右手で壁を掴み、激痛の走る右足を引きずり上げて階段を上る健。
右足を包むジーンズは所々が裂けて血に染まっている。赤い片翼の鳥が背中で翼を広げる緑色のジャケットも袖や肩に裂け目が走り、赤く滲んでいる。
健は一歩一歩左足から階段を踏み締め、階段の果てを目指す。やがてその足は最上階の床を踏み、入口の右端を掴んで最上階へと乗り込む。
その瞬間、眼に飛び込んできたのは鮮やかな緑と青。天を覆う茨の天蓋と咲き誇る数多の青い薔薇。広大な空間の中心に立つ巨大な茨の柱。その根元に一体化した玉座に腰かける人影に、健は身構える。
「貴方がここにたどり着いたということは……天海は負けたのですね」
玉座に座る神崎明日香は、静かな、だがよく通る声をこちらへ投げかけてくる。
「神崎明日香……!」
健は仇敵の名を口にしながら、右足を引きずり前に進む。そんな健の姿を、神崎は玉座で足を組みながら形の良い眉をひそめて眺める。
「天海……共に永遠の繁栄の担い手になれると思っていたのに……」
そう言って目を伏せ、左手で目元を覆う神崎。
僅かな沈黙。
そして左手の覆いが外れ、露わになった顔は青く滑らかな肌へと変わっていた。
「私の理想の為に命を賭して働いてきた彼の為にも……我が理想郷を阻む敵を滅ぼしましょう」
言いながら椅子から立ち上がった神崎の体を、その体から生えた茨が包み込む。そしてその茨を振り払い、青いバラの冠に茨の髪、緑のドレスを纏った異形が姿を現す。
「この薔薇女帝ティターニアがッ!!」
眼前に現れた薔薇女帝の姿を真直ぐに睨み据えながら、健は引き摺り歩いていた足を止め、大きく開いてその場に踏みとどまる。
「神崎……いや、薔薇女帝ティターニア……この街を、これ以上お前の好きにはさせないッ!!」
吠えた健は左手を腰だめに、右手を拳に固めて左頬に添える。
「変……」
右腕を腰だめに、左腕を鋭く右斜め上へ伸ばす。そして静かに、だが力を込めて呟きながら、左腕を頭上へ大きく回す。その腕が肩と垂直になった瞬間、左腰のバックルへ下ろし、同時に右手を前腰のバックルに掛ける。
「……身ッ!!」
溜めた掛け声を締め、二つのバックルを同時に反転。最初の構えを左右反転させた形で締める。
《Ride ON》
刹那、二つのバックルから渦巻いた光が健を包み込む。そして水平に振った左腕が自身を包む光を切り裂く。
光を切り払った赤い腕に沿って靡く紅のマフラー。
赤い目の輝く、亀裂の走った緑の仮面。
黒いボディを覆う裂け目の走った緑のプロテクター。
「仮面ライダー……リバースッ!!」
色濃い傷跡を残しながらも、腕を大きく回して構え名乗る仮面ライダーリバース。
構えをとるや否や、ティターニアが右、左と両手を振るう。その指先から飛んだ太く長い棘が真直ぐに迫る。
「ッ!」
息を吐き、左右の拳で飛来する棘を叩き落すリバース。直後、踏みこんできたティターニアが、いつの間にか手にしていた茨の杖を突き出してくる。
「フッ!」
眼前に迫る石突を首を逸らしてかわし、カウンターの左拳を脇腹へ叩きこむ。
「ウッ!?」
うめき声混じりに振るわれた横薙ぎの杖。それを潜り避け右拳を握るものの、床を踏みしめた右足から激痛が登る。
「グ……ッ!?」
その一瞬の隙に、ティターニアが左掌低と共に放ってきた青いエネルギーの奔流がリバースの視界を埋め尽くす。
「グゥアッ!?」
エネルギーを伴った打撃を受け、背中から倒れるリバース。背を打つ衝撃に呻く間に、眼前へ鋭い石突が迫る。
「セ、エア!」
それをとっさに左手で掴んで右へ流し、右腕を支えにして振り上げた左蹴りを右肩へ叩きこむ。
「アウ!?」
杖から手を放し横へ飛ぶティターニア。そこに追撃をかけようと、リバースは体を支える手に力を込める。だがその瞬間、床から伸びた茨が両手首を絡め取る。
「なッ!?」
リバースは思わぬ妨害に驚きの声を上げる。その瞬間、横合から鋭い一閃が頬を打つ。
「ガアッ!?」
同時に腕の拘束が解け、視界が横転する。めまぐるしく流れる視界の中、肩、背と衝撃が貫き、胸を下にして止まる。両腕を突いて顔を上げるリバース。するとその正面では、姿勢を整えたティターニアがふわりと飛ぶ自身の得物を右手に迎えていた。
