明滅する。

《こ……ッの! たわけがッ! たわけがッ!! このように悠長に事を進めていては世界が遠のくではないかッ!? 多少の損失など無視して構わんッ!! それが出来んと言うならば、その椅子から退けい! ワシが代わりに……》

 しわがれ声でまくしたてる顧問。神崎はカップをソーサーに乗せて机に置くと、口元に冷めた笑みを浮かべて画面を見やる。

「言いたいことはそれだけですか?」

《ウ……グゥ……》

 神崎の冷たい笑みと声をぶつけられ、画面の向こうで呻き、押し黙る顧問。

《……恩知らずの小娘が……!》

 そう吐き捨て、棺のエンブレムの映った画面が音を立てて暗転する。それを見て神崎は茶のカップを取り、ガラス壁の外に広がる町に目をやる。

「フン……老害が……」

 軽く鼻を鳴らして吐き捨てると、カップに口をつけ、夜景に目を細める。

「……愛しい私の街、世界で最も豊かな街へ向けて、ここまで育て上げた。愛しい私の……故郷」

 我が子の寝顔見るかのように微笑みながら、歌うように呟く神崎。そこで不意に街の一角で爆発が起こる。

「何事!?」

 宵闇を赤く切り裂く炎と立ち上る黒煙に、神崎が眉をひそめる。すると、暗転していたモニターに光が灯る。

《社長……ミゼンによる襲撃です。周囲にリバースライダーの姿は確認できません。おそらくは単独での特攻かと》

 画面に映った撫でつけ髪の男、天海からの報告に、神崎は目元を緩める。

「そうですか。しかし、いつ駆けつけるかは分かりません。油断はしないように」

 神崎のその言葉に、天海は一礼して自身のドライバーを取り出して見せる。

《ご安心を。各個撃破して御覧に入れます。それに、たとえ二人揃っていようが、私がまとめて始末して御覧に入れましょう》

 

 ※ ※ ※

 

「……ただいま」

 健が呟きながら家の玄関をくぐる。そのまま二階の部屋へ上がろうとすると、ちょうどリビングでくつろいでいた亮子と薫が顔を向けてくる。

「ああ、おかえり」

「あれ? 茜さんは……?」

 小首を傾げての薫の質問に、健は思わず目を伏せる。

「……途中で、別れてきた」

 「別れ」という言葉を口にした瞬間、健の胸を痛みが貫く。締め付けられるような痛みに、健は眉を顰める。

「別れてきたって……何かあったのかい?」

 亮子の問いに健は眼を伏せたまま、口を開く。

「……好きだと伝えた……けれど、受け入れることは出来ないと……」

 そう言って健は、自身の額を右手で掴む。

「茜が……? なんか事情があったんじゃないのかい?」

 そんな亮子の言葉に、健は額を掴んだまま首を左右に振る。

「だとしても……俺に踏み込んで欲しくない事情には違いない」

「何言ってんだい健。あんたらしく……」

「そんなのお兄ちゃんらしくない!!」

 亮子の言葉を遮る鋭い声に、健は思わず顔を上げる。すると、立ち上がってこちらを見据える薫と目が合う。

「いつもなら、いつものお兄ちゃんなら……誰かが何か辛いものを抱えてるって知ったなら、私たちが止めても絶対に助けにいってるじゃない!!」

 言いながら薫は健へ詰め寄り、その胸に拳を乗せる。

「それが、それが……フラれたみたいになったからって、なによ!? そんなの! 私の好きなお兄ちゃんらしくないッ!!」

「薫……」

 拳と共に胸へぶつけられる薫の言葉。それに健は、しゃくりあげ始めた妹分の頭を見下ろして、その名を呟く。そうして目を細め、口元を緩めると、胸にぶつかって震える頭に手を乗せる。

「お……兄、ちゃん?」

 涙を溢れさせた顔を上げる薫に笑みを深めて、健は小さく顎を引く。

「ごめんな、薫……ちょっと甘ったれてたみたいだ」

 健は薫と笑みを交わし合うと、亮子へ目を向ける。すると亮子も口元を持ち上げて頷く。すると、不意に健のジャケットから着信音が鳴る。健は空いていた手で携帯を取り出すと、片手のスナップで開ける。

