コンクリートむき出しの壁には窓一つなく、明りは明滅を繰り返す蛍光灯のみの薄暗い部屋。パイプを組んだ急拵えのベッドのみの中、その上に横たわるものと、それを傍らで看るものがいた。
「羽瀬!しっかりなさい!」
羽瀬と呼ばれた方も呼んだ方も、人の姿をしてはいなかった。ベッドに横たわる羽瀬と呼ばれた男は、耳の近くまで届く大きな口と、額の上に盛りあがるような目を持ち、さらにえらの張ったあごには、小刻みに開閉を繰り返す正真正銘のえらがあった。そしてそれを看る女は、全身が緑色で、目元の隠れる髪をはじめ、体のそこかしこがとがった肉厚なアロエの葉で形作られていた。
「……み、南先生……私は、もう……」
魚面の怪人、羽瀬は、口とえらの両方で呼吸をしながら、自身の限界をアロエ怪人、南へ訴える。
「何を言うの!? 諦めてはだめよ!」
弱音を吐く羽瀬を叱責する南。だが羽瀬は、首を小さく左右に動かす。
「じ、自分の限界は……自分が、一番よくわかって……いる、つもりです……! ゲフォッ!?」
咳と共に飛び散った血が、かけられていた毛布を汚す。
「待って! すぐに薬を……ッ!?」
急いで薬を用意しようとする南の手を、羽瀬の鱗に覆われた手が掴む。
「ゲフ、ゴホッ……もう、よいのです。たとえ、今……生き延びても、私は、もう……戦うことが、できま、せん……」
南を止める手は小刻みに震え、喋る度に口の端からは黒ずんだ血が溢れ出す。しかし、それでも羽瀬は言葉を続ける。
「さ、最後まで、御供できず……申し訳、ありません……ど、どうか、奴らへの、我等を弄んだ……ブルーローズへの、復讐が……な、なされます、よ、うに……」
そこで羽瀬の全身から、何かが抜け出ていったかのように、力が失われる。
「羽瀬ッ!?」
南はもう一度名前を呼び、力無い手を握る。しかし、そこからはかすかな反応も、脈動も感じられない。南は首を横に振ると、何も言わずに羽瀬の顔に付いた血を拭きとる。
そこで、不意にドアが開き、大きな影が部屋の中に踏み入ってくる。
「羽瀬も逝ったか」
巨体に似つかわしい太い声の持ち主は、床に着くほど長く、丸太のように太い腕を組み、子どもの腕程もある指であごをさする。その巨漢の問いに、南はアロエの葉で出来た指で羽瀬の顔をさすって頷く。
「ええ……羽瀬だけではないわ。他にも明日を知れぬ同胞は大勢いるのよ」
「任務の際の自爆や寿命、ミゼンとの戦いで、今までにも多くの同胞を失ってきた。だが雲井、根津、名木原……そして先日の鎌田……彼らが立て続けに討たれ、もはや戦えるのは……」
巨漢はあごから手を放すと、顔よりも大きな拳を握って、自身の分厚い胸板に押しつける。口を横一文字に引き結び、眉根を寄せて目を閉じるその顔には、同胞の死への悼みと悔しさが滲み出ていた。
「私たちを含めても……十名にも満たないわ」
南の口にした、曲げようのない状況。それに巨漢は顔に刻んだ皺を深める。
「我々には時間も手段も残されてはいない……」
巨漢は拳を固めて呟くと、まぶたを上げて腕を解く。そしてゴリラのように拳を床につけ、部屋の外へ向かう。
「近藤? 何をするつもり?」
南に近藤と呼ばれた巨漢は、振り向きながら太い指につまんだ紙片を南に渡す。
「そこに襲撃をかける。例の作戦の準備は任せたぞ」
「市立、永江中学校……」
新聞の切り抜きらしい紙片に書かれた、ブルーローズ社長・神崎明日香の訪問先を呟き、南は紙片を握りしめる。
「了解したわ……こちらは任せて。……“我ら、怒りと憎悪に集い”……」
「……“この地を洗い流す嵐とならん”……!」
低い声で誓いの言葉を交わす近藤と南。そしてこの場は、お互いに口を開くことなく、近藤は部屋を後にした。
※ ※ ※
東の空が白み始めたころ、シャッターの上がっていない商店街に規則的な足音が鳴る。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
