商店街にある、スサノオノミコトとクシナダヒメを御祭神として祀る永江神社。多くの楠の巨木が並び茂る石畳の参道に、小気味良い破裂するような打撃音が響く。
打撃音の中心部では健の右拳を、茜が掌で受け止めている。健が緑のトレーニングウェア姿なのに対し、茜はいつもの赤いジャケットに、脚にフィットした赤いズボンという姿である。
「イヤアッ!」
健は止められた右拳を引くと、左脚で脇腹への蹴りを放つ。しかしそれも茜の掌にあっさりと止められる。そのまま膝を使って左蹴りを連続で繰り出すものの、そのことごとくを軽々と受け止められる。
「セェイヤアッ!!」
左脚を下げた健は、そのまま膝を曲げ、右脚の水面蹴りを放つ。茜はそれも跳び上がってかわす。宙へ逃げた茜に、健は水面蹴りの勢いに乗ったまま立ちあがり、拳を突き上げる。
「甘いッ!」
しかし、空中からの降ってきた蹴りに胸を打たれ、拳が茜を捉える事は無かった。
「ウッ!?」
健が呻く中、茜は蹴りの反動を利用してクルリと宙返り。そのまま脚を揃えて着地する。
「どうした? キレが悪いぞ、健君?」
蹴られた胸を押さえる健に対し、茜は身構えることなく、力を抜いた自然体で立つ。そのまま彼女が軽く首を振ると、その艶やかな黒髪がさらりと揺れる。
「く……ッ! 行きますッ!?」
そんな余裕を見せる茜に、健は変身時と同じ構えを取り直して踏み込む。
「デヤアアッ」
健は左拳の牽制を交えずに、鋭い右拳を突き出す。
「ふむ」
しかし茜は、それを左へ半歩ずれてかわす。避けられた。と健が思った瞬間、突き出した拳を取られて背後で捻りあげられる。
「あだぁッ!?」
「健君。組手の前に遠慮は無用と言ったはずだぞ?」
捻られた腕の痛みを訴える健の耳に、茜の静かな声が入る。その次の瞬間、健の視界が左に回り、茜の拳が突きつけられていた。意識する間もなく現れた拳に、健は音を立てて固唾を飲み込む。
「仕掛ける前の宣言といい……私にケガをさせるかも、と心配しているのだろうが……」
そこまで言った所で、不意に茜の拳が解け、しなやかな指が健の鼻を弾く。
「痛っ!?」
突然鼻を襲った痛みに、反射的に片目を閉じる健。狭まった視界の中、指を突きつけたままの茜が、厳しく眉根を寄せて口を開く。
「そういうキミの優しさは好ましいが……そんな心配は、私にまともな攻撃を入れてからにしなさい」
※ ※ ※
話は数時間前に遡る。まだ空気の冷やりとした早朝。商店街に面した、永江神社の薄朱色の鳥居を、大きな包みを抱えた健が潜る。
「もう、来てくれてるはずなんだけど……」
石畳の参道を踏みながら、探し人の姿を探して周囲を見回す健。すると、一際太い楠の陰から、おなじみの赤いズボンが覗いているのが目に入る。正面に回って確かめれば、それは大木に背を預けて寝息を立てる茜であった。
「やっぱり……」
そんな茜のお約束な姿に、呆れ交じりに苦笑する健。
「……う? うう……ん」
すると、茜のまぶたが震えてゆっくりと持ちあがっていく。そして、二、三目を瞬かせると、残った眠気を振りほどくように軽く頭を振る。
「ああ、おはよう。健君」
額を右手で軽く抑え、唇に小さく笑みを見せる茜に、健も挨拶を返す。
「おはようございます。茜さん。すいません急に呼びだしたりして」
「私なら構わないよ。それで、用件は?」
「はい、それはですね……」
茜に促されて、健は目元を引き締めて口元を結ぶ。そして抱えていた包みを前に出して頭を下げる。
「俺に特訓をつけてくださいッ!!」
茜の爪先だけを見て、健は黙って返事を待つ。長い、いや時間にすればほんの数秒の沈黙。そこへ冷たい風が吹き抜け、葉をざわめかせる。そして、葉の擦れ合う音が止むと、茜の爪先が動く。
「……前の戦いのことなら、私はよくやったと思うが……」
「いえ! 俺にはまだ力が足りませんッ! 前のは見逃してもらっただけで、止めを刺されているはずでした! これから先、街を守っていくには力をつけないと……」
