仮面ライダーリバース 【完結済】   作:尉ヶ峰タスク

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第四話 マリオネット

 黒いフルカウルバイク・オーバーカムを、健は永江河川公園の入口で止める。そのまま上体を起こして左足でマシンを支えながら、ヘルメットのバイザーを上げて公園の中へ目を向ける。

「この公園で見たって言ってたよな……」

 そしてジャケットの胸ポケットから、一枚の写真を取り出す。そこには黒ぶち眼鏡をかけて口ひげを生やした、人の良さそうな中年男性が写っていた。

「とにかく探さないと……まずは聞き込みだな」

 言いながら健は、写真を胸ポケットに戻す。そしてシートから降りると、バイクを押して駐車場へ向かう。

 

 ※ ※ ※

 

 話は昨日まで遡る。

「お兄ちゃん、ナポリタンお願い! お母さんはコーヒー! ジョーカーブレンドでね!」

「了解!」

「あいよ!」

 薫のオーダーが響く日曜午後のスカーレットジョーカー。普段より少し混んだ店内を、淡いオレンジのエプロンをつけた薫がくるくると動いている。

 そんな中、不意にドアが荒々しい音を立てて開く。それに健たちを始めとした、店内にいた人間すべてがそちらへ注目する。すると、青い制服を着た二人連れの警備員風の男が、ちょうど店内へ踏み込んだところであった。

 警備員風の男の片方は、ムスッとした仏頂面の大男で、もう片方は仏頂面の男よりは年若で制服を着崩した軽薄そうな青年であった。そんな二人を客として案内すべく、薫が前に出る。

「いらっしゃいませ、ただいまお席に……」

「いや、構わないでくれ」

 仏頂面の方は、空席へ案内しようとした薫を手で制して、店内をゆっくりと見回していく。その一方で、青年の方はポケットから写真を取り出して薫に見せる。

「ところでお嬢ちゃん? この写真のおじさん、知らないかなぁ?」

 薫はその写真を覗き込んで、小首を傾げながらそれに写った人物の名を挙げる。

「おもちゃ屋の川崎さん、ですか?」

 青年はにやりと口元を緩めて、薫の横に並ぶ。それを見て、健と亮子は作業を止めて、足音もなく薫たちの下へ歩いてゆく。

「そうそう、その川崎さん。ちょっと前にお店閉めちゃったみたいだけど、最近どこかで見なかったかな?」

「い、いえ……私、知りません」

 答えながら、青年からほんの少し逃げる薫。青年はそんな薫を追うように迫って質問を続ける。

「ちょっと見かけた気がする、ってくらいでいいんだよ。お兄さんたちを助けると思って、さ?俺たち、この人が盗んだものを取り返して来いって言われてるんだよぉ。あ、なんなら、この辺をちょっと案内してくれるだけでも……」

 そう言って青年は、薫の肩を抱こうと手を伸ばす。しかしそれは、青年の腹に突き刺さった亮子の鋭い蹴りによって阻まれる。亮子は傘立てに後頭部を打ちつけた青年を睨みながら、左手をスナップさせる。

「お客様。娘が嫌がっていますので、セクハラは遠慮願います」

 静かに言い放って、右手で肩にかかったポニーテールを払う亮子。健も薫を庇うように男たちとの間に立つ。

「こ、この女……なんてことしやがる……ッ!」

 腹と後頭部を押さえて立ち上がる青年。そして身構えようとする青年を仲間の仏頂面が左手で押さえる。

「仲間が失礼をした……馴れ馴れし過ぎる男だが、悪意はない。許してほしい」

 仏頂面はそう言って頭を下げると、仲間の青年を連れて店の外へ出て行った。健たちはそれを見届けると、作業に戻ろうと踵を返す。そこで健は、足元に落ちた写真に気が付き、それを拾い上げる。

「この写真……」

 それはさっきの青年が持っていた、黒ぶち眼鏡をかけて口ひげを生やした中年男性、おもちゃ屋の川崎が写った写真であった。薫はそれを横から覗きこんで呟く。

「さっきの人、川崎さんが盗んだって言ってたけど、本当かな?」

「それは無いと思うけど、最近姿を見ないから、心配だね」

 健はそう言いながら写真をポケットにしまい、薫の頭に右手を乗せる。そしてそのまま右手を軽く弾ませると、中断した仕事の残るキッチンに戻る。

『あの連中の口ぶりから、行方を眩ましてるらしいし……盗み云々は別にしても力になれるかもしれない、探してみようか』

 

 ※ ※ ※

 

