「ハァッ……ハァッ……」
ブルーローズの研究棟の廊下。血の滲んだ白いスーツ姿の天海が、息も荒く、白い壁に肩を預けながら歩を進める。
「ウ、ゲホ……ッ!?」
そして、メディカルルームの扉の前で、咳き込み、膝をつく。すると、空気の抜ける音と共にメディカルルームの扉がスライドする。それに続くモーター音と床を叩く足音に、天海が顔を上げれば、そこには電動車椅子に乗った老爺と、それに従うヴァイパーの姿があった。
「顧問……専務……?」
目の前に現れた人物の役職を呟く天海。すると、点滴や呼吸補助機の管を取りつけた老人が、くすんだ禿げ頭を撫でながら口元を歪める。
「ふん……小娘の腰巾着か……?」
「……何故、ここに……」
この場に居るはずの無い人物の姿に、天海の口から呆然とした呟きが漏れる。それに対し、老人は口端の歪みを深める。
「この会社がワシの手の中に戻った……それだけのことよ」
「バ、バカな……ッ!? 社長は!? 社長をどうしたのですッ!?」
老人の告げた言葉の内容に、顔色を変えて手を伸ばす天海。だがそれを、ヴァイパーの腕が掴んで止める。
「……殺してはおらん……もっとも、死んではいないというだけだが?」
「なっ……!?」
絶句する天海。その身をヴァイパーがメディカルルームへ放り投げる。
「あっ、ぐぅ……!?」
放り投げられた天海は、その背を固い床に強かに打ちつける。呻きながら顔を上げれば、ゆったりと腕を下ろすヴァイパーと、その陰でほくそ笑む老人の姿が目に飛び込んでくる。
「安心しろ……お主も神崎もまだ利用価値がある、殺しはせん。それに、この街の制圧はちゃんと進めてやろう。なぁに……ワシにかかれば、貴様らがもたついていた征服もたちまちに終わらせてやるわ……カァッカァッカァッ……」
笑い声を上げながら、ヴァイパーを従えて立ち去る顧問。
『社長……ッ!? 申し訳、ありませんッ!?』
駆け寄る医療スタッフの陰に、去ってゆく顧問とヴァイパーを睨みながら、天海は胸の青バラに手をやり、歯を食いしばる。
※ ※ ※
「はい、プッタネスカ。できたよ」
そう言って緑のエプロン姿の健は、得意料理を盛り付けた皿を薫へ差し出す。その指や掌には治りかけの切り傷や火傷の痕が刻まれている。オレンジのエプロンをつけた薫は、そんな健の手から料理の皿を受け取りながら、眼鏡の奥の目を伏せる。
「お兄ちゃん……大丈夫なの?」
心配そうに尋ねる薫に、健は重たい目蓋と頬を持ち上げて、笑みを返す。
「正直、堪えてはいるけどさ……腐ってなんかいられないからな……ありがとう、心配してくれて」
出来る限り普段の調子で返す健。だが薫はますます悲しげに眼を伏せる。そしてそのまま踵を返し、料理を小走りに持って行く。
「薫……」
そんな妹分の背中を見送って、健は包丁を手に次の料理に取りかかる。そうしてニンジンの皮をむく途中で、包丁を左手の親指に食い込ませてしまう。
「痛っ……」
顔を顰め、指に食い込んだ刃を抜く。その拍子に右肘が空の鍋にぶつかる。
「あっ!?」
健が驚きの声を上げる間に鍋は床にぶつかり、けたたましい音を立てる。
「……はぁ……」
健は溜息を一つついて血の付いた包丁を流しに入れ、皮むきの途中のニンジンをまな板に置く。そして鍋を拾うと、苦笑を浮かべて左隣りへ顔を向ける。
「やっちゃいましたよ、茜さ……」
そこで健は言葉を呑みこむと、口をつぐみ、拾った鍋を流しに置く。そのまま顔を伏せ、シャツの襟から、首にかかった細いチェーンの先を取り出す。そのチェーンの先には、茜に渡すはずだった銀色の指輪が輝いている。
健は輝くそれを右手に乗せると、無言でそっと握りしめる。その目元と唇は、今にも溢れそうなものを堪えて震えている。
※ ※ ※
日差しの降り注ぐ浜永市北区の霊園。形も様々な墓石が立ち並ぶ中、健は「伊吹家之墓」と刻まれた墓の前に立っていた。
