「バカなッ!? ヘッジホッグが旧式の実験体如きにッ!?」
しわがれた驚きの声が、夜景を背負った社長室に響き渡る。その声の主、顧問と呼ばれる老人が黒染みのある顔を驚愕に歪めて、車イスから身を乗り出している。
「落ち着いてください顧問……御体に障ります」
それを受けて、黒いコートに身を包んだ黒い蛇の仮面の男、ヴァイパーが、いきり立った老人を宥めるように声をかける。対して、老人は口から唾を飛ばして怒鳴る。
「これが落ち着いておれるかッ!! 小娘が戯れに造らせたバッタ如きが! ワシの邪魔をしておるのだぞッ!? 用済みの、実験体一匹がッ!!」
そんな老人の姿を冷ややかに眺めながら、白いスーツの胸元に青いバラを挿した天海が口を開く。
「彼を侮るべきではありません。彼は恐るべき敵です」
その呟きに、老人が血走った目を向けてくる。だが天海は意に介した様子もなく言葉を続ける。
「彼はすでに以前の彼ではありません。00……ミゼンは潰したものの、奴が遺した力を得て、彼は大幅に力を増しました。その力を私は身を持って思い知りました」
そこで天海は一度言葉を切ると、拳を握り締めて、僅かに体を震わせる。しかし、唇を引き結んだ老人の顔を一瞥すると、口の端を笑みの形に歪め、軽く鼻を鳴らす。
「しかし……彼ならば、恐らくは以前のままでもヘッジホッグを討ち倒していたでしょう……なぜならば彼は……」
「仮面……ライダー……」
言葉を継いだヴァイパーに、静かに首肯する天海。対して老人は目の周りを赤に染め、唇を震わせる。
「仮面、ライダー……! 何年、何十年経とうと忌々しい奴らめ……ッ!! あの方々の望みを絶ち……今また、ワシの夢までも……ッ!?」
呻き、拳の底を肘かけに叩きつける老人。老人はそのまま拳だけにとどまらず、肩、唇、眉と体を震わせて行く。
一方、天海は報告書の束を取り出すと、それに目を落しながらそこに書かれた内容を口にする。
「我らが資金援助をしている組織から、リバースライダーとは違う『仮面ライダー』と交戦したという報告が上がっています……さらに先の一件以来、この街でも我々に対する疑念の声が上がっています」
その報告に、老人は再度肘かけを殴りつける。
「お・の・れェェ……ッ!? 仮面、ライダー……ッ!!」
煮え滾る様な憎しみを口から漏らし、老人は顔を上げる。
「……殺せッ!! どれからでも良いッ!! 殺せェ……ッ、ゲッホ! ゴホッ!?」
憎悪の叫びを上げ、咳き込む老人。そのまま咳を続ける老人の肩へ、ヴァイパーが労わる様に手を添える。
「お言葉の通りに……しかし、今は気をお鎮めください。お薬を用意させます」
「ゲホ、ゲホ……! お、おのれェ……ライダーどもめぇ……ッ!」
老人のもたれかかった車イスを押し、ヴァイパーは社長室を後にする。
天海はそれを見送ると、部屋の隅に置かれたカプセルへ目を向ける。
その中には、茨で出来た繭が収められている。
天海はそのカプセルに歩み寄り、その外壁にゆっくりと指を這わせる。
「社長……必ずお助けいたします……! 我等の街を取り戻しましょう」
※ ※ ※
「あ、お兄さん! コレ見てくださいよ、コレ!」
「分かった分かった。ちょっと待って」
ベレー帽を頭に乗せ、首からカメラを下げた少女、文香が店に飛び込んできた勢いのまま、地方紙を押しつけてくる。健は空のトレイを脇に挟み、押し付けられた地方紙を受け取って目を落す。
「どれどれ……」
「その隅っこの小さい記事ですよ」