ティターニアは右手に杖を収めると、すぐさまその石突で床を突く。同時に、リバースの顎から脳天に掛けて衝撃が突き抜ける。
「……グッ!?」
顎を打ち上げられ、仰け反るリバース。その首に茨が巻き付く。その先端はティターニアの左袖へ繋がっている。
「こ、の!」
首を絞める茨を握りしめ、引き千切ろうと力を込めるリバース。だが茨が切れるよりも早く、足場が蠢き踏ん張りが緩む。その拍子に引き寄せられ、リバースの体が宙を舞う。そして先端で青いエネルギーを迸らせた杖を、女帝が振り下ろす。
「グゥアアアアアアアッ!?」
四肢を引き千切る様な爆発。首に巻いた茨が千切れたものの、床へ押し込み、すりつぶさんと言わんばかりにエネルギーが圧し掛かる。
「う、ぐ……ッ!」
全身を焼く激痛に呻きながら、両腕を支えに身を起こすリバース。だがそこへダメージが深く刻まれた右の腿に、鋭い一撃が突き刺さる。
「あッぐぅあッ!!?」
リバースは右足から駆け抜けた激痛に身を捩る。自身を苛む痛みを堪え、その根元を睨む。するとそこにはヒビ割れた右腿の装甲を砕いて食い込む茨の杖があった。
「さすがに、天海を倒すだけはありますね……ですが、いくら技量が勝っていようと深手を負った身ではこれが限界でしょう」
「ぐうあッ!?」
言葉と共に捻じ込まれる杖に、開いたクラッシャーから苦悶の声を上げるリバース。一方ティターニアは右手の杖を捻りながら、再度口を開く。
「ところで、先程貴方はこの街を私の好きにはさせないと言いましたが……私としてもこのまま貴方達にこの街を滅ぼさせるわけにはいかないのです」
「ど、どういう……意味だッ!」
降り注ぐ言葉に、リバースはクラッシャーを食いしばって問う。対してティターニアは空いた左手を胸元に添えて、問いかけに答える。
「貴方もこの街の住人なら知っているでしょう? 私たちがやってくる以前のこの街、衰退し、滅亡へと向かう浜永を」
衰える地元産業、輝きを失っていく名所。そして外へ流れて行く人。ブルーローズが腰を据えるまでの、緩やかに廃れて行く故郷の姿を思い出し、リバースは呻き声を漏らす。
「幼い日を過ごした、美しい故郷の衰え行く姿に私は耐えられなかった……そう、全てはこの街を滅びから救うため! 永久の繁栄をもたらすため!!」
そしてティターニアは大仰に左手を広げる。
「そして今、住民全てを新たなる人類へと進ませ、その聖地へと造り変えようという時に、小さなことにこだわる矮小な連中に邪魔させはしないッ!!」
叫び、右手の杖を振り上げるティターニア。その瞬間を狙い、リバースは右手に集中したエネルギーを拳に乗せて打ち出す。
「セアッ!」
「アァッ!?」
顔面に直撃したパンチショットに顔を抑えて怯むティターニア。その隙に乗じ、リバースは両手で床を叩いて跳ね上がり、その勢いのまま額を女帝の鳩尾へ叩きこむ。
「グッ! おのれッ!」
ティターニアは指の隙間から青い目を覗かせ、憎らしげな声と共に杖を振り下ろす。それをリバースは左半身を引いてかわし、反撃の右拳を繰り出す。
だがリバースの拳はティターニアが顔から放した左手に捌かれ、その返しに杖が横薙ぎに振るわれる。
「セエアッ!!」
しかしリバースはその場で宙返りして杖の一撃を背中の下へ潜らせる。そして着地と同時にダメージの蓄積した右足を女帝に向けて突き出す。
「グッ!?」
胴を穿った蹴り足から血飛沫が舞い、どちらからともなく苦悶の声が漏れる。女帝は衝撃に後ずさりながらも、杖を切り返して薙ぎ払う。
「ハッ!」
その一撃を脇を締めた左腕を盾に受け止め、右の拳を脇腹へ立て続けに叩きこんでゆく。
「セ! セア! セェアッ!!」
「う! ぐ!?」
一発、二発、三発目を打ち込んだ手応えを拳が受け止めた刹那、ティターニアが後ろへ跳ぶ。
「ハアアッ!」
ろくに狙いもつけずに放たれる棘を腕で弾くリバース。そのまま牽制の棘を放ちながら、ティターニアはこちらへ踏み込み迫る。
「ハアッ!!」
