仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

27 / 30
第二十七話 強襲

《……現浜永市市長、中田島茂臣氏が多額の献金を受けていた疑惑について、献金を行っていたとされる企業、ブルーローズ代表取締役社長、神崎明日香氏からの説明は一切なく……》

 画面の向こうで女性キャスターがニュースを読み上げる。その内容に、老爺は自身の腰かける車イスに拳を叩きつける。

「お、おのれェ……愚民どもがァ! 小娘の戯れとはいえ、どれだけ我らが金と時間をかけてきてやったと思っておるのだ……!」

 浜永市中心街を眼下に一望できる社長室。

 ガラス張りの壁を背負った老人は、目の周囲を怒りで赤く染め、枯れ木のような腕の先に拳を固く握りしめる。

 その傍ら、蛇の仮面を被った黒衣の男ヴァイパーは、老人の睨みつけるモニターを眺めながら呟く。

「よくない流れになってきました。この街からは手を引くべきかもしれません」

 その側近の言葉に、老爺は再び車イスの肘置きを殴りつけて顔を上げる。

「バカなッ! 天海の若造を始めとした小娘派を潰してもおらんのだぞ!?」

 そこで一度言葉を切り、憎々しげに舌打ちをする老人。

「第一、各国の支社もワシの思うように動かん! そんな状態で何処へ……」

 その顧問の言葉を遮り、モニターの映し出すものが切り替わる。

《大変です専務ッ!!》

 不意に、画面に大写しになった黒いフルフェイスヘルメット。アント兵からの上擦った声での報告に、ヴァイパーが一歩足を踏み出して応える

「どうした、何をそんなに慌てている?」

《り、リバースライダーッ! 仮面ライダーリバースが本社ビルに強襲しました!》

 その報告に目を向く老人。

「なんだとッ!?」

 対してヴァイパーは極めて冷静な声音で、画面の向こうに指示を出す。

「襲撃を受けたブロック付近に待機している改造人間を迎撃に向けろ。指揮は天海に執らせろ」

《ハッ。ただちに戦闘隊長を呼びだします》

 その返事と共に暗転するモニター。それを見ながら、ヴァイパーは口元を笑みの形に歪める。

「さて……どう出る?」

 

 ※ ※ ※

 

 三階上まで吹き抜けになった広いホール。折れた観葉樹やガラス片が散乱する中、リバースは上から降り注ぐ銃弾を走ってかわす。

 行く手を阻むように迫る黒尽くめの戦闘員たち。

「セェア!」

 先頭に立ってナイフを振りかざす戦闘員を左フックで殴り飛ばし、続く者へ右ストレートを叩き込む。右前方から躍りかかる者の腹を蹴り抜き、さらに左前方から突き出されたナイフを持つ腕を掴み、上から射撃を行う連中の方向へ投げ飛ばす。

 ガラス張りの手摺を砕き、射撃チームを薙ぎ倒す戦闘員。それを見ながら、リバースは背後から迫る雑兵を蹴り飛ばす。そしてすぐさま両足を揃え、跳ぶ。

「イヤァッ」

 立ち直りかけた射撃チームの一員に、飛び込み様の膝蹴りを叩き込むリバース。更に背後で立ち上がった者に左肘を突き刺し、壁に背を預ける戦闘員を左の蹴りで壁に押し込む。その瞬間を狙い、左側面から突き出されるライフル。リバースはその銃身を取り、持ち主もろとも階下へ投げ飛ばす。

 階下からの鈍い激突音が背に当る中、茶褐色の体色に長い触角を持つ昆虫型怪人が、側面から踊りかかってくる。

「クッ!?」

 素早いゴキブリ怪人の体当たりを、とっさに両腕を交叉させて受け止めるリバース。続けて繰り出される高速の右拳を左手で捌き、更に続く左拳を受け止めつつ後退する。そのまま左右の蹴り、拳と連続で繰り出される攻撃を捌き続けながら、リバースは奥へ奥へと後退していく。

「フンッ!」

 そして階段の手前で振るわれた大振りの拳を紙一重でかわし、カウンターの左肘を突き刺す。

「セイヤア!」

 その隙にゴキブリ怪人を肩の上に担ぎ上げ、階段の下へ投げ落す。

 しかし息をつく間もなく、銃声と共にリバースの周囲で火花が弾ける。

「クッ!」

 追い立てるように迫る銃声と足音から逃れるように、リバースは階段を駆け上がる。

 それを迎え撃つように、ナイフを持った戦闘員が降りてくる。

「セ! イヤアッ!」

 リバースは左右のワンツーを先頭の者へ叩きこむ。続く二番手が突き出したナイフをその手首ごと掴み、腹へ拳を突き刺す。怯んだそれを後方へ投げ飛ばし、三番手を肩からの体当たりで踊り場の壁へ押し込む。