「金原さん?」

 画面に表示された金原大悟の名前に目元を引き締め、健は電話に出る。

「もしもし、どうしました?」

《伊吹君大変だ! ミゼンが、轟君が!》

「茜さんが!?」

 慌てた様子の金原から告げられた言葉に、健は眼を見開いて問い返す。その瞬間、不意にテレビの画面が切り替わる。

《臨時ニュースをお伝えします。現在、浜永市中区浜永駅近辺にて、リバースライダーの一味とされるテロリストによるテロ攻撃が行われています》

 ニュースを伝えるキャスターの背後。中継画面で黒尽くめの戦闘員を蹴り倒してその武器を奪うミゼン。その姿に健、亮子、薫は揃ってテレビへ身を乗り出す。

《今ニュースにも映ったが、中心街の警備部隊と交戦している。本社ビルから迎撃部隊が出るという情報が仲間から送られてきた》

「分かりました。俺も助けに向かいますッ!」

 そう言って健は電話を切る。そして携帯をポケットに押し込み、いつの間にかこちらを見ていた亮子、薫と視線を交わす。

「……行ってきます」

「ああ、行ってきな」

「無事に……二人で帰ってきて」

 送り出してくれる二人に頷き返し、健はオーバーカムの眠るガレージへと駆け出す。

 

 ※ ※ ※

 

 奪い取ったライフルの引き金を引きながら、戦闘員の集団へ駆けこむミゼン。

「ハアッ!」

「ギッ!?」

 銃弾を受けて動きを止めた戦闘員を蹴り飛ばし、奥の戦闘員にぶつける。続けて右手側から迫る戦闘員にライフルを投げつけ、左側から迫る戦闘員の鳩尾に左肘を突き刺す。

「ギエッ!?」

 そのまま苦悶の声を上げる戦闘員を、前方から向けられた銃口への盾にし、右手側の戦闘員に右蹴りを見舞う。

「ハッ!」

 盾にした戦闘員を放し、その背に双掌打を打ち込んで、銃を構えた戦闘員らへぶつける。その勢いのまま踏み込み、戦闘員の一人へ右ローキックから左右の掌低を叩きこむ。そこを狙って左右から戦闘員が飛びかかる。

「甘いッ!」

 鋭い声とともに、ミゼンは左手の戦闘員の側頭部を蹴り飛ばし、その回転の勢いに乗せて、逆側へ左踵を突き刺す。

「グエッ!」

「ギエェッ!?」

 悲鳴を上げて戦闘員が吹き飛ぶ中、足を下ろす間もなく、ミゼンへ銃弾の雨が降り注ぐ。

「ウッ! アウッ!?」

 とっさに両腕で顔や心臓を庇うミゼン。赤いライダースーツ状のスキンアーマーに火花が弾け、鋭い痛みがミゼンを苛む。そこへ、さらにグレネードが打ち込まれ、爆ぜる。

「アアアッ!?」

 立て続けの爆発に吹き飛ばされ、火花を散らしながら道路へ二度、三度と叩きつけられるミゼン。

「ウッ……クゥッ!?」

 煙を上げる体を両手足で支え、ミゼンは顔を上げる。すると、ライフルを構えた戦闘員の集団が割れ、車のヘッドライトを背負った人影が歩み寄ってくる。

「お前は……」

 定まったリズムでの靴音を響かせて現れた人物。

「ようこそ処刑場へ……ミゼン」

「天海……ッ!?」

 五歩ほど離れた距離で足を止めた天海は、口元に薄く笑みを浮かべると、右手でドライバーを取り出して見せつけるかのように顔の横に挙げる。

「ッ!? それはッ!?」

 天海の右手の中にあるドライバー。それを見て、右肩を抑えて立ち上がりながら驚きの声を上げるミゼン。

 それに対し、天海は笑みを浮かべたままドライバーを腰に当てる。ドライバーからベルトが伸び、腰に固定される。右腰に銃、左腰に剣があらわれると、天海は右手を軽く開いて頭上に上げる。