文香の示した先に目を向けると、そこには「商店街を護ったライダー!その真意は!?」という見出しの記事があった。内容はライダーをテロリストとするブルーローズの発表への疑念を投げかけるものであった。
「これは……」
「分かってくれるのは、ここにいる人だけじゃないんですよ!」
両手を握りしめ、興奮気味に訴えてくる文香。そんな文香に、健は笑みを送る。
「ありがとう、文香ちゃん」
健の礼に文香が満足げに頷く。すると奥からオレンジ色の私服に身を包んだ薫が顔を出す。
「あ、文香さん来てたの?」
「いや、ちょっとカオルッチ! 来てたの? って冷たいじゃないですか!? 商店街が襲撃されたばかりだから様子見に来た友達にッ!?」
縋りつくような文香に苦笑して、薫は首を左右に振る。
「だからカオルッチは止めてって言ってるのに……」
「どこか遊びに行く約束してたんじゃなかったのか?」
健がじゃれあう二人に尋ねると、薫と文香は揃って首を左右に振る。
「怪人が出るだけじゃなく、行方不明になる人も増えてるって聞くし……あんまり外に出るのは」
その薫の言葉に文香が頷き、続く。
「そうなんですよ。山に建てられた電波塔で何かさせられているとか、そこが怪人たちの基地になっているとか……」
『山の電波塔……破壊し損ねたあの施設か……今夜にでも確かめに行こう』
文香の口から出た噂話に、健は首から下げた指輪を左手で握りながら心の内で呟く。そして、二人に笑みを向ける。
「そうなのか。ともかく、文香ちゃんもせっかく来たんだし、ゆっくりしていってよ。後でおやつでも持っていくから」
健のその言葉に、薫と文香は揃って頷く。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「はい! お言葉に甘えさせてもらいます!」
※ ※ ※
日の傾いた頃、夕日に赤く染まったスカーレットジョーカーの前。ヘルメットを被り、オーバーカムに跨った健は、店から出てくる文香と、その見送りに出てきた薫の姿を眺めている。
「いやあ、すみません。わざわざ送ってくれるなんて」
後頭部を掻きながらの文香の言葉に、健は首を横に振って、答える。
「構わないよ。あんな噂が流れてるのに、一人で帰せないしね」
言いながら健は歩み寄ってくる文香へ、ハーフタイプのヘルメットを渡す。そこで薫が健と文香を交互に見て口を開く。
「じゃあ二人とも、気をつけてね?」
その薫の言葉に健が頷こうとした瞬間、不意にエンジン音が轟く。
「何ッ!?」
エンジン音のした方角へ、健が顔を向ける。するとその隣りを黒いバイクに乗った黒尽くめのバイクが二台通り過ぎる。
「きゃあああッ!?」
「ひゃあああッ!?」
「薫ッ!? 文香ちゃんッ!?」
二人の悲鳴に首を切り返す健。そこには薫と文香をそれぞれに抱えて遠ざかる、アントライダーに跨った戦闘員二人の背中があった。
「チィッ!? このッ!!」
健は舌打ちと共にオーバーカムを発進させようとする。だがそんな健の頭上に不意に影が覆いかぶさる。
「ハッ!?」
悪寒に従いとっさに頭を下げる健。視線を巡らせて振り仰げば、頭上に光が閃く。
「グアオッ!?」
「クッ!?」
短い咆哮と共に迫る輝く爪を、健は右腕を立てて受け止める。
「グルルルルル……ッ!」
鮮やかな黄色に黒い縞の毛皮に包まれた腕を突き出す虎怪人。その唸り声と共に光の爪が健の眼前へ伸びる。健は遠ざかるアントライダーを一瞥すると、眼前の虎怪人へ鋭い目を戻す。
「退けッ!!」