「セエアッ!」

 そして、階下から挟み撃ちにしようと昇ってきた戦闘員の顔面を、突き出した踵で蹴り抜く。

「ギィ!?」

 奇声を上げて転がり落ちて行く戦闘員。それを尻目に、リバースは右のチョップで手近な戦闘員を薙ぎ払い、階段を駆け上る。

 そしてリバースが開けたフロアへ踏み込んだところで、長く太いものが横合から襲いかかる。

「ぐあッ!?」

 とっさに右腕を盾にして、棘の生えたそれを防ぐ。しかし、その一撃の勢いに押され、左側へ押し飛ばされるリバース。膝を曲げ、辛うじて壁際で踏ん張って顔を上げる。その眼前には一際太く鋭い棘の生えたムカデの尾が迫る。

 だが次の瞬間、尾とその主である天井に張り付いたムカデ怪人から、激しく火花が爆ぜる。

「ギャ!」

 天井から剥がれおちるムカデ怪人。リバースは目の前の尾を掴み、脇へ抱え込むと腰のひねりに乗せて振り回す。

「セエアッ!」

 そして気合の声と共に窓ガラスへ向けて放り投げる。

 ガラスの割れる破砕音と共に、地上へと消えて行くムカデ怪人。それを見送るリバースの下へ戦闘員が殺到する。

「クッ!」

 周囲を睨みつけクラッシャーを軋ませるリバース。だが、その戦闘員らをも巻き込んで銃弾が雨霰と降り注ぐ。

 リバースはとっさに手近な戦闘員を盾にして銃撃を凌ぐ。

 その間に、白い仮面の戦士ディミオスと、それに率いられた蜂を思わせる女戦闘員達が、銃撃に怯んだ戦闘員らを蹴散らしてゆく。

 左手に逆手に持った剣で、戦闘員を脇から肩にかけて切り裂くディミオス。続けて右手に持った三角形のシルエットの銃で、黒いヘルメットのバイザーを撃ち貫く。

「何ッ!?」

 仲間であるはずの存在を容赦なく殲滅する姿に、リバースは驚きの声を上げながら、捕まえていた戦闘員の背骨を蹴り、別の戦闘員へぶつける。そんなリバースへ、ディミオスは驚き戸惑っている戦闘員を蹴りつけながら、青く大きな目を向ける。

「協力しましょう、リバースライダー」

 そう言って駆け寄ってくるディミオス。リバースはその頭上を飛び越え、ディミオスの背後から襲いかかる戦闘員の顔を鞭のようにしなった右足で蹴り抜く。同時に、背後で鋼鉄を切り裂くような鋭い切断音が鳴る。そしてリバースとディミオスは背を合わせ、それぞれの右側から迫る戦闘員を蹴り飛ばす。

「どういうつもりだ?」

 構え直し、背後へ問いかけるリバース。対してディミオスは、左手の剣を右の銃の先端に組み合わせながら答える。

「このビルに巣食った害虫どもを根こそぎ始末する。その為には貴方の襲撃に乗じた方が効率がいい……敵の敵は味方、ということですよ」

 それを聞きながら、リバースは左手刀を振り抜いて放つチョップショットで正面を牽制。続いて右から迫る戦闘員の鳩尾へ肘を突き刺す。

「俺にとっては一纏まりの敵だ!」

 吐き捨て、一蹴するリバース。それに続いてディミオスが大きく身を捻りながら、銃と合体した剣を横薙ぎに振るう。リバースは身をかがめ、回転するディミオスの側を潜り抜けると、左足で戦闘員の顎を蹴り上げる。

