東から太陽の昇り始める頃。赤い道化の踊る看板の前で、健は愛車オーバーカムに跨っている。
建物の隙間から差し込む陽光を照り返し、輝く黒い鋼のボディ。
健は目を細めながら、グローブに包んだ手でそれを撫でる。そして愛機から手を放すと、赤い片翼の鳥が背中に描かれた緑色のライダーズジャケットの襟を前に引く。続けてハンドルに引っ掛けた黒いフルフェイスヘルメットを両手に取る。
「……行くのかい? 健」
その言葉に振り返れば、そこには店先に出てきていた亮子と薫の姿があった。健はヘルメットを抱えたまま、浅井親子へ小さく頷く。
「ああ、決着をつけに行ってくる」
そう言って健は手に持ったヘルメットを被り、顎のベルトを止める。そして左ハンドルを掴み、相棒を起こそうと右手をキーにやる。
するとそこへ、不意に細く白い指の揃った手が重なる。
その手の先を辿り、顔を上げると、そこには眼鏡の奥で悲しげに眼を伏せる薫の顔があった。
「……どうして、お兄ちゃんなのかな?」
「え?」
聞き返す健。その右手に重なる手に僅かに力がこもり、薫の引き結んでいた唇が開く。
「なんでお兄ちゃんが、一人で戦わなきゃならないの? お兄ちゃんだって、改造されてしまって、茜さんまで奪われた被害者なのに……どうしてお兄ちゃんだけが……ッ!」
嗚咽交じりに嘆く従妹。その姿に健はハンドルに置いた左手から手を上げる。そして頭を振りながら、ボブカットの黒髪に手を優しく乗せる。
「それは違うよ、薫。俺は一人で戦ってなんかいない」
「え……?」
今度は薫が聞き返す。顔を上げた妹分の潤んだ目を正面から見返し、健は続ける。
「この街に生きる誰もが戦ってる……俺は殺し合いでの戦いが出来るだけ。それも茜さん、亮子さんに薫、他の皆がいると思うから出来るんだ……俺とずっと一緒に戦ってきた薫自身が、俺が一人だなんて言わないでくれ、な?」
健はそう言って、薫へ笑いかける。
「私が……お兄ちゃんと?」
目を丸くして呟く薫に、健は微笑みのまま頷く。すると、亮子が娘の右肩に左手を置く。それに振り返り母を見る薫。
「お母さん」
「アタシらには、アタシらだから出来る戦いがあるってことさね。アタシらの家族を信じて、帰る所を守ってようじゃないか?」
その亮子の言葉に、薫は渋々と頷く。そして母と共に、一歩健から離れる。
健は信じて見送ってくれる家族を見つめ、ヘルメットのバイザーを下ろす。そして愛車のキーを捻り、目覚めさせる。
唸り声を上げるオーバーカムの鼓動を受け止めながら、健は両手でハンドルを握りしめる。
「じゃあ、行ってくる」
「夕飯までには帰ってきなよ?」
「……行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
家族と頷きあい、スロットルを捻る健。そして正面を見据え、決戦の地へと相棒を発進させる。
※ ※ ※
車一台通らない中心街へ続く道。マシン・オーバーカムに跨った健は、相棒と共に空を切り裂いてその道を駆け抜ける。
「逃げる人もいない……封鎖されているのか」
健のその呟きに応えるかのように、周囲からエンジン音が響く。その音に周囲を見回せば、間道から追い立てるかのようにアントライダーやジープに乗った戦闘員らが迫りくる。
「時間はかけられない……ッ!!」
徐々に狭まる包囲網に対し、健はドライバーを取り出し装着。オーバーカムを走らせたまま、二つのバックルに手をかける。
「変……身ッ!!」
《Ride ON》
そして溜めを入れた掛け声と共にバックルを反転。仮面ライダーとしての力を解き放つ。
全身を包む光を貫いて、緑の仮面を被り、赤いマフラーを靡かせた仮面ライダーリバースが現れる。
赤い尾を引いて走るリバースとオーバーカム。その右斜め前の道から三人の戦闘員が飛び出し、機首をリバースたちの進行方向に向けて切り返す。飛び出した戦闘員らは、リバースの行く手を阻むように蛇行。銃身を切り詰めたサブマシンガンを振りかえりざまに向けてくる。
