休耕中の田畑の広がる開けた場所。その一角にある不似合いな白い建物。その建物の前で、黒いオンロードバイク、オーバーカムが停まる。
「ここもか」
オーバーカムに跨ったまま、ヘルメットのバイザーを上げて呟く健。その目に映る白い建物は、窓ガラスが割れ、外壁にはところどころひびが入っている。
「電波塔に移動先として指定されていた施設は、ことごとく廃棄済みか……」
健は呟いて、オーバーカムのエンジンを切る。そしてヘルメットを脱いでハンドルに引っ掛けると、愛車のシートから降りる。
先日破壊した電波塔に残っていた情報に、移送先として示されていた施設を虱潰しに洗っていた。しかし、それらは全て健が到着する前に放棄されていた。
『攫われた人は、もう本社ビルへ移送されてしまったんだろうか……』
成果の出ない捜索に、溜息を漏らす健。そうして腰に手を当てて建物を見上げる。するとその瞬間、その窓の奥で動く何かを健の目が捉える。
『あれは……ッ!?』
健は建物内で動く何かを見た瞬間、その部屋を目がけて弾かれたように走り出す。
開け放たれたドアを潜り抜け、真新しいひびの走った廊下を駆ける。目の前に転がる足の折れた机を跳び越え、角の所々が欠けた階段を駆け上る。そして階段を上りきったところで、こちらを待ち伏せる戦闘員と出くわす。
「クッ!?」
とっさに壁の陰に身を隠す健。次の瞬間、コンクリート壁が火花を上げて削れて行く。
「ブルーローズの戦闘員!」
そう言うや否や、健は身を低くして壁の陰から飛び出す。
銃弾が頭上を空を裂いて飛ぶ中、健は足から戦闘員集団へ滑り込む。
「セイヤアッ!」
声と共に放ったスライディングキックが、先頭に立つ者の足を薙ぎ払う。
「ギ!」
バランスを崩した戦闘員の側を潜り抜け、そこから左腕を軸にして根こそぎ刈り取る様な水面蹴りを繰り出す。
「セイ!ヤアッ!」
そして回転の勢いに乗って立ち上がりながら、倒れかかってきた戦闘員を右拳で殴り飛ばす。更に腰を切り返して、対の位置に立つ戦闘員に左拳を叩きこむ。
「ギエ!」
奇声を上げ、廊下の壁に背中からぶつかる戦闘員。そこへ別の戦闘員からライフルの銃口が向けられる。
「セェア!」
健はその銃身を掴んで引き寄せ、右肘で黒いヘルメットの側面を打つ。
「ガ!」
そのまま打撃に仰け反る戦闘員から、ライフルを奪い取る健。そしてマガジンを排出させ、装填済みだった銃弾も取り出すと、銃身を握って手近な戦闘員へ振り下ろす。
「セイッ!」
「ギャアッ!?」
そこを狙い右手から迫る戦闘員。
「セアッ!」
その腹を右足で蹴り抜き、逆側から突き出されるナイフを銃で受け止める。
「セッヤッ!」
右足が床を踏むと同時に、すかさず左足で脛を蹴る。そして怯んだ隙に、ライフルごと壁へ押し込む。その瞬間、背後からナイフが伸びてくる。
「セアッ」
健はすぐさまライフルを手放して身を屈め、頭上をよぎる刃を握る手を掴む。そしてそこから戦闘員の足を払い、壁へ押し付けてあった戦闘員へ投げ飛ばす。
「フゥゥー……」
沈黙し、動かなくなった戦闘員らの中心で、健は構えたまま深く息を吐きだす。
その瞬間、一番奥の部屋から、爆音と共に包帯まみれの人物が飛び出す。
「なッ!?」
それは背中から壁へ叩きつけられ、左腕から倒れ込む。そこへ慌てて駆け寄る健。
その人物の右目とアロエの葉肉を覗かせた包帯に包まれた顔。女性と思しき体に羽織った白衣の右袖は、肩の先に中身がない。
