夜風の吹く浜永の街。月の無い新月の闇の底に、人々の生活の光が輝いている。
そんな街の一角を、懐中電灯を片手に持った男女の警官二人が歩いている。短く刈り込んだ髪に帽子を乗せた体格のいい男性警官は、時折周囲に目を配りながら、落ち着いた足取りで歩を進めている。一方、その一歩後を歩くショートボブの年若い女性警官は、絶え間なく懐中電灯と視線を巡らしながら、強張った調子で足を動かしている。
「先輩、早く帰りましょうよ……パトカーで回ってくれてるんですから、私たちまで回ることないじゃないですか」
そんな縋る様な若い婦警の声に、先輩と呼ばれた警官は足を止めて振り返る。
「派出所の近くを回るだけだろう? それに市民が襲われる事件が起こっている以上、俺達がパトロールくらいしないでどうする」
「それは分かりますけど……何か凄くイヤな予感がするんですよ」
そう言って空いた手で胸元を押さえ、せわしなく視線を動かす婦警。そんな後輩の様子に男性警官は眉根を寄せて小さく呻く。
そして僅かな間を置いて頷くと、視線を後輩へ向けたまま踵を返す。
「分かった。じゃあもう少し先まで見たら引き上げよう。お前一人で帰すわけにもいかんしな」
「……はい、分かりました」
先輩警官からの提案に、婦警は渋々といった調子で頷く。それに男性警官が頷き返して首を前に向ける。
そうして二人は揃って足を踏み出そうとする。
「む? あれは……」
「人が倒れています!」
そこで懐中電灯の明かりの中に浮かび上がる、うつ伏せに倒れた人の姿。二人の警官は揃ってその倒れた人に向かって駆け寄る。
倒れていたのは髪の長いスーツ姿の女性であった。背中側に目立った外傷はなく、ただ気を失っているだけのように見える。
「もしもし、どうされました?」
倒れた女性を仰向けにし、呼びかける男性警官。続けて脈を確かめようとする先輩警官から目を放し、通信機を用意する婦警。
「ぐあッ!?」
「先輩ッ!?」
その次の瞬間、先輩警官が短い悲鳴を上げる。それに後輩婦警が弾かれたように振り返る。そこには横倒しに倒れた男性警官と、夜風に髪をなびかせて立つ女性の姿があった。
「ヒィ!」
息を呑む婦警。その眼前に女性の掌が突きつけられる。その掌には黒い穴と、それを中心に広がり浮かぶ血管のようなものがあった。
「い、いやああああッ!?」
新月の闇の中。それを内から引き裂くように悲鳴が響き渡った。
※ ※ ※
ブルーローズ本社ビル屋上。かつてそう呼ばれていた場所は、今はドーム状の茨の天蓋に覆われている。その中に広がる新たな最上階の中央、天蓋と床をつなぐ太く絡みあった茨の柱。大きく広がった柱の底部には青いバラの花で飾られた椅子が備わっている。その玉座には、白いビジネススーツを着た、緩く波打った栗色の髪を持つ美女、神崎明日香が腰かけていた。
「私の“子供たち”の様子はどうかしら?」
その問いに対し、青いバラを胸に添えた白いスーツの男、天海が深く一礼して口を開く。
「現在、市民への拡散は順調に進んでおります。近日中には初期の種子による変化が見られるかと……」
「そう……あの老害のせいで取らねばならなくなった強硬策だけれど、進行そのものは、楽しみではあるわね」
天海の報告に目を細め、満足げに頷く神崎。そんな主を前に、天海は報告書を小脇に抱えて顔を上げる。
「ユナイテッド・ショッカーに対してはいかがいたしましょう。特別顧問が生前に提供した我等の施設を支部に造り替えているようですが」
腹心から指示を求められ、神崎は顎に左手の指を添えて視線を横に向ける。そうして左足に右足を乗せる形で足を組むと、軽く頷いて左手を肘置きに戻す。
「資金援助は続けなさい。しぶとさだけが取り柄の敗残者どもの寄せ集めとはいえ、世界各地に散った英雄気取りの目を逸らす囮程度には使えるわ。せいぜいがんばって貰いましょう」
神崎はそこで一度口を閉ざす。すると次の瞬間、その柳眉を吊り上げ、形の良い唇から覗く歯を、軋むほどに噛み締め立ち上がる。