ティターニアが杖を大きく振りかぶると同時に、自身の足元が蠢くのを感じ取るリバース。
「セェアッ!!」
瞬間、リバースは弾かれる様に跳躍。一瞬前まで自分の足があった場所でとぐろを巻く茨。それと足元を通り過ぎる杖を見下ろし、ティターニアの顔へ左、右と立て続けに蹴りを打ち込む。
「セイヤアアアアアッ!!」
そして左足が床を踏むと同時に身を捻り、右の回し蹴りを叩きこむ。
「アアアッ!?」
もんどりうって倒れるティターニア。それから視線を外さず、リバースは拳を軋むほどに固めて身構える。
「……お前の言う美しい故郷の中に……強く生きる人々の笑顔は無いのかッ!?」
鋭い声で問うリバース。それに対して、ティターニアは杖を支えに身を起こす。
「なんですって……?」
「お前は、自分の思想に逆らう者すべてを、ただの道具に造り替えるつもりなのだろうッ!? 故郷に生きる人々を皆殺しにするつもりなのかッ!!」
リバースのぶつける鋭い声に、ティターニアは空いた左手を払って応える。
「殺すわけがないでしょう? 皆平等に超人類へと進歩させるのです。一つの理想へ向かい、共存共栄する集団。素晴らしいではないですか」
「ふざけるなッ!! 人の心を……魂を汚して、何が進歩だ! 何が平等だ!? 人を殺すも同然だろうッ!!」
右腕を振り払い、怒鳴り声を叩きつけるリバース。対するティターニアは右手に持った杖で床を叩き、頭を振る。
「……平行線ですね。これ以上の問答は無用でしょう」
冷めた声で言い放つ女帝に対し、リバースは再度拳を固め、構えを取る。
「命を、心を踏みにじろうとするお前を……俺は許さんッ!!」
吠え、踏み込むリバース。だが左拳がティターニアへ届こうという瞬間、床からせり上がった茨の壁が両者の間を遮る。
「セェアッ!」
突きだした左拳を壁にぶつけ、続けて右の貫手を壁に突き刺し切り上げる。だが、壁の切れ目から覗く向こう側に、ティターニアの姿は無い。
悪寒に従い、とっさに後ろへ跳び退くリバース。直後、茨の壁から剣山のように棘が突き出る。それに続き、床から鋭い棘が突き出る。
「クッ! ハッ!?」
左から迫るモノを右へのステップでかわし、行く手を阻もうと突き出したものを右拳でたたき折る。そこへ上からティターニアがドレスを翻して舞い降り、同時に杖を大上段から振り下ろす。
「ハアッ!」
それを左へのステップでかわすものの、それに合わせて伸びた棘に左足を刺されるリバース。痛みで生じた一瞬の硬直を的確に狙い、茨の杖が払い振るわれる。
「セアッ!!」
リバースはそれを右足で踏み止める。足の痛みにクラッシャーを軋ませながらも、すかさず左右のワンツーをティターニアへ叩きこむ。
「アグッ!? アアッ!!」
拳の連打を受けながらも、踏まれた杖を強引に振り上げるティターニア。リバースはそれに合わせて跳躍。空中で身を捻り着地する。その瞬間を狙い、青いエネルギー弾が飛来する。それをバク転でかわし、爆発を眼前に膝をついて着地。だがその瞬間、リバースの両足首に床から伸びた茨が絡みつく。
「なッ!?」
そこへ杖を槍のように構えたティターニアが爆発を貫いて迫り来る。
「ハアッ!」
低く突きだされた石突はリバースの腿に突き刺さり、続いて左肩を打つ。そしてすかさず鼻先へと迫る杖の先端をリバースは首を逸らして避ける。
「セェアッ!!」
そして視界の隅を通り過ぎる杖を握る手首を掴み、右腕で腰を掴んで女帝を投げ飛ばす。
リバースはすかさず自身を縛る茨を引き千切り、左腰のバックルを外して左足に取りつける。
《Full Open》
電子音が響き、左足が渦巻くエネルギーに包まれて輝く。
「デヤッ!!」
気合の声と共に、起き上がろうとするティターニアへ向けて跳躍するリバース。
「セェイィヤアッ!!」
左足を突き出し、流星の如く突撃。だが空を切り裂くリバースへ、天井と床から発射された無数の棘が襲いかかる。
「クッ!?」
それらを両手で捌きながら突撃を続けるリバース。だが、不意に正面から青い光が溢れる。それに注目すれば、ティターニアの杖から迸った青いエネルギーがこちらを呑みこもうと迫っていた。