羽織った緑色のジャケットの背中には、翼を広げる赤い片翼の鳥が描かれている。その下の黒いシャツの胸元には、首から下がった銀のリングが陽の光をはじいて輝く。
健は、手に持っていた供え物の握り飯の包みを墓の前に置いて、包みを開く。そして目を閉じて、音もなく掌を合わせる。
「……花は供えなくていいのか、若いの?」
不意にかかった男の声に、健は閉じていた目を開けて振り返る。
するとそこには、ウエスタンハットを被った男が一人立っていた。
男の両手は黒いグローブが包み、胸にSと刺繍されたワイシャツに黒いチノパンを着ている。男の目尻や口元に刻まれた皺からは年季と、不思議な頼もしさが漂っている。
「あなたは……?」
声をかけてきた見知らぬ男に問い返す健。それに対し、男は苦笑交じりに帽子にグローブで包んだ手をやる。
「いや、すまん。俺は流れ者の道楽親父だ……家族の墓参りか?」
「家族の墓、ですが……今日は妻の墓参りです」
「妻の……?」
男の問いに、健は洗った墓石の表面を指で撫でながら頷く。
「ええ……彼女、花見に行っても飲み食いに熱中するタイプでして……」
『どれも温かな味だったからね……』
『キミの料理が食べられなくなったら残念だ』
自分の料理を上機嫌に頬張る妻の顔が脳裏をよぎり、健は唇を結んで目を伏せる。
「そうか……俺も昔、惚れた女を亡くしていてな……若いのの気持ちは想像できなくもない」
「あなたも?」
男の言葉に健が顔を上げて問いかける。すると男はウエスタンハットに手を乗せたまま頷き、遠くの空を見る。
「ああ……決して長いとは言えない間だったが、多くの苦楽を共にしたパートナーだった……」
『パートナー……』
男が思い出すように語る失った人との関係に、健も茜と肩を並べて戦った日々を振り返る。そうしていると、男は帽子で目元を隠すようにしながら顎を引き、首を左右に振る。
「湿っぽくなったな……ま、失ったことを悲しむなと言うつもりはない。だが、死んでいった連中の為に、残された奴はそいつらが残したものを、成し遂げてやらなくちゃならない……そうだろ?若いの」
その言葉と共に帽子の陰から覗く男の目に、健は息を呑み、小さく顎を引いて首肯する。
「ええ……そう、ですね」
健が返事をしたその直後、ジャケットのポケットから、携帯電話が着信を告げる鳴き声を上げる。
「……すみません」
健は男に断りを入れると、携帯電話を取り出して展開、通話ボタンを押して耳に当てる。
「薫? どうかしたの?」
ディスプレイに表示されていた、通話相手である妹分に問いかける健。すると電話越しに、悲鳴にも似た薫の声が健の耳を叩く。
《お兄ちゃんッ! 今、商店街にブルーローズの兵隊がッ!?》
「なんだってッ!?」
薫から告げられた状況に、健は思わず声を上げる。
《皆にいきなり襲いかかってきて、お母さんたちが頑張ってるけど……ッ!!》
そこで薫の声を押し退けて、電話越しに爆音と銃声が響く。
「すぐに行くッ!」
健は言葉短く妹分に告げると、急いで携帯を畳みポケットにしまう。
「血相変えて、どうした?」
「すみません、やるべきことが出来ました」
問いかける男にそう断って、健はオーバーカムを停めた駐車場を目指し、墓石の間を走る。
黒いフルカウルのボディに赤い楕円形のヘッドライトを持つ愛車、オーバーカムに飛び乗る健。エンジンをかけ、発進の準備を進めながら、隣りに停まっている赤いバイクを一瞥する。
『なんだ……このバイク?』
ヘッド部を始めとした各所に、放射状に広がる部品を持つ、明らかに普通のものとは違う赤いマシン。そのマシンから放たれるただならぬ風格に健は目を奪われる。
『いや! とにかく急がないとッ!』
それに健は頭を振って視線を外すと、ヘルメットを被ってハンドルを握りしめる。
スロットルを捻り、愛車が唸りを上げて走りだす。坂を下りながら、霊園の駐車場を確認すると、あの赤いマシンに手をかけたウエスタンハットの男性がこちらを見送っていた。