健がそこまで言った所で、不意に手から重みが無くなる。顔を上げれば、そこには健の持ってきた包みを手に取った茜の姿がある。
「分かった。私でよければ力を貸そう。ただし、鍛えるからには厳しくいくよ?」
その返事に、健はもう一度深く頭を下げる。
「はいッ! お願いします、茜さん!」
「……ところで、健君?」
さっきの返事とは違う調子での問いかけに、健はゆっくりと上半身を持ち上げる。そして首を軽く傾げて言葉の続きを待っていると、茜がおもむろに口を開く。
「これ、食べてもいいかな?」
手に持った包みを示す茜に、健は苦笑交じりに返す。
「どうぞ、そのつもりで持ってきた弁当ですから」
※ ※ ※
「ハァ……ハァ……」
組手の終了で、その前から通しで続いていた特訓にようやく区切りがつく。健は上がった息を整えながら、顔を伝う汗をぬぐう。そうして呼吸も落ち着いたところで茜を見れば、弁当のおにぎりを口に咥えて、ボールに何かを書いているところだった。すると、茜はこちらの視線に気がついたのか、ペンを仕舞って、おにぎりを空いた手で持つ。
「さて、健君。始める前にも言ったが、私たちには日常生活に支障が出ないよう、リミッターがかかっている。キミはまだ、反射的にリミッターを外している段階だ。まずは意識的にリミッターを外す感覚を覚えないといけない」
茜はそこまで説明すると、手に持ったおにぎりを口に頬張る。片手で軽くお手玉をしながら、頬張ったおにぎりを噛んでのみ込む。そして次のおにぎりを手にとって、再び口を開く。
「そこで今からこのボールを投げるから、書いてある文字を読んでからキャッチするんだ」
「へ……? ボールで?」
使う道具に拍子抜けする健。だが茜はそんなものどこ吹く風と、片手におにぎりを握った状態で、ボールを振りかぶる。
「よく見るんだぞ?」
その言葉と共に、茜の手から放たれたボールは、一瞬で健の目の前に迫る。健はとっさにそれを捕ることは出来たものの、書かれた文字については確信を持てなかった。
「え、ええと……8?」
とりあえずぼんやりと見えた輪郭から、推測した数字を呟く健。しかし茜は首を横に振る。
「こらこら、デタラメを言うな。まあその様子なら、ぼんやりとは見えたというところかな?」
健が手首を返してボールを見ると、そこには「3」と書かれていた。
「さ、こっちに投げ返してくれ。いくつか用意した中からランダムに投げるから」
「は、はい!」
健は茜の指示に従って、3のボールを軽く投げ返す。放物線を描いたボールはすぽっと茜の手に収まる。
「投げる時もリミッターを外すんだ。さて、さっきのはお試しで150程度だが、次からは180位で行くよ」
そう言いながら茜は、別のボールに取り換えて、再び振りかぶる。
「えッ? さっきより速いんですかッ!?」
「当然だろう? 改造人間用の訓練なんだ。まだまだこれも初級編だよ?」
その言葉と共に、宣言通りさっきよりも加速したボールが健の眼前へと迫る。
「ご、ごごご、「5」ォッ!?」
健はボールを衝突直前で受け止め、輪郭で判断した数字を叫ぶ。だが、今度も茜の首が縦に振られることは無かった。
「残念。今のは「ら」だね」
その言葉にボールを確認すると、そこには確かに「ら」の文字があった。それに健は思わずボールを取り落としかける。だがどうにか堪えると、素人には到底出せない速度でボールを投げ返す。
「そんなのアリですかッ!?」
小気味良い音と共にボールを受け止めて、茜は軽く顎を引いて頷く。
「数字だけとは言っていないよ?」
茜は平然と返して、次のボールを振りかぶる。それに健は喉まで出てきた言葉を呑み込んで、身構える。
※ ※ ※
「悪いね。弁当だけじゃなくて店でまでごちそうになって」
「いや、ウチで食べた分は料金払ってくださいね?」
夕暮れ時のスカーレットジョーカー。今日の特訓を終えて仕事に入った健は、客としてついてきた茜に、湯気の立つプッタネスカの皿を出す。茜の物騒な発言への突っ込みも添えて。
「分かっているよ。ここを赤字にしたくは無いからね。キミの料理が食べられなくなったら残念だ」