「ただし……この街に入った連中は残らず抹殺なさい! 盟約を破り、私の愛しい街を土足で踏み荒らした絞りカスどもに、闇よりも深い後悔の中での処刑を行いなさいッ!!」
その姿を薔薇女帝ティターニアへ変化させながら吐き出す怒りの声。それに対し、天海は胸の青バラに手を添えて深々と頭を下げる。
「仰せのままに」
静かな声音で応え、顔を上げる天海。その腰にはすでにディミオスドライバーが装着されている。そして天海は踵を返しながら、バックルの右端を叩いて上下反転させる。
《Ride ON》
そうして、電子音声と共に全身を包み込んだ光を押し退けながら、白き処刑者ディミオスへとその姿を変えて歩き出す。
その背中を見送りながら、ティターニアはゆったりと玉座に体を預ける。
「頼みましたよ、天海」
女帝の囁きに礼を返し、扉の向こうへ消えるディミオス。
そして一人残ったティターニアは、天井、更にその向こうで咲き誇る巨大な青バラへ視線を向ける。
「もうすぐ……もうすぐこの街は生まれ変わるわ」
そう呟くティターニアの口元には、柔らかな笑みが零れていた。
※ ※ ※
「ブルーローズに花が咲いてから妙な事件が続いてるよな」
昼時を少し過ぎた頃。赤い道化の踊る看板を掲げたスカーレットジョーカーの店内。
目の前のミートボールスパゲティの山を両手でぐりぐりと巻き取りながら、ツナギ姿の村松聡が言う。その対面では同じように金原大悟がスパゲティを巻き取っている。
「ああ、人がたびたび襲われる。だが、被害者に目立った外傷はなく、被害者は襲われた前後のことを何も覚えていない。今までこの街で起きていた事件とは、違う」
その金原が口にするや否や、麺の塊が二つに割れ、それぞれの手元の皿に落ち着く。そんな二人へコーヒーを渡しながら、健は自身の分のプッタネスカとコーヒーの乗ったトレイを手に二人と同じテーブルにつく。
「ええ、妙に静かすぎます。嫌な予感がする……何かおぞましいことの前触れのような」
言いながら健は、亡き妻が好きだと言った自作のプッタネスカを口にする。トウガラシの辛みとトマトの酸味の絡みついた、コシのあるスパゲティを噛み締める。だが妻の愛していた味を味わいながらも、健は言いようのない不安を拭いきれずにいた。
「何かの前触れ……下準備ってことか。あり得るな」
「……だが、一体何の?」
スパゲティを口に運びながらの聡と金原の言葉に、健は黙ってコーヒーを啜る。そしてカップを口から放した瞬間。食器の割れる音が店内に響き渡る。
「あ、ああ! うあああああッ!?」
「和美!? どうしたんだよ、おい!?」
食器の破砕音に続いて上がる女性客の苦悶の声。そしてそれに慌てふためく男性の声。
「なんだ!?」
弾かれる様にそちらへ振り返る健。するとそこには、ショートボブの髪を振り乱して苦しみながら食器をなぎ倒す若い女性客。それとその女性の名を呼んで手を伸ばす、若い男性客の姿があった。
「どうしたんですか!?」
椅子を蹴って席を立ち、その一組のカップルへ足を向ける健。しかし健の手が届くよりも前に、和美と呼ばれた女性の手が、自身へ伸びる恋人の腕を掴む。
「あ、ぐ、ああああああッ!?」
女性の細い指が、男の腕へ食い込み沈む。腕を締め上げるその痛みに、男性の口から苦悶の声が上がる。
「どうしたんです!? 落ち着いてッ!?」
健はとっさに女性客の手首を掴み、男性から引き離そうとする。だがその手は女性、否、常人の物とは思えないほどの力で男性の腕を握りしめている。
「なッ!? この力は……」
健は尋常ならざる力を発揮する女性に驚き、その顔を覗き込む。その女性の顔には、首から頬に掛けて葉脈のように血管が浮き上がり、血走った眼の周囲にも同様の物が浮かんでいる。
「あ、あ、あああ! ああああああああッ!?」
そして苦しみの声を上げながら、女性は空いた手でその頬に爪をたて、皮膚を抉ってゆく。その皮膚の裂け目から茨が伸び、女性の顔を覆い始める。
「まさか!? こんなッ!?」
女性の顔から伸びる茨を引き千切る健。だが千切る傍から新しい茨が伸び、やがて顔以外からも茨が皮膚を裂いて伸び始める。
「アアッ!?」