「ぐぅああああああああああッ!?」
全身を焼くエネルギーの奔流。それに蹴りの勢いを殺され、全身を焦げ付かせながら落下するリバース。そして背中から衝撃が走った瞬間、駄目押しとばかりに放たれた青いエネルギーの津波がリバースの体を呑みこむ。
「が……は……ッ!?」
頭の方から風が吹き込んでくる中、仰向けに倒れたリバースは、クラッシャーを開いて全身を焼く熱を外へ吐き出す。
『ま……まずい。今ので、体が……ッ!?』
リバースは錆び臭い液体交じりの熱気を吐き出しながら、力が漏れ出ていく体を、霞んでゆく視界で眺める。そんな擦れた視界に、玉座へと歩を進めるティターニアの姿が映る。
「手こずらせてくれましたね。しかし、もう動けはしないでしょう……そこで大人しく、私の“子ども”たちが街へ広がり、人々を超人へと変えるのを見ていなさい」
そう言って玉座へと腰かけるティターニア。
『や、めろ……ッ!?』
それをさせじと、四肢に力を込めようとするリバース。だが、声すらただの吐息にしかならない。
そんなこちらの意図を知ってか知らずか、女帝は玉座に腰かけたまま、深く息を吐く。
「安心なさい。貴方の実力に敬意を表して、後で貴方にも私の子どもを植えつけてあげます……そして、貴方自身の手で、貴方の大切な人間を超人へ変えさせてあげましょう」
『よ……せ! そ、んな、ことは……ッ!』
その言葉が耳を突くのを最後に、リバースの視界が暗転する。
※ ※ ※
目が開いているのか閉じているのかそれすらも定かでない闇の中、健は耳をくすぐるささやかな音を聞く。
『なんだ……この音は? 声? 誰の……?』
耳を傾ければ、そのささやかな音が小さな声の塊であることが分かる。それを聞き分けるため、健は耳に意識を集中させる。
「無事でいて……お兄ちゃん」
『薫?』
まず最初に聞き取れたのは大切な妹分の声。
「死んだりしたら絶対に許しゃしないからね」
『亮子さん』
続く叔母の声の後、次々と声が明瞭になっていく。
「俺も、息子と妻と共に生き延びる! だから負けるな、伊吹君!」
「お願いですリバースライダー……いえ、お兄さん! この街の未来を守って!」
「またウチに走りに来いよ! それで記録を塗り替えてくれよ、健!」
『金原さん、文香ちゃんに、聡!』
声が響くたびに、光が灯り、闇を押し返して行く。
「仮面ライダー!」
「頼む、仮面ライダーッ!」
「ライダーッ!!」
「リバース、ライダー!!」
数多の声が、健の内に熱いものを残していく。
「浜永の未来を頼む……仮面ライダー……リバースッ!!」
「近藤の、隼人の託した未来を、頼んだわ! リバースライダーッ!!」
『近藤と南さんッ!?』
己を認めてくれた強敵(とも)と、自身を全てを託して散って行った南の声に、更に光が広がる。
「愛しているよ……健……」
「茜さんッ!!」
そして愛する妻の微笑みが脳裏をよぎった瞬間、光が爆発する。
※ ※ ※
「オオォアアアァッ!!!」
赤熱したクラッシャーから雄叫びを上げ、弾かれる様に上体を起こすリバース。
「な!? まだ立ち上がるッ!? どこにそんな力が残ってッ!?」
驚きの声を上げるティターニア。対するリバースは背後から流れ込んでくる風をクラッシャーから吸い込みながら、ボロボロの装甲に覆われた体を立ち上げる。そして力を込めて両の足で体を支え、右拳を固めて突きだす。
「お前が街の為にと振りまいてきた、そしてこれから街を侵そうという災い! 俺が、まとめて叩き返すッ!!」
吠えるのに続き、リバースは二つのバックルを両足へ装着。
《Full Open》
重なり合った電子音と共に、リバースの両足から光と風が巻き起こる。
「セエアァッ!!」
裂帛の気合と共に両足を揃え、跳躍。空中で身を捻り、両足を突きだして錐揉み回転しながら玉座に座るティターニア目掛け突っ込む。
「ッ! ハアアッ!?」
螺旋を描き突撃するリバースを迎え撃とうと、青い光線を発射するティターニア。
昇り迫る極太の光線と真正面から激突。弾けた光線が周囲へ飛び散り、壁、天井、床を焼いていく。
「デェエイィィヤアアアアアアアッ!!!」