「ッ!?」
弾けるマズルフラッシュに愛車を右へ傾けかわすリバース。その傍らを銃弾が通り過ぎ、路面に火花を散らす。追いかけるように放たれ続ける銃弾に、リバースは左、右と車体を繰り返し傾け避けていく。
そうして徐々に距離を詰めると、リバースは目前へと迫ったアントライダーの尾部目掛け、車体を膝がつくほどに左へ傾けて突っ込む。
「セアッ!!」
左側へ滑り込み、車体を起こす勢いに乗せて右肘を叩きこむ。
「ギ!」
その一撃を受けて横転し、後方へ弾み転がってゆく戦闘員とバイク。それを避ける後続の戦闘員らを一瞥し、リバースはスロットルを捻って愛車を加速させる。
そして戦闘員の左側面へ飛び込むと、右腕を横薙ぎに振るう。戦闘員がとっさに翳した左腕と激突。その反動に乗せて腕を引き、すぐさま突き出した拳で戦闘員のヘルメットを叩く。その瞬間、リバースの背筋に鋭い悪寒が走る。
「フ!」
それに従い、すかさず傍らの戦闘員へ蹴りを叩き込むリバース。その反動で離れた両者の間を、煙の尾を引く弾頭が通り過ぎる。それは吸い込まれる様に前方を走るアントライダーに直撃、爆発する。
炎を噴き上げ、転がり迫るアントライダー。リバースは愛車を傾け、その軌道から逃れる。アントライダーが背後へ流れた直後に爆発。その爆風を背に受けながら、リバースは愛車にアクセルをかける。
巻き上がる炎の壁を背に愛車を走らせるリバース。その行く手を阻むように、前方にバラ怪人を中心とした様々な怪人たちが現れる。そして重火器を備えた者たちからの一斉砲撃が放たれる。
「クッ!?」
リバースは歯噛みしながら、車体を左右へ素早く切り返して砲撃をかわす。包み込むように起こる爆発を縫うように駆け抜けるオーバーカム。その爆炎を真正面から貫き、牛型の怪人が角を振り上げ迫る。
「ゴフゥッ!?」
しかしその瞬間、一台のジープが牛怪人を横合から撥ね飛ばす。
「なッ!?」
思わぬ乱入者にリバースの口から驚きの声が漏れる。オーバーカムの前を通り過ぎたジープは、荷台部分を大きく振りながら車体を切り返し、リバースとオーバーカムの右隣りに並走する。
「南さん! 何故あなたが!?」
並走するジープの助手席に乗った包帯まみれのアロエ怪人の名を呼ぶリバース。すると南はこちらを一瞥し、窓から拳銃を握った左手を出し、前方へ向ける。
「奴らと戦うためよ」
短く答え、引き金を引く南。そして周囲へ向かって声を張り上げる。
「総員! リバースライダーを援護せよッ!! これ以上、我等と同じく命を弄ばれる者を作らせるなッ!! “我ら、誇りと恩義に立ち上がり”!」
「“この地を清める風とならん”ッ!!」
南の叫びに呼応し、包帯まみれのテンペスト怪人たちがリバースたちの背後に飛び込み、後続を遮るように立ち塞がる。
「テンペストのみんなッ!?」
振り向き叫ぶリバース。その視線の先では、アントライダーに乗った戦闘員たちやバラの怪人たちへ立ち向かうテンペスト怪人たちの背中があった。
サソリやダンゴムシなど様々な形の分身体が飛び交い爆発する。その爆発を貫いて迫るバイクとバラ怪人たち。包帯まみれのテンペスト怪人たちはそれらを真正面から受け止め、組み合う。
「捨て身で!? ダメだッ!?」
「バカッ! 振り返るなッ!!」
命を捨てて追撃を押しとどめようとする怪人たちを助けるべく、ハンドルを切ろうとするリバース。それを南の鋭い叱責が遮る。
「お前はこの街を守るのだろう!? その為にこんなところで力を消耗させる訳にはいかないわッ!」
「しかし……ッ」
食い下がろうとするリバース。だがその背中へ、未練を断ち切ろうとする叫びがぶつけられる。
「行ってくれ! 頼むッ!!」
「ろくな思い出のねぇ街だが、奴らの好きにはさせたくねぇッ!!」
「私たちの無念をッ!」