フォークを手に取りながら穏やかに返してくる茜に、健は照れくささから頬を緩めて額を掻く。
「あ、ありがとうございます」
その一方、茜はソースを絡めて巻き取ったスパゲッティを口に入れ、じっくりと噛み締める。そして呑み込むと、口元に小さく笑みを浮かべてゆっくりと頷く。
「なにせ、キミを助けてきた理由の何割かはそれだからね」
満足げな茜の口から放たれた言葉に、健は目と口を大きく開く。
「え!? ちょ、本当にッ!?」
そんな健の反応に、茜は軽く唇を尖らせて鼻を鳴らす。
「……冗談だよ。そこまで本気で驚かれるのは心外だな」
「いやいや。もうちょっと笑えて分かりやすいのにしてくださいよ?」
右手を立ててパタパタと左右に動かす健。そして二人は、どちらからともなく小さく噴き出し、揃って笑みを浮かべる。
そうしている内に、店のドアがベルの音と共に開く。
「……だから、兄さんに聞いても何も……」
店のドアを開けて入ってきた薫は、こちらを見て、まるで凍りついたかのように動きを止める。そんな薫に、健は笑顔を向ける。
「おかえり、薫」
しかし薫は、健の挨拶にも反応せずに固まっている。そんな薫の様子に、健と茜は揃って首を傾げる。
「……薫?」
健が従妹の名を呟いた刹那、その薫の背中から何者かか現れ、カメラのシャッターを切る。
「ウホッ……いい修羅場」
妙に立派なカメラがどいて現れた、少女のいたずらっぽい笑みに、健はその少女の名を呟く。
「えっ……と、新田文香ちゃんだっけ? 薫のクラスメイトの」
健に名前を呼ばれ、文香は薫の陰から乗り出してウィンクをする。
「Yes,I am! チッチッ! 名前を覚えてくれたようで光栄ですな、お兄さん? またちょっとお話したいことが……」
と、文香が言いかけたところで、亮子が右手にカップを乗せたトレイを持って出てくる。
「ほい、紅茶。スカーレットブレンドね」
「ああ、どうも」
茜のテーブルに紅茶を置いた亮子は、未だに固まっている娘を一瞥する。そして空いたトレイで薫の頭を軽く小突く。
「いたっ」
「ほら、このブラコン娘。ンなトコに突っ立ってたら友達が入れないだろ?」
火の着いてないタバコを揺らしながらの言葉に、薫は小突かれた頭を押さえながら、上目づかいに母を睨む。
「べ、べつに私、ブラコンじゃないし……お兄ちゃんは従兄だし」
そんな娘の睨み顔などには全くひるんだ様子も見せず、亮子はパタパタとトレイを前後させる。
「はいはい、その従兄が女の客を接客する度に、顔面引きつらせてる子が何を言うのかねぇ?」
「ちょ! お母さんッ!?」
顔を赤くして亮子の言葉に抗議する薫。その一方で文香は笑みを深めて、メモ帳にペンを走らせる。
「おおう、これは面白いことが聞けましたなぁ」
そんな目の前で繰り広げられる騒動に、健はただ、首を傾げている。
『なんのことやら……』
「ふふ……賑やかでいいじゃないか」
そうして健と茜が揃って眺めている内に、薫も落ち着きを取り戻す。そしてペンを止めた文香が、亮子に見えるように右手を挙げる。
「あ、マスター! 私、コーヒーをお願いします! おススメのブレンドで!」
「OKOK、かしこまり。……っと、ウチのキッチン担当に話があるんなら手短に頼むよ?」
カウンターへの戻りざまに残した亮子の言葉に、文香は挙げていた手を額に添えて敬礼の形にする。
「了解しました!」
そのままカウンターの向こうへ去っていく亮子の背中を見送る文香。そして額に添えていた右手を下ろすと、満面の笑みでこちらへ振り向く。
「さて、マスターからのお墨付きもいただきましたし、よろしいですね?」
その文香の笑みに、健は諦め半分に頷く。
「ありがとうございます、お兄さん。最近宮鼓川ダム辺りに出るという大フクロウの噂をご存じで?」
宮鼓川とは、永江町を流れ、浜永湖に注ぐ川のことである。宮鼓川ダムは名前通り、その上流に位置する治水目的のダムである。
ライダーの正体として探りを入れられるものと思っていた健は、文香の予想外の質問に、首を軽く傾げて答える。