 そんな昨日の出来事を思い返しながら、健は園内を歩いている。聞き込みができそうな人を探して周囲を見回していると、ベンチで横になっている見慣れた赤いジャケットの女性が目に入る。

「あれ? もしかして……」

 そのベンチへ近づいてみると、案の定、横になっていたのは静かな寝息を立てている茜であった。

「やっぱり茜さんか。……そうだ、川崎さんのことを聞いてみようか……いや、でも起こすのは悪いな」

 健はそう呟いて、伸ばしかけていた手を引っ込める。そこで、不意に駆け足な足音と切れ切れな呼吸が聞こえ、音のする方へ目を向ける。すると、こちらへ茶封筒を抱えながら必死に走ってくる川崎の姿があった。

「川崎さんッ!?」

 探し相手のあっけない発見に、思わず声をかける健。

「……き、キミは?」

 名前を呼ばれ、足を止めて肩で息をする川崎。しかし息つく暇もなく、後方から怒号が聞こえ、川崎はそれに怯えたように振り向く。

「こっちへ!!」

 健は急いで近くにあった茂みに川崎を押しこむと、自身も一緒に隠れて息を殺す。そしてそのまま草葉の隙間から様子をうかがう。

「あのおっさん、どこに行きやがった……!?」

 苦々しげに悪態を吐きながら現れたのは、先日スカーレットジョーカーにやってきた軽薄そうな青年警備員であった。青年は後頭部をわしわしと掻きむしりながら、周囲を見回す。

「クソがッ!!」

 青年は苛立ちのままに怒鳴り、近くにあったベンチを蹴りつける。その音に、健の後ろにいた川崎が身を震わせる。

「あん……?」

 その音に、青年がこちらをいぶかしむように睨む。ゆっくりと近づいてくる青年に、健は汗をかいた拳を握りしめる。

『……まずいな。荒っぽい手を使うしかないか……?』

 一歩一歩近づく草を踏みしめる音に、健は取るべき選択肢を絞ってゆく。

「……おい」

 その声と共に青年の足が止まる。思わず固唾をのむ健。しかし、青年は気だるげに後ろを振り向く。

「なんか用かい、お姉さんよ?」

 意外な青年の言葉に、健は視線をずらす。すると青年の背中の向こうに、ゆらりと立つ茜の姿が見える。その目はこれ見よがしに据わっており、不機嫌さを隠すつもりが微塵も感じられない。

「……私の昼寝を邪魔したのはお前か……?」

「ああ……ちっとイラついてたもんでね? 悪うござんしたねぇ、お姉さん?」

 ゆらゆらと近づく茜に、青年は投げやりに形だけの謝罪をする。そんな青年のこめかみに、茜の踵が突きささる。その勢いのまま空中で一回転して倒れる青年。そんな青年を一瞥すると、茜は再びベンチに横になった。

「は、ははは……起さなくてよかった」

 その一部始終に、健は唇を引きつらせながら、安堵の息をついた。

 

 ※ ※ ※

 

《サル! トラ! ヘビ! サ・ト・ヘ! サトヘ! サ・ト・ヘッ!!》

「マスクド! キマイラぁ!」

 最新のヒーローの変身ベルトで遊ぶ子どもたち。その姿を、川崎はベンチに座って微笑ましげに眺めている。

「どうぞ、川崎さん」

「ああ、ありがとう伊吹君」

 そんな川崎に、健は自販機で買ってきた缶のお茶を差し出して、その隣りに腰かける。

 川崎は缶を開けて中のお茶を一口飲むと、深く息を吐き出す。

「しかし、助かったよ伊吹君。あのままだったら逃げ切れたかどうか……」

 そういって手元の茶封筒を確かめる川崎。そんな川崎の姿を見て、健も自分のお茶を一口飲んで質問を口にする。

「川崎さん。何故追われていたか、教えてもらってもいいですか?」

 健の質問に、川崎はお茶をもう一口飲んでから頷く。

「うちの店が潰れたのは知ってるね……?」

「……はい」

 健が頷いたのを確かめて、川崎は続ける。

「それで……やり直しのための資金を集めていたら、ブルーローズ絡みの施設から書類を盗んで、この公園に持ってきたら大金に代えてくれると言われてね」

 川崎はそこで一度切って、お茶を飲み干す。そして、ももに肘をつき、組んだ手に額をぶつけるように付ける。

「こんなことでお金を手に入れていいわけはない……だが、もう他に手はなかったんだ……テンペストに縋ってでも、家族の生活を守らなくては……」

「テンペストって……ッ!?」

 川崎の口から出た名前に、健は思わず立ち上がる。その瞬間、激しい水音と共に川崎に向かって黒い影が突っ込む。

「ヒィッ!?」

「うわッ!!?」

 弾き飛ばされたものの、とっさに受け身を取って体勢を立て直す健。そして川崎の安否を確かめようと顔を上げると、そこには封筒を持つ川崎の手を掴む手足の生えたウナギの化物がいた。