※ ※ ※
「ひゃぁあああああッ!?」
「きゃああああッ!?」
市民たちの悲鳴が響き渡る中、警棒や拳銃を手に商店街を破壊していく黒尽くめの戦闘員たち。ガラスを割り、看板を叩き落とし、店頭の商品を路上にぶちまけ、逃げる市民を掴み捕らえてゆく。
「こんな、滅茶苦茶な……ッ!?」
「本性を、露わしたってことですよッ!」
後ろから迫る暴力の嵐から、走り逃れる薫と文香。しかし、足元を狙った威嚇射撃が二人の少女を襲う。
「あうッ!?」
「文香さんッ!?」
足をもつれさせ、転ぶ文香。慌てて切り返し、うつ伏せに転んだ友達へ駆け寄る薫。
「しっかり!」
「ご、ごめん……」
文香に手を貸し、助け起こす薫。そこへ影が覆いかぶさり、二人が顔を上げる。そこには警棒を振り上げた戦闘員の姿があった。
「ヒィッ!?」
息を呑む二人へ警棒が振り下ろされる。
「おらぁッ!?」
そこへ横合から鋭い蹴りが伸び、蹴り飛ばす。
「二人とも、早く逃げなッ!?」
ポニーテールを払い、左手をスナップさせて娘たちに逃げるよう促す亮子。その背中に頷き、立ち上がって下がる薫と文香。亮子はそれを一瞥すると、近くのガラスの割れたスポーツ用品店から金属バットを拝借する。
「おぉらぁッ!?」
そしてそれを、己を捕らえようと迫る戦闘員へ横薙ぎに叩きこむ。だが、それは警棒を盾にした戦闘員に受け止められる。
「……らぁッ!!」
「ゲェ……ッ!?」
しかし亮子は最初から計算していたかのように、戦闘員のどてっ腹を蹴りつける。そこへ別の戦闘員が警棒を振りかざして踏み込んでくる。
「しまったッ!?」
しかしその戦闘員の背後から鈍い音が響く。崩れ落ちる戦闘員の背後にいたのは、スパナを片手に握ったツナギ姿の金原であった。
「無事ですか、浅井さん!?」
「助かったよ、金原さん」
頷きあい、逃げる人々のしんがり役になるように構える二人。そんな二人と背後の人々に向かって戦闘員が雪崩れ込む。
そこへ鋭い咆哮が鳴り響く。
※ ※ ※
「イィヤアッ!?」
戦闘員を撥ね飛ばして宙を走り、着地に続いて愛車の後輪を振って停止させる健。そしてオーバーカムを降りるとヘルメットを脱ぎ、態勢を立て直す戦闘員らへ構える。
「健!?」
「伊吹君ッ!?」
「お兄ちゃんッ!?」
「お兄さん!?」
亮子たちの、己の名を呼ぶ声に振り返り、頷く健。そして再び戦闘員らへ向き直って走りだす。
「セッ! ィヤッ! ヤアアッ!!」
真正面からぶつかる戦闘員へ、左拳の連撃を叩きこみ、右から躍りかかる戦闘員を右のアッパーで殴り飛ばす。さらに左から続くものに左踵を叩きこむ。
「イヤッ! セイッ! イィヤアッ!!」
右から振り下ろされる警棒を腕を盾に受け止め、左拳と右肩をぶつけて押し返す。さらに左から掴みかかる者を左裏拳で殴りつけ、正面から迫る戦闘員の頭を右足で薙ぎ倒す。その瞬間、開いた視界の奥に、全身に針を備えた異形の姿が映る。
「汚物は……消毒だぁあああああああッ!!」
「チィッ!?」
叫びに続き、戦闘員らを呑みこんで視界を埋め尽くす炎に、健は舌打ちをしながら後ろへ飛び退く。
全身にまとわりついた煙と熱気を振り払い、前方を睨む健。その先には、熱に揺らめく空気の中、胸から炎をちらつかせるハリネズミの怪人、ファイヤーヘッジホッグの姿がある。
「存在価値も無い分際で、我等に逆らう汚物は……消毒だァッ!?!」
周囲の商店に向けて再度炎を放つ怪人。シャッターが飴細工のように溶け、燃え移った炎が店を焼いていく。
「炎がッ!?」
「出来る限り延焼を防いでッ!?」
背後から上がる悲痛な叫びの中、健は指示を飛ばし、走りだす。
「やめろおおおおおおッ!?」
「おゴッ!?」
炎を放つ怪人へ体当たりし、放火を止める健。
「セエッ!ヤアアッ!!」
そこから追い打ちに左右のワンツーを打ち込む。しかし反撃に鋭い針を備えた腕が振るわれ、とっさに首を逸らした健の頬に赤い筋が走る。