「いや、知らないけど……というか、なんで俺にそんなことを? もっと詳しそうな人なら山ほどいるだろうに」
健のその答えに、文香はペン尻を顎に当て、どこか探るようにこちらを眺める。健はそれを黙って受け続ける。そうしていると、不意に薫が割って入る。
「新田さん。兄さんは知らないって言ってるじゃない」
「そうそう。健君が噂話に詳しいように見えるかい?」
薫に加え、茜にも割り込まれて、文香はまだどこか訝しげな眼をしていたものの、ペンをあごから放す。
「ふむ、それもそうですね」
そう言って文香は鞄の中に手を突っ込み、一枚の写真を探り出す。
「まあ知らないなら知らないで構いません。この前、ダムまで行って撮ってきた写真なんですがね? 見てくださいよ」
言いながら文香が差し出した写真には、確かに翼を広げた大型の猛禽類のようなシルエットが写っている。しかし、背後にある樹木と比較しても、そのサイズは異常に大きい。しかも、脚などはどことなく人のそれを思わせる。
「これ、どう思います?」
健が黙ってそれを見つめていたところへ、文香の声がかかる。健はその写真を見たまま、眉をひそめて応える。
「そう……だね。確かに、妙に大きな鳥には間違いないみたいだね。でもこれの正体が何にせよ、こんなのがいるところには近づかない方がいい。危ないよ」
巨大猛禽の危険に警告する健。それに対し、文香は唇を尖らせると、軽く鼻を鳴らして写真をひらつかせる。
「ふぅむ……これでは釣れませんか。どこで撮った写真なのかと食いついてくるかと思っていたんですが……」
悪びれもせずにそういう文香に、薫が眉根を寄せて詰め寄る。
「新田さん!? 兄さんがせっかく……」
そんな薫の肩に、健はそっと手を乗せる。目を丸くして振り向いた従妹に、健は微笑んで首を横に振る。
「俺なら気にしてない。ありがとう。薫」
健はそう言って、薫の肩に乗せた手を軽く弾ませる。そして、食事中の茜に向かって振り返る。
「じゃあ、ゆっくりしていってください。すぐに次のを用意しますから」
「うん。なるべく早く頼むよ?」
いつもと変わらぬ声音で返してくる茜に笑みを返して、健は厨房に向かって一歩踏み出す。そして文香の横を通ったところで、その肩に軽く手を乗せる。
「好奇心が強いのはいいけど、本当に気をつけなきゃダメだよ?」
健はそれだけ言うと、文香の返事を待たずに自身の仕事場へ歩いていく。
※ ※ ※
「あれ? 文香ちゃんは?」
茜への大盛りカレーライス二皿を、左右それぞれに持った健は、見当たらなくなった少女の行方を尋ねる。すると、いくつかの空皿を前にして紅茶をすすっていた茜が、カップから口を放して口を開く。
「あの子なら、ついさっき支払いをすませて帰ったね」
「そうだったんですか?」
テーブルにカレーの皿を置きながら、健は文香に見せられた怪鳥の写真を思い出していた。
「……心配だな。もう、結構暗いのに」
夕闇に染まった窓の外を睨む健。
「心配なら私が見に行こうか?」
その声につられて視線を動かせば、その先には、目の前のカレーに手をつけずにいる茜の姿があった。真剣なその眼差しに健は首を横に振る。
「いや、俺が行きます」
健はそう宣言すると、エプロンを外してジャケットを掴む。
「ゴメン、亮子さん、薫! 文香ちゃんを送ってくる」
「はいはい、遅くなるんじゃないよ」
「もう……気をつけてね? あの子の家、高校方面だから」
二人の返事に健は右手を挙げて応えると、外に出てオーバーカムの眠るガレージへと向かう。
ガレージに入った健は、ハンドルに引っ掛けたヘルメットを被ると、黒いフルカウルのボディに、赤い二つのヘッドライトの愛車を外に引き出す。そして右足を後ろに伸ばしてオーバーカムのシートに跨ると、スロットルを捻って発進させる。
商店街を宮鼓川方面へ走り、赤信号の点った交差点で左折の方向指示を出して停車する。
『練習がてら、やってみようか』