「変身……」

 そして掛け声と共に、上げた右手をバックルの右端へ振り下ろす。

《Ride ON》

 バックルの上下反転に続き、馴染みのある電子音声と共に渦巻いた光が天海を包む。そして渦を巻いて散る光の中から現れたのは、白い仮面の戦士。青く大きな目を備えた、輝くように白い仮面。仮面と同じく白く輝く装甲は、青い関節を残して全身をくまなく覆っている。

「その姿は……ッ!?」

 どこかリバースとも似た戦士の姿にミゼンは絶句する。対して、白い戦士は右手を胸に当てて頭を下げる。

「Ah-02。あなた方に合わせて、咎人の処刑者……ディミオスとでも名乗りましょうか」

 ディミオスはそう言って頭を上げると、悠然とミゼンへ向かって足を踏み出す。ミゼンは肩にかかったマフラーを左手の甲で後ろに流すと、道路を右踵で払って構え直す。

 そして歩み寄るディミオスを迎え撃つように、ミゼンは踏み込み、左掌低を突き出す。

「ハッ!」

 だがディミオスはそれを、首を逸らすだけで避け、カウンターの形でミゼンの鳩尾を叩く。

「ぐッ!?」

 はらわたに響く重い衝撃に、体をくの字に折り曲げて退がるミゼン。

「……ッ! ハアッ!」

 それでも顔を上げ、右蹴りを突き出す。だがそれも左半身を引いたディミオスにかわされる。すかさず、反撃に迫る右拳。

「クッ!?」

 それをミゼンは強引に上体を逸らして避ける。だが、その瞬間に足を払われ、左腕から道路に倒れかかる。

「う!? ……ハッ!」

 しかし背を打ちつけながらも、起き上がりつつ蹴りを繰り出す。追撃を牽制し、回転して起き上がるミゼン。そしてその勢いに乗せて左踵を振る。

「ハァアッ!!」

 だがその一撃は、身を沈めたディミオスの頭上を通り過ぎる。

「甘いですね」

「なッ!?」

 直後、白い拳がミゼンの体を掬いあげるように振るわれる。

「うぐッ!?」

 ミゼンは辛うじて腕を組んで盾にするものの、衝撃は防御を貫いて、その体を軽々と撥ね飛ばす。

「が! アア……ッ!?」

 殴られた勢いのまま横転し、仰向けに倒れるミゼン。火花を散らす両腕を抑えて悶えるミゼンに対し、ディミオスはゆっくりと振り上げた拳を下ろす。

「弱い……アドバンスドヒューマンの試作体とはいえ、この程度ですか。この程度でしたら私が止めを刺すまでもないでしょう……」

 そう言ってディミオスは再び右手を挙げる。すると周囲で静観していた戦闘員たちが、一斉にライフルを構える。

「う、ぐ……例え、あの女に届かなくとも……せめて一矢……ッ!」

 銃口が一斉に狙いを付ける中、ミゼンは痛みが重くのしかかる体を奮い立たせて立ち上がる。しかし、膝に力が入りきらず、その場に膝をつく。

 その瞬間、ディミオスの右手が振り下ろされる。

「テェッ!!」

 鋭い号令に従い、全方位から一斉に鳴り響く銃声。

「ッ! ハァッ!!」

 だがミゼンは両手足を使って跳躍。宙返りして眼下を銃弾が交差する中、両足を打ち合わせる。

「レディ……スタートッ!」

 するとミゼンの両足、タイフーンライダーから風が吹き荒れ始める。そして着地と同時に風に乗って滑走する。

「ハアアアアアッ!!」

 気合の声と共に、ミゼンは正面に並ぶ戦闘員集団を、両腕を交互に振るって弾き飛ばしていく。

「ギィ!?」

「グエ!?」

「ギャア!?」

 滑り走るミゼンを狙い、戦闘員がライフルの引き金を引く。追い立てるかのように銃弾が撃ち込まれる中、ミゼンは身を捻って風を踏みきる。

「ハアアッ!?」

 スピンして飛ぶミゼンを中心に吹く風が、戦闘員と迫る銃弾を弾き飛ばす。着地と同時に右足を伸ばし、風を纏った蹴りで戦闘員らを文字通り一人残らず蹴散らしながら滑走していく。