そして腕を跳ね上げると同時に、腹を蹴り、その勢いのままスロットルを捻って愛車を発進させる。
唸りを上げて加速するオーバーカムのバランスを整え、健はT字型に繋がったドライバーを取り出し、腰に装着する。そしてじりじりと迫る戦闘員の背中を睨み据えながら、両手をバックルに掛ける。
「変……身ッ!!」
溜めを入れた掛け声と共に二つのバックルを反転、渦巻く光がオーバーカムごと健を包む。
光を突き破り、現れるリバースとオーバーカム。妹分達を拉致した戦闘員たち目がけアクセルを掛ける。その瞬間、頭上からレーザーが降り注ぐ。
「クッ!?」
体を左右に振って降り注ぐ光から愛車を逃がすリバース。路面に弾ける火花の間を縫うように蛇行するオーバーカム。それによって生じた遅れに、詰まりかけていた差が再度開く。頭上を見れば、壁を蹴って跳躍した虎怪人の右目に光が集まっていた。
「チッ!!」
リバースは舌打ちと同時に体を傾け、怪人の視線の先からオーバーカムを外す。逃げるオーバーカムとリバースを追うようにして、レーザーがアスファルトを焼いて迫る。そのまま歩道際に追い詰められるリバース。だがそこでレーザーが途切れ、虎怪人が爪を振り上げて落下してくる。
「死ねィッ!!」
「クッ!?」
とっさに身を逸らして爪から逃れる。しかしオーバーカムのリア部を怪人の腕に掴まれてしまう。
「しまったッ!?」
リバースは叫びながらも、急増した重量と怪人が足で掛けたブレーキによって崩れた愛車のバランスを取る。
「これで逃げられまいッ!!」
両足を踏ん張り、ブレーキを掛けながら片腕を振り上げる怪人。光の爪を伸ばし背中目掛けて振り下ろされる。
「セ、エエイッ!!」
リバースは気合の声を上げ、迫る爪へ右足を迎撃に突き出す。激突の反動に乗せて足を引き、続けざまに踵から横薙ぎに振るう。踵は怪人のかざした腕を打ち、その反動を利用して足をステップへ戻す。
「セイヤァッ!?」
右足がステップを踏むと同時に左踵を振り上げる。
「甘いッ!」
だが切り返しの蹴りも虎怪人の右腕に阻まれる。
「クッ……!?」
歯噛みしながらも、左、右と蹴りを繰り出し続けるリバース。その間に、アントライダーに跨った戦闘員らが後方から迫り集う。それらと、前方を走る薫と文香を抱えた戦闘員たちを見比べ、リバースはクラッシャーを軋ませる。それに虎怪人は鋭い牙のを剥いて口の端を歪める。
「終わりだッ!リバースライダーッ!!」
サブマシンガンを片手に戦闘員が迫る中、怪人が吠え、オーバーカムのリア部を押し込もうと力を込める。
『ッ! 今だッ!!』
押し込まれた瞬間に合わせ、リバースはオーバーカムのフロントタイヤを押し込み、前輪を持ち上げる。そのまま腕の力のみで体を持ち上げる。
「なあッ!?」
「セアアッ!!?」
驚きの声を上げる虎怪人の顔を両足で踏み蹴り、愛車を怪人の手から解放させる。
「イヤアアッ!!」
その勢いのまま、前輪が道路を踏むと同時に後輪を持ち上げ、それを振り回して両脇に迫った戦闘員を蹴散らす。
そして後輪の接地に合わせてスロットルを捻り、少女達を攫った戦闘員へ向けて加速させる。
「薫ッ!? 文香ちゃんッ!?」
二台のアントライダーの後ろに付き、攫われた二人へ呼びかけるリバース。その声に薫と文香の顔が上がる。
「お兄ちゃん!」
「お兄さん!」
手を伸ばす二人へ、リバースも左手を伸ばす。しかし、そこで不意に背を数え切れないほどの鋭い痛みが襲う。
「グゥアッ!?」