緑色のトレーニングウェアを着て、息を弾ませながら、シャドーボクシングを交えて走る健。左右のワンツーに続き、上体を縮めながら左右に振って、幻の攻撃をかわす。その度、頬を伝う汗が散って朝の冷えた空気の中に消えていく。
やがて赤い道化の踊るスカーレットジョーカーの看板前に辿りつき、その場で足を止める。そして、深く朝の冷たい空気を吸い込み、体内に籠った余計な熱を吐き出すようにゆっくりと息を吐く。それを三度繰り返して呼吸を整えると、ウェアの袖で汗を拭いながら玄関をくぐる。
「ふぅ、ただいまぁ」
「あ、おかえりなさい。お兄ちゃん」
まずは汗を流すためにバスルームへ向かう健を、制服の上にオレンジのエプロンを着けた薫が出迎える。
「ああ、朝食の支度を手伝ってたのか? ありがとな、薫」
健は笑みを浮かべて、しっかり者の妹分の頭を撫でる。
「も、もう! 子ども扱いしないでよ。ほら、早くシャワーに行ってきてよ」
そうは言うものの、薫の頬は緩み、撫でられるままになっている。
「ああ、そうだそうだ。じゃ、ささっと行ってくるよ」
健は薫の頭から手を放すと、バスルームに向けていた足を再び動かし始める。
「あっ……」
そこで不意に聞こえた声に健は振り返る。
「? 薫、どうかした?」
すると、名残惜しそうにこちらを見て いた薫と目が合い、薫は慌てて首を横に振る。
「な、なんでもない! なんでもないよ!」
「そうか?」
両掌を盾にするように出して振る薫に、健は首を傾げながらもバスルームへ向かう。
そして健がシャワーを終えて出てくる。するとご飯に味噌汁、納豆に焼き鮭と、まさに日本の食卓と言った朝食が並んでいた。
「おお、おかえり。健」
そこへ料理を運ぶ亮子から、声がかかる。
「ん、ただいま」
亮子に返事をして、健は自分も手伝うことは無いかとキッチンに目を向ける。しかし、いま亮子が運んでいる分で最後のようで、何も残ってはいなかった。運ぶものもないので、健は真直ぐに薫の隣の席に腰かける。
「いただきます」
健と薫は揃って目の前に並んだ朝食に手を合わせ、箸を取る。
「はいよ」
二人に続いて亮子も箸を取り、混ぜてあった納豆を湯気の立つ白米に乗せる。
健は箸で焼き鮭の身を割いて、白米に乗せて口に運ぶ。続いて味噌汁を取り、具のワカメと油揚げを温かな汁と共に口の中に入れる。
「そういや薫。今日は“アレ”が中学に来るんだっけ?」
納豆ごはんを食べる手を止め、思い出したように口を開く亮子。それに健も白米を口に入れながら目線を上げる。
「うん、教育支援のための視察に。今日の朝礼で“アレ”から一言あったかな」
ブルーローズ社長の訪問を“アレ”で片づける浅井母子。
健の事故以来、二人のブルーローズへの嫌悪感が深まっているのは確かである。だが、まだ商店街周りの人間としては穏やかな扱いである。
もし健が表向きとはいえ無事ではなく、思惑はどうあれオーバーカムを贈って来なければ、どうなっていたか。
『亮子さんの性格からして、本社ビルに乗り込んでただろうなぁ……』
健は幼い日に見た、特攻服を羽織った亮子の姿を思い出し、眉をひそめて口を結ぶ。その想像は、今の自分の状況を知られれば、今でも現実に起こりかねないと思えた。
健は軽く頭を振って、赤いバイクに跨った亮子の幻を振りきると、意識を現実に戻す為、目の前の会話に参加する。
「ああ……最近テンペスト絡みの事件が多いし、トップが永中に来るとなると、心配だな」
健がそう言うと、亮子は首を縦に振る。
「そうだね」
それに対し、薫は天井を見上げながら小首を傾げる。
「うーん……テンペストって言えば、私、怪人がらみの事件に巻き込まれたのに、今まで何とも無い……噂の仮面ライダーって、本当に……?」
薫の呟いた「仮面ライダー」という単語に、健は思わず動かしかけた箸を止める。しかし、亮子と薫の二人は気づかずに話を続ける。