「ハァァアアアアアアアッ!!?」

 そしてディミオスへ向かって滑りながら、ミゼンはバックルを外し、右脛の側面に取りつける。

《Full Open》

 電子音声に続き、ミゼンはアクセルスピンで跳び上がる。そこからさらに回転数を上げ、赤と白のドリルとなってディミオスへ突っ込む。

「ハイマニューバアクセルスピンッ!!」

 必殺の一撃の名を叫び急降下するミゼン。

 だがディミオスはその場から逃げるわけでもなく、右腰から三角形を模った銃を抜き、引き金を引く。一発、二発と続けてエネルギー弾が打ち込まれ、スピンの勢いが殺されていく。やがてスピンがエネルギー弾に負け、ミゼンの体を弾丸が襲う。

「うわあああああああッ!?」

 撃ち落とされ、道路へ叩きつけられるミゼン。路面を転がり、うつ伏せに倒れたその身は、血まみれの茜のそれに戻っていた。

「う……ゲッ!? ゴホッ!?」

 震える両腕を支えに立ち上がろうとする茜。だが、咳と共に濁った水音が鳴り、道路が黒ずんだ赤で汚れる。

「ハア……ハア……」

 肩で息をしながら、口からあふれた血を拭う茜。そんな茜に、ディミオスは軽く肩をすくめる。

「なるほど……死期が迫った故の特攻というわけですか……」

 ディミオスは頷きながら呟くと、照準を茜へ合わせる。

「そのまま苦しんでいるのを見るのも忍びありません。せめてもの慈悲です。介錯も兼ねて……銃殺刑に処しましょう」

 そう言って引き金にかかった指に力が込められる。その様を、茜は歯噛みしながら睨み返す。

「……ここまで、か……」

 悔しさを滲ませて呟く茜。しかしそこへ、吠える様なエンジン音が鳴り響く。

 

 ※ ※ ※

 

 うつ伏せに倒れる茜と、そこへ今まさに止めを刺そうとする白い仮面の戦士を見据え、健は相棒のスロットルを捻る。それに応えて鳴り響くオーバーカムの咆哮に、茜と白い戦士が揃ってこちらへ顔を向ける。