背を押す言葉に、リバースは歯噛みし、右ハンドルを固く握りしめる。そこへ正面から放たれた砲弾が迫る。
「しまった!?」
だがその砲撃をオーバーカムの前に躍り出たジープが受け止め、装甲化した外装に火花が爆ぜる。
「南さんッ!?」
次々と打ち込まれる砲撃。
しかし南の乗るジープはそれに勢いを緩めることなく、むしろ加速してオーバーカムの正面を庇うように走る。
そしてその勢いのままに壁を作った怪人集団へ激突。だがその突撃はカメ型の怪人に受け止められ、続けて屍肉に群がるハイエナのように、怪人たちが殺到する。
「行けェッ!! 仮面ライダーッ!!」
「う……おおおおおおおおおおッ!!」
その南の叫びに、リバースはスロットルを全開。激しい唸り声を上げるオーバーカムを跳躍させる。
屋根に上ったダチョウ怪人を撥ね、怪人集団を跳び越えるリバースとオーバーカム。その背に、乱闘の声に混じった南の叫びがぶつけられる。
「近藤の、隼人の託した未来を、頼んだわ! リバースライダーッ!!」
直後、その叫びを呑みこむかのように、いくつもの爆音と重なり合った断末魔が響く。
「ぐ……ッ! クゥッ!!」
肩を掴み引きずる様な叫びを背に、リバースはクラッシャーを軋ませながら、決して振り返ることなく相棒をブルーローズ本社ビルへと急がせる。
前方にそびえ立つ摩天楼の中、大輪の青薔薇を乗せた一際高いビル。その根元を目がけ真直ぐに疾走するリバースの前で、不意に天辺に咲いた青い薔薇が揺れ、太い茨がビル全体を覆い始める。
「なにッ!?」
やがて本社ビル全てが茨に覆われ、横に伸びた茨の束が傍らに立つビルの半ば5階層分を薙ぎ、叩き折る。
《FuAAAAAAAAAA……》
そして大気を痺れるほどに揺るがす声が、豪と吹いた突風に乗って町中に響き渡る。
「あれは……まさかッ!?」
その声の根源に目を向け、そこにあった威容にリバースは思わず声を上げる。
「神崎明日香ッ!?」
そこにあったのは摩天楼の中心で歌う、周囲のビル群よりも頭一つ高い巨大な青薔薇の怪人の姿であった。
一節歌い終えた巨大女帝は、花の王冠の下で輝く青い目をこちらに向ける。直後、巨大バラ怪人の表皮がきらめき、エネルギーの尾を引いた太い棘が、流星群のごとくこちらへ降り注ぐ。
リバースは舌打ちを一つして、迫りくる棘のミサイル群の合間に、オーバーカムを左へ大きく傾けて滑り込ませる。その行く手を遮るように左前方からミサイルが迫る。
それを左腕で払いのけると、リバースは半ばから折れて路面を跳ねるミサイルを尻目に、オーバーカムを右へ切り返し加速。追い立てるように降ってくるミサイルを振り切ると、愛機の後輪を持ち上げて逆立ち、一回転して背後から迫るミサイルを蹴散らす。
「セィイヤアアアアアアアッ!!」
オーバーカムの後輪が地を踏み、車体の沈み込みによって生まれたバネに乗って愛機もろとも跳躍するリバース。ドーナツ状に巻き起こる爆煙を眼下にスロットルを捻り、オーバーカムの空中疾走を起動。輝く二輪に空を踏ませ、巨大薔薇怪人の足元目がけ走らせる。
そして茨で出来た外壁をオーバーカムが踏もうとした瞬間、横合から白い影が割り込む。
「うッ!?」
リバースは愛車もろとも弾き飛ばされながらも、二度、三度と横回転、横滑りに空を踏んで静止。同時に自身を弾いた白い影を睨みつける。
「ディミオスッ!!」
「邪魔は……させませんッ!」
ぶつかり合う赤と青の目。
一瞬の交錯の後、両者は揃って弾かれた様に、愛機を上へ発進させる。
巨大なビルを素体とした巨大バラ怪人の表皮へ着地するオーバーカム。そして茨で出来た壁面を昇りだそうという瞬間、右手側に滑り込んだディミオスから剣が突き出される。
「ハァッ!」
「セッ!?」
突きを手首から弾き、素早く繰り出した右裏拳を、腕とぶつけ合う。
「ハッ!」
「セアッ!」