「それは誤解です。我等の目的は社長の望み、この街、浜永の永遠の繁栄と……この地から始まる全人類の進歩です」

 フロアの奥への道を塞ぐ戦闘員へ引き金を引きながら、ディミオスが語る。その開けた道へ駆け出すリバース。そのすぐ後ろに走りながら、ディミオスは話を続ける。

「繁栄を望む我等と、支配欲に取りつかれた悪しき者どもの残りカス。一緒にされるのは心外です」

「散々命を弄び、嘲笑っておいて……今さらそんな言葉を信じろというのか!?」

 走る二人の前を遮ろうと躍りかかる戦闘員。リバースはそれらを右の手刀で薙ぎ倒し、左の拳で壁へ叩きこんで道をこじ開ける。

「確かに……ではこう考えてはどうでしょう? 強敵を前に体力を温存するために、お互いに利用し合う。と」

 リバースが上体を動かすたびに、銃声が鳴り、装甲すれすれを突っ切ったエネルギー弾が、距離を取ってライフルを構える戦闘員らを撃ち抜いてゆく。

「こちらをフォローしろ、とは言いません。せめてこの場は互いに攻撃し合わないこと。それだけで構いません」

 それを聞いて、リバースはナイフ片手に飛び込んできた戦闘員を右拳で殴り飛ばしながら、考えをまとめる。

『……確かにヴァイパーが健在である以上、出来る限り他の怪人で消耗したく無い……ここは、仕方ない』

 そして続いて躍りかかってきた戦闘員の腹を蹴り抜きながら頷く。

「分かった……だが街をお前らの好きにはさせない!」

 譲らない個所ははっきりとさせながらも、了承の返事を口にするリバース。すると戦闘員を打ち抜く銃撃と共に満足げな答えが背後から放たれる。

「ええ……では、呉越同舟と行きましょうか」

 両者が言葉をかわすや否や、両腕に大きなハサミを持つカニ怪人が扉を破って立ち塞がる。

「セェッ!」

 短い気合の声と共に放たれたリバースの右拳が、カニ怪人の胸部甲殻を撃ち砕く。

「ハァッ!」

 そして、続くディミオスの斬撃が、痛みに仰け反ったその首を刎ねる。その屍をはね退け、両者は奥へ駆け込んでゆく。

 

 ※ ※ ※

 

《ディミオスと近衛部隊のワスプ兵、更に怪人たちの半数が造反! リバースライダーとディミオスの侵攻、止められません!!》

「な・ん・だ・とぉ!?」

 悲鳴にも似たアント兵からの報告に、拳を震わせるブルーローズ特別顧問。対してヴァイパーは僅かに顎を引いて頷く。

「ふむ……早くしなければここも危険ですね。顧問、社長を連れて屋上へ。ユナイテッド・ショッカーに提供している拠点へのヘリを用意させます」

「バカな! ワシに逃げろと!? そもそもこの小娘を始末しておけばこんなことには!」

 ヴァイパーの提示した案に、茨繭の詰まったカプセルを睨みつける老爺。そして目を怒りにぎらつかせながら手元のリモコンの赤いスイッチに指を伸ばす。しかしその手をヴァイパーが掴み止める。

「なりません。社長の存在はディミオスに対するこの上ない盾となります。殺してしまってはディミオスが逆上し、抑えることが出来なくなります」

「ぬ……ぐ、うぅ……!!」

 悔しげに歯噛みし、顧問はリモコンから手を放す。それを確かめ、ヴァイパーは僅かに頷いて露わになっている口を開く。

「では急ぎ、屋上のヘリポートへ向かってください。ディミオス……天海の手引きがある以上、時間は残っていないでしょう」

 そう言って顧問に背を向け、扉へと足を向けるヴァイパー。その背中を、半ば睨むようにしながら顧問はしわがれ声を投げかける。

「お前はどうするのだ? ヴァイパー」

 その言葉に、ヴァイパーは体を半分切り返して振り返る。

「奴らを潰して参ります」

 ヴァイパーは漆黒のコートの裾を翻し、再度扉へ向き直る。

 

 ※ ※ ※

 