「デェイィヤァアアッ!!?」

 オーバーカムと共に叫び、愛車もろとも飛び上がる健。

「健君ッ!?」

「リバースライダーッ!?」

 二人が叫ぶ中、健はハンドルから手を放し、オーバーカムを仮面の戦士へ突っ込ませる。

「ムッ!?」

 オーバーカムの突撃をかわした白い戦士へ、健は足から飛びかかる。

「イィヤアァッ!?」

「フッ!」

 その飛び込み蹴りも避けられてしまう。

「セェヤアッ!」

 だが、健はその場で身を捻り、その勢いを加えた左拳を振るう。

「甘いですよ」

 しかしその拳は片手で受け止められてしまい、腕を引く間もなく健の体が宙を舞う。

「くっ!?」

 空中で身を翻した健は、倒れ伏した茜の側に左手と右膝を着いて着地する。

「ぐ……健君……何故?」

 背中に投げかけられた茜の言葉に、健は肩越しに目を向ける。

「好きな人が危ない……他に理由が要りますか?」

 そう言って健は立ち上がり、リバースドライバーを取り出す。

「し、しかし……私は……」

「家族に励まされたこともありますけど……俺、諦めのいい性質じゃないですから」

 健は茜の言葉を遮って言い切ると、白い戦士へ鋭い目を向ける。すると、白い戦士は右手の銃をくるりと回して空に向ける。

「二人揃ったのはかえって好都合です。まとめて始末して差し上げましょう」

 その慇懃な物言いと声に、健は眉間に刻んだ皺を深くする。

「お前は……天海? その姿は……!?」

 身構える健に対し、白い戦士は両手を広げて頷く。

「改めて自己紹介させていただきます。アドバンスドヒューマン計画正式型2号……処刑者ディミオス」

 そのディミオスの名乗りに、健はリバースドライバーを強く握りしめる。

「処刑者……? 自分たちの邪魔になる人々の命を奪うだけだろうッ!?」

「ここは我々の街……我々の法に背くものを処刑して何がおかしいのです?」

 心の底から噴き上がる怒りを言葉に乗せてぶつける健。対して、鼻をかんだティッシュをゴミ箱へ捨てるかのように、さも当然のことといった調子で返すディミオス。

「そんな貴様らの思いあがり……俺がひっくり返すッ!!」

 叫び手に持ったドライバーを腰に当てる健。ベルトが腰を一周し、ドライバーを固定する。

「変身ッ!!」

 直後、左へ流した右手をバックルの左端へ掛けて右へ振り戻す。

《Ride ON》

 上下反転したバックルからエネルギーが渦巻き、健の体を包み込む。やがて渦巻く光が霧散し、赤い目を持つ緑の戦士、仮面ライダーリバースが現れる。

 右腕を腰だめに、左腕を高く掲げたリバースは、その左腕で斜め十字を切り、右腕と入れ替える形で腰だめに持っていく。

「仮面ライダー、リバースッ!!」

 名乗りを上げながら、リバースは腕を大きく回して構えを取る。対するディミオスは左腰の剣を逆手持ちに抜き、右手の銃をリバースに向ける。

「セェヤッ!!」

 瞬く間に間合いを詰めたリバースは、左裏拳でディミオスの右手首を叩く。狙いが逸れた弾丸が後方で爆ぜる中、左の剣が横薙ぎに迫る。

「セ! ヤァッ!?」

 それをとっさに上体を逸らしてかわし、続く逆手持ちの突きを右掌で撥ね上げる。

「チッ!」

「クッ!」

 そのまま踏み込もうとするリバースへ、ディミオスは銃把を振り下ろす。それにリバースが左拳をぶつける。

「セ! セ! セヤ!」

「フ! ハ! フン!」

 二度、三度と左拳と銃把をぶつけ合う両者。その間にディミオスが剣を順手に持ち替えて突き出す。

「グッ!?」

 迫る切っ先をリバースはとっさに首を逸らしてかわす。だがその瞬間、銃口が脇腹に密着。銃声と共に衝撃が弾ける。

「ぐあッ!?」

 腹部を襲う激痛と衝撃に、右足を引くリバース。その隙を突き、ディミオスは立て続けに左の剣を振るう。

「そらそらそら!」

「ぐ! あッ! ぐあッ!?」

「た、健君ッ!?」

 胸の装甲に刃が食い込み、幾筋もの火花が走る。そして深い裂け目から血の溢れるリバースの胸へ、ディミオスの蹴りが叩きこまれる。

「ぐは……ッ!?」

 クラッシャーから熱気と共に呻き声を吐きだすリバース。衝撃に押し飛ばされたその体は、道路標識の一本へ背中からめり込む。

「が、ふッ!?」

 立て続けに両面から襲う衝撃に、リバースは肺の中身を絞りだされる。しかし、その目が自身を狙う銃口を認識した瞬間、頭上の標識を両手で掴む。

「ヤアッ!!」

「何とッ!?」

 ディミオスの驚きの声の中、歪な鉄棒を支えに逆立つリバース。直後、その眼下を光の銃弾が通り過ぎ、その先の建物の壁に火花を散らす。

「セイ!」

 そして着地と同時に、歪な標識を道路から引き抜く。

「チッ!?」

 舌打ちし、銃を構えるディミオス。その引き金が引かれると同時に、歪な弧を描く標識を握ったまま、リバースが両足を揃えて跳ぶ。

「イヤアッ!」

 背後で甲高い着弾音を聞きながら、リバースは銃口を宙に向けるディミオス目掛け、手に持った道路標識を投げつける。

