今回は由良視点回ですが、ハジメくんには原作通り堕ちてもらいます
生暖かい風が体を包む感触に、由良は意識が徐々に覚醒していくのを感じた。その事を不思議に思いながらゆっくりと目を開く。
(……生きている。……助かったのか?
それに、ここはどこだ……?)
目を開ける、そここは白い空間だった。白い地面、薄く青い空、そのような光景が地平線の彼方まで360度続いている。そんな所に、由良は立っていた。
(俺は気絶する前まで壁の穴蔵にいたはずだ…。それがなんでこんな所で目が覚める…?)
今起こっていることに疑問が尽きない。何故?どうして?俺は本当は死んだのではないか?と。だが、その疑問に答えるかのように一人の声が聞こえる。
「ようこそ、我が領域へ。"裁定者"よ」
目の前にいた"そいつ"は突然に現れた。その事に、驚愕を隠せず数歩後ずさってしまう。つい先程までそこには誰も居らず、この世界に俺一人だけだと思っていたのだから。
「フフッ。何をそんなに驚いておる。我に喚び出されるとは名誉な事なのだぞ」
クスクスとほくそ笑む"そいつ"は姿形は人に寄せていても中身が"異常"だった。こう、概念的に存在しているような、信仰や憎悪の塊のような。人の人生で一切感じることがない感覚が由良を襲う。
「…"アンタ"は一体誰なんだ」
言葉を発したのは反射的だった。そう、言葉にはせずにいられなかったから。
その言葉に"コイツ"は、まるで赤子を見守るかのように由良を見据え、堂々と正体を明かす。
「クックックッ、あって間もないのに我に"一体誰"か。やはり面白いな貴様は。宜しい。その審美眼に免じ教えてやろう。
我はエヒトルジュエ、この世界の神である」
エヒトルジュエと名乗った"コイツ"の言葉は異様な信憑性を兼ね備えていた。頭ごなしに違う、"こんな奴"が神なわけない、信じられない、と否定しても信じさせられる。強制的に。
「エヒトルジュエ…だと?な、なら、"お前"が神エヒトだと……」
体中から冷や汗が流れる。"コイツ"が、いや…目の前にいるこの人がエヒト神ならと思うと、口がいつもの様に動かない。
だが、言葉を紡いでいる由良が最後までその言葉を言い終えることは無かった。
「我が名乗ったのだ。それを聞いてなお、我と同じ目線の高さをしているとは、すこし不敬が過ぎるな。エヒトの名において命ずる――“平伏せ“」
その言葉を聞くと体が勝手に動きエヒトに平伏す。自分の意思とは関係無しに。
その姿を見るエヒトは満足したようにほくそ笑む。そして、唐突に変な事を聞いてきた。
「それで良い。さて"裁定者"……いや、ここでは由良と呼ぶか。由良よ、お前は生きたいか?」
「い、一体何の話だ…?生きたいかなんて聞かれても、オレは既に生きていて……」
唐突に何を聞かれるかと思ったら、生きたいか、と聞かれた。しかし、現に今生きている由良にその質問は意味をなさなかった。それを納得したようにエヒトは言葉を付け加える。
「あぁ、お前は知らないのであったな。今のお前の体の状況を。」
またさらに訳の分からない事をエヒトは言い出す。オレの体の状況だと?
疑問に更に疑問が重なり、もう何が何だか分からなくなってくる。
それに答えるようにエヒトが話し始める。
「よく分かっていない、お前に優しい我が教えてやろう。今のお前は我の魂魄魔法、下界で言う神代魔法にて魂をこの場に固定しているに過ぎん。今のお前の体は未だあの穴蔵の中だ。それも、もう少し時間が経ったら朽ちる程に状況が悪い」
「なっ…!?」
由良は自分の体を見る。すると、確かに魂のように自分の体は透けていた。エヒトが言ったことは確かなのだろう。先程言っていた、生きたいか?というのはこの事だったのだ。
「さぁ、どうする?今のお前の状況は伝えた。それを踏まえて生きたいか?それとも、このまま死ぬか?」
究極の選択を迫るエヒト。だが、由良は戸惑うことなく言い切った。
「オレは…生きたい。生きて、ハジメを探し出して、みんなの元へ雫の元へ帰りたい」
その言葉を聞いたエヒトは分かりきっていたのかクツクツと笑みをこぼす。そして、由良の体に触れる。
「宜しい。お前の願いは聞き届けた。今からお前の魂と体に干渉する。死ぬ程の痛みがあるかもしれんが、死んでくれるなよ?」
突然、由良の体に(詳しくは魂だけなのだが)異変が起こり始めた。
「あ? ――ッ!? アガァ!!!」
突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。
「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」
「今、お前の人としての魂と体と使徒を1:2の割合で融合させておる。普通なら誕生される前に融合するのだがな、事情が事情だ。我慢しろ」
エヒトから、融合やら、使徒やらと言葉が聞こえるが考える余裕もなく、耐え難い痛みに立っていられず座り込んでしまう。自分を侵食していく何か。由良は地面をのたうち回る。今は無き右目の痛みなど吹き飛ぶような遥かに激しい痛みだ。
エヒトが触れてい手で治癒魔法を発動させる。香織達、チート組の治癒など赤子のような勢いで。直ちに治癒が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。
「ひぃぐがぁぁ!! 何で……痛みが収まらなぁ、あがぁぁ!」
由良の体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。
しかし次の瞬間には、治癒魔法が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。
治癒の効果で気絶もできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。