「て、テンペストの怪人だアアアッ!!?」

「は、早く逃げてッ!?」

 突然の怪人の出現に、周辺の人々は散り散りに逃げまどう。そんな騒ぎなどどこ吹く風と、ウナギ怪人は川崎の手首を締め上げる。

「ぐああああッ!?」

 川崎の苦悶の声と共に、その手から離れた封筒を受け取ると、ウナギ怪人は大きく頷いて川崎を投げ飛ばす。

「川崎さんッ!?」

「う……うう……」

 地面に叩きつけられた川崎に駆け寄る健。痛みに呻く川崎へ、ウナギ怪人の冷たい声が突き刺さる。

「御苦労……もう貴様に用はない、どこでとなりのたれ死ぬがいい」

「そ、そんな……ッ!? 約束が……」

 川崎は顔を上げ、縋るように約束という言葉を口にする。しかし、ウナギ怪人は長い体をのけぞらせて嘲笑をぶつける。

「本気で金を用意してやるとでも思ったのか!? おめでたい男だ! だが、貴様の店を潰したブルーローズへの復讐は我々がやってやる……安心しろ」

「そんな……盗みまでして……こんな……」

 か細い声で嘆きながら、気を失う川崎。その背中を見ながら、健は強く、音が滲み出る程に拳を握りしめる。

「お前……川崎さんがどんな気持ちで、盗みなんてしたのか……わかってて言ってるのかッ!!?」

 健は煮え立つ怒りを込めてウナギ怪人を睨みつける。しかし当のウナギ怪人は、黒光りする体をくねらせて笑いだす。

「ふははははッ!? それが何だというんだ!? 第一、どんな理由をつけようと、金欲しさに盗みを働いたのはその男よ!! お前が怒る道理はあるまい、ヒーロー気取り君ッ!?」

 ウナギ怪人の放つ嘲笑に、健は無言でリバースドライバーを取り出し、腰に装着する。

「そのベルトッ!?」

「変身ッ!!」

 そして、バックルを装着した勢いのまま左に流した右手を、バックルに引っ掛けて右に振り戻す。

《Ride ON》

 上下反転に伴い、展開したドライバー中央部から光が渦を巻き、仮面ライダーリバースが姿を現す。

 リバースへ変わった健は顎を開き、体内をめぐる熱気を吐き出す。そして、右を腰だめに、左手を頭上へ切り上げるように掲げる。続けて左手で空を切り、右手と入れ替える形で腰へ持っていく。そこから両腕を大きく回し、左肘を前、右拳を顔の横に添えた構えを取る。