「クッ!?」
「邪魔をするなら、消毒だァッ!?」
その隙に怪人の胸の放射口が向けられ、炎が噴き出す。
「う……っ!?」
健は呻きながら、バク転で己を巻き込もうとする炎から逃れる。そして薄い煙を纏いながら、健はTの形に二つのものが繋がったドライバーを取り出す。
「消毒だの何だのと……何のつもりだッ!?」
ドライバーを握りしめ、ハリネズミ怪人を睨みつける健。対して怪人は両腕を大きく広げて嘲笑する。
「何のつもり、だと? ハハハハハッ!? こちらの買収に応じず、この土地と時間を無駄に浪費していくだけの薄汚いクズどもなど、汚物以外のなんだというのだッ!?」
その言葉に、健は眉を鋭く吊り上げる。
「人々を命を賭して守ってきた彼女と……今ここに生きる人々のために……貴様が振り撒く災い……俺がひっくり返すッ!!」
叫び、握りしめたドライバーを腰に当てる健。伸びるベルトと共にドライバーが分離、片割れが左腰に落ち着いたところから更にベルトが伸び、二つのドライバーを腰に固定する。そして左腕を腰だめに、ドライバーから離れた右手を、腕でV字を描くようにして顔の左横に添え、音が鳴るほどに握り固める。
「変……」
健はそこから右腕を腰に、左腕を右斜めに伸ばす。低い声を放ちながら、伸ばした左腕を大きく回す。そして左手が左肩の真上に掛かると左腰のバックルへ下ろし、右手で正面のバックルの左端を掴む。
「……身ッ!!」
溜めた掛け声を締めると同時に、二つのバックルを反転。最初の姿勢から左右反転した姿勢を取る。
《Ride ON》
「ハハハッ!? あっついぜぇ!? 熱くて死ぬぜぇえッ!?」
渦巻く光に包まれた健に向けて、炎が迸る。
「健ッ!?」
「お兄ちゃんッ!?」
炎に包まれた健の名を呼ぶ一同。
「ブルーローズに逆らう者は、一人残らず、消毒だぁあッ!」
ハリネズミ怪人の声が響く中、炎から真紅の左腕が突き出て、自身を包む火炎を振り払う。
赤いラインの走る焦げ目一つない緑の装甲。炎を流す風に靡く、血に染まったような真紅のマフラー。緑の仮面に備わった赤い目は、敵を見据え曇り一つなく輝いている。
「仮面ライダー……リバースッ!」
周囲に渦巻く炎を空へ送り、左肘を前に、右拳を顔の横に添えて構えるリバース。その姿に、背後から安堵の息とざわめきが立ち上る。
「なんだとッ!?」
「イィヤアッ!!」
驚愕の声を上げる怪人へ踏み込み、赤い左拳を突き出すリバース。
「グッ!?」
呻きながら拳から身を逸らす怪人。
「セッ! セイッ!!」
続けて放つ右拳も怪人に捌かれる。だが、すぐさま上体を切り返して左肘で横顔を叩く。
「グ!」
「セェヤッ!!」
呻き、怪人が仰け反った隙に、リバースは右膝をがら空きの脇腹に叩きこむ。
「ゲッ!? グゥ!!」
そして怪人が反撃に伸ばす爪を頭を下げてかわし、頭上を横切った腕を掴み、投げ飛ばす。
「イィヤアアアアッ!!」
「ゴハッ!?」
轟音を上げて背中からアスファルトにぶつかる怪人。仰向けの怪人へ追撃の右拳を振り下ろすリバース。
「イヤァッ!!」
だがその右拳は、怪人の腕に生えた赤熱化した針毛に阻まれる。
「アヅッ!?」
拳を襲う針と熱にリバースが右拳を引く。その刹那、怪人の胸から炎が噴き上がる。
「グッ!?」
とっさに腕を交差して跳び退き、炎から逃れるリバース。
「ヤッ!?」
追撃の炎を横っとびにかわし、転がって受け身を取る。その瞬間を狙った炎が迫る。
「消毒だァアアアッ!?」
「セェヤッ!!」
眼前に迫る炎をリバースは首から外したマフラーで振り払う。そのまま真正面から吹きつけられる炎を、マフラーで振り払いながら突撃するリバース。
「ヤアアアアアアアッ!!」
そして気合の声と共に、マフラーを右腕に巻き付け、眼前に広がる炎の壁に叩きつける。炎を突き破った拳はそのまま吸い込まれる様に怪人の胸を打つ。しかし、その腕を掴まれ、零距離から炎が放たれる。
「燃えろやああああッ!?」
「アッグゥアアアアアアッ!?!」
火炎の直撃に叫ぶリバース。そこへさらに赤熱化した爪が襲いかかり、煙の上がる装甲から火花が散る。
「グゥッ!? アアアッ!?」
「くたばれっ!?」
たたらを踏み、後退するリバース。そこへハリネズミ怪人は全身の針毛を赤熱化させて転がり迫る。後方に居る人々を一瞥し、リバースはその場に足を止めて体当たりを受け止める。
「グゥ! オ、オオオオオオオッ!?」
赤く、高熱を帯びた巨大な棘球を両腕で受け止めて、リバースはアスファルトを削りながらブレーキをかける。
「……ッ! アアアッ!!」
背後に市民たちが迫る中、リバースは装甲に火花を弾けさせながら、両足を地面に埋めて丸まったハリネズミ怪人を投げ飛ばす。
リバースは展開したクラッシャーから、体内に溜まった熱を吐き出しながら、両手足を支えに着地する怪人を睨み据える。
「さあて、後ろの汚物もろとも、消毒タイムだァッ!!」
叫び、頭の針毛を赤熱化させながら、胸に炎を灯す怪人。それを睨み、リバースはクラッシャーを閉じ、人々の盾になるように両足を踏みしめる。
「死ねッ! リバースッ!!」
怪人の胸に灯った炎が強まり、臨界を迎える。
「させんッ!!」
まさに炎が放たれようとする瞬間、その声と共にグレネードが怪人の胸を撃つ。
「なあッ!?」
爆発に出鼻をくじかれたところへ、金属バット、ボール、バケツ、バールのようなものと様々なものが怪人へぶつけられる。
「今だ、健!?」
「やれッ! ライダーッ!!」
「リバース・ライダーッ!!」
「行って! お兄ちゃんッ!!」
背を押す人々の声に振り返り、リバースは左腰のバックルを右腕に取り付けて頷く。
《Full Open》
渦巻くエネルギーを纏った右拳を、弓を引くように引き絞るリバース。
「セィイヤァアアアアアアアアッ!!」
気合の声と共に繰り出された右拳から、渦巻くエネルギーが空を貫いて走り、怪人の胸を真直ぐに射抜く。
「ゴフッ!?」
苦悶の声を上げ、全身から炎を吹き上げる怪人。それを真正面に見据え、リバースは正面のバックルを外し、右脚に取りつける。
《Full Open》
右足にエネルギーが渦巻くと同時に、リバースは両足を揃えてバク宙で跳び上がる。
「イヤァッ!」
そして信号機を蹴り、怪人目がけて彗星のような飛び蹴りを放つ。
「は・ん・て・んッ!!」
リバースは叫びながら空中を真直ぐに突き進み、パンチショットが貫いた箇所とまったく同じ場所に蹴りが突き刺さる。
「ギィヤァアアアアアアアアッ!!?」
怪人の絶叫が響く中、蹴りの突き刺さった打点が光り、爆ぜる。リバースはその反動で跳躍、宙返りして亮子や薫たち人々の前に着地する。
「ライダー……キックッ!!」
クラッシャーからの排熱と共に技の名を告げ、続けて展開したクラッシャーを閉じる。
「うぅわらぶぁああああああああッ!?!」
断末魔の絶叫を上げて弾け飛ぶ怪人。
その爆風を受けながら、リバースは空を見上げ、拳を握る。
『見ていてください……あなたと二人で守ってきたものは、俺が必ず守りぬいて見せます』
そして拳を解くと、家族や仲間を始めとした市民たちへ向き直る。
※ ※ ※
変身を解除し、殺到する人々にもみくちゃにされる健。その様子を遠目に眺めていたウエスタンハットの男は、深い皺のある口元に笑みを浮かべ、踵を返す。
「様子次第じゃあ喝を入れてやるつもりだったが……先輩方の見込み通りだったな……あいつなら、何も心配はいらんか」
呟きながら黒いグローブに包まれた手で帽子を脱ぎ、ヘルメットと交換する。そして傍らに止めてあった、放射状のスパークを意匠化した飾りのついた赤いバイクに跨る。
「この街はお前が守るんだ……任せたぞ、後輩?」
そう言って男は、再び人々に囲まれた健を一瞥すると、口元の笑みを深める。そして前を向くと、赤い愛車のスロットルを捻り、エンジンを唸らせて発進させる。