降り注ぐ激痛に苦悶の声を漏らすリバース。その前方で流れ弾を受けた戦闘員の手から、薫と文香が投げ出される。
「ヒィッ!?」
「ひゃあッ!?」
恐怖に息を呑む二人の少女。
「ぐ、あああッ!!」
その姿に、リバースは背を打つ痛みに構わず、二人を受け取るためにオーバーカムから跳び込む。
リバースの伸ばした赤い腕が、二人の体を掬う様にその身の下へ差し込まれる。だがその刹那、リバースの背を一際強い衝撃が襲う。
「ガッ!? ぐ! ああッ!?」
路面に受け身を取る間もなく叩きつけられ、跳ね転がるリバース。勢いのまま、街灯の根元に背中から叩き付けられながらも、リバースは二人の安否を確かめようと顔を上げる。すると、二人を足で掴んで羽ばたく巨大な猛禽の姿が、リバースの目に飛び込んで来る。
「鳥の、怪人ッ!?」
歯噛みし、身を起こして飛び去る怪鳥を追おうと踏み込むリバース。そこへ虎怪人がその視界を阻むように飛び込み、その右目を煌かせる。
「ウゥアアッ!?!」
叫び声を上げ、光と爆発に呑みこまれるリバース。
やがて煙が晴れ、現れたのは、血塗れになって倒れた健であった。
「マフラーで防御しなきゃ、ヤバかったな……」
呻くように声を漏らしながら、健は血みどろの体を起こす。
ミゼンから受け継いだマフラーを盾にし、レーザーから受けるダメージは最小限に止めたものの、変身を強制解除されるほどのダメージを負ってしまった。
だが健は痛む体に鞭を打ちながら、転んだ愛車に歩み寄る。その目はただ一点、山に立つ電波塔を睨み据えていた。
※ ※ ※
「あうッ!?」
「くうッ!?」
固く冷たい床へ放り投げられ、痛みに声を漏らす薫と文香。なんの拘束も受けずに床へ転がされた二人は、痛みに眉根を寄せながら顔を上げる。
「ようこそ、お嬢さん方?」
するとその先には、腕と一体化した翼を広げながら嘴の端を歪める鷹の怪人の姿があった。
「ヒィ!」
怪人の姿に息を呑む二人。這って後退する二人の背に何かがぶつかる。
「へ?」
二人は揃ってぎこちなく首を動かし、振り返る。そこにはロープで拘束された人々が横たわっていた。ツナギを着た作業員と思しき者や、ブレザーの学生、主婦らしき女性など、集められた人々にはまるで統一感が無い。
「……こ、この人たちは……?」
薫が震える声で呻く。すると、鈴を鳴らすような小気味よい音が鳴り、ドアがスライドする。そこを窮屈そうに身を縮めながら、黄と黒の毛皮を持つ虎の怪人が踏み込んでくる。
「遅かったな、タイガー」
出迎える鷹怪人の言葉に、虎怪人が輝く牙をむいた笑みで応える。
「飛べるお前と一緒にするんじゃねぇ、ホーク」
そして薫と文香を一瞥すると、軽く鼻を鳴らして再度口を開く。
「おいおい、あんまり怖がらすんじゃねぇよ。これから俺達の同志になるいたいけな少女をよお?」
それに対し、鷹怪人は広げた翼を腕組みの形でたたみ、嘴を動かす。
「関係ないだろう。事が終われば、ここでの恐怖など忘れるさ……」
「違いない」
そう言って二人を一瞥し、笑みを交わす鷹と虎の怪人。そんな怪人たちに、薫は文香の肩を抱きながら、震える唇を開く。
「どう……いう、意味……?」
そんな薫の問いに、鷹怪人が笑みの形に歪んだ嘴を動かす。
「お嬢さん方には、後ろの連中も含めて、改造人間になってもらう。なに、怖くは無い。より強い生命体へ生まれ変わるだけだ」
そう言って鷹怪人は、翼を八の字に広げ、ガトリングガンの砲身で出来た足を踏み出す。
「ヒッ!?」