 リバースの赤い右足と、ディミオスの白い足が同時に扉を打つ。歪み、火花を上げて破れる扉。

 その先に広がる空間へ踏み込んだ二人の赤と青の目に、漆黒のコートの背中が飛び込んでくる。

「やはり刃向ったか、ディミオス……そしてようこそ、リバースライダー……」

 不敵な笑みに歪めた唇から言葉を紡ぎながら、剣を片手に振り返るヴァイパー。

「専務……」

「ヴァイパーッ!」

 待ち受けていた敵の姿に、左肘を前に、右拳を顔に添えて身構えるリバース。その隣では、銃剣を持つ右手を足の前に提げて構えるディミオスの姿があった。

 にらみ合う二人と一人。周囲の空気が張り詰め、周囲から締め付ける様な重みがかかる。

「ジャッ!」

 そんな空気を切り裂いて、ヴァイパーの持つ剣が蛇腹剣となって横薙ぎに伸び迫る。

「セ!」

 リバースは迫る刃をディミオスと揃って飛び越え、ヴァイパーへ右拳を突き出しながら飛び込む。

「ぐ!?」

 リバースの拳は、ヴァイパーがとっさに割り込ませた左腕に阻まれたものの、跳躍の勢いを上乗せしたその一撃は防御もろとも、ヴァイパーを僅かに後退させる。

「セェア!」

 激突の反動で離れる両者。伸ばした剣を戻しながら踏ん張るヴァイパー。そこを目がけ、リバースは膝に溜めたバネを解放し、再び踏み込む。

「シャアッ」

 振り下ろされる右手の剣を、持ち手の手首を叩くことで止め、すかさず右拳を突き出す。だが赤い拳は黒手袋に包まれた左手に阻まれる。

「ジャッ!」

 そのまま掴まれ、腕を振り抜くままに宙へ放り投げられるリバース。だがマフラーと両足で制動し、空中で側転。両足から着地すると同時に、右踵の水面蹴りを放つ。

「イヤアッ」

「甘いな!」

 足を刈られる直前に後方へ飛び退くヴァイパー。そして着地の反動に乗って再度踏み込み迫る。それを背中越しに睨みながら、リバースも回転の勢いに乗って立ち上がり、右蹴りを突き出す。

「セィヤアッ!!」

 リバースの右蹴りとヴァイパーの左蹴りが激突。空気が音を立てて爆ぜ、二人のマフラーとコートがぶわっと靡く。

「……ク!」

「ヌウ……!」

 激突した足を軋ませ、にらみ合う両者。

 そこで不意に、部屋の一角から爆音が響く。リバースとヴァイパーが揃ってそちらへ目を向ける。するとそこには、破れた扉の傍らで、煙を上げる銃剣を構えたディミオスの姿があった。

「ご協力ありがとうございました、リバースライダー。それでは御武運を……」

 そう言うや否や、ディミオスは身を翻して突き破った扉の向こうへと消える。

 直後、リバースは背筋に走った悪寒に従い、体を仰け反らせる。その瞬間、視界を鋭い輝きが駆け抜け、顎先に痛みが走る。

「チッ!?」

 視界に火花が弾ける中、リバースは仰け反った勢いのまま、バク転で距離を取る。そしてクラッシャーからの廃熱と同時に構え直す。その瞬間眼前に蛇腹剣の切っ先が伸びてくる。辛うじて左腕を盾にするものの、刃が絡みつき、赤い装甲へ食い込む。