「無駄だッ!!」

 風切り音を立てて飛ぶ標識は、ディミオスの剣に切り落とされる。だがその間に、リバースはディミオスの懐へ跳び込んでいた。

「な!? クッ!?」

 苦し紛れの突きを頭部装甲に滑らせ、頭突きをディミオスに叩きこむ。

「ぐあッ!?」

 衝撃を追いだすように頭を振り、たたらを踏むディミオス。

「セイヤアッ!!」

 そのがら空きの胸目掛け、リバースが右蹴りを突き刺す。

「グ……ッ!?」

 蹴りの衝撃に、ディミオスは苦悶の声を上げてさらに退がる。

「デェヤアッ!」

 そこでリバースは開いた間合いを一息に詰め、右拳を振るう。

「チィ!」

 リバースの右拳がディミオスの、ディミオスが舌打ちと共に振るった剣を握る左拳がリバースの胸を同時に打つ。

「うっぐ!?」

「グゥ!?」

 同時に呻き、お互いに離れるリバースとディミオス。しかしディミオスが踏みとどまったのに対し、リバースは衝撃に負けてうつ伏せに倒れる。

「クッ!」

 すぐさま腕を支えに顔を上げるリバース。だがすでにディミオスは右手の銃を構えていた。しかし、その照準はリバースから僅かにずれている。

『あの角度、俺じゃなくて、もっと後ろ……ッ!?』

 そのことに思い至った瞬間、リバースは瞬時に体を起こして立ち上がる。そして両腕を広げた直後、リバースをエネルギー弾が襲う。

「グゥッ!?」

 右脇腹で弾けた衝撃にリバースの口から呻き声が漏れる。さらに立て続けに左腕、右肩、左腿、右目、右脛と銃弾が撃ち込まれ火花が爆ぜる。

「グゥアッ! グゥウウウ……ッ!?」

 体中を襲い続ける銃撃に歯を食いしばりながら、リバースは道路を両の足で踏みしめて耐え続ける。避けることはできない。

「健君ッ!? 止せ! 私に構うなッ!?」

 何故ならリバースの背後には、動くことのできない愛しい人が倒れているからだ。

「う、グウ……ッ!」

 自分を見捨てるように叫ぶ茜の声を無視し、リバースはその場から決して動かない。

「グッハ……ッ!?」

 やがて銃撃が収まり、リバースはその場に膝をつく。右の眼には罅が入り、元は緑の装甲と黒のボディは傷口から溢れた血で赤に染まっていた。

「旧式ながらよくやりましたが……非情な決断を下せないあなたは、これが限界のようですね」

 徐々に大きくなる足音。それに重たい顔を上げ、視界の利く片目で正面の敵を見据える。敵、ディミオスはゆったりと歩を進めながら、右手の銃に左手に持っていた剣を取りつける。そしてグリップと銃身を直線にし、一振りの剣へ変える。

「……ッグ……!?」

 ゆっくりと歩み寄るディミオスに、立ち上がろうと足に力を込めるリバース。だが全身を蝕む苦痛に呻き、再びその場に膝をつく。

「リバースライダー……あなたを、斬刑に処します」

 ディミオスはそう宣言すると、ドライバーのバックルを外し、剣の側面に取りつける。

《Full Open》

 電子音声と共にディミオスの構える剣の刀身にエネルギーが迸る。

 光の竜巻を纏った剣を両手で持って振りかぶるディミオス。その青い目が輝き、クラッシャーが嗤うかのように開く。

「パニッシュメント・1……ッ!」

 ディミオスの鋭い声での宣言と共に、大上段からの刃がリバースへ迫る。寸分違わずに自分の頭を割りに来るその刃を見据え、リバースは痛みを堪えて「ほんの一歩」踏み込んだ。

「グ、ウウウウウウッ!?」

「何ッ!?」

 リバースの踏み込みにより、正確無比であったディミオスの剣の狙いは逸れ、リバースの肩を鍔にあたる部分が叩いている。しかし、刃の直撃でこそないものの、迸るエネルギーの奔流はリバースの体を蝕む。

「無駄なあがきを……」

 すぐに剣を引こうとするディミオス。

「逃がしは、しない……ッ!?!」

 しかしその手を、リバースは左腕で剣ごと掴む。

「ッ!? 何を……ッ!?」

《Full Open》

 驚きの声を上げるディミオスを見据え、リバースは右手でベルトのバックルを開く。そして全エネルギーを右腕へ集中させる。

「デェイィヤアアアアアアアアアアアアッ!?!」

 そして裂帛の気合と共に、渾身のライダーパンチでディミオスの丹田、ドライバーのバックルがあった部位を叩く。

 リバースのクラッシャーから熱気が放たれると同時に、拳に漲った力が爆ぜる。

「ご、ふゥ……ッ!?」

 爆発するエネルギーにディミオスが口から苦悶の声を漏らしながら宙へ浮く。

「ガッ!? うぐッ!?」

 そのまま道路でバウンドし、仰向けに倒れるディミオス。しかし、火花を散らす腹部を抑えながら、剣を杖に立ち上がろうとする。

「オーバーカム……ッ!!」

 その間にリバースは愛車を呼び寄せ、茜を助け起こす。

「さあ……帰りますよ。掴まっていられますか?」

「……ああ」

 短い返事を返す茜をタンデムシートに乗せて、リバースも愛車のシートに跨る。そして痛みの這いまわる体に鞭を打ち、愛車のスロットルを捻る。

 

 ※ ※ ※

 

 車通りの少ない道。健は路肩にオーバーカムを止めると、ブロック塀に背を預けて腰を下ろす。その隣では、茜が同じようにを塀を背もたれにして座り、高く上った月を見上げている。

 傷だらけの体を休め、黙って月を見上げる二人。夜風の音と、少し離れた大通りを走る車の音だけが二人の間に流れる。

「……なあ、健君」

 やがて沈黙を破って茜が口を開く。健は黙って顔だけを向け、続く言葉を待つ。

「何故、助けに来てくれたんだ? 私は……キミの気持ちを……」

 うつむき尻すぼみになる茜。健は再度月へ視線を戻し、口を開く。

「俺にとって茜さんは共に闘う仲間で、好きになった女性です。茜さんにどう思われていようと、助けずにはいられませんよ」

 健がそう言って茜を見れば、茜は今にも泣きそうに目元を歪めて、膝を抱きかかえる。

「……私だって、本当は……キミの、惚れこんだ男のパートナーでいたい……」

 茜は膝を抱く手に力を込め、体を小さくして言葉を続ける。

「だが、私はもう長く無い……変身はあと一回、仮に戦わずにいても三ヵ月と保たない。分かっていた……前から分かっていたことなんだ。だから、キミの気持ちを……」

『ああ……だから茜さんは、俺の受ける悲しみを少しでも減らそうと……』

 震える声で告げる茜の言葉から、健は彼女が受け入れられないと言った思いを悟った。

「本当は、もっと、早くに……キミの前から姿を消すつもりだった。それなのに……キミのことが、心の中でどんどん大きくなって、離れられなくなって……ッ!」

 いつの間にか茜の両目からは涙が溢れ出て、その言葉も嗚咽交じりに途切れるようになる。

「……近いうちに、終わる命と……諦めていた、覚悟はできていたはず、なのに!死ぬことが、キミと別れることがどんどん怖くなって……ッ!!」

 そこまで言って、茜は膝に顔を埋める。

「……もう、全部、台無しだ……」

 涙声で呟き、肩を震わせる茜。そんな弱々しい茜をじっと見つめて、健は自分の思いを口にする。

「茜さんの寿命のことは、なんとなく気づいてはいました……」

 その言葉に、茜の肩が一際大きく震える。しかし健は、茜が何か言い出す前に言葉を続ける。

「でも、それは茜さんへの思いを断ち切る理由にはなりませんでした。それよりも……いずれ来る別れの時までに、茜さんと一緒に過ごす時間を、少しでも多く持ちたいと思ったんです」

 健が投げかけた思いに、茜がゆっくりと顔を上げる。涙に濡れた愛しい人を健は真直ぐに見つめる。

「茜さん。何時まででもかまいません。俺は、たとえ僅かな時間でも、茜さんに側にいて欲しいんです」

 すると茜は零れかけた大粒の涙を右手で拭い払い、柔らかな笑みを浮かべる。

「健くん……キミを好きになって、本当によかった」

 そう言って茜は健の首へ腕を回し、肩にあごを乗せる形で抱きついてくる。そんな茜の背中に、健も腕をまわす。

「……しかし、昼間の告白……あれはもうちょっと、雰囲気を盛り上げてからにしてほしかったかな?」

 冗談めかした茜の言葉に、健は苦笑を浮かべる。

「え、あれ……ダメでした?」

 すると、耳元を茜の含み笑いがくすぐり、腕に込められた力が少し強くなる。

「……キミのそんなところも、好ましく思っているよ」

 そんな茜の囁きに、健は頬に熱いものを感じながら、腕の中の愛しい人をしっかりと抱きしめた。

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