健は心の中で呟き、目と耳に意識を集中して辺りを見回す。すると、走行音やエンジン音を越えて、道行く人の囁き声が耳に届き、遠く夕闇に紛れた人の姿すらはっきりと見分けられるようになった。
「……失敗しちゃったなぁ。お兄さんに謝らずに出てきちゃったのもまずかったなぁ……」
健は耳をついた聞き覚えのある声に、顔を左に向ける。その先には、ベレー帽を押さえてとぼとぼと歩く文香の背中があった。
「せめて明日、委員長には謝っておかないと」
呟きながら歩き続ける文香。その頭上へ音もなく降下する巨大な鳥の影。それを見つけた健は、一切の躊躇なくリバースドライバーを装着する。
「変身ッ!」
《Ride ON》
そして信号が青へ変わると同時に、バックルを上下反転させてアクセルをかける。
エネルギーの尾を引いて現れたリバースは、左膝が地面に擦れる程に車体を傾けて左折。そこからすぐに切り返して機首を怪鳥へ向ける。そしてヘッドライトに照らし出された、腕と一体化した翼を広げるフクロウ怪人に向けてオーバーカムをジャンプさせる。
「イィヤアアアアアアアッ!!?」
リバースの雄叫びと共に跳び上がったオーバーカム。その機首が怪人を捉え、再び上空へ押し返す。
「ギヤアアアアアアッ!?!」
奇声を上げて飛んでゆくフクロウ怪人を睨みつけ、リバースはさらにアクセルをかける。すると、オーバーカムのタイヤが甲高い駆動音と共に光に包まれ、宙を踏んで走りだす。
「乗り越える」という意の銘をうたれたライダーマシン・オーバーカムは、陸上、水上に加え空中すら走破することが出来る。
「へっ……あれは?」
人々のざわめきと文香の驚きの声を背に、リバースはオーバーカムで夜空へ走る。空中で身を捻り、音もなく羽ばたいて逃げるフクロウ怪人。その背を追って、リバースを乗せたオーバーカムが光のレールを敷くような形で宙を走る。
「チィッ! 邪魔が入るとは!」
怪人が舌打ちと共に大きく羽ばたき、ほぼ直角に上昇する。
「昇れェッ!!」
それに合わせ、リバースも愛車の機首を持ち上げて、空を昇る。
「クッソ!」
追いすがるこちらを見下ろし、右方向へ切り返すフクロウ怪人。その背中を睨みながら、リバースは右方向に体を倒し、ネジを一回しする要領で回転、怪人の後方に付く。
こちらを振り返った怪人は、今度は身を翻してこちらへ切り返す。
「何ッ!?」
正面から嘴を突き出して向かってくる怪人。しかし衝突の直前、不意に身を捻り、羽毛が触れるかのような距離をすり抜ける。それを追って切り返すリバース。だがその目の前を何かが遮る。
「なッ!?」
右手で視界を遮るそれを横薙ぎに振り払う。
「グギェッ!?」
離れていくそれは、歪な茶褐色のフクロウのような鳥であった。それを視界の隅に流して、リバースは再び正面を向く。
「ッ!? どこへッ!?」
だが、前を飛んでいたはずのフクロウ怪人の姿は影も形もなかった。
「逃げられたか……?」
周囲を警戒しながら飛び続けるリバース。そこで不意に耳をついた微かな風切り音に、直感的にオーバーカムの機首を切り返す。
「ギエアッ!!?」
すると、ちょうどオーバーカムの前輪に、フクロウ怪人が顔から垂直の形に衝突する。
「うわッ!?」
意図せずに車体を襲う衝撃に、リバースとオーバーカムはバランスを崩して落下を始める。一方、カウンター気味に衝突したフクロウ怪人も、同じように重力に引かれる。だが、すぐに翼を動かすと、ふらつきながらも高度を維持して飛んでゆく。
「待てッ!」
それを追おうとリバースはオーバーカムのスロットルを捻る。だが、オーバーカムの車輪は空回りするばかりで、落下の勢いは止まらない。
「しまったッ!? 限界時間かッ!?」
オーバーカムが連続で空中走行できる時間はおよそ三分。そのリミットを迎えた以上、これ先の追跡は不可能である。
着地の直前、タイヤから一瞬だけ力場が展開し、衝撃を和らげる。腰の下から持ち上げられるような衝撃を受け止めて、リバースはフクロウ怪人の逃げて行った方角を睨む。その先には夕闇に染まった山々が連なっていた。