由良は絶叫を上げ地面をのたうち回り、終りの見えない地獄を味わい続けた。いっそ殺してくれと誰ともなしに願ったが当然叶えられるわけもなくひたすら耐えるしかない。
すると、由良の体に変化が現れ始めた。
まず右の前髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなっていき光沢を放つ。所謂、銀髪だ。次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと青白い線が幾本か浮き出始める。
超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。今、由良の体に起こっている異常事態も同じである。
魔物の肉は人間にとって猛毒だ。という話は少し前に、ハジメから聞いたことがある。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。
この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊してくのである。
過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。つまり、使徒との融合も変質した魔力を体内に取り込んでいることと一緒なのである。
由良もただ使徒と融合されただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。しかし、それを許さない秘薬があった。エヒトの治癒魔法だ。壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。
壊して、治して、壊して、治す。脈打ちながら肉体が変化していく。その様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。由良の絶叫は産声だ。
やがて、脈動が収まり由良はぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は元の黒の他に前髪の右半分は完全に銀髪染まっており、髪全体で見ると黒髪の所が数本銀髪になっている。服の下には今は見えないが青白い線が数本ほど走っている。
由良の右手がピクリと動いた。閉じられていた目がうっすらと開けられる。焦点の定まらない瞳がボーと空を見る。やがて地面を掻くようにギャリギャリと音を立てながら拳が握られた。
由良は、何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。
「どうやら、使徒との適合に成功したようだな。まぁ、我が見つけたのだから、これぐらいしてもらわなければ困るがな」
エヒトが当たり前だと言わんばかりに言葉を突きつけてくる。が、一安心しているのには変わりないだろうと内心思っておく。
「死ぬ程とは聞いたけどさ、本当に痛いじゃねぇかよ…。マジで死ぬかと思ったわ…」
疲れ果てた表情で、自嘲気味に笑う由良。
飢餓感がなくなり、壮絶な痛みに幻肢痛も吹き飛んだようで久しぶりに何の苦痛も感じない。それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。
途方もない痛みに精神は疲れているもののベストコンディションといってもいいのではないだろうか。腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。実は身長も伸びている。以前の由良の身長は百六十センチだったのだが、現在は更に十センチ以上高くなっている。
「俺の体どうなったんだ? 何か妙な感覚があるし……」
体の変化だけでなくハジメは体内の違和感も覚えていた。暖かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。自分の体を調べようと意識を集中しようとすると、エヒトが右目に触れてきた。
「こいつは餞別だ。力の使い方は直接脳に叩き込んでおく。使い方を誤るでないぞ」
触れていた右目の部分が光ると、爪熊にやられ無くなった右目が復活しているのが分かる。
「お、おい、これはいったい…!」
「では、達者でな。お前の道のりが苦難に満ぬことを願おう」
突然渡された副産物について聞きつめようとしたが、有無を言わさずに視界が白く染め上げられ、オレは気を失った。
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硬い地面、鼻につく土の香りに頭が覚醒していく。
気がつくと、由良は気を失っていた元の穴蔵にいた。後ろを振り向くと自分が錬成し逃げてきた後が見える。
「この地獄に帰ってきたんだな、オレ…。そうだ、ステータスプレートは……」
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平沢 由良 17歳 男 レベル:15
天職:錬成師
筋力:400
体力:500
耐性:300
敏捷:650
魔力:500
魔耐:300
技能:錬成[+鉱物鑑定]・魔力操作・剣術・全属性適性・全属性耐性・物理耐性・先読・高速魔力回復・限界突破・空間操作[+宝物庫]・裁定者の断罪・神眼・絆の誓[+Rose]・言語理解
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「……マジかよ」
驚愕のあまり思わず絶句する由良。ステータスが軒並み急増しており、技能に関しては十一も増えている。更に、派生技能まで。しかもレベルが未だ15にしかなっていない。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、どうやら由良の成長限界も上がったようだ。
「魔力操作?」
文字通りなら魔力が操作できるという事だろうか。
由良は、「もしