仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

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第二十二話 去り行く風が遺す物

 ブルーローズ本社社長室。その中央、社長席の前で白いビジネススーツを着た天海が頭を下げる。

「申し訳ありません社長……ミゼン、及びリバースライダーの両名を取り逃がしました」

 頭を下げる天海の口から出た失態への謝罪。それに対し、社長席に座る神崎は、机に飾られた青バラを掌の中で愛でながら頷く。

「確かに取り逃がしたことは事実……ですが、裏を返せばそれは撃退したということ。完璧ではありませんが、悪い結果ではありません。それに……」

 そこまで言って神崎は、青バラを一輪手に取り、顔の前に持ってくる。

「すでに挽回の為の作戦は考えているのでしょう?」

 青バラを片手に微笑む神崎。それを受けて天海は、顔を上げ、あごを引いて首肯する。

「はい。今度はこちらから仕掛けます。私がしかけ、リバースライダーと戦います。その間に、博士に奴の拠り所を潰してもらいます」

「あら、博士に? 専務ではなくて?」

 首を傾げる神崎に、天海は再びあごを引く。

「はい。専務は修復治療こそ完了しましたが、未だメンテナンス中です。それに、死に損ないのミゼン如き、博士でも慎重に過ぎるほどです」

 そう言って口の端を吊り上げる天海。そんな天海に、神崎は一輪の青バラを手に持ったまま席から立つ。そして腹心の部下の前に歩み寄ると、その白いスーツの胸ポケットに、バラを挿す。

「武運を祈りますよ、天海」

 天海は胸に挿された青いバラと、己を見上げる女社長の笑みを見比べ、しっかりと頷いて答えた。

「はい。お任せください」

 

 ※ ※ ※

 

「祝福しろ……」

 右手を後頭に引っ掛けるように頭に乗せ、突き出た肘に左手を添えた姿勢で、流し眼を送りながら告げる茜。白いシンプルなドレスに包んだその身を、タキシード姿の健が、顔を柔らかな曲線を描く胸に添える形で抱き上げている。

 頬に触れる柔らかな感触に、健は内から湧き上がる浮つくような熱を感じながらも、腕の中の愛しい人をしっかりと抱き支える。

「おおう。これは祝福せざるを得ませんな」

 言いながら、文香が手に持ったカメラのシャッターを切る。そして文香はレンズを下に向けると、フィルムを送りながら、盛装した健と茜へ笑みを浮かべる。

「改めまして、おめでとうございますお二人とも」

「ありがとう、文香ちゃん」

 文香からの祝いの言葉に、健と茜は口を揃えて礼を言う。そして二人は一つの芸術作品として一体化した状態から分離して振り返る。そこには、手作り感あふれる飾り付けの施された、スカーレットジョーカーの店内があった。

 

 ※ ※ ※

 

 話は数日前、健が茜の特攻を引きとめて連れ戻した日に遡る。

 二人は、茜の寿命を含めた事情を、亮子と薫に洗いざらい打ち明けた。その事情に亮子は眼を瞑って腕を組み、薫は悲しげに眼を伏せる。やがて一つ頷いて目を開けた亮子の口から、ある提案が飛び出す。

「よし! あんたら結婚しな」

 亮子の口から放たれた言葉に、健と茜は顔を見合わせる。

「は!?」

「へ?」

「ええッ!?」

 そして暫くの沈黙の後、薫を含めた三人はそれぞれに驚きの声を上げ、一斉に亮子に注目する。

 健は照れ臭さを紛らわすために額を中指で掻きながら、薫と茜を見やる。薫は驚きに眼鏡の奥の双眸を見開き、茜は頬の熱を拭いとるかのように、緩んだそれを撫でていた。

「いや俺達、ようやく気持ちを伝えあった所だし……」

「そうですよ。それに、私の体は……」

 二人が戸惑っていると、亮子は射抜くような眼差しのまま首を横に振る。

「だったら尚更じゃないか。あんたらには時間がないんだろ?なら後悔しないように出来る内に全部済ませちゃいな」

 その亮子の言葉に、薫も目を瞬かせると、首を縦に振って続く。

「私もそう思う! 私、二人には少しでも幸せな時間を、思い出を持ってほしい」

「薫……」

 揃って押してくる浅井親子に、健と茜は、再度顔を見合わる。そして揃って浅井親子へ目を向けると、茜が口を開く。

「しかし……私は貯金も何もかも片付けていて……」

 茜は脱走してからこれまで、いずれ来る死に備えて、持ち物を切り崩して過ごしてきていた。

 だが亮子は、軽く鼻を鳴らして笑みを浮かべる。

「なに、やろうと思えばどうだって出来るもんさ! アタシに任せな!」

 そう言って亮子は胸を叩き、ウインクして見せてくる。

 

 ※ ※ ※

 

 そして現在、宴場として整えられたスカーレットジョーカーの店内を眺めて、茜は微笑む。

「……婚姻届を出し終えたかと思えば、衣装を見せられて、あれよあれよと会場まで……本当に亮子さんには驚かされる」

 そう言う茜の言葉通り、その名前はすでに戸籍の上でも正式に「伊吹茜」となっている。

 飾り気のない略式のものであるが、白い花嫁衣装を身に纏う茜。そんないつもの赤いライダージャケットとレザーパンツ姿とは違った妻の姿に、健は改めて胸を高鳴らせていた。

「な、健?」

 微笑みのままこちらを向く茜。不意を打たれた形になった健は、額を掻きながら曖昧な笑みを浮かべる。

「あぁ……ええっと」

 そんな健の様子に茜は首を傾げる。

「うん? どうかしたかい?」

 不思議そうに尋ねる茜に、健は額を掻きながら口を開く。

「その……茜さんに見惚れてて……」

「なっ!?」

 健の一言に、茜は頬を朱に染めて目を見開く。しかし、その目はすぐに柔らかく細まり、朱の差した頬にも笑みがこぼれる。

「ふふ……惚れ直してくれたかな?」

 そう言って茜は冗談めかしてスカートを摘み上げる。健はそんな茜の肩に触れて頬笑みを返す。

「はい。すごく新鮮で、素敵です」

「おうふ……砂糖が吐き出せてしまいそうですな」

 見つめ合う二人へ、文香からの一言がシャッター音と共に投げかけられる。健はそれに照れ笑いを浮かべ、茜は小さく含み笑いを漏らす。

「もう、三人とも? そろそろ準備できるよ?」

 そこへ薫が、料理を運ぶ足を止めて声をかけてくる。ちなみに今回、健は主賓ということで、途中で厨房から追い出されている。

「ああ、分かったよ」

「ありがとう、薫ちゃん」

 伊吹夫妻の返事に、笑みを浮かべて頷く薫。

「いえいえ」

 そう言って薫は止めていた足を再び動かし始める。そしてその背中を文香が追いかける。

「カオルッチカオルッチ、お兄さんが結婚されるのは寂しいのでは?」

 おどけた調子で尋ねる文香に、薫は健と茜を一瞥してから、苦笑交じりに返す。

「確かに寂しいけど……お兄ちゃんが幸せなのが一番だから」

 そこで一度言葉を切ると、薫は片手を空け、その手で文香の耳をつまむ。

「それより、カオルッチはやめてって言ってるでしょ? ホラ、ちょっと手伝って」

 そう言って薫は、健たちに笑みを向けると、そのまま文香の耳を引いて行く。

「ちょ! カオルッチ!? 痛いです! 痛いですって!?」

 そんな二人の様子を見て、健と茜は揃って笑みを零す。

 

 ※ ※ ※

 

「……皆さん、今日は本当にありがとうございます」

 浅井親子と文香を始めとし、飾り立てられた店内に並び座る金原一家に村松父子。健の挨拶に続いて、揃って一礼する伊吹夫妻。それに対し、一同から拍手が巻き起こる。

 祝福の拍手を一身に受けながら、健は心の底から浮かび上がる幸福感に誘われるまま笑みを零す。そのまま左隣りに居る妻に顔を向けると、幸せそうに眼を細めながら同じようにこちらを見ていた茜と目が合う。

「……生きていてよかったと心から思うよ……健」

 健は微笑む妻の左手を取ると、笑みを深めて頷く。

「俺もです。茜さん」

 そうして見つめ合う二人へ向けて拍手の勢いが強まり、口笛も鳴る。そんな中、亮子が立ち上がると、伊吹夫妻の前に、真っ白なクリームで彩られたホールケーキを出す。

「さて、堅苦しいのは抜きにして、指輪の交換と行こうじゃないか」

 そう言って掌を二度叩き合わせる亮子。

「はい」

 それに頷き、健は一対の指輪を取り出す。そしてサイズの大きい方を茜の右手に握らせ、小振りな方を、茜の左薬指に近づける。しかし指をリングに通そうとした瞬間、轟音と共にドアが破片を散らし舞う。