茨に覆われた腕が横薙ぎに振るわれ、健の足が床から離れる。
「ぐあッ!?」
空いたテーブルや椅子をなぎ倒し、出入口前まで転がる健。そのまま横転の勢いに乗って立ち上がり、身構える。
すると、こちらへ狙いを変えた女性客は、掴んでいた男性客を放り投げ、こちらへ向けて足を踏み出す。足を踏み出す度にその身は茨に覆われて行き、やがて右目に赤いバラの花を咲かせた異形へと変わる。それと同時に、女性客の変化したバラ怪人は健へ躍りかかる。
「くッ!?」
飛び込み様に突き出される右拳を左手で捌き、続き振るわれる左拳を顔を逸らしかわす。だが、間髪いれず突き出された蹴りが腹を撃ち、背中から扉へ叩きつけられる。
「あぐッ!」
背中に弾ける衝撃に、食いしばった歯から声を漏らす健。そこへ、辛うじて開いていた右の視界を埋めるように茨まみれの右拳が迫る。
健はそれを、とっさに首を左に背けかわす。そして薔薇の怪人の拳が扉へ埋まった隙を突き、その背後へ回って渾身の蹴りをその背中へ打ち込む。
「セェアアッ!!」
健の気合の声と共に放った一撃が、怪人を扉ごと店の外へ蹴り出す。
腕に扉をつけたまま表へ転がり出る怪人。それを追って健は、ドライバーを取り出し、装着しながら外へ出る。
赤い道化の踊る看板の前、腕に付いた扉を振り払うバラの怪人。それとにらみ合いながら、健は左腕を腰だめに、右拳を顔の左側に添えて握り固める。
「変……」
そして右拳を腰だめに、左腕を右斜め上へ伸ばす。
「やああああああッ!?」
しかしその瞬間、商店街の方から爆音と悲鳴が上がる。その源へ眼を向けた健の目に飛び込んできたのは、幼い少女へ向けて腕を振り上げる、黒いバラの怪人の姿であった。
「なッ!? 二人目ッ!?」
健がそちらに気を取られた刹那、その足首に茨が巻き付く。
「しまっ……」
そして健が言い切るよりも早く、その体が宙に放り投げられる。
「変……身ッ!!」
《Ride ON》
投げ飛ばされながらも、健は空中で二つのバックルを操作。自身を戦士へと変える力を解放する。
光り輝くエネルギーの繭を突き破り現れる仮面ライダーリバース。
「セェア!」
そして投げ飛ばされた勢いのまま、手足とマフラーを使って空中で制動。童女へ腕を振り下ろそうとする黒バラの怪人の頭へ膝蹴りを叩きこむ。
「大丈夫!?」
恐怖の涙と洟で顔をぐしゃぐしゃにした童女。それを助け起こしながら、リバースは黒バラ怪人との間を遮って立つ。周囲へ視線を巡らせれば、スカーレットジョーカーの方からこちらへ歩み寄る赤バラと、事切れた中年男性を放り捨てながら歩み寄ってくる白バラ怪人の姿が視界に入る。
「おにいちゃんが、おにいちゃんが……おばけになっちゃったぁ~!!」
「えッ!?」
背後でワンワンと泣き出す童女の言葉、そして店の中で起こった女性の怪物への変身。それらを合わせ、リバースは一つの結論に至る。
「時間差で変身させ、周囲の人々を襲わせる……これが襲撃事件の狙いかッ!!」
この状況を仕込んだ黒幕に対する怒りに、リバースはクラッシャーを軋むほど噛み締め、拳を固く握りしめる。
憤りを燃やすリバースへ躍りかかる黒バラ。リバースは突き出された爪を身を捻ってかわし、回転の勢いに乗せて突き出した右足で胸を蹴り抜く。その隙に童女を抱き抱えて跳躍。続く赤と白からの攻撃から逃げる。
「逃げて! この先の喫茶店に行けば事情の分かる人がいる」
店に続く道の前に着地し、童女へ道を示すリバース。そこへ背後から黒バラの怪人が腕を振り上げ迫りくる。
「行って! 早く!」
振り下ろされる爪を左腕を盾に受け止め、続き突き出される左拳を右掌で受け止めて組み合う。
競り合う形となったリバースと怪人。それを見て童女は背中を向けて走り出す。リバースの肩越しに離れて行く童女の背を見てか、黒バラ怪人から呻き交じりの声が漏れる。
「……ニ、ゲロ……オレ、カラ……!」
「人としての意識が!?」
怪人の口から洩れた、妹を気遣う言葉に驚きの声を上げるリバース。
「ウ、ウウ! アアアアアッ!?」