「仮面ライダー……? 懐かしいねぇ。またそんな噂が流れてるのかい?」
「懐かしい? 昔も仮面ライダーの噂があったの?」
薫の質問に、亮子は遠くを見るように目を細めて頷く。
「ああ、都市伝説っていう奴かね? アタシが子供のころにはもう結構広まってたっぽいよ? 人の為に戦う、仮面をつけたバイク乗りの話さ」
そこで一度言葉を切ると、亮子は軽く頷いて口元を緩めて続ける。
「そうそう、恭介がその都市伝説をモデルにしたヒーロー物、「マスクドなんちゃら」が好きでさ……バイクが乗れる年頃になったら、二人でツーリングしちゃあ、ロクデナシどもを叩きのめしてたっけ……」
「お父さんもッ!?」
驚きの声を上げる薫。それに対して健は、額を押さえて過去の映像を反芻していた。
『そうだった……この人達、暴走族みたいな恰好で自警団みたいなことしてたっけ……。万引き犯捕まえたり、川で溺れた人助けたり……』
語って、懐かしげな笑みを浮かべていた亮子は、一度箸を置いて眉間を押さえる。そして表情を引き締めると、再び口を開く。
「ともかく、噂話は噂話さ。そんなモンを当てにするもんじゃないよ。危ないって分かってるならそれなりの準備をしときなよ」
亮子はこれでこの話はお終いとばかりに言い切って、朝食の続きに手をつける。ふと時計を見れば、大分時間が経っている。
「あっ! 時間が!?」
薫も時計を見て、食事の手を急がせる。
「そんなに慌てるなよ。いざとなったら俺が送っていくから」
喉に詰まらせかねないくらいに慌てて箸を進める薫。健はそんな薫を落ち着かせようと、オーバーカムを出す提案をする。すると、亮子があごを上下させながら頷く。
「……そりゃいいね。そうしてもらいなよ薫。わざわざ喉に詰まらすことは無いんじゃないか?」
口の中のものを喉から胃袋へ送り込んで、亮子がそう言う。そこで薫はようやく箸の速度を緩め、口をすぼませて小さく頷いた。
※ ※ ※
「いってきます」
朝食を食べ終え、上着を着た薫が、出掛けの挨拶と共に玄関から出てくる。バイザーの上がったヘルメットを被る健は、鼓動を漏らす愛車に跨って予備のヘルメットを従妹に差し出す。
「はい。ヘルメット」
薫は、健から渡されたゴーグルの付いた半球型のヘルメットを頭に乗せると、深く被ってあごの下で止め具をしっかりと止める。
「うん、じゃあお願い。お兄ちゃん」
そして、軽くヘルメットの具合を確かめて頷くと、シートの後ろに腰をかけ、健の腰にうでを回してしっかりと捕まる。
健はそれを確かめると、ヘルメットのバイザーを下ろしてハンドルを握り直す。
「オッケー。いくぞ!」
発進宣言と共にアクセルをかけて、オーバーカムを発進させる。
商店街を学校方面へ抜け、下り坂に入る。裂けて後ろへ流れていく冷たい空気に、健は後ろにいる薫へ、エンジン音に負けないような声量で声をかける。
「寒くないかっ!?」
すると、腰に回された腕に少し力が入る。
『……大丈夫、ってことかな』
そうしているうちに、右手側が集合住宅と、土台に固められていく田畑が並ぶ景色になる。そして登校する生徒たちでごったがえす永中の校門が見えてくる。
健は校門の近く、生徒たちの邪魔にならない場所にオーバーカムを止め、メットのバイザーを上げる。
「さ、ついたぞ」
「うん。ありがとう」
礼を言いながらオーバーカムから降りる薫に続き、健もシートから降りる。そして愛車のスタンドを立てて固定すると、ヘルメットを取り、収納スペースから薫の鞄を取り出す。
「ほら、いってらっしゃい」
鞄を差し出しながら健がそう言うと、薫はヘルメットを外して、鞄と交換にするかたちで渡してくる。
「うん、いってきます」
笑顔を浮かべる薫と、鞄とヘルメットを交換した瞬間、シャッター音のようなものが横合から鳴る。二人が揃ってそちらを振り向く。