「どうやらディミオスには、あっさりと裏切られたようだな?」

 言いながら、蛇腹剣を両手で引くヴァイパー。刃が更に深く食い込み、血がにじみ出す。だがリバースは左拳を握りしめ、両足に力を込めてその場に踏みとどまる。

「……この場でお前と一緒に攻撃してこなかっただけで十分だ。そこまで当てには、していない。お前こそ、ただで通して良かったのか?」

「フッ……背を向けた瞬間を逃すお前ではあるまい?」

 両者は言葉を交わしながら、お互いにじりじりと距離を詰めていく。

「それに、奴を通したところで大勢に影響は無い。この場でお前との決着をつける方が重要だ」

「そうかッ!!」

 リバースは叫ぶと同時に床を踏み込み、ヴァイパーの引き寄せる力にも乗って砲弾のごとく飛ぶ。

「ヌグッ!?」

 とっさに足を突き出してくるヴァイパー。だがリバースはその足を掴み、腕力のみで上へ跳躍。左腕に絡みついた蛇腹剣をそのままに天井を蹴り、黒衣の毒蛇の背後へ降り立つ。

「セアッ」

 そしてすかさず、自身とヴァイパーをつなぐ蛇腹剣をその首へ巻き付ける。

「グゥ……ッ!?」

 とっさに腕を捻り込むものの、腕と首に食い込む自身の刃に呻くヴァイパー。

「セェアアッ!!」

 そしてその背中にリバースは右の膝を突き刺す。

「ごぶッ!?」

 アバラ骨を砕く感触が膝を伝う。苦悶の声を上げるヴァイパーは、解けた蛇腹剣の尾を引いて宙を舞い、床を跳ね、転がる。

「今だッ!」

 その姿を睨み据えながら、リバースは素早く左腰のバックルを右腕に取りつける。

《Full Open》

 解放されたエネルギーが右腕に渦巻く。

「セェアッ!!」

 そして弾ける様な気合の声と共に、両足を揃えて跳躍。空中で輝く右腕を大きく引き絞り、大の字に倒れたヴァイパー目がけ突っ込む。

「なッ!?」

 だが突き出した拳は、ヴァイパーの左腕に掴まれ、受け止められてしまう。絶句するリバースに対し、ヴァイパーは首に蛇腹剣を巻き付けたまま口角を吊り上げる。

「流石だな……リバースライダー」

 ヴァイパーの唇から呟きが漏れた次の瞬間、リバースの右拳を握る手が弾ける。そして腕を食い破るようにして現れた黒い大蛇の頭が、リバースの右腕に喰らいつく。

「アアッぐゥ!?」

 装甲を突き破った牙から流しこまれる痺れを含んだエネルギーの奔流。右腕を苛む痺れと激痛に苦悶の声を上げるリバース。それに対して、ヴァイパーは口の端を仮面の中まで裂けさせながら、体を膨らませて行く。

「この私を、この姿を捨てさせる気にさせたのだからな!」

 その言葉と共に、ヴァイパーの顔面が完全に蛇のそれへと変わり、右腕も黒い大蛇へと変わる。更に下半身は黒い鱗の生えそろったハ虫類のものとなり、長大な尾が生える。最後に胸部が一際大きな黒い蛇の頭へ変化し、牙の生えそろった口と下目蓋が同時に開く。

「シャアアッ!!」

 そして胸の顔が鋭い奇声を上げると同時に、リバースの視界が反転。背中に激痛が走る。そして跳ね上がった体を、太くしなやかな物が横薙ぎに叩く。

「ガァッ!」

 体の側面が床に叩きつけられ衝撃が走る。そして跳ね上がった体が下を向いた瞬間、左手と両足で床を削りながらブレーキをかける。吹き飛ばされた勢いを殺すと同時に顔を上げるリバース。その眼前には牙を剥いた大蛇の顎が迫っていた。

 辛うじて首を逸らし、頭を食いつかれるのを避ける。しかし、大蛇の牙は右肩の装甲を貫き、深く食い込む。

「グッ!?」

 リバースは呻きながら、左手で右肩に喰らいついた蛇の喉を握りしめる。だがそれを意に介さず、怪物・フォーヘッドヴァイパーの胸の頭が長い舌をちらつかせる。

「これが私の真の姿だッ!」

 その言葉と共に、更に強く喰らいついてくる蛇の顎。

「グアアアアアッ!?」

 流れ込む痺れを伴ったエネルギーに声を上げるリバース。だが、更に食いつこうと伸びてきた大蛇の顎を睨みつけると、息を吸い、身を捩って右肩に食いついている大蛇の頭を盾にする。

「ぬぐ!?」

 それに蛇の頭同士が衝突。肩に食いついた牙が緩む。そしてリバースはすかさず牙を圧し折りながら大蛇の頭を振り払うと、それを左肩に担いで背負い投げる。

 しかし宙を舞うヴァイパーが尾を振るい、リバースの体を横薙ぎに叩く。

「ぐあッ!?」

 背中から壁を突き破り、廊下へ投げ出されるリバース。しかしすぐさま顔を上げると、横転して目の前に迫った大蛇の牙をかわす。

「イヤアッ!!」

 その勢いに乗って立ち上がると、上がらぬ右腕を下げたまま、後ろへ踵を突き出して追撃に迫る蛇の顎を蹴り抜く。そこで前方から、壁を突き破って別の頭が挟み込むように迫る。

 リバースは床を踏み込み、牙を剥くそれを跳び越えかわす。そこへさらに天井を突き破って蛇の頭が襲いかかる。

「セ!」

 それを左肘で迎え撃ち、すかさず壁を蹴って前方へ跳躍する。直後、背後から激突音が鳴り響く。

 リバースは壁、床、壁と踏み込み、激突音を背で聞きながら、高速でジグザグに跳ねまわる。そして再度壁を蹴った勢いに乗って、扉へ飛び蹴りを叩き込む。

 吹き飛び、正面のガラスを割る扉。それを正面に見据えながら、リバースは片膝をついて着地。そしてクラッシャーを開いて、溜まった熱を吐きだす。

 だがその部屋は、長方形を描くように並んだ長机とイスの並ぶ角部屋の会議室であった。背後以外に出口のない空間を見回し、クラッシャーで歯噛みする。

「追い込まれたか!?」

 自身の状況を吐き捨てるや否や、背後で破壊音が響く。それを受けての悪寒に従い、リバースは真直ぐに走り出す。直後、リバースの蹴破った入口を崩し広げて、三匹の黒い大蛇が殺到する。

「クッ」

 背後を一瞥し、奥へと走るリバース。そして割れた窓ガラスの直前で、踵を返し跳躍する。

「セア!」

 リバースは一つ目の頭を眼下に見送り、壁を突き破ったその首を踏み台に更に跳ぶ。続く二つ目の頭の側面を右足で蹴り抜き、壁へ叩きこむ。天井を削りながら迫る三つ目の顎を左足で蹴りあげる。天井へ突っ込んだそれを尻目に、四つ目の頭、本体の懐へ飛び込む。

「シャアッ!」

 着地と同時に、クラッシャーから熱気を吐きだすリバース。そこへ漆黒の鱗に覆われた右足が突き出される。それを右へのステップでかわし、右のローキックを打ち込む。だが怯んだ様子もなく、巨大な顎が食いつかんと迫る。それを身を低くして潜り抜けると、自身の動きを追う右目に左拳を叩き込む。

「セェエアアッ!!」

「ギャアアアッ!?」

 眼球が潰れ、悲鳴を上げるヴァイパー。リバースはその大きく開いた下顎に、すかさず右膝を叩き込む。そして左腕にエネルギーを集中し、右首の根元へ向かって手刀を切り上げる。

「セイヤアッ!」

 その一撃に火花が走るモノの、鱗を切り裂いて僅かに血が飛び散るにとどまる。次の瞬間、リバースの左脇腹を尻尾が横薙ぎに叩く。

「グッ!?」

 それを受けて長机とイスをなぎ倒して倒れるリバース。動く左腕を支えにすぐさま体を起こす。だがその瞬間、集った四つの大蛇の頭から、黒いエネルギー波が一斉に放たれる。

「グゥアアアッ!?」

 とっさに左腕を盾にするものの、エネルギーの爆発に吹き飛ばされる。

「う……ううっ」

 右手側に崩落した壁と、その向こうに広がる中心街の光景。それを視界に収めながら、リバースは左手をついて立ち上がる。そして痛む体に鞭を撃ち、空を背に、動かぬ右腕をぶら下げたまま身構える。対して、ヴァイパーは三つの頭を揺らしながら右目の潰れた胸の頭に笑みを浮かべる。

「フ……そんな体でよくも立ち上がるモノだ……力の差は歴然。そして新たなる人類を導く覇者の誕生もすでに間近……貴様の抵抗は無意味だというのに」

「どういう、意味だ……ッ!?」

 赤く大きな目で真直ぐに睨み据えながら問うリバース。それにヴァイパーは笑みを深めて、再度口を開く。

「どうもこうもない。この街……いや、世界は新たなる支配者を迎える。その支配者の許で、人類はすべて強壮なる新人類へと進化し、永久の繁栄と秩序がもたらされる。貴様の抵抗は無意味だ」

「……違うッ!!」

 その言葉に、リバースは左腕を振り払って叫ぶ。

「人々が自分たちの意志でその支配者を受け入れるのなら仕方無いだろう……だが! 命を汚し、心を奪う支配など、誰が受け入れるかッ!!」

 そして再び、顔の前で拳を握り固める。

「貴様らが生み出した流れ! 俺が必ずひっくり返すッ!!」

「やって見せるがいいッ!」

 叫びと共に蛇の口から発射される黒いエネルギー波。

「フ!」

 鋭く息を吐き、その隙間を潜り踏み込むリバース。そして後方から巻き起こる爆風を背に受けて、左の貫手を突き出す。

「ジャア!?」

 右首の付け根に走った鱗の裂け目を貫く左手。そのまま鮮血の尾を引いて斬りおろし、左回転しながら跳躍。続けて右爪先、左踵の連撃を胸の顔へ叩きこむ。そして両足が地につくと同時に、水面蹴りで浮立ったヴァイパーの足を刈る。

「このッ!」

 ヴァイパーが苦し紛れに伸ばしてきた左の蛇の頭を潜りぬけてかわし、続いて伸びてきた右の蛇の首をリバースは素早く左脇に抱える。

「セイヤアッ!!」

 そして、すかさず右足で胸の顔の鼻先を蹴りながら、抱えた首を引き寄せる。それによって、右首の付け根が鈍い音を立てて千切れる。

「ギィアッ!?」

 苦悶の声を上げながらも三つ目の頭を振り下ろすヴァイパー。その顎に千切った首を噛ませ、左足で蹴り込む。

「おのれェ!!」

 怒声と共に振るわれる黒い尻尾。それをリバースは跳んでかわし、更に上顎を蹴って跳躍する。そして空中で身を翻し、天井に両足をつく。

《Full Open》

 同時に、右足に付け替えた前腰のバックルからエネルギーが渦を巻いて吹き荒れる。

「セィイヤアアアアアアッ!!」

 そして天井を蹴り、ヴァイパーへと輝く右蹴りを繰り出す。

「させんッ!!」

 とっさに残った首を交差させてリバースの前にかざすヴァイパー。

「アアアアアアアアアッ!!」

「ぬうぅおおおおおおッ!!」

 競り合う必殺キックと防御。やがてヴァイパーの首に光の亀裂が走り、力の均衡が崩れる。

 二つの首を貫くライダーキック。だが勢いを大幅に削がれた蹴りは、ヴァイパーの身に沈み込むにとどまる。

「セェアッ!」

 リバースは気合の声と共に、蹴りの反動に乗って再度跳躍。宙返りをして左腰のバックルを左足に取りつける。

《Full Open》

「二段!」

 そして再度天井を蹴り、エネルギーの渦巻く左蹴りを繰り出す。

「ぬぅおあッ!?」

 左蹴りの直撃に呻き、後ずさるヴァイパー。だが、エネルギーに体を貫かれながらも、胸の顔を振り上げてリバースを押し返す。

「クッ……しぶといッ!!」

 空中で身を翻し、左腕をついて着地。それと同時に体内に籠った熱をクラッシャーから吐き出す。そこへ、黒い雷を纏ったエネルギー弾が真正面から迫る。

 それを真直ぐに睨み返しながら、リバースは左手で両足のバックルを展開させる。

《Full Open》

 僅かにずれた電子音声の合唱。その直後、全身に強い重みがのしかかる。

「グッ……!」

 全身を襲う倦怠感に呻くリバース。だが開いたままのクラッシャーから息を吸い込み、僅かに取り戻した力を振り絞って跳躍する。

「デェイィヤアアアアアアアアアアッ!!」

 リバースは赤熱するクラッシャーから裂帛の気合を吐き出しながら、両足を突き出して突っ込んでゆく。そのまま、黒いエネルギー弾と真っ向から激突。

 刹那の均衡。

 直後、リバースはそれを突き破ってヴァイパーへと真直ぐに飛ぶ。

「な、ぐぅあああああああああッ!?!」

 胸部へ突き刺さる三発目のライダーキック。そのダメージの蓄積に、ヴァイパーの頭部と胸から光の亀裂が広がる。そして爆発する衝撃に乗ってリバースはバク転。左膝と手をついて着地する。

「さ、三段、ライダー……キックッ!!」

 クラッシャーからの熱気と共にかすれた声で技の名を告げるリバース。そしてクラッシャーが音を立てて閉じると同時に、怪物化したヴァイパーの体が光を溢れさせて膨らむ。

「ぎ、ああ! ああああああああああああッ!?」

 響き渡る断末魔の絶叫の中、膨れ上がったヴァイパーの体が爆散する。

 

 ※ ※ ※

 

「ハァ……ハァ……はやく、かつての同志たちの許へ……!」

 強い風の吹くビルの屋上。息を切らせながら、カプセルを引く電動車椅子を急がせる老人。その行く手には一台のヘリがローターを回転させ、いつでも離陸可能な態勢で待機している。