だが次の瞬間、黒バラの怪人が苦悶の叫びを上げて押し込んでくる。そして赤と白のバラ怪人が逃げる人々を追いたててこちらへ迫る。
『まだ人の心が残っているか……ならば、試してみるッ!!』
リバースは心中で叫び、クラッシャーから熱気を吐き出す。
「セェアッ!!」
同時に組み合った腕を払い、怪人の右目に咲いた黒バラを左の貫手で摘み刎ねる。そして逆の手で首を掴み、白バラへ投げつける。
「ギャン!?」
その隙に赤バラがリバースへ茨を伸ばす。が、リバースはそれをバク宙で回避。空中で交叉した両手を振るい、カッターショットを放つ。
空を走るエネルギーの刃は、それぞれに赤いバラと白いバラを斬り飛ばす。
「どうだッ!?」
着地と同時に構え直し、三人の様子を窺うリバース。
「ガ、アアアアッ!?」
すると三人のバラ怪人は、それぞれに右目を抑えて苦しみ悶える。
「ト、トメテ……ワタシヲトメテ!?」
苦悶の声に混じって洩れる、良心を持った願いの言葉。それにリバースは拳を強く固めて構え直す。
「まだ助けられるか!? 待っていて下さい!」
変えられてしまった人たちを力づけるために声をかけ、腕を伸ばすリバース。その手は肉体と精神を浸食していると思しき茨を掴み、引き千切る。
「ギャッ!?」
茨の断面から青い体液が飛び散り、リバースの装甲を汚す。その間にもリバースは手を伸ばし、茨を引き千切り続ける。
「あ、う……わ、たしは……?」
やがて赤バラを咲かせていた怪人が、人としての意識を表に出した声を漏らす。
「まずあなたから助けます!」
そこへ休まず手を伸ばすリバース。だがその手首を、青い体液にまみれた手が掴む。
「クッ!?」
「ウウアアアアアアアアッ!!」
直後、散々に茨をむしりとられた怪人が絶叫。同時に、その体から爆発的に増殖した茨がリバースの両腕に絡む。さらにもう二体のバラ怪人からも、増殖した茨が槍のように突き出される。
眼前へ迫る切っ先に、辛うじて身を捩って急所への直撃は避ける。だが腕を取られた状態で突き出された茨の槍は、リバースの左肩と右胸の装甲を易々と貫き、鮮血を散らす。
「アッグゥアッ!?」
鮮血と火花の尾を引き、後方へ吹き飛ぶリバース。
「グゥッ!」
クラッシャーを軋ませ、膝を曲げて踏みとどまる。停止した瞬間を狙い迫る茨の槍。それを右腕の装甲で受け流し、続く穂先を頭を下げてかわす。だがそれを阻むように足元から顎先を目がけて茨が迫る。舌打ちと共に、とっさに首を左へ逸らすリバース。視界の右側に火花が弾け、顎先から頬に掛けて鋭い痛みが駆けあがる。
「セアッ!」
そして左への横転から立ち上がると同時に跳躍。バラ怪人の一人目掛け、右足を突き出し急降下する。
「う、ぐッ!?」
しかし、その左目に灯る怯えの光に、右の蹴り足が僅かに引ける。そこに生れた隙に、リバースの右肩を丸太のような太さの茨の束が打ち据える。
「ゴフ……ッ!?」
背中から衝撃が走り、弾みで開いたクラッシャーから熱を帯びた空気が抜け出る。直後、宙へ浮かぶリバースの腹へ茨の塊が激突。その一撃にもんどりうって飛び、信号機へ背中から叩きつけられる。
「グハッ!?」
開きっぱなしになったクラッシャーから、苦悶の声と共になけなしの空気が絞り出される。激痛に明滅する視界。リバースはその中に、こちらへ躍りかかる三人のバラ怪人の姿を捉える。
「……ッグ!」
痛みを噛み殺し、攻撃から逃れようと身を起こすリバース。しかし三人のバラ怪人の突きだす茨が、その眼前へと迫る。
だが、リバースの赤く大きな眼に届く直前、三者の攻撃が停まる。それにリバースが驚きの声を漏らすよりも早く、三人の怪人の口からかすれた声が漏れる。
「……オネガイ、トメテ」
「ワタシタチヲ、コロシテ」
その言葉に、リバースは左手と右膝をついた姿勢のまま、右手を伸ばす。
「だが!あなた達にはまだ自分の意識がッ!?」
「ダ、ダカラコソ……イシキガ、アルウチニ! ハ、ハヤク!」
震える怪人の声と共に、ゆっくりと震えながら振りかぶられる茨の槍。
「……クッ!!」
苦しみ耐える怪人たちの姿に、リバースは伸ばした右手を握りしめて顎を引く。同時に二つのバックルをそれぞれ左右の足に装着。