するとそこには、妙にしっかりしたカメラを構えて、いたずらっぽい笑みを浮かべる少女がいた。ベレー帽を乗せたショートカットの黒い髪に同じ色の瞳、身に纏ったセーラー服には永江中の校章が付いている。
「新田さんッ!?」
薫に新田と呼ばれたその少女は、二ィッと笑みを深めてウインクする。
「イケメンに送迎される堅物委員長! おおう、今度の学校新聞には面白い記事が出来そうですなぁ」
カメラを首にかけたベルトに任せてメモを取る新田。そんな新田に、薫は慌てて詰め寄る。
「ちょ、ちょっと新田さん!? おにい……兄さんにまで迷惑かけないでッ!?」
そう言ってメモやカメラを奪おうと手を伸ばす。
「おお、こわいこわい」
おどけた調子で薫の手を軽々とかわす新田。そしてさらりと薫をすり抜け、健の目の前に出る。
「どうも! 浅井さんのクラスメイトで、新聞部の新田文香と言いまっす! 浅井さんのお兄さんとのことですが、本当のところは……およ?」
ゴシップ誌の記者の如くインタビューに入ろうとした文香は、何かに気づいたように視線を健からずらす。
その視線を辿ると、文香の目は健の後ろにあるマシン・オーバーカムへ注がれていた。
「真っ黒なボディに……赤い目のようなライト……」
オーバーカムを、ヘッドライトからリアタイヤまで舐め回すように見つめながら、ぶつぶつと呟く文香。
「……このバイク! まさか噂の仮面ライダーのッ!?」
そこで文香は弾かれたように健を見る。好奇心で爛々と輝く目に、健は思わずたじろいでしまう。
「さてお兄さん? 質問させてもらってもよろしいでしょうかぁ?」
目を輝かせたままメモを構える文香。その文香の女子中学生らしからぬ眼力に、健は思わず目を逸らす。
「い、いや……ちょっと勘弁してくれないかな? 面白い話なんてできないと思うし……」
しかし、そんな健の様子に文香の目が一際輝く。
「ほほう……なぜ目を逸らすんです? 何か話せない理由でも?」
『しまった……ッ』
文香に尋ねられ、グッと呻く健。そこへ文香は笑みを深めて踏み込んでくる。
「どうやら図星のご様子……もしや噂の仮面ライダーの……」
そう言いかけて、文香は笑みを張り付けたまま顔を真っ青にする。
「……新田さん?」
静かだが決して聞き逃すのを許さない声に、文香は表情を固めたままびくりと震える。顔面蒼白の少女の後ろに視線を移せば、そこにはうつむき加減で文香の首根っこを掴む薫の姿があった。
「……遅れるから、早く教室に行きましょうか?」
「……おおう……こわいこわい……」
満面に冷や汗を浮かべた文香を引きずるようにして、薫は校門の奥へと歩いていく。
「……恭介さんの娘だなぁ……」
その従妹の背中を見送りながら、健はぽつりと呟いた。
※ ※ ※
「うん……当然警備は付いてるか……」
薫たちと別れた後、健は愛車を押しながら、学校の敷地周りを一回りしていた。
学校の敷地の内外を問わず、目立つところ、目立たぬところ様々にブルーローズの警備員は配置されていた。そのいずれもが、以前に見た仏頂面の警備員よりも重装備で、ライフルを携えた者さえいた。
「さて、そろそろ時間か……」
体育館裏に通りかかった健は、腕時計に視線を落として時刻を確認する。そしてふと周囲を見回すと、駐輪場の陰から人の足が覗いているのを見つける。
「どうかしたのか!?」
健はオーバーカムをその場に停めると、胸騒ぎに突き動かされるように、その足へと駆け寄る。
「うっ……これは……」
そこに倒れていた者の姿に、健は思わず眉根を寄せて呻く。そこには、まるで子供が無造作に握りつぶした粘土細工のようにひしゃげた人間が横たわっている。身につけた警備員の制服や、傍らで同じようにひしゃげて転がるライフルから、この近辺の警備をしていた者だろうことは分かる。だがその顔は、歪んだ上に血にまみれ、生前の形が想像もつかなくなっている。