激突の反動でお互いに腕を引く。直後ディミオスが素早く剣を逆手に持ち替え突き出し、それに再度繰り出した右裏拳をぶつけて止める。
「ハ、アアアッ!!」
「イ、ヤアアッ!!」
お互いに愛機の重みも利用して競り合いながら壁面を昇り続ける。そこでリバースはオーバーカムの踏む表皮が揺らぐのを見る。
「! セェアッ!」
とっさに競り合っていた右腕を撥ね上げ、ディミオスとそれを乗せて走る白いアントライダーに右の蹴りを叩き込む。
「ウアッ!?」
その勢いで離れた直後、リバースの走っていたラインに鋭い棘が立ち上がる。しかしかわしたと思ったのもつかの間、リバースの行く手で茨が蠢きだす。
「クッ!?」
急いで車体を左へ倒すリバース。その右上方で棘が立ち上がり、すぐさま引っ込む。直後、愛車の鼻先で表皮がざわつく。リバースは歯噛みし、左足で茨の壁面を蹴って強引に車体を右へ切り返す。刹那、突き出た棘がかすって漆黒のカウルに火花が走る。
さらに左、右と車体を切り返すリバースとオーバーカム。その度にカウルを棘が掠め火花が散る。そして上に見える巨大女帝の腰のラインを、ディミオスと白いアントライダーが銃を連射しながら駆け抜ける。
降り注ぎ迫るエネルギー弾。目前へと迫ったそれに、リバースは愛車のハンドルを茨の表皮へ押し込み、跳躍。エネルギー弾を跳び越えてやり過ごし、二輪を輝かせて空を駆け昇る。腰のラインを越え、鳩尾を前に着地するオーバーカム。
《Luu……AAAAAA……ッ!》
その瞬間、歌声と共に左側から迫る巨大な平手。
「セェアアアアッ!!」
それを見るや否や、シートを両足で踏んで跳ぶリバース。親指と掌の隙間を抜けるリバースと、加速して平手から逃れ上るオーバーカム。
「デ・イィ・ヤアアアアアアアアアアッ」
腕に降り立つと同時にその表面を踏みこんで肩を目がけ走りだすリバース。しかし、すぐさまその頭上に影がかかり、顔を上げれば、蚊を叩きつぶさんとするかのように振り下ろされる左手に視界が埋め尽くされる。
「オオオッ!?」
リバースは脚力を全開にして踏み込み、半ば跳躍するように走って平手の陰から飛び退く。しかし爆発した空気に背中を押されたのも束の間、リバースの行く手を遮るように赤白黒と色取り取りのバラ怪人が巨大女帝の表皮から現れる。
「ビル内に残っていた社員!?」
リバースがそう言い切るよりも早く、雪崩れ込むバラ怪人たち。
「ク……セアッ! イィヤッ!!」
迫る右拳を左腕で弾き、鳩尾へ右拳を叩き込むリバース。崩れる怪人の横をすり抜け、続く右手側の怪人に右の水平チョップを胸、喉と連続で撃ち込む。そこへ伸びた腕に左肩を掴まれる。だがすぐに左手で腕を掴み、脛を蹴ると同時に上体を引き倒す。
「デェヤアッ!!」
そしてクラッシャーから熱気を吐きながら、リバースは右ストレートを四人目に撃ち込む。直後、不意に波打った茨に足を取られ、バランスを崩し膝をつく。
「ウッ!?」
そのまま足場に使っていた腕は捻れていき、リバースの視界に遠く離れた道路が映る。
「グゥ!」
体が重力に引かれ始めた瞬間、リバースはとっさに茨の束の隙間に指を差し込む。傍らを落下していく怪人たち。それらと同じように振り落とされるのを避けたのも束の間、ぶら下がったリバースの背後に巨大な左の平手が迫る。
それを見るや否や、リバースはすぐさま腕の力で跳び上がる。
上昇する間も自身を押しつぶさんと迫る掌。リバースはそれと傍らの壁のような腕を見比べ、壁を蹴って掌へ向けて跳ぶ。
「セェアッ!!」
そのままバク宙の要領で身を翻し、両足を揃えて壁のような掌を踏む。そして自身を叩きつぶそうとする力をも利用して跳躍。リバースは巨大な右腕を胸の装甲に掠めながら跳び越え、その勢いに乗って空中で前転。大きく膨らんだ巨大女帝の胸部を走るオーバーカムのシートに座る。
搭乗の衝撃に沈み込むオーバーカム。その瞬間、巨大女帝の肩の上からアントライダーに乗ったディミオスが飛び出し、銃剣をこちらに向けて引き金を引く。