《Full Open》
重なり合った機械の声と共にリバースの両足が光り輝く。
「ガアアアアアアアアッ!!」
直後、三人が叫び声を上げながら、一斉に槍を突き出してくる。
「セエェアッ!!」
だがリバースは、頭や背に火花を散らしながら三つの穂先を潜り抜け、右手を軸にした左足の水面蹴りを放つ。
その一撃は怪人たちの足を刈り取り、三人の体を宙へ巻き上げる。その様を背中越しに見据えながら、リバースは回転の勢いを殺さずに跳躍。
「デェイィヤアアアアアアッ!!」
裂帛の気合と共に光り輝く右踵を振るい、宙に浮いた怪人たちを薙ぎ払う。
「ウ、アアアアアアアアアッ!!」
全身に光の亀裂を走らせた怪人たちから上がる苦悶の声。それを聞きながら、リバースは右足でアスファルトに火花の弧を描きながら停止する。そして停止と同時にクラッシャーを展開。体内に籠った熱を一息に吐き出す。
「ライダー……キックッ!!」
リバースが言い切ると同時にクラッシャーが音を立てて閉じる。
「アリ……ガトウ……」
そして怪人の一人から洩れる感謝の言葉。直後、それを呑みこむように三つの爆発が同時に巻き起こる。
「クッ!!」
三つの爆風を浴びながら、リバースはその場に右拳を路面に叩きつける。赤い拳はアスファルトを砕き、道路へ沈む。
※ ※ ※
その日の夕方。壊れた扉から夕日の差し込むスカーレットジョーカー。聡と大悟が片付けや応急修理を進める中、健はカウンター席の一つに腰をかけ、隣りに座る薫に包帯を巻いてもらっている。
「あ、文香さん。消毒液取って」
「はいな!」
薫を挟み、健の反対側に座った文香が、救急箱から消毒液を取り出し薫に渡す。
「うん、ありがとう」
短く礼を言って、薫は脱脂綿に消毒液をしみこませ、健の頬の切り傷に当てる。健はその消毒の沁みに微かに眉を強張らせる。
「ありがとう。薫」
「ううん、気にしないで」
健の礼に、首を左右に振り、治療を続ける薫。そんな中、不意に店内のテレビの画面が揺らぐ。
「なんだ?」
健の口から漏れる疑問の声に吊られる様に、カウンターの奥から亮子も顔を出し、店内にいる全員でテレビに注目する。すると画面の揺らぎが落ち着き、緩く波打った長い髪を持つ美女。ブルーローズ社長、神崎明日香の姿が映し出される。
「神崎明日香ッ!?」
画面の向こうで玉座に座る白いスーツを着た女の姿に、店内にいる全員が眉をひそめる。そして椅子に体を預けた神崎は柔らかく微笑みながら、おもむろに口を開く。
《愛しき浜永市民の皆さん、ごきげんよう。ブルーローズ社長、神崎明日香です》
「何のつもりだい」
忌々しげにつぶやく亮子。その間に神崎は画面の向こうで肘置きに頬杖をつく。
《今日は市民の皆さんに重要なお知らせがあります。ただ今より我々ブルーローズが進めてきた浜永市開発計画は、新たな段階に進みます》
健を始めとするスカーレットジョーカーに集まった面々は、その続きを聞き逃すまいと、険しい顔のまま画面に注目し続ける。
《すでに一部の市民には実施しましたが……これより、街の根幹である市民の皆さんへの開発、進化の計画を、本格的に実行に移します》
そう言う神崎の体が、画面の向こうで揺らぎ、ざわめいてゆく。
その姿に、聡、大悟、文香は驚きに目を剥く。薫は健の腕を取って身を引き、亮子は眉根を寄せて舌打ちをする。
そして青いバラをあしらった植物のドレスを纏い、花の王冠を被った怪人へと姿を変えた神崎は、玉座から立ち上がって両手を広げる。
《恐れることはありません。我等と共に、新たな人類へと進歩した皆さんには永遠の繁栄を約束します。さあ、生まれ変わりましょう。新たなる人類として! そしてこの地を聖地とするのです!》
「ふざけんじゃない! なにが新しい人類だッ!? なにが聖地だッ!!」
その宣言に対し、亮子は拳をカウンターに叩きつける。その怒りの声を聞きながら、健も画面の向こうで両腕を広げる女帝を睨みつける。
「神崎……明日香ッ!!」
決着をつけるべき敵の名を呟き、健は右手の拳を固く、固く、軋むまで握りしめた。