「仮面ライダー……リバースッ!!」

 構えと同時に名乗るリバースに、ウナギ怪人も全身をくねらせて戦闘態勢を取る。

「貴様が我らの同胞を潰している実験体だったとはな……まさにヒーロー気取りそのものというわけか」

「黙れッ! 人々の苦しみにつけ込み、使い捨てるように利用するテンペストッ!! 貴様らの行い、俺がひっくり返すッ!!」

 そしてウナギ怪人の懐へ踏み込み、肘を基点にした左裏拳を繰り出す。

「セェヤァアッ!!」

 しかし、表皮のぬめりで拳が滑り、流されてしまう。

「クッ……!?」

 だがただ流されるのではなく、辛うじて勢いに乗せて右拳を続ける。しかしそれも、ぬめる皮膚によって軽々と受け流されてしまう。

「どうした、どうした? それだけか?」

 さらに左、右と拳の連撃を繰り出すものの、ことごとく挑発交じりに受け流されていく。

「クッ……デェエヤアアアッ!!」

 そして焦りと共に回し蹴りを繰り出す。だがそれは、ウナギ怪人の腕にからめとられてしまう。

「しまっ……!?」

 そして息つく間もなく宙を舞うリバース。二度、三度と地面に叩きつけられ、さらに思い切り空中へ投げ飛ばされる。

「ウワアアアアッ!?」

 辛うじて受け身は取ったものの、ダメージのために立て直しが僅かに遅れる。その隙にリバースの首と右腕に、伸びたウナギ怪人の腕が絡みつく。

「グッ……ウグ……ッ!?」

『息が……!?』

 左手で首に巻き付いた腕を掴もうとするものの、ぬめりで滑って掴むことができない。その間にも、巻き付いた腕がぎりぎりと締まっていく。

「ははははッ! 残念だったなヒーロー? このまま締め潰して、同胞の仇を討たせてもらおうか!?」

「ア……グゥ……ア……!」

 さらに強くなる締め上げに苦悶の声を洩らすリバース。頭部に熱がこもり、クラッシャーが自動で開いていく。

「熱ッつ!!?」

 ジュウッ……と音が鳴るほどの熱に、ウナギ怪人の締め付けが緩む。リバースはとっさに首を前に突き出し、引こうとする怪人の腕をクラッシャーで噛む。

「ギィヤアアアアアアッ!!?」

 放熱を伴う噛みつきに、ウナギ怪人が悲鳴を上げて暴れる。その腕をリバースは両腕で抱くように押さえこむと、背負い投げの要領で怪人を投げ飛ばす。それと同時に怪人の腕を噛みつきから解放する。

「ハァ……ハァッ! どうだ……ッ!?」

 土まみれになって転がる怪人を睨みながら、リバースはクラッシャー周りを腕で拭う。それに対して、怪人は煙を上げる腕を押さえながら、体をくねらせて立ち上がる。

「この……ッ! どこの野性児ヒーローだ!!?」

 罵りながらこちらへ文字通り手を伸ばすウナギ怪人。だがリバースは、それらを叩き落としながら、ステップを駆使して再び懐へもぐりこむ。

「セイヤアアッ!?」

 そして伸びきった腕が戻らぬ隙に右拳を腹へ打ち込む。

「うごほぉっ!?」

 ざらりとした砂の感触越しに、確かな手応えが返ってくる。そして怪人が苦悶の声と共に落した茶封筒を、下から切り上げる形のチョップで怪人の皮膚もろとも切り裂く。

「イヤアァッ!!」

「グワァッ!?」

 真っ二つになった封筒の向こうで、怪人の皮膚が火花を散らす。そしてはらりと地面に落ちた封筒をリバースが踏み潰す。

「き、貴様、よくもッ!?」

 書類を潰されて逆上し、体をくねらせて噛みつこうと迫るウナギ怪人。

「セイヤアッ!!」

 だがリバースは冷静にその首を掴むと、再び背負い投げの要領で投げ飛ばす。

「ぐおおっ!?」

 背を打ちつけて悶えるウナギ怪人。対してリバースは封筒を踏みにじりながら油断なく構え直す。

「これでお前の目論見も潰えたなッ!?」

「ゆ、許せん……こうなれば貴様だけでもッ!!」

 そう吠えたウナギ怪人は、水しぶきをあげて川の中へ転がりこむ。

「……ッ! 待てッ!!」

 急いで水際まで追いかけるリバース。そこへ黒く巨大な影が水音を立てて襲い来る。

「うわああッ!!?」

 空中へ撥ねあげられたリバースは、川面の上空で身を捻り、自分を襲ったものへ目を向ける。

「な、何だアレはッ!?」

 それはまるで龍のような、巨大でぬらぬらと黒光りするウナギであった。その巨大ウナギは川の中に潜ると、巨大な魚影をくねらせてリバースの着水ポイントへ先回りする。

「ク……ッ! このままじゃあ……ッ!?」

 待ち伏せをする魚影に歯噛みするものの、水面はどんどん近づいてくる。だが、着水の直前で何かがリバースの体を受け止める。

「オーバーカムッ!?」

 川面を駆けて自分を救った愛車に驚きながらも、リバースは体を前に倒してハンドルをしっかりと握り、オーバーカムと共に水上を走る。

 水飛沫を上げて川面を駆けるリバースを追って、後方から水面を盛り上げて長大な魚影が迫る。そして水面を割って現れた巨大ウナギの頭が、オーバーカムもろともリバースを呑み込まんと降ってくる。

「チッ!」

 それは車体を右に反らしてかわす。だがそこへ巨大ウナギから外れた黒い縄のようなものがばらばらと降りかかってくる。

「……!? こいつらはッ!?」

 腕に巻き付いて齧りつく黒い縄の正体に、リバースは驚きの声を上げる。それは黒くぬめる表皮を持つウナギ怪人の分身体であった。

「ならあれは、こいつらの集合体か!」

 巻き付いた分身ウナギをはがしながら、巨大ウナギの正体に当りをつけるリバース。そこへ魚影がオーバーカムの真下へと潜り込む。とっさにハンドルを切り、車体を左へ反らす。その直後、一瞬前までリバースのいたコースに水面下から黒い塊が突き上げてくる。

「やっぱりそうだ! ならッ!」

 ウナギ怪人を先頭に、分身ウナギをばら撒きながら跳ねる黒い塊の姿に、リバースは確信の声を上げる。その後に続く群体ウナギの落下を右に蛇行してかわすと、分身ウナギを振り払いながら、オーバーカムを走らせ続ける。

『チャンスは……次のジャンプッ!!』

 そして再び魚影が真下へもぐりこみ、水面が盛り上がり始める。

「ここだぁッ!!」

 その瞬間、リバースはオーバーカムを減速させ、群体ウナギの突き上げの後ろにつく。オーバーカムのタイヤが沈み、分身ウナギの固まった巨体の背に乗った瞬間、再びアクセルを吹かして一気に加速する。ジャンプ台の形になった群体ウナギの背をウナギ怪人目がけて駆け昇るリバースとマシン・オーバーカム。

「し、しまったッ!?」

 こちらの姿を確認して分身体を切り離すウナギ怪人。しかしリバースは、ジャンプ台が完全崩壊する直前にオーバーカムをジャンプさせる。そしてシートの上に両足を乗せると、ドライバーのバックル部を右足に装着する。

《Full Open》

 右足にエネルギーを漲らせ、リバースは渾身の一撃への姿勢を取る。それに対して、ウナギ怪人は周囲から分身体を集めて盾を作る。この状態にリバースはネズミ怪人での失敗を思い出す。

『……次も偶然助けられるとは限らないよ?』

 脳裏に浮かんだミゼンの言葉に、リバースは緩みかけた拳を固める。

『そうだ……これは後のない一撃。確実に仕留めなくては! ……その為にッ!!』

 リバースは防御を固める怪人に目を凝らし、ぎりぎりまで勢いをつける。その目が僅かなほころびを見つけた瞬間、リバースは両足を揃えてシートから跳ぶ。

「デエエイヤアアアアアアアアアアッ!!!」

 裂帛の気合と共に繰り出した蹴りは、ボールのようになったウナギの塊へ突きささる。

「うぐああああああああああっ!!?」

 一拍の間を置き、蹴りを打ち込んだ反対側が弾け、悲鳴と共にウナギ怪人が飛び出す。一方、再びバイクのシートへと戻ったリバースは、川岸に着地して横滑りで勢いを殺すと、展開したクラッシャーから熱に変わった余剰エネルギーを吐き出す。

「ライダー……キックッ!!」

 そして放熱を終えたクラッシャーが音を立てて閉まった直後、川の上空でウナギ怪人が爆発する。

 背中に触れる爆風が治まり、顔を上げたリバース。その視線の先には気を失ったままの川崎の姿があった。

「あとは川崎さんを送っていかないと……」

 リバースはそう呟いてバイクを降り、変身を解こうとドライバーに手を伸ばす。しかしその瞬間、耳鳴りのような音が脳髄を貫く。

『……裁け、咎人を裁くのだ……』

「こ、この声は……そんなこと、出来るわけが……」

 脳を揺さぶるような声に抵抗感を抱いた瞬間、リバースの頭をネジを押しこまれるかのような苦痛が襲う。

「ア……グゥ、ア……ッ!?」

 頭を押さえながら、よろよろと川崎へと歩み寄るリバース。

『よせ……ッ! とまれッ!?』

 勝手に動き始める体を止めようと、震える右手をドライバーへ伸ばす。右手までもが抵抗する中、どうにかドライバーを掴めたものの、解除操作がどうしてもできない。

『や、めろ、やめろ……やめろッ!!』

 内なる声への必死の抵抗も空しく、川崎との距離がじりじりと詰まっていく。そんな中、両者の間に一人、割って入るものがいた。

「……あ、あかね、さん……?」

 赤いジャケットを纏った茜は、無言でこちらを見据えている。

「に、に……げて……」

 リバースが警告するものの、茜はその場を動こうとしない。そして一瞬悲しげな眼をしたかと思うと、リバースドライバーそっくりのベルトを取り出し、腰に装着した。

「すまないな、健君……だが、必ず私が止めて見せる……! 変身ッ!!」

 その言葉と共に、茜は自身のドライバーの左側を、左手で跳ね上げる形で上下反転させる。

《Ride ON》

 そして肘を基点に左腕でVの字を作った姿勢のまま、茜の体を渦巻く光が包んでいく。その光の中から現れたのは、白いマフラーを靡かせる、赤いライダースーツの女戦士ミゼンであった。

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