真正面から迫るエネルギー弾。それを巨大怪人の体からオーバーカムもろとも跳び越えることで回避。その勢いのまま空中で一回転。真正面にディミオスを捉えた瞬間、アクセルを全開。輝く車輪で空を蹴り、白いアントライダーに乗ったディミオスへ前輪を叩きこむ。
「デェエイィヤアアアアッ!!」
「あっぐあああッ!?」
渾身の突撃にアントライダーの踏む巨大女帝の表皮が裂ける。リバースはそのまま、ディミオスもろとも自身と愛車を巨大女帝の内部へと突っ込む。
壁向こうに広がる茨に覆われた空間。風と共に躍り込むオーバーカムとリバース。その目の前で、千切れ飛ぶ茨の切れはし、壁やガラスの破片に混じって投げ込まれる白いアントライダーとディミオス。ディミオスは逆さに宙を舞いながらも、銃口をこちらに向け引き金を引く。
「クッ!?」
とっさに愛機の左へ身を投げ出すリバース。右頬をエネルギー弾が掠め火花が散る。
リバースは二転三転と横転し、足を広げ、右手で床を掴んで静止する。その真正面、左手を支えにこちらを睨みつける青い目と視線がぶつかり合う。同時に両者はクラッシャーから熱気を吐く。そしてまた同時に立ちあがり、共に構えもなく向かい合う。
「……こうまで戦える貴方の強さ……正直に申し上げて、敵でありながら尊敬します」
「俺一人の力じゃない。家族と生き、愛する人と過ごしたこの街で、今日も生きようとする人々がいる。その人々の全てが俺の支えだ」
そんなリバースの言葉に、噛み締めるように頷くディミオス。
「流石です……街の為、市民の為に戦い続けられる貴方となら……何か一つ違えば、いい同志であれたでしょうに」
言いながら、右手に持った銃から剣を取り外し、左手で逆手に握るディミオス。
「街の発展を第一とするお前達となら……もしかしたらそうなれたのかもしれない」
リバースは首肯し、左肘を前に、右腕を大きく引いて拳を顔の横に添えて腰を落とす。
「だが! 命を弄んでまで富を求めたお前たちを、俺は決して認めないッ!!」
鋭い否定の言葉に、ディミオスも右手の銃を前に、左手の剣を胸の前で地面と水平にして構える。
「ええ、私も……社長の求める未来。この街から始まる永遠の繁栄を譲ることはできません!」
「人々の自由と平和を……」
「新たなる人類による永劫の繁栄を……」
リバースとディミオス。赤い目を持つ緑の仮面の戦士と、青い目を持つ白い仮面の戦士は、お互いに矢を放つ直前の弓のように、四肢に力を込めて行く。
数秒の沈黙。
そして壁に空いた風穴から風が吹き込み、その風で落ちた瓦礫が床を叩く。刹那、両者の目が輝き、同時に赤熱した顎から熱気を吐き出す。
「邪魔させはしないッ!!」
両者は声を揃えて叫び、同時に爆音を上げて踏み込む。
突進しながらの銃撃を、リバースは左腕を盾に受け止め突き進む。
「セェアッ!」
そして盾にした左腕を横薙ぎに振るい銃口を払いのける。その勢いのまま右フックを振るう。だがその一撃は後ろへ跳んだディミオスの顎先を掠めるに終わる。
「ハアッ!」
直後、置き土産に振り上げられた刃が、右腕の装甲を切り裂く。視界に火花が弾ける中、膝にバネを溜めたディミオスが銃を持つ右手を振りかぶり踏み込んでくる。
左足を引いて振り下ろされる銃身をかわすリバース。そこからこちらの足を止めようと振るわれる左のローキック。それを右足の裏で止め、切り返しての右蹴りも同じく右足をぶつけ相殺する。さらに続く剣を順手に持ち替えての突き。迫る切っ先を首を仰け反らせることで避け、頬を掠めて通り過ぎた白い腕を赤い腕で掴み、素早く身を切り返して背負い投げる。
「セェアアッ!!」
そして立て続けに、床に背を打ちつけたディミオスの顔へ右拳を振り下ろす。だが、ディミオスが狙いもつけずに放った銃弾が、リバースの右肩を撃つ。
「ぐあッ!?」