「すでに入りこまれたのかッ!?」
健は焦りに歯噛みして、朝礼の行われている最中の体育館を睨みつける。
『……緊急指令、戦闘モード、起動せよ……』
その瞬間、耳鳴りのような音を伴った声が、健の脳髄を貫く。
「が……ッ!? これはぁッ!?」
脳に響く声の強制力に従って、ジャケットに入れたリバースドライバーに右手が伸びる。
「うっ! ……グゥ……ッ!? こんな、命令でェ……!!」
健は己の意思を離れて動こうとする右手を左手で抑える。それに反応して、意思を砕くような痛みが脳にねじ込まれる。
『……起動せよ……起動せよ……起動せよ……!』
「ア、グゥ……ッ!? アアッ!!?」
声が響く度に激しく、深くなる苦痛に、健は苦悶の声を上げて膝を折る。だが、苦痛に流れる脂汗が目に入ろうとも、その両目を閉じることなく歯を食いしばり、腕に込められた力は緩むことは無い。
「フゥッ……フゥッ……!」
肩で息をしながら、両足を踏ん張って立ち上がる健。苦痛も和らぎ、一歩踏み出そうとした瞬間。その目の前で体育館の壁が轟音と共に弾け飛ぶ。
「なッ!?」
目を剥いた健の足元に、黒い塊が二度、三度とバウンドしながら転がってくる。
「ウ……ギ……」
健の側に転がったそれは、歪んだ黒いヘルメットから呻き声を洩らし、黒い装甲服に包んだ体をピクピクと震わせている。
「……こいつがテンペスト?」
そんな健の呟きを否定するように、銃声が鳴り響き、壁の大穴から一頭のゴリラと、それをライフルで追い立てる二人の黒い戦闘員が飛び出してくる。
ゴリラは振り向きざま、丸太のような腕で降り注ぐ銃弾を受け止める。
「邪魔をするなあッ!!」
そして野太い声で吠えるや否や、盾にしていた両腕を振り上げる。そのまま銃弾を胸で受け止めながら、銀色の背中が盛り上がるほどに溜めた力を地面に叩きつける。
「うおわっ!?」
轟音、そして激震。ゴリラを震源地とした地震は、クレーターを穿ち、周辺の木々をも震わせる。健と二人の戦闘員も例外なくその振動に足を取られる。
「ぬううんッ!!」
ゴリラはその隙をついて、二人の戦闘員を左右の手でそれぞれに掴む。そして軽々と持ち上げると、戦闘員を掴んだ腕を、再び地面に叩きつける。
再度の地震。その衝撃が周囲へ散り、建物と木々を揺らしていく。
「フウウ……ンッ」
そしてゴリラは鼻と口から盛大に息を吐き出し、拳を地につけたナックルウォークの形で、館内へ戻ろうと動き出した。
「……待てッ!!」
そのゴリラの背中へ、健は腹の底から出した静止の声を叩きつける。その右手には自分の意思で掴んだリバースドライバーがある。
「ムゥ……?」
ゴリラは煩げに振り向くと、健の顔とその手に掴んだドライバーを交互に見て、眉間に皺を寄せる。
「その顔に、ドライバー……貴様が仮面ライダーを名乗る実験体か……ッ!」
正面から相対する形に向き直ったゴリラから、憤怒混じりの闘気をぶつけられ、健は息をのむ。
「フンッ! 震えているぞ? 怖いのか、青年?」
ゴリラからの嘲笑に、健はリバースドライバーを掴む自身の手が震えているのに気がついた。
「ああ……怖いさ!」
健ははっきりと、自分が恐怖に震えている事を告げ、ドライバーを自身の腰に装着する。
『こいつの強さも、意思を乗っ取られるのも、人を殺すのも怖い……けれど! もう覚悟は決めたッ!!』
そんな健の姿に、ゴリラは僅かに目を剥く。だがすぐに口元を釣り上げ、肩をゆすって笑い始める。
「クックックッ……堂々と“怖い”と言いながら、俺に向かってくるか!? 面白い!!」
そして僅かに持ちあげた拳で地面を叩く。
真正面から迫りくる風を受け止めて、健はドライバーに手をかける。
「変身ッ!!」
《Ride ON》
上下反転して中央部の展開したバックルからエネルギーが渦を巻いて吹き荒れる。そしてその渦の中から現れたのは、赤い目の輝くリバースであった。