「きゃあああッ!?」

「うわああッ!?」

「な、何ッ!?」

 様々な悲鳴が上がる中、健は傍らの妻を庇いながら、破れれたドアのあった場所を睨みつける。

「お前はッ!?」

 ドアのあった場所に立つ、青い目を輝かせる白い人影、ディミオス。健がその名を叫ぶよりも早く飛びかかり、右腕を振り下ろす。

「クッ!?」

 健はとっさに左腕をぶつけて受け止める。だが、白い装甲に覆われた腕に押し込まれる。

「ぐ、ンッ!?」

 押し込んでくる力を後方へ流し、姿勢を崩したディミオスへ右拳を見舞う健。しかし、それは左手で軽々と受け止められる。

「クッ!? ……セヤッ!」

 一度右拳を引き、すかさず二発目を振るう。しかし、それも受け止められてしまう。

「テメェッ!」

 そこへ亮子がディミオスへ殴りかかる。だがディミオスはそれを僅かに身を逸らして避け、右手を左腰の剣に伸ばす。

「危ないッ!?」

 とっさに亮子を突き飛ばす健。その背中へ、右腋から左肩にかけて鋭い痛みが走る。

「ガッ!?」

「た、健ッ!?」

「健ッ!」

「お兄ちゃんッ!?」

 背中を蝕む熱いほどの痛みと、流れ出た血に濡れる服を感じながら、両足を踏ん張る健。そしてディミオスへ顔を向けた瞬間、その頬へ拳が突き刺さる。

「グ!?」

 テーブルやイスをなぎ倒しながら、出入口まで吹き飛ばされる健。

「ぐ! うう……ッ!?」

 受け身を取り、顔を上げるも、あごを蹴り飛ばされて店の外へ押し出される。

「グフゥッ!?」

 蹴りの勢いのままアスファルトの路面に叩きつけられる健。ぐらつく頭を押さえ健が立ち上がると、こちらを追い詰めるかのように、ディミオスが歩み出てくる。

「健ッ!?」

「待ってッ!? 危険です!」

 その後ろで、飛び出そうとする亮子たちを抑える茜。健は妻と視線を交わすと、どちらからともなく頷きあう。そして健は、ディミオスを睨みつけたまま、じりじりと自身を餌にするようにして店から離れていく。

『奴の狙いは、おそらく俺……! このまま皆から距離を取るッ!』

 健がそう睨んだ通り、ディミオスは茜や亮子たちには目もくれず、健を追いたてるかのように一歩一歩足音を鳴らしながら追いかけてくる。

 やがて店から離れ、放棄された古倉庫へディミオスを誘い込む健。そして背後から追いかけてくる敵に向けて振り返ると、深く息を吸い込んでリバースドライバーを腰へ装着する。

「……変身ッ!」

《Ride ON》

 バックル部に引っ掛け、右へ振りきることで上下反転したドライバーから光が渦巻き、健の体を包む。

「セイッ!?」

 気合の声を上げ、纏った光を引き摺りながら踏み込むリバース。勢いをつけて突き出した左拳が、ディミオスの頬を掠める。

「ヤァッ!?」

 すぐさま拳を引き、二発目を振るう。しかし、それも首を逸らしたディミオスの頬を掠めるに終わる。

「クッ!」

 リバースは歯噛みしながら腰を切り返し、右上段蹴りを放つ。だが、頭を下げたディミオスに潜られ、空を切る。

「ヤッ!」

 そして身を屈めて銃を抜くディミオス目掛け、振り上がった右足を強引に振り下ろす。リバースの右踵が、ディミオスの握る銃把とぶつかり合う。

「フッ……」

 そして足元から含み笑いが漏れるや否や、地を踏む左足を掬われ、同時に右踵を押し上げられる。

「うわ……ッ!?」

 足を押し上げられ、宙を舞うリバース。どうにか空中で身を捻り、広げた両足に加え、左手もついて着地する。そして顔を上げることもなく、右腕で地を叩いて右へ跳ぶ。直後、甲高い音を立ててリバースが背負っていた壁に火花が爆ぜる。

「……クッ!?」

 次々と弾ける火花から、リバースは横転を繰り返して逃げ続ける。そして一度膝と手を突いて起き上がると、眼前に迫ったエネルギー弾を跳び越える。

「ムッ!?」

「セェ! イヤァッ!!」

 リバースは空中で足にエネルギーを集中、そのままこちらへ銃口を向けるディミオスへ、右、左と連続で振り抜く。その足から放たれたエネルギーが宙を走り、ディミオスの放った銃弾とぶつかり合い、弾ける。

「チィッ!?」

 視界を遮る爆発に舌打ちするディミオス。

「イィヤアアアッ!!」

 そして僅かに銃撃の緩んだ隙に、リバースは跳び込みざまの右拳をその顔面に叩きこむ。

「ぐッ!?」

「セッ!」

 鈍い手ごたえの残る拳を引き、すかさず左拳で胴を打つ。

「ごッ!?」

「セイッ! ヤアッ!?」

 さらに右拳を続けるリバース。だがそれは、ディミオスの銃を持った右腕に遮られる。しかしその上でリバースは左足で脛を叩く。

「ぐ!?」

「セイヤアアアッ!?」

 足を打つ痛みに怯むディミオスへ、リバースは右の回し蹴りを放つ。その蹴りにディミオスの体が宙を舞う。

「浅いッ!?」

 だが、足に残った感触にリバースが叫ぶや否や、ディミオスが宙返りし、右手に持つ銃に左腰の剣を取りつける。

 銃剣モードの銃を構えるディミオスを追い掛けようと、踏み込むリバース。しかしそれを遮るように銃弾がリバースへ降り注ぐ。

「クッ!?」

 出鼻をくじかれたリバースは腕を盾にし、迫る銃弾をかわす。

「フッ!」

 そこへディミオスが、壁を蹴って一息に間合いを詰め、銃剣を袈裟がけに振るう。

「ぐあああッ!!?」

 リバースの装甲から火花が走り、そのダメージに姿勢が崩れる。そこへディミオスの蹴りが鳩尾へ突きささる。

「ぐふッ!?」

 体を貫いた衝撃が口から漏れ出し、その衝撃のままリバースは背中から壁へ叩きつけられる。

「が……は……ッ!?」

 激突の衝撃に壁がひしゃげ、倉庫が大きく揺れる。胸を抑えて足を踏み出すリバース。それに対し、ディミオスは銃剣を右肩に担ぎながら、こちらを眺めている。

「あなたは正しい選択をしました……自分を餌に店から離れ、捨てられた倉庫で戦う。人々を護る者として、実に模範的な選択です」

 言いながら、ディミオスは銃身で肩を軽く叩く。リバースはそれを睨み据えながら胸から手を放すと、しっかりと拳を握って構え直す。しかしディミオスは構えをとることもなく言葉を続ける。

「しかし……正しい選択が、必ずしも最善の結果を生むわけではありません……今、あの店に居る人々を、いったい誰が護れるのでしょうか?」

「何ッ!?」

『まさか、コイツが囮!?』

 スカーレットジョーカーを襲う状況を推し量るリバース。そこへ、ディミオスが銃剣の銃口を向ける。

「誘い込まれたのは、あなたの方なのですよッ!?」

 その言葉と共に放たれたエネルギー弾が、リバースを襲う。

「ぐぅあああああああッ!?!」

 

 ※ ※ ※

 

「あいつはなんなんですッ!? なぜお兄さんをッ!?」

 散乱した店内で、突然の事態に混乱する文香。そんな文香に茜と浅井親子、そして金原は眼を伏せる。そんな茜たちの反応に、村松の息子、聡も口を開く。

「姐さんたち、何か知ってるのか!? なあ、教えてくれよッ!?」

 縋るように問う聡へ、状況を知る面々は揃って顔を伏せる。そこで文香と聡が再び口を開こうとした瞬間、開け放しになった店の出入口に影が差す。

「はぁい。お邪魔してもよろしいかしらぁ?」

 その声に茜は反射的に一同を庇う形で前に出る。

「何の用だ!? 白柳ッ!?」

 茜からむき出しの敵意をぶつけられた白柳は、磨き抜かれたスキンヘッドを煌かせながら、腰をくねらせて左手を頬に添える。

「もぉ、ご挨拶ねぇ!? アタシはただ、ここに居る皆さんをアタシの研究室に招待しにきただけよぉ?」

「ヒィ……ッ!?」

「おとーさん……?」

 分厚い唇を笑みの形に歪める白柳。それを見て一同は、背筋を走る寒気に従って半歩後ろへ下がる。そんな一同の反応に、白柳は唇を尖らせて涙を拭うフリをする。

「もう! そんな風に引かれたらキミちゃん悲しいわッ!」

 白柳はそこで一度言葉を切ると、その場で白衣を翻してターンし右手をのばす。

「じゃあ、ちょっと強引に来て貰っちゃおうかしら?」

「危ないッ!!」

 とっさに一歩踏み出した茜。次の瞬間、その白いドレスを纏った身に、触手が絡みつく。

「ああッ!?」

「茜!?」

「茜さんッ!?」

 名前を呼ぶ声が店内に響く中、茜を絡め取った触手がしなり、捕らえた茜の体を店の外へ放り投げる。

「邪魔よ! 大人しくしててちょうだい!」

「あぐ……ぅ……」

 路面をボールのように跳ね、うつ伏せに倒れて呻く茜。腕を杖にして顔を上げれば、擬態を解除し、タコの触手をくねらせて店内へ踏み込む白柳の背中があった。

「皆を……ッ!?」

 無意識に自身のドライバーを握りしめ、取り出す茜。

『……あんたはもう戦うべきじゃないわ……』

『……俺は、たとえ僅かな時間でも、茜さんに側にいて欲しいんです』

 しかし、脳裏に浮かんだ南の警告。そして健の真剣な眼差しに、ドライバーを握った茜の手が止まる。

『変身して戦えば、私は……ッ!』

 茜はドライバーを音が鳴るほどに握りしめ、己の命運に歯噛みする。

「きゃああッ!?」

「この、化物ッ!?」

 その間に伸びる触手に、悲鳴を上げる薫や、子どもたちを護ろうと前に出る亮子や金原たち。その姿を見て、茜は唇を引き結び、目元を引き締める。

『何を迷っているッ! 私は……仮面ライダーの妻だろうッ!!?』

 そう心の内で叫び、ドライバーをドレスの腰に取りつける。

「変身ッ!」

 そして叫ぶと同時にバックルの左端を左手で撥ね上げ、光の渦に包まれながら駆けだす。

 光の渦を振り切り、現れたミゼンは、後ろからタコ怪人を羽交い絞めにする。

「あらン?」

「この人たちを、傷つけさせはしないッ!?」

 触手と腕を締め上げる手に力を込めるミゼン。

「ンもう! うっとおしいわねぇッ!!」

 だが、タコ怪人が苛立たしげに腕と触手を振り回すと、ミゼンはスカーレットジョーカーの前へ投げ出される。

「くッ!?」

 眼前に迫る地を両手で叩いて跳ね、片膝をついて着地するミゼン。そこへ電撃を纏った触手が頭上から迫る。

「ウッ!?」

 横へ転がって辛うじて避けるものの、すぐさま次の触手が襲いかかる。

「それ! それ! まだまだ行くわよッ!?」

「ウッ? クゥッ!?」

 連続で振り下ろされる触手の鞭を、ミゼンは右へ左へと転がりかわす。だが打ち込まれ続ける触手にやがてかわしきれなくなり、その背を打たれる。

「ああッ!?」

 背を打つ打撃と電撃に苦悶の声を上げるミゼン。その隙にミゼンの足首を白柳の触手が絡め取る。

「そぉ~れッ!?」

 足に絡んだ触手に振り上げられ、ミゼンが背中から地面に叩きつけられる。

「がふッ!?」

 背を打つ衝撃にミゼンの息が絞り出される。

「そぉれもう一丁!」

 そして立て続けにもう一度、宙へ振り上げられる。

「グッ……クゥッ!!」

 振り上げられたミゼンは、呻きながらも両踵を打ち合わせる。両足から風が渦巻き、足に巻き付いた触手を切り裂く。

「あらッ!?」

「ハアアッ!?」

 ミゼンは渦巻く風に乗って身を翻し、その勢いに乗せて右足を振るう。蹴りによって放たれた真空の刃が、タコの触手を切り裂く。

「あぁんッ!?!」

「ハッ! ハアアッ!?」

 その間にミゼンは、風を両足で踏み込んで飛び込み、風の刃を纏った蹴りを繰り出す。鋭い風の刃が深くタコ怪人の身を深く刻む。

「やったわねぇッ!? えぇい!!」

 だが、白柳の振るった触手が、ミゼンを横合から叩く。

「ああッ!?!」

 舗装された道路へ叩きつけられ、反動で跳ねるミゼン。その足に再度触手が絡みつき、逆さ吊りとなる。そして間髪いれず、その横面を触手の鞭が叩く。

「あぁッ!? ああああああッ!?!」

 続けて胸に裂け目が走り、逆側から頭を襲う一撃が脳を揺さぶる。さらに背、腹、腕、足と絶え間なく、容赦なく打ち込まれ続ける鞭。打撃音と悲痛なミゼンの悲鳴が辺りに響き渡る。

「ホォラホラホラァ」

「アウッ!? グゥウウッ!?」

 アーマースーツに開いた裂け目から、血の雫が路面へ飛び散る。白かったマフラーも滴る血を吸い込み、みるみるうちに赤く染まっていく。

「う、あぁあああああああッ!?」

 

 ※ ※ ※

 

「フッ! フンッ! どうしました、リバースライダーッ!?」

「ウッ! クッ!?」

 ディミオスの横薙ぎに振るう剣を潜ってかわし、続く縦切りを左へ半歩ずれて避けるリバース。

「セェヤッ!」

 かわすと同時に左拳を突き出す。だが、軽く首を逸らしたディミオスに避けられ、逆に膝を打ち込まれる。

「グゥ……ッ!? イ、ヤアッ!?」

 腹に響く衝撃に呻きながらも、リバースは左足を支えに回転。右後ろ回し蹴りを放つ。

「ッ!?」

 リバースの踵がディミオスの頬を掠め、火花を散らす。

「イヤァッ!!」

 そのままリバースは、ディミオスの銃剣を持つ腕に右足を乗せて挟み、左拳でディミオスの白い仮面を叩く。

「グッ!?」

「イヤァッ!?」

 呻くディミオスへ、リバースは腰を切り返し右拳を振るう。

「ゴッ!?」

 ディミオスが仰け反った勢いに乗せてリバースは右脚を上げ、右足が地をつくと同時に左水面蹴りで、ディミオスの足を払う。

「セェ! イィヤアアッ!!?」

 その回転のまま背をぶつけ、ディミオスの体を撥ね飛ばす。

「グアッ!?」

 吹き飛びながら宙返りし、銃剣を構えるディミオス。

「クッ!? ウワッ!?」

 撃ちこまれる銃弾を左右のステップでかわすリバース。足元に火花が舞い散る中、ディミオスが銃口を向けて駆けこんでくる。

「フッ!?」

 そして銃剣の刃を、飛び込み様にリバースへ叩きつける。

「グアッ!?」

 装甲に火花が散り、仰け反るリバース。

「ハッ! ハッ! ハアアッ!!」

「う! ぐあああああッ!?」

 そこへディミオスの連撃が振るわれ、袈裟がけ、右腿、胸に横一文字と火花が次々と走る。

「無力さをかみしめて逝きなさいッ!? リバースライダーッ!?」

 自身の頭へ向けられた銃口に、リバースはとっさに首を横へ逸らす。刹那、頬を銃弾が掠める。

「なッ!? 無駄なあがきをッ!?」

 続けて発射される銃弾を、右へ跳んで避けるリバース。

「セッイヤアッ!?」

 自身を追い掛ける銃撃を左のステップでかわし、続く足を狙った射撃をバク宙で避ける。

 銃撃を受け、ひしゃげた柱を横目に、リバースは右腕にバックルをつけ、壁を背にブレーキをかける。

《Full Open》

 右腕に渦巻くエネルギーの螺旋が、リバースの手刀に沿って刃を作る。

「家族の許に行かせてもらうッ!!」

「させませんッ!?」

 叫ぶリバースに対し、ディミオスが銃剣にバックルを取りつける。

《Full Open》

 電子音声と共に、エネルギーの渦巻く銃口がこちらへ向く。

「あなたはここで……銃殺刑ですッ!!」

 その言葉と共に引き金が引かれ、エネルギーが渦巻く奔流となって放たれる。

「押し通るッ!!」

 眼前に迫る銃撃へ、リバースが右手に纏ったエネルギー刃を振り下ろす。

 エネルギーが正面から激突、砕けて爆ぜたエネルギーが倉庫の壁や天井、柱にぶつかり爆発する。

「チィッ!?」

「う!? ぐぅうッ!?」

 倉庫を壊し、自身をも襲う衝撃波の中、リバースは背後の壁を殴って破り、崩落する倉庫から抜け出す。

 

 ※ ※ ※

 

「そぉれぇいッ!」

 血塗れになり、動くことも出来なくなったミゼンを、白柳は地面へ放り捨てる。

「ぐ、うう……」

 転がり、うつ伏せに倒れて、血溜まりを広げるミゼン。そこへ白柳はゆっくりと歩み寄る。そして痙攣するミゼンの目の前で腰をくねらせる。

「ねぇミゼン……私のところに戻ってくるつもりはないかしらぁ?」

「な……に?」

 力が流れ出て、冷たく重くなっていく体に鞭打ち、ミゼンは顔を上げる。それに対し、白柳は腰と触手を踊らせて言葉を続ける。

「終わりかかったアナタの命も、アタシなら、再改造で延ばすことが出来るわ。悪い話じゃ、ないと思うけどぉ?」

 そう言って白柳は、触手と右手を倒れるミゼンへ差し伸べる。

「さ、皆揃ってアタシの所にいらっしゃい。皆揃って超人へ生まれ変わらせてあ・げ・る」

 その言葉に、ミゼンはスカーレットジョーカーと、その入り口からこちらを窺う、浅井親子を始めとした人々を一瞥する。そして顔を伏せ、拳を握りしめる。

「……本当に、皆と一緒に行けば、私の命も延ばしてくれるのか……?」

 静かな声で白柳に問いかけるミゼン。その脳裏に、街の為に戦う健の厳しい顔、弄ばれる命を悼み悲しむ顔、そして愛しい人々に向けた優しい笑顔がよぎってゆく。

「本当よォ? アタシの腕前は、あなたもよぉく知ってるでしょォ? 安心して身を委ねて頂戴?」

 白柳は言いながら、差し伸べた手を更に延ばす。

「だが……断る……ッ!」

 しかし、ミゼンはその手を叩き払う。

「あら?」

 震える膝に鞭を打って立ち上がり、ミゼンは肩で息をしながら白柳へ言葉をぶつける。

「私は……この街を護る、仮面ライダーリバースの妻ッ!! 貴様に、夫の家族を……魂を売ってまで生き長らえて、愛する男に合わせる顔があるかッ!!?」

 ボロボロの体で立ち上がり、叫ぶミゼン。そのミゼンの叫びを受けながら、白柳は払われた手をさする。

「いいセリフだわぁ……感動的じゃなぁい……」

 言いながら白柳は、ミゼンへ一歩足を踏み出す。

「けど無意味よ……?」

「うっ……ぐッ!?」

 そしてミゼンの腹へ右拳を叩きこむ。呻き、膝から崩れ落ちるミゼン。その頭を白柳の手が掴む。

「愚かな女ね……でも、嫌いじゃなかったわよ?」

 そう言って白柳は、ミゼンの体を宙に放り投げる。そして空中でボロキレのように舞うミゼンへ、タコの触手が殺到する。

『……これが正真正銘……最後の……ッ!?』

 迫る触手を見据えながら、ミゼンは全力を振り絞って両踵を打ち合わせる。

「……レディ……スタートォッ!!」

 荒れ狂う風で迫る触手を吹き飛ばし、ミゼンは着地と同時に滑走を開始する。

「あら!? まだやれるのね?」

 雫交じりの赤い尾を引いて風の上を滑るミゼン。それを追いたてるように、白柳の触手が舞い踊る。

「ハァッ! アアアアアアアアッ!!」

 ミゼンは迫る触手をかわし、撃ち払い滑り続ける。そして太く一纏まりになった触手を風を纏った右足で蹴り飛ばし、取り外したバックルをその足に取りつける。

「あ、あら?」

《Full Open》

 電子音声の発声と同時に、アクセルスピンで飛び上がるミゼン。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!」

 烈風を纏い、真紅のドリルと化したミゼンは、その足を白柳の胸へ突き刺す。

「あ、あ? あああああああああッ!?」

「ハアアアアアアアアアアアアッ!?」

 白柳の悲鳴とミゼンの気合の声が重なり合う。どちらの物ともつかない血飛沫が飛び散る中、白柳は自身の胸を抉り続ける真紅のドリルへ手を伸ばす。

「や、やめなさいッ!? あんた、死ぬわよッ!?」

 それに対し、ミゼンは回転の勢いを上げながら叫ぶ。

「ここでこの命尽きようとも……私は最後の瞬間まで、私として生きるッ!!」

 その叫びに続き、ミゼンの関節から炎が噴き出す。そしてその身を炎に焦がしながら、ミゼンは更に回転の勢いを上げる。

「ぎぃいやぁあああああああああッ!!?」

 白柳の口から絶叫が上がる中、その身を炎を纏ったミゼンが突き抜ける。そして風穴の開いた白柳の背中を背に、膝をついて着地する。

「ハイ……マニュー……バ、アクセル、ス……ピン……ッ!」

 全身から煙を上げるミゼンが途切れ途切れに宣言した後、風穴の開いた白柳の身が痙攣する。

「せ、専務ゥッ!?」

 断末魔の叫びと共に白柳の体が弾け飛ぶ。その爆風に背を押されて、ミゼンは茜へと戻りながら、その身を地に横たえた。

 

 ※ ※ ※

 

「茜さんッ!?」

 爆発を背に倒れて行く妻の姿に、健はボロボロのタキシード姿で走る。そしてうつ伏せに倒れた茜の傍らに膝をつき、その赤く染まったドレスを纏う体を抱き上げる。

「茜さんッ!? 茜さんッ!?」

 目の奥と胸の内から湧き上がる熱いもののままに、愛しい人の名を呼ぶ健。すると、茜のまぶたが震え、口の端から血を零しながら微笑む。

「……た、健……?」

 妻にか細い声で名を呼ばれ、頷く健。

「茜さんッ!? すみません……ッ! 俺が、俺が……ッ!?」

 抱く腕に力を込め、溢れ出る涙を零す健。そんな健に茜は笑みを深める。

「何を言うんだ……伝説の、英雄は……この街を救ってはくれなかった……だが、キミは私を、誇りある死しか見えなかった……私を、救ってくれた……」

 そんな茜の言葉に、健は首を左右に振る。

「喋らないでッ!? 喋らないで……くださいッ!!」

 しかし茜は首を左右に動かすと、笑みを崩さぬまま口を動かす。

「……最後に、愛する男の力になって、愛する男に看取られて逝ける……望んでいた以上の、幕引き、さ……ゴフッ!?」

 そこで、茜の口から咳と共に血が噴き出す。その雫を頬に付けながら、健は冷えて行く妻の体を、強く抱きしめる。

「……お願いだ、健……最後にキミの、笑顔を見たい……」

「……はいッ!」

 涙声で返事をした健は、頬を引きつらせ、涙を流したまま、ぎこちない笑みを妻に向ける。それを見て茜の顔に晴れやかな笑顔が浮かぶ。

「ああ……私は、本当に……幸せな女だ……」

 茜はそう言うと、健の唇と己の唇を重ねる。感触を実感する間もない、ほんの僅かな触れ合いの後、茜が唇を放す。

「これからも、キミの力に……愛しているよ……健……」

 茜は囁いて、腰のドライバーを外し、健の胸に押し当てる。すると、その顔に笑みを浮かべたまま、首が支えを失ったかのように横に折れる。

「茜さん……? 茜さんッ!? あかねさぁぁぁんッ!?!」

 笑みのまま事切れた妻の体を抱きしめ、健は何度もその名前を呼ぶ。だが、腕の中の妻は眠ったまま、その慟哭に答えることは無い。

「まさか……博士がミゼン如きにやられるとは……」

 不意に背を打った声に健が振り返れば、ディミオスが銃剣を肩に乗せてこちらを窺っていた。

「しかし、刺し違えてでのことでしたか……我々に逆らわずにいれば長生きできたものを……愚かな女ですね」

 そのディミオスの言葉に、健は歯を食いしばりながら、妻の遺体をそっと横たえる。そして茜から渡された、彼女のドライバーを左手に立ち上がる。

「おや、私に立ち向かうつもりですか? せめて苦しむことなく、彼女の許へ送って差し上げようと思うのですが……」

「……黙れ」

 底冷えのする低い声で呟きながら、健はリバースドライバーを腰に装着する。

 そして、ベルトの左腰部分にミゼンのドライバーを押し当てる。

 瞬間、まるでそこが収まるべき場所であったかのように、ミゼンドライバーがベルトに固定される。

「なに!?」

 健は驚きの声を上げるディミオスへ振り返る。すると、左腕を腰だめに、右腕でV字を描くようにして、顔の横で握り拳を音が鳴るほどに固く握りしめる。

「変……」

 そこから右腕を腰だめに左腕を右斜め上へ伸ばし、大きく左肩の真上まで回す。そして、左腕を左腰のミゼンバックルへ下ろし、右手をリバースバックルの左側に掛ける。

「……身ッ!!」

 二つのバックルを同時に反転。右腕を腰だめに、左腕でV字を描き、ちょうど最初のポーズを左右反転させた姿勢を取る。

《Ride ON》

 二つのバックルから光が渦を巻き、健の体を包み込む。やがて繭のように包み込む光を、赤い左腕が振り払う。

「お、お前は……ッ!?」

 驚き、後ずさるディミオス。

 光を振り払って現れたそれは、両手足を真紅に染まった装甲に包み、黒いボディに赤いラインの走った緑の装甲を纏っている。緑色の仮面には、昆虫のそれを思わせる赤く大きな目が輝き、首からは、血に染まったように赤いマフラーが、巻き起こる風に揺れている。

「仮面ライダー……リバース……!」

 静かに名を告げながら、新生リバースは左肘を前に右拳を顔の横に添えた構えをとる。

「こけおどしをッ!? 多少出力は上がったようですが、私には及びませんッ!!」

 叫び、剣を突き出してくるディミオス。だがリバースはそれを左足を引いてかわし、同時に反撃の右拳をディミオスの顔に叩きこむ。

「ブフゥオッ!?」

 吹き飛び、アスファルトの上をもんどりうって跳ねていくディミオス。その姿を目で追いながら、リバースは左腰のバックルを右腕に取りつける。

《Full Open》

「イヤァッ!!」

 エネルギーの渦巻く右拳を固め、両足を揃えて跳躍するリバース。

「ば、馬鹿な……ッ!? ハッ!?」

「ディイヤァアッ!?」

 そして剣を支えに立ち上がろうとするディミオスの胸に、光の螺旋に包まれた右拳を叩きこむ。

「ゴハァッ!?」

 叫び、再び吹き飛ぶディミオス。その軌道を睨み据えながら、リバースは前腰のバックルを右足のすねに装着する。

《Full Open》

「セエッ!?」

 そして掛け声と共に、再度両足を揃えて跳躍。

「イィィヤアアアアアアアアッ!!?」

 気合の声と共に、宙を舞うディミオスの体へ、光の渦巻く右の飛び蹴りを突き刺す。

「ぐぅおぉああああああああっ!!?」

 白い装甲を砕き、渦巻くエネルギーが爆ぜる。

 その衝撃にさらに大きく宙を舞うディミオス。リバースは反動で宙返り、両足を揃えて着地、足と背を伸ばして顔を上げる。

 断続的に火花を散らして遠ざかるディミオスを睨みながら、赤い拳を固く握りしめる。開いたそのクラッシャーからは、まるで嗚咽のように熱気が漏れ出していた。

 

 ※ ※ ※

 

 ブルーローズ本社社長室。ガラス壁の外に広がる中心街の風景を、紅茶片手に眺める神崎。その背後でドアが開き、徐々に大きくなる足音が背後に迫る。

「ノックもせず……何の用ですか? 専務?」

 静かな声音で尋ねる神崎。対して足音の主、ヴァイパーは、青い液体の封入された弾頭の弾倉を、拳銃に装填する。

「……冗談が過ぎますよ? ヴァイパー?」

 神崎が振り返りもせずに声をかける。だが返ってきたのは、一発の銃声であった。

「ウッ……!?」

 椅子の背もたれを貫いた銃弾に、神崎の体が跳ねる。そこへさらに立て続けに、二発、三発と銃弾が打ち込まれる。

 ヴァイパーが弾を打ち切った拳銃を下げると、神崎の座っていた椅子を、棘のある茨の蔦が繭のように包み込む。ヴァイパーはそれを見届けると、通信機を口元に持って行く。

「……顧問。任務、完了しました」

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