「あなたは……ッ!?」
その特徴的な女性の姿に息を呑む健。
「うう……っ」
この女性怪人、南は呻きを漏らし、右目を開ける。そして健の顔を見るなり、真剣な眼差しを向けて口を開く。
「何をしているッ!? 逃げなさい!」
「え?」
その鋭い声が響くや否や、爆音が轟く。
「なんだ……?」
巻き起こる爆風と埃に、腕を盾にして目を細める健。開け放しの扉を中心に崩れた壁の奥、粉塵の中に巨大な影が揺らめく。
その影から、粉煙を貫いて銃弾が迫る。
「危ないッ!」
健はとっさに倒れた南を抱えて飛び退く。そして彼女を床に寝かせ、庇うように振りかえる。
「施設破壊のついでにテンペストの残りカスを捕まえようと思ったが……余計な奴まで付いてきちまったな」
すると、そんな野太い声と共に、粉塵を掻きわけて巨大な影がその姿を露わにする。
頭部から腰まで垂れた長い鼻。その両脇から伸びる捻れた白い牙。分厚い毛皮に覆われた両肩にはミサイルポッドが乗り、太い両腕は右にガトリング、左にキャノン砲を供えている。毛むくじゃらの巨体を支える太い足からも、大振りのミサイルが覗いている。
全身を重火器で固めた要塞怪人、フォートレスマンモスの威容に、健はT字を描くドライバーを取り出す。
「それは……ッ!?」
南からの驚きの声を背に受けながら、健はドライバーを腰に装着。そのまま右腕でVの字を作って拳を固く握りしめる。
「変……」
右腕を腰だめに、左腕を右斜めに延ばして大きく回す。そして左手が肩の真上にかかったところで、左手を左腰のバックル、右手を前面のバックルに掛ける。
「……身ッ!!」
二つのバックルを同時に反転。最初の姿勢を左右反転させたポーズになる。
《Ride ON》
バックルから渦を巻いて溢れ出した光が、健の体を包み込む。
「セヤッ!!」
繭を裂くように自身を包む光を切り裂き、リバースが跳び立つ。勢いのままにマンモス怪人の顔へ膝蹴りを繰り出す。だが、それはキャノン砲を供えた左腕に受け止められる。
「おぉら!」
押し返される勢いに乗り、リバースは鋭い息を吐いてバク宙。両足を揃えて床を踏み、膝をクッションに勢いを殺す。同時にバネへと変換したそれを解き放ち、左の壁へ跳ぶ。
「セェアッ!」
壁を蹴って繰り出した左の蹴りがマンモス怪人の胸に突き刺さる。だがその蹴りを受けても、怪人の巨体は子どもに蹴られた巨木のようにびくともしない。
反動に乗って跳び退くリバース。僅かに遅れて、怪人の丸太の如き腕がリバースのいた空間を薙ぐ。リバースは天井に手をつき、がら空きになった怪人の顔を両足を揃えて踏みつける。
「なッ!?」
次の瞬間、リバースの両足にマンモスの長い鼻が巻き付く。そしてリバースに振り払う間も与えず、壁へと叩きつける。
「グアッ!?」
背から伝わる押しつぶさんばかりの衝撃と轟音。視界を瓦礫が埋め尽くし、浮遊感はなおも続く。激痛の中で受け身を取ったリバースは、自身に向けられた銃口を目にして、とっさに横へ転がる。
直後、リバースのいた空間が消し飛ぶ。それを尻目に起き上がり、態勢を立て直すリバース。そこへ追撃のミサイルが眼前へ迫る。
「セイヤアアアッ!!」
それを気合の声と共に振るった、エネルギーの迸るで斬り払う。そして眼前に広がった爆煙に乗じ、マンモス怪人の懐へ踏み込む。
「セイ! イィヤアアアッ!!」
リバースの右拳がマンモス怪人の腹に沈む。すぐさま右ステップで振り下ろされる腕をかわし、刈り取る様な蹴りで脛を打つ。そこへ空いた腕が反撃に振るわれる。