その一瞬の隙に、ディミオスは拳の下から右へ転がり逃れ、横転の勢いを利用して身を起こす。その動きを追って振り向くリバース。だがその右肩をディミオスの剣が横薙ぎに切り裂く。立て続けに右の銃口が音を立てて輝く。だがリバースはその輝きを視界の左端に流し、右のローキックを繰り出す。
「う!?」
呻き声を漏らすディミオス。その隙に右足を床へ戻し、同時に脇腹目がけての左回し蹴りを放つ。だがそれはディミオスの右腕にぶつかり、阻まれる。
「甘いッ!」
ディミオスはリバースの左足を押し返し、左の剣を突き出す。
「セェヤアッ!!」
だがリバースは左足の接地よりも早く右足一本で跳び上がり、迫る刃を持つ握り手をその爪先で蹴りあげる。
弾け飛び天井に突き刺さる剣。リバースはそれを一瞥もせず、蹴りの勢いのまま真紅のマフラーを翻し、背中越しに左踵を突き出す。
「うぐッ!?」
リバースの蹴りがディミオスの胸の装甲に突き刺さり、後方へ押し飛ばす。
「セア!」
気合の声と共に、たたらを踏むディミオスへ向け踏み込むリバース。
突撃の勢いを乗せて左拳を突き出すリバース。それは空いた左手で捌かれるものの、流された勢いをも乗せて右拳を振り上げる。
「ガ!?」
的確に顎を捉え、殴り抜く右拳。そこから立て続けに右肘を振り下ろし、突き出す。が、その手応えと同時に左胸に連続した衝撃が突き刺さる。
「グッ!」
そこから顔へ上がってゆく銃身を左腕で撥ね上げ、同時に右の膝を突き出す。だが、ディミオスも同時に繰り出していた右膝蹴りと正面から激突。さらに続けて繰り出した右のローキックをぶつけ合い、またも同時に繰り出した左拳がお互いの胸を打つ。
「ウッ!?」
「グッ!?」
その反動で離れる両者。
二人は揃って身構え、ディミオスは引き金を引き、リバースは身を低くして踏み込む。
リバースは頭上を通り過ぎるエネルギー弾を潜り、スライディングの要領で右蹴りを振るう。だがその一撃はディミオスの跳躍によって空を切る。
「なッ!?」
その動きを追って顔を上げ、蹴りの勢いに乗って振り返るリバース。天井まで跳び上がったディミオスは、そこに刺さった剣を抜き、空中で右手の銃と合体させる。
「喰らいなさいッ!」
そのまま空中で身を翻し、銃剣からエネルギー弾を連射するディミオス。迫る銃弾をリバースはエネルギーを漲らせた左の手刀で二発、三発と切り払う。
飛び散った銃弾が周囲で弾け、炎が爆ぜる。リバースを取り囲む炎の壁。それを振り払おうとマフラーに手を掛けた瞬間、背後から炎を切り裂いてエネルギー刃が迫る。
「セアッ!」
それを打ち消そうと、とっさに左足を振るうリバース。だが激突の瞬間、左足を痺れが襲う。その瞬間を狙い、右側面から炎を突き破ってディミオスが現れる。
「グゥッ!」
迎え撃とうと身を捩るモノの、体を蝕む痺れがそれを許さない。踏みこみと共に振るわれるエネルギーを漲らせた刃が、リバースの左脇腹から右肩に向かって深く切り上げる。
「フ! ハアァッ!!」
「グゥアアアッ!?」
駆け上がる火花も収まらぬうちに、続く横薙ぎの刃が胸に新たな火花を咲かす。そしてその剣撃の勢いに乗って繰り出される左踵が鳩尾に突き刺さる。その一撃に足が床から離れ、宙を舞うリバース。
「ガッ!?」
背中から壁へめり込み、開いたクラッシャーから苦悶の声を漏らすリバース。
「ハアアアアッ!!」
明滅する視界の中、叫び声と共に首を目がけ迫る刃が映る。
「……なッ!?」
だがその刃を、リバースはクラッシャーで噛み止める。ディミオスの驚きの声が響く中、リバースのクラッシャーの端と頬の装甲から火花が弾ける。
「ウゥアアッ!!」
刃を噛み締めながら、くぐもった声と熱気を吐き出すリバース。同時に壁にめり込んだ足を貫き、左右揃えてディミオスの腹へ叩きこむ。
「がッ!? バカな……クラッシャーで噛んで止めるなど……」
腹を左手で抑え、下がるディミオス。リバースは壁から体を解放すると、くわえたままの銃剣を握り、動揺するディミオスに向けて振り下ろす。
「デェエアアアアッ!?」
「グアアアッ!?」
白い装甲に袈裟がけに火花が走る。その一振りで鈍い音をたて、刃が半程から折れる銃剣。リバースは振るった勢いのままにそれを投げ捨て、武器の爆発を横に仰け反るディミオスの横顔に左の回し蹴りを叩きこむ。
ボールのように床を跳ね、倒れるディミオス。
「ぐ……まだです。社長の為に、まだ倒れる訳には!」
右手と忠義の心を支えに立ち上がろうとするディミオス。
それを睨み据えながら、リバースは深く息を吐き出して構えを整える。やがてディミオスも立ち上がって構えをとる。
そしてほんの数歩の間合いを挟み、赤と青の眼がぶつかり合う。
「セェアアッ!!」
「ハアアッ!!」
再び、踏み込む二人。お互いの右の拳が正面から激突し空気が爆ぜる。ぶつけ合った拳に痺れを残したまま、リバースは続けて左拳を突き出す。
それを左手で止めながら後ろへ引くディミオス。リバースは止められた拳を握られる前に引き、突き出される右足を左半身を引いてかわす。
「セアッ!」
そしてディミオスの体重を支える軸足を蹴る。だがディミオスが堪えながらに放った左裏拳がリバースの顔を叩く。
「スアッ!!」
すかさず振るわれる白い右拳。リバースはそれを跳び越え、赤い両足を揃えた蹴りを繰り出す。腕を蹴りつけた勢いでバク宙。膝をついて着地した瞬間、眼前に迫っていた白い爪先に顎を蹴り上げられる。
だがリバースは仰け反るままに後ろへ転がって起き上がる。そしてすぐさま右足を踏みこみ、赤と白の右拳が交差し、お互いの顔面に突き刺さる。
甲高い亀裂の走る音と、脳髄を突き抜ける衝撃。それを振り払って顔を上げれば、同じように顔を上げるディミオスと眼が合う。
そして両者は同時に腰のバックルを取り外し、右の脛へ取りつける。
《Full Open》
「……決着を!」
「ああ!」
重なり合った機械音声が響き、両者の右足を渦巻く光が包み込む。そしてリバースとディミオスは、揃って深く膝を曲げ、バネを溜める。
「セェアッ!」
「ハァアッ!」
そして声を揃えて跳躍。お互いに天井を蹴り、突っ込む。
「デェイィヤアアアアアアッ!?」
「ハアアアアアアアアアアッ!?」
裂帛の気合と共に激突する必殺の蹴り。その瞬間、リバースは左腰のバックルを引っ張る。
《Full Open》
リバースの蹴り足に上乗せされるエネルギーの奔流。渦巻き、ぶつかり合うそれが爆発。その勢いで両者は同時に投げ出される。
「が!? うッ……ぐ!」
床へ叩きつけられると同時に変身が解け、血に塗れた人の姿になって転がる健。
うつ伏せに倒れて止まり、右足を襲う激痛に歯を食いしばって顔を上げる。
その視線の先では、変身が解除されることなく、肩で息をしながら立ち上がるディミオスの姿があった。
「く……」
うめき声を漏らしながらも、血に濡れた床に手をつき立ち上がろうと力を込める健。
一方、ディミオスは一際大きく肩を上下させ、右足を一歩踏み出す。その直後、ディミオスの足から輝く亀裂が駆け昇る。そして亀裂が腰へ届いた刹那、ドライバーが二度、三度と火花を上げて爆散する。
「ガハッ!?」
弾けるように開いたクラッシャーから苦悶の声を吐くディミオス。そして腰から全身に輝く亀裂が広がる。
「しゃ、社長……あなたの未来に、栄光をォォォッ!!!」
体内で暴走し膨れ上がるエネルギーに断末魔の声を上げ、爆発するディミオス。それによって巻き起こった風に眼の開きを絞る健。
爆風が通り過ぎた後、健は痛みに蝕まれる右足に鞭うって立ち上がる。そして体を抑えて顔を上げ、ディミオスの立っていた場所の奥を見据える。そこには、上へと続く階段があった。健は切れて血のにじむ唇をかみしめ、右足を引きずりながらその階段を目指して歩き出した。