「Domine(ドゥミネ) Quo(クォ) Vadis(ヴァディス)?」

 その声が背後から響くや否や、銃声が鳴り、老人の頼みの綱であったヘリが爆発する。

「な……!」

 絶句し、振り返る顧問。その視線の先には剣と合体した銃を構えながら、悠然と歩を進めるディミオスの姿があった。

「どうやら間に合ったようですね、特別顧問? 社長とこの街をユナイテッド・ショッカーに売り渡させはしません」

 歩を進めながらのディミオスの言葉に、老人は唇と目元をわなわなと震わせ、カプセルのコンソールへ手を伸ばす。

「おのれ……この恩知らずのたわけめが……ッ! だれが改造人間の技術をもたらしたと思っておるのだッ!? その力が誰のおかげで手に入ったと思っておるのだッ!?」

 足を止め、銃口を下げるディミオス。そして怒気を露わにする老人に対し、冷えた声音で返す。

「確かに……我等の技術の基礎は、あなたがショッカーから持ち出した技術の断片です」

 そこで一度言葉を切るや否や、ディミオスは銃剣を切り上げ、そこから放ったエネルギーに老人を閉じ込める。

「なぁ……ッ!?」

「しかし、それを実用可能なまでに研究、改良したのは亡き博士と、我々です。貴方はもう不要なのです。引き時をわきまえるべきでしたね」

 そう言ってディミオスは銃剣へバックルを取りつける。

《Full Open》

 そしてその銃口を、ゆっくりと光に磔られた老人に向け、照準を合わせる。

「貴方は……磔刑です!」

 その言葉と同時に引き金を引き、銃口から放たれた膨大なエネルギーが老人を、そして燃え盛るヘリの残骸を呑みこむ。そして銃口を空へ向けると、クラッシャーを展開、熱を吐きだす。

「処刑完了」

 ディミオスは静かな声でそう告げると、ベルトをはずして変身を解除する。白いスーツを着た天海は、深く息を吐きだしながら、顧問の運んでいたカプセルの許へ歩み寄る。

「社長……お待たせいたしました」

 そう言って天海はカプセルの外壁を撫でる。すると次の瞬間、カプセルから茨が爆発的に溢れ出す。

「!? これは……!?」

 思わず一歩後ろへ下がる天海。その間も茨は屋上、そしてビルそのものを呑みこまんばかりの勢いで伸び続ける。やがて茨の成長が止み、カプセルの上に伸びた茨の柱がゆっくりと割れる。

 その中から、歪な人影が姿を見せる。

 その身に纏うのは、所々に青いバラの花をあしらった、植物のドレス。青くなめらかな肌の整った顔。その顔を包む、緩やかにうねるバラの茎で出来た髪の上には一際大きな青いバラの花が、冠のように鎮座している。

「お、おお……」

 その姿に、震える声を漏らしながら涙を流す天海。そんな天海の姿を見て、バラの女怪人はその口元を柔らかく緩める。

「苦労をかけましたね、天海」

 バラ女は柔らかな声音で労いの言葉をかけながら、天海の頬を撫でる。すると天海はその手を取って、その場に跪く。

「いいえ! もったいないお言葉です社長! 貴方の為ならば、あの愚かな老人に使われる屈辱など……」

 そんな天海の言葉に満足げに頷き、バラ女は頭上に広がる青い空を見上げる。

「さあ、この街に……私、薔薇女帝ティターニアによる永遠の繁栄をもたらしましょう」

 

 ※ ※ ※

 

 ヴァイパーの爆発した跡を見据えるリバース。その体は強制的に健のそれへ戻る。元の姿に戻った瞬間、健は血塗れになった右肩を抑え、荒く呼吸を繰り返す。

「ハァ……ハァ……ッ」

 健は暫く肩で呼吸を続ける。だが強引に息を呑みこむと、顔を上げて天井、いや更にその上を睨みつける。

「何だ……?」

 天を睨みながら呟く健。その刹那、ビル全体が大きく揺れ、健のいる部屋が崩れ始める。

「ぐ……オーバーカムッ!!」

 激痛に苛まれる体を外へ向けて引きずり、愛車の名を叫ぶ健。次の瞬間、天井の崩落によって、健の体が宙へ投げ出される。

「う、わ、ああああああ!!」

 舗装された道路へ向けて落下する健。だが、今にも激突しようかというところで、その体を漆黒のシートが受け止める。

「!……ありがとう、オーバーカム」

 自身を救ってくれた愛車を左手で撫でる健。そしてシートに座り直すと、オーバーカムに体重を預けて頭上を見上げる。

 その視線の先には、ビルの天井に咲いた、大輪の青いバラの花があった。

「いったい……何が?」

 リバースの口にした疑問に答える者はなく、ただ巨大な青いバラが天高く揺れるばかりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。