息を呑み、抱き合う薫と文香。床に腰を下ろしたまま、足を踏み出す怪人から逃れようと後退する二人。しかしその背は倒れた人々にぶつかり、阻まれる。それでも二人は少しでも離れようと身を寄せ合い、上体を反らす。
「無駄無駄……次に目が覚めた時には、俺達の同志だ」
眼前へ迫る鷹怪人の翼と虎怪人の腕に、薫は身を震わせて目を瞑る。
「……お兄ちゃん……!?」
薫の口から洩れる祈るような呟き。
それを聞き届けるかのように、雄々しいエンジンの咆哮が響く。
※ ※ ※
「イィヤアアアアッ!!」
夕日を背に受けながら、リバースは愛車のフロント部でガラスを突き破る。砕けたガラスが夕日とタイヤを覆う光を反射して煌く中、二人の怪人と助けるべき人々の集う部屋へ真直ぐに突っ込んで行く。
「お兄ちゃんッ!?」
「リバースライダー!!」
安堵の声を上げる薫と文香。
「バカなッ!?」
「最大出力で直撃したはずだろッ!?」
一方、驚きの声を上げて左右に散開する鷹と虎の怪人。その間を横滑りに割る様にして、リバースは薫たちの目の前で愛車を停止させる。そしてオーバーカムに跨ったまま、怪人たちを交互に睨みつける。
「おのれ、リバースライダー! ここに集めた人間を改造プラントへ送ろうというところでッ!?」
鷹怪人の嘴から放たれる言葉を聞きながら、リバースはオーバーカムを降りる。そして二人の怪人を油断なく睨み据えながら、左拳を鼻先で握り固める。
「貴様ら……性懲りもなく、人々の命を弄ぼうというのか……ッ!?」
リバースの怒りの問いに、鷹は翼腕を大きく広げ、虎も光る爪を翳して口を開く。
「派手にガラスをぶち破りやがって……ここは街の人間を操作する重要な施設だ! ここまで潰させやしねえぞ!!」
虎の口から出た言葉に、リバースは左腕を横薙ぎに振り払う。その勢いに乗って赤いマフラーが靡く。
「人の心身を侵す貴様らの計画……俺がここでひっくり返すッ!! 俺は理不尽を逆転させる者、仮面ライダー……リバースッ!!」
名乗りと同時に腕を大きく回し、左肘を前に、右肘を引いて拳を顔の横に添えた構えをとるリバース。
構えを取りにらみ合う二人の怪人と仮面ライダー。
そして誰のものともつかぬ、固唾を呑む音が、静寂に満たされた部屋に波紋を起こす。
「キィエエエエエエエッ!!」
「ガアアアアアアアアッ!!」
その波紋を引き金に、怪人が奇声と咆哮を上げて踏み込んでくる。
「セエッ!? ヤッ!」
リバースは伸びる鷹の右爪を左腕で捌き、続き振り下ろされる虎の爪を、肘を殴って止める。
「イィヤアッ!!」
更に続けて、鷹怪人の左足が変形したガトリングを、左足で蹴り上げて天井へ逸らす。激しい銃声と共に放たれた銃弾が、天井をハチの巣にする。
「きゃああああッ!?」
「な、なんだ!?」
「り、リバースライダーと、怪人!?」
けたたましい銃撃音と降り散る天井の破片に、薫と文香だけでなく、拘束された人々からも怯えの声が上がる。
「早く逃げてッ!?」
言いながらリバースは、鷹怪人の腹へ左足を突き刺す。
「ギャッ」
そして左足が床を踏むと同時に、虎怪人の振るう拳に左拳をぶつける。そこから右足を脛、脇腹、頭と間髪いれずに叩き込んでゆく。
「があ!?」
「キィエァッ!!」
声を上げる虎怪人をフォローするように、鷹怪人が横合から人々とライダーを射線に重ねて両足のガトリングを斉射する。それに対し、リバースはその場で両腕を広げる。
「グゥウ!?」
背中に火花を散らして刻み込まれるダメージに唸るリバース。その声に薫と文香は、気がついたように周囲の人々を解放し、助け起こし始める。
「早く逃げましょう! リバースライダーは私たちの味方です!」
「しかし……」
薫の言葉に戸惑う人々。それに文香は手近な人のロープを解きながら声を上げる。
「救われてきた私たちが言うんです! 信じてください!!」
その少女たちの剣幕に、人々は無言で頷き、エレベーターへ歩き始める。
「逃がすかよッ!?」
それに対して、虎怪人が右目のレーザー銃を向ける。
「! させるかァッ!!」
それを見てリバースはとっさにマフラーを外し、虎の首へ巻き付け引く。
「グェ!?」
マフラーによる締め上げに、虎怪人のあごが上がる。同時に、発射されたレーザーが天井を焼く。
「早く!?今の内です」
その間に、人々は薫の先導に従ってエレベーターへ逃げ込む。そしてその扉が閉まり、下を向いた矢印が点灯する。
「チッ!逃がさんぞッ!」
動き出したエレベーターを追って、鷹怪人が割れたガラス壁から外へ飛び立つ。
「まずい!?」
リバースはそれを追う為に、マフラーを戻してオーバーカムへ走る。ハンドルを掴み、外を見た瞬間、視界を遮るかのように虎怪人が爪を振り上げて躍りかかってくる。
「ガアア!!」
「そ・こ・を・どけぇええええッ!!」
虎の咆哮へ叫び声をぶつけながら、リバースは愛車に跨る間も惜しみ、アクセルをかけて共に走り出す。
「ゴハ!?」
怪人の胸へオーバーカムの機首が突き刺さる。そのまま怪人もろとも空へ飛び出すリバースとオーバーカム。
「このッ!?」
「グッ!」
重力任せに落下する中、リバースは怪人の目から放たれたレーザーを、首を逸らしてかわす。そしてスロットルを捻り、空中走行モードを起動させる。
「セイヤアッ!!」
甲高い駆動音を上げてタイヤを輝かせるオーバーカム。リバースは気合の声と共に空を踏み締めた愛車の機首を切り返し、シートの上に腰を持っていく。
「おおおおッ!?」
そして機首をかち上げ、虎怪人の体を夕焼けの空へ放り出す。
電波塔の先端部へ向かって、大の字になって飛んでゆく虎怪人。リバースはそれを視界の隅に収め、愛車を電波塔を形作る鉄骨へ向けて走らせる。その奥、中央部で下降するガラス張りのエレベーター。それを鷹怪人が両足のガトリングを展開して追いかける。
「逃がすくらいならば、ここで始末する!」
「……やらせるか!」
その声を聞き、リバースはオーバーカムを鉄骨が作る斜面の上を走らせ、その勢いに乗せて跳躍。鷹怪人へ弾丸のように飛ぶ。
「セイヤア!!」
大きく振った右蹴りを繰り出すリバース。しかしそれは、羽ばたきブレーキをかけた鷹怪人にかわされる。
「くッ!」
歯噛みし、マフラーの助けも使って空中で身を翻すリバース。そして深く膝を曲げて鉄骨の柱へ取りつき、足にたまったバネを使って再度鷹怪人へ躍りかかる。
「エィイヤアッ!!」
鋭い声と共に、空中を突進するリバース。
「しつ、こいわッ!!」
眼前へ迫った怪人から、苛立ちの声と共に迎撃の蹴爪が突き出される。
「フウッ!」
その足首を両手でつかみ、自身の後方へ投げ捨てる。
「このッ!?」
羽ばたきで姿勢制御をし、ガトリングの銃口を向けてくる鷹怪人。マズルフラッシュと共に猛然と迫る銃弾の嵐。それをリバースは、下方から鉄骨を踏んで登ってきた愛車につかまって避ける。
追い立てるように放たれる銃弾から逃れるリバース。そこへ、上から光の爪を振り上げた虎怪人が降ってくる。
「グオオッ!」
叫び強襲する虎怪人。
「ヤッ!?
それをリバースは、腕の力で横に飛んで回避。手近な鉄骨を蹴って反転、右蹴りを脇腹へ突き刺す。
「ガッ!?」
更にその反動を利用してバク宙。地面と水平に組まれた鉄骨を踏んで跳ぶ。そして登り続けるオーバーカムを掴み、愛車ごと逆上がりの要領で反転。ヘッドライトを地面へ向ける。
翼を広げて上昇してくる鷹怪人と、鉄骨を両の手足で蹴って跳躍する虎怪人。
「セ! ヤアッ!」
対してリバースは、愛車が鉄骨を踏むと同時に跳躍。クラッシャーから蓄積した熱気を吐きだしながら、エネルギーを集中させた両足をそれぞれに振るう。
エネルギー刃として放たれたキックシュートは、両怪人にかわされ、電波塔の柱に火花を散らす。跳躍の為、鉄骨へ手を伸ばすリバース。しかしその手をレーザーが撃ち抜く。
「アウッグッ!?」
呻き、落下するリバースへ、立て続けに銃弾が撃ち込まれる。
「グゥウアッ!?」
全身の装甲から火花が散り、痛みが止まることなく弾け続ける。しかしリバースは全身をさいなむ痛みの中、突撃する虎怪人の姿を見逃さず、首から外したマフラーを鉄骨の一本に巻きつける。そして振り子のように勢いをつけて虎の突撃をかわす。
「……あれは!?」
逆立ちの形で宙を舞うリバースの視界に、小さな光が煌く。その正体を超視覚で探る。すると金原たちと合流した文香が、カメラのフラッシュで避難完了の合図を送っている姿が確認できた。
「良しッ!!」
無事逃げおおせた薫と文香、そして市民たちの姿に、リバースは力強く頷く。その間に、鷹怪人がガトリングを乱射しながら上昇してくる。
「セアッ!!」
対してリバースは、眼下の鉄骨に両掌を叩き付け、腕の力のみで跳躍。
「なッ!?」
驚きの声を上げる鷹怪人。
「セイィヤアアアアアアッ!!」
対してリバースは空中で前転、エネルギーの迸る両手の手刀を、昇ってくる怪人の両肩に叩きこむ。
「ぎゃあああああッ!!」
付け根から裂けた翼に苦悶の叫びを上げる鷹怪人。
「ホーク!? 貴様ッ!?」
相棒の叫びにいきり立って飛びかかってくる虎怪人。
「セアッ!」
リバースは虎怪人の伸ばした腕を掴む。そしてその体を上へと流し、蹴り上げて鷹怪人へぶつける。
「グアッ!」
そこへ甲高い駆動音が迫り、空中疾走モードのオーバーカムが急降下してくる。迫る愛車と怪人を見据えながら、リバースは二つのバックルを両足に取りつける。
《Full Open》
重なり合ったドライバーの声が響き、リバースの両足を渦巻く光が包み込む。そしてその光る両足を揃え、輝くオーバーカムの後輪を踏んでカタパルトの要領で跳躍。
「き・り・も・みッ!!」
タイヤによって打ち上げられたリバースは、輝く両足を揃えて怪人に向け、錐揉み回転しながら飛翔する。
「デェエイィヤァアアアアアアアアアッ!!!」
錐揉み回転を加えた両足蹴りが、爆ぜる衝撃と共に虎怪人の胸に突き刺さる。その足はネジを巻くように胸板を抉り貫通する。
「ごぶえあッ!?」
さらに、その奥に並ぶ鷹怪人の胴へ捻りこむ。
「ぎぃえああああああああッ!?」
打点からヒビを広げながら断末魔の叫びを上げる二人の怪人。両者を貫いた勢いのまま、リバースは怪人もろとも電波塔の中枢部へ突っ込む。
そして轟音と共に、電波塔へクレーターを穿つ。中枢を破壊された怪人と塔から、軋み割れる様な音が鳴る。その刹那、リバースは蹴りの反動を利用して跳び退く。
「グゥオオオオオッ!?!」
「ウギャアアアアアッ!?!」
瞬間、二体の怪人が自身の絶叫を呑みこむほどの爆発を起こす。二人分の爆発は崩壊した外壁から中枢部へ侵入し、塔も中枢部から爆ぜる。
広がる爆発の中、リバースは車輪を輝かせた愛車と合流する。そして地面に火花を散らしながら、タイヤと左足を使って横滑りに着地する。静止した瞬間、頭部クラッシャーが開き、赤熱した内部から熱気が吐き出される。
「ライダー……トルネードッ!!」
鋭く技の名を告げ、クラッシャーを閉じるリバース。その背後で、電波塔が一際大きな爆発を起こして倒壊する。
振り返るリバースの目には、中ほどから上の無い電波塔と、その向こうで赤く輝く夕日が映っていた。