回転の勢いをさらに増し、光線を捻り裂き突き進むリバース。
「な、なんですってッ!?」
やがてリバースの蹴りは光線の出所である杖を砕き、玉座に座ったティターニアの胸に突き刺さる。
「あ、あ、ああああああああああああッ!?!」
激突に大気が爆ぜる。苦悶の声を上げるティターニアを貫いた一撃は、玉座とそれと一体化した茨の柱へと光の亀裂を広げていく。
「な、何故……私の夢が、え、永遠の繁栄が、こんな……ッ! ここまで来てッ!?」
途切れ途切れに苦しみの声を漏らすティターニア。リバースはそれを見据えながら、蹴りを打ち込んだ姿勢のまま赤熱したクラッシャーから熱気を吐き出す。
「……この街に生きる命が、それを望まなかった。それだけだ!」
リバースが静かに告げるのに続き、クラッシャーが音を立てて閉じる。その瞬間、ティターニアとその背後のある玉座、そして柱に広がる光の亀裂が膨れ上がる。
「そ、そんな、わたしのまちがあああああああああああッ!?」
断末魔の絶叫と共に爆ぜる女帝と茨の柱。
「ぐあッ!?」
その爆発に吹き飛ばされ、床にあおむけに倒れるリバース。立ち上がろうと腕を支えに上体を起こす。すると、見上げていた天井が爆発し、崩落を始める。それに続き、壁や床も立て続けに爆発を起こしていく。
「に、逃げなきゃ……」
ティターニアの死と共に崩壊を始めるブルーローズ。そこから脱出しようとリバースは立ち上がるも、全身に蓄積したダメージと疲労に思わず膝をつく。その頭上に崩落した天井部分が炎を上げて落ちてくる。
「しまっ……」
這ってでも逃れようと四肢を懸命に動かすリバース。だが天井の残骸は容赦なくリバースの頭上へ落下する。
だが、燃える残骸はリバースの頭に届く前に、何者かの体当たりによって砕かれる。
「オーバーカムッ!?」
唸りを上げ、駆け寄ってきた愛車の名を呼び、そのボディを撫でるリバース。直後、一際強い揺れがリバースたちを襲う。それにリバースはオーバーカムに半ばよじ登る形で跨り、床と共に上へ傾いていく壁の穴へ発進させる。
爆発が起こり、瓦礫が降り注ぐ。そんな中それらを置き去り、撥ね退けて疾走するオーバーカムとリバース。やがて眼前を塞いだ一際大きな瓦礫を貫いて、愛車に跨ったリバースは空へ飛び出す。
崩れていく巨大女帝を尻目に、愛車と共に落下するリバース。そして着地の直前に、オーバーカムが車輪を光らせて落下の勢いを緩めて着地する。シートから昇ってくる衝撃を、リバースは身を強張らせて受け止める。
その刹那、巨大女帝の崩壊によって巻き起こった風が、リバースの側を吹き抜けて真紅のマフラーを靡かせる。その風が通り過ぎた後、リバースはバックルの向きを戻して変身を解除する。
「これで……終わった」
血塗れの健は、横たわる巨大女帝の首を眺めて、深く息をつく。そしてそのまま低く唸り続ける愛車へともたれかかる。
※ ※ ※
「終わりました……茜さん」
供え物の握り飯が五つ並ぶ伊吹家の墓前。そこに眠る妻に、額に包帯を巻いた健は手を合わせて戦いの終わりを報告する。
ブルーローズはトップの死によって崩壊。拉致、人体改造などの暗部に関わっていた人物は逮捕された。
浜永は指導者と資金源を失った形となったが、人々は一連の騒動で受けた傷を癒そうと復興に励んでいる。
「いつまでもこの活気が続くわけじゃないとは思います。街の力を支えていた者を滅ぼしたのは事実ですから……けれど、人の生きる街を守ること、それは貫けました」
そして一度霊前に手を合わせて頭を下げる。そして顔を上げると、首から下げたリングを右手で握って微笑む。
「また、来ます」
そう言って健は踵を返し、石畳を踏んで愛車を止めた駐車場へ向かう。そんな健の背中を押すように、風が吹き抜ける。
『ありがとう。健』
「茜さん!?」
風に混じって聞こえた愛しい人の声に、振り返る健。だが、そこには墓が並ぶだけで、愛する女性の姿は影も形もなかった。
「こちらこそ、ありがとう。茜さん」
健は微笑みと礼の言葉を送り、家族の待つ家に帰るため、再び前を向いて歩きだす。その背中へ、再び温かな追い風が吹いた。