「ぬうぅあッ!」
「セェヤ!」
壁を削りながら迫るそれを、リバースはバックステップで避け、左拳に集中させたエネルギーを牽制に打ち出す。それが毛に覆われた顔で弾ける中、リバースは牙を両腕で押し退けながら脇腹を蹴る。
床を磨るように振るわれる怪人の長い鼻。リバースはそれを牙を掴んで跳び越え、怪人の顔面を蹴りつける。
「ぐぅッ!?」
顔を打たれ呻く怪人。その脛へ、リバースは着地と同時に右踵を叩きこむ。そして振り上げられた腕を潜って素早く背後へ回ると、その膝裏に蹴りを入れる。
「セアッ!」
「ぬぐ!? ええいちょこまかと!」
バランスを崩しながらも腰を捻り、苛立ちを乗せた腕を振るう怪人。リバースはそれを潜りかわして、頭上をよぎる腕を壁へ押し流す。
「くっそっ!」
マンモス怪人は拳を壁に埋めたまま、その両肩のミサイルポッドを開く。凶悪な幼虫を満載したハチの巣に、リバースは大きな双眸を赤く輝かせる。
「それを待っていたッ!!」
《Full Open》
同時に前面のバックルを展開。生じたエネルギーを右足に集中させ、蹴り放つ。
「セイィヤァアアアアアアッ!!」
気合の声と共に空を奔ったキックシュートは、怪人の肩のミサイルポッドへ真直ぐに飛び込む。そしてそこに潜んでいたミサイルたちを爆発させる。
「ぶわ、おぉおおおおおおッ!?!」
断続的な誘爆に叫び声を上げながら、降り注ぐ瓦礫に埋もれて行く怪人。
「はあぁぁ……」
展開したクラッシャーから熱気を吐きだしながら、沸き立つ粉塵を前に油断なく構えるリバース。
しかし粉塵の収まった後、そこには怪人の姿はなかった。
「……逃げられた?」
呟き構えを解くリバース。そしてドライバーを反転させながら、アロエの女怪人の方へ向き直る。
「久しぶり……ですね」
健の躊躇いながらの言葉に、南は左手で体を支えながら目をそむける。
「……ええ、お前に復讐を阻まれて以来ね……仮面ライダー」
冷たい声音での返事に、健は喉まで出かかった言葉を飲み込み、口を引き結ぶ。
『……謝って済ませていいことじゃない。俺は俺の主張を押し通して、テンペストを叩き潰した。ただ許しを願っていいような軽いものじゃ……ない』
一人心中で呟く健。その脳裏には、健を認め、故郷の未来を託して散って行った強敵(とも)、ゴリラ怪人の近藤隼人の顔が浮かんでいた。
「……まあ、今回助けてもらったことには礼を言っておくわ」
その声に健が我に返ると、左手を壁につき、立ち上がろうとする南の姿があった。しかし彼女の体を支えるはずの足は、左足の膝から下がなかった。
「う……!?」
「危ない!」
バランスを崩した南を支えようと、手を伸ばして駆け寄る健。しかしそれは、彼女の鋭い眼光によって拒絶される。
足を止め、手を引く健。対して南は、壁に付いた左手と右足に力を込めて立ち上がる。
「私はお前を認めない……お前の手は借りないわ」
南はこちらにはっきりとした拒絶の言葉をぶつけ、左手右足を使ってゆっくりと荒廃した廊下を進んで行く。
「……早く、仲間に薬を持っていかないと……」
健は白衣を羽織った南の背を、周囲を警戒しながら見送るしかなかった。
※ ※ ※
休耕地が周囲に広がる中、即席の松葉杖をついて歩く南。その背を追って健がオーバーカムを押しながらついて行く。
そんな中、先を行く南が足を止め、上半身を捻って振り返る。
「どこまで付いてくるつもり? アジトの位置を探るつもりならこの場で戦うわよ?」
とげとげしい雰囲気の乗った視線と言葉に、健も足を止めて首を左右に振る。
「いえ、そんなつもりは、ただ安全なところまで……奴らのこともありますから」
その健の言葉に、南は軽く鼻を鳴らす。
「大きなお世話よ。奴らに出くわしたのは偶然なんだから」
「……ところで、あなたはなぜ、あんな所に?」
健が躊躇いつつも切り出した問いに、南は向きを戻しかけた顔を、再度背後へ向ける。
「薬品を調達するためよ。生命維持に必要な薬品程度なら、改造人間プラント跡に放棄されているわ」
そこで南は一度言葉を切って、前を向いて歩き始める。それを追って健も歩き出す。すると南が前を向いたまま再び話し始める。
「近藤が遺した同志たちを守ること……その為に出来ることは何でもするわ」
南はそう呟くと、今一度足を止め、健に右目を向ける。
「私からも一つ質問があるわ。茜は……どうなったの?」
先ほどとは打って変わり、どこか恐々と探る様な声音で問う南。
その問いに、健は薬指に指輪の輝く左手で、首から下げたリングを握る。
「妻は……家族や仲間たちを護って、白柳と……刺し違えました」
「そう……」
健の語る茜の最後。それに南は短く答えると、慌ただしく前へ向き直り、歩を進める。
「……ほんの僅かな間でも、幸せではあったみたいね」
南がそう零すや否や、前方をアントライダーに乗った戦闘員の集団と、マンモス怪人を荷台に乗せたバギーが通り過ぎる。
それを見て、南は体を強張らせて足を止める。
「あの方向……まさか奴ら、アジトに!?」
南の漏らしたその言葉に、健はヘルメットを被り、オーバーカムを起動させる。エンジンを唸らせる愛車に跨り、南の隣りへ並ぶ。
「追います! 乗って下さいッ!!」
健は言いながらドライバーを腰に装着する。対して南は包帯に覆われた頭を左右に振る。
「バカな! お前の力など……ッ!?」
「仲間を護るのでしょうッ!? とにかく乗って下さいッ!!」
南の言葉を遮り、健は拒絶を許さない強い声音で乗る様に促す。それに南は逡巡するように視線を巡らせる。
「……ッ! クッ!」
しかし、ブルーローズの連中が向かった方角を睨むと、意を決したようにオーバーカムのタンデムシートへ跨る。
「急ぎなさい、リバースライダー!」
「はいッ! 変……身ッ!!」
南が捕まったのを確かめ、健は二つのバックルに手を掛け、反転。光が溢れ出す中、愛車のスロットルを捻って発進させる。
全身を覆う光を切り裂き、リバースと南を乗せたオーバーカムが駆けだす。
「しっかり捕まっていてくださいッ!」
※ ※ ※
瓦礫と見紛うような廃ビル。その前に、量産型オーバーカム、アントライダーとバギーが停まっている。
「すでに中にッ!?」
リバースは停止した車たちの手前でオーバーカムを止める。
「南さんはここに」
そして愛車を降り、中へ駆け込もうとしたところで、包帯まみれの怪人を担いだ戦闘員二人と鉢合わせになる。
「お前らッ!」
リバースの怒りの声に、戦闘員らは担いでいた怪人たちを放り出し、腰の拳銃に手を掛ける。
「セェアッ!!」
気合の声と共に、戦闘員の銃に掛けた手を蹴り抜くリバース。続けて、その片割れの喉へ左腕を叩きこみ、壁へ叩きつける。
「ギェエッ!?」
そのまま奇声を上げる戦闘員を掴み、奥から放たれた銃弾の盾にする。仲間が盾にされているにもかかわらず、絶え間なく打ち込まれ続ける銃弾に、戦闘員の体が痙攣する。それを盾にしながら、リバースは奥へ突っ込んで行く。
「セェッ!」
絶命した戦闘員の腹を殴りつけ、奥へ押し込む。
吹き飛んできた仲間の遺体に体勢を崩す戦闘員。そこへ飛び込み、一人のヘルメットを左裏拳で砕く。続けてもう一人を右アッパーで天井へ叩きつけ、残る一人を右の蹴りで壁へ押し込む。
「グギィッ!?」
戦闘員の苦悶の声を聞きながら、リバースは真直ぐに奥へ突き進む。
「ム……ッ!?」
地下へ続く階段を下りたリバースは、鼻をつく血生臭さに口元に腕をかざす。
口元を隠したまま周囲に視線を巡らすリバース。そこで開け放しのドアからはみ出た、鉤爪付きの腕が目に付く。そこへ駆け寄るリバース。その目に映り込んだ光景に、リバースは息を呑む。
「ッ! ……貴様はッ!?」
床一面に広がるおびただしい血。鮮やかな桜色や、濁った赤黒い塊の中、ひしゃげ割れた白い物が覗く。その中心に立つ、毛皮を血で赤く汚したマンモス怪人。その足の下には、全身が包帯に覆われた、カエルを思わせる改造人間が呻いていた。
「やっぱ……ゴミはゴミか」
「止せッ!!」
踏み込むリバースの目の前で、包帯まみれのカエル怪人が血、肉片、眼球などを撒き散らして潰れる。飛び散った赤い飛沫はリバースの顔を汚す。
手を伸ばした姿勢で固まるリバース。マンモス怪人はそんなリバースを一瞥すると、部屋の隅で縮こまる包帯まみれの怪人たちへ目を向ける。
「博士が亡くなった今、再利用も難しいからな……思ってたほど旨みもなかったな。残りは全部潰しとくか」
呟き、血塗れの足を踏み出すマンモス怪人。リバースは歯噛みし、その背を目がけ踏み込む。
「させるか!」
「おらぁ!」
踏み込んだリバースに合わせ、拳を突き出すマンモス怪人。息を呑み、眼前に迫る巨岩にも似た拳へ、とっさに両腕を盾にするリバース。
「ぐあッ!?」
腕の盾を突き破り、リバースの身を貫く衝撃。足が床から離れ、廊下に背が打ちつけられる。
「あっ……が……ッ!?」
回転する視界の中、背に続き、左肩、右腕と連続で痛みが走る。うつ伏せになる形で停止したリバースは、痺れに苛まれる両腕を支えに身を起こす。
「故郷の為に戦うってのはまだ分かる……普通なら大切な物だからな……まだ分かる」
そう言いながら、マンモス怪人は左のキャノン砲を構える。その銃口に奔る光に、リバースはすぐさま横へ転がる。直後、轟音と共に巻き起こった衝撃波にリバースの体が宙を舞う。
「くッ!?」
辛うじて受け身を取り、身を起こすリバース。そこへ、今度は右腕のガトリングが向けられる。
「だが、敵の為に戦うってのはどういうことだ? しかもこんなリサイクルも利かねえゴミどもの為に!」
瞬間、銃口から猛然と吐き出される銃弾。
「リバースライダー! 皆は!?」
更にタイミング悪く背後に現れる南。リバースはその姿を一瞥し、その場に足を止めて迫る銃弾に備える。
「ぐぅああああああッ!?」
銃弾の嵐に、リバースの全身から絶え間なく火花が上がる。
「ぐ、う、おお!」
だがリバースは装甲をへこませ、関節の隙間から血を零しながらも、両の足で床を踏みしめて立つ。
「……お前は、いったい、なぜ……」
背後から投げかけられる、震える声での途切れ途切れの問い。それを背に、リバースは拳を固く握りしめながら、左肘を前に、右腕を大きく引いて右拳を顔に添えた構えをとる。
「街を、人々を害さないのなら、俺にとっては守るべき生命だ……かつて戦った相手だろうと、関係ない!」
その鋭い声と共に、リバースは顎部クラッシャーを開き、熱を帯びた息を吐き出す。
「俺は命を汚し、奪おうとする流れを押し返す者……仮面ライダー、リバースッ!!」
名乗りを上げると同時に、クラッシャーを閉ざし踏み込む。
「なあッ!?」
「セェアッ!」
銃撃を放つ間も与えず、懐へ踏み込んだリバース。突進の勢いのまま、右拳を驚きの声を上げる怪人の腹へ突き刺す。
「ごふ……!? お、のれッ!」
暴風を帯びて振るわれる拳を潜り、リバースは怪人の右膝を蹴り抜く。
「セ! イヤアッ!!」
さらに続けて左蹴りを右足に叩き込み、続けて大きく振りかぶった右拳を腹へ打ち込む。だがその腕を怪人の長い鼻が絡め取る。
「クッ!?」
そのまま太い牙で打たれ、骨へ響く衝撃に歯を食いしばるリバース。そして今度は牙の先端へ突き刺そうというのか、マンモス怪人が鼻を伸ばして上体を引く。
「そこだッ!!」
その瞬間、リバースは伸びきった鼻を左手のチョップで斬り上げる。
「ギャアアアッ!?」
鏡のような切断面から遅れて血が溢れ出し、悲鳴を上げるマンモス怪人。リバースは右手に巻き付いた鼻を振りほどくと、すかさず牙の一本を肘で叩き折る。
「セェアッ!!」
そして気合の声と共に、折れた牙の先端を怪人の右足へ突き刺す。
「ぬっがぁッ!?」
その痛みと蓄積したダメージに怪人は膝をつく。
「セアッ」
その隙を逃さず、リバースは怪人の左膝を踏んで跳躍。空中で左腰のバックルを右腕に取り付ける。
《Full Open》
螺旋を描く光に包まれた右腕を振りかぶるリバース。その輝く拳を、ミサイルポッドの誘爆で出来た左肩の傷へ打ち込む。
「ぶぅあぁおぉおおおおッ!?」
左肩から光の亀裂を広げ悶え苦しむ怪人の体を蹴り、身を翻して両足を壁に付くリバース。その右足には前腰のドライバーがすでに装着されている。
《Full Open》
僅かな間ではあるが、充填したエネルギーを全解放、右足を輝くエネルギーが渦巻き包む。
「デェイィヤアアアアアアアアアアッ!!」
壁を両足で蹴り、再び跳ぶリバース。その突き出した右足は、怪人の亀裂の走った左胸を真直ぐに射抜く。
「ごぶぅああああああああああああッ!?」
怪人の左胸から迸るエネルギーが爆ぜる。その衝撃に乗ってリバースは飛び退き、膝をついて着地。同時に、開いたクラッシャーから熱気を吐き出す。
「ライダー……キックッ!!」
排熱を終えたクラッシャーが音を立てて閉まる。それと同時に、マンモス怪人の体が膨れ上がる様に爆発する。
その爆風に真紅のマフラーを靡かせるリバース。その前には、犠牲者たちの血肉によって描かれた惨状と、蝕まれた身を寄せ合う改造人間たちの姿があった。
リバースはそんな改造人間たちに背を向け、出口に向けて歩み出す。
「待ちなさい」
しかし、南の横を通り過ぎようとしたところで呼びとめられ、振り返る。
「……お前は、ここしばらくの行方不明事件の被害者、改造人間被検体として拉致された人々を探している……そうよね?」
南の真剣な眼差しと問いに、リバースは首を縦に振る。
「はい……しかし、分かっている施設はことごとく廃棄済みで……」
「その人々の移送先には心当たりがあるわ。本社ビルのラボとは違って、生産に特化した最大の施設だからまず間違いないわ」
静かな声音でそう告げる南。その姿を、リバースは赤く大きな両の目で、一筋の光明を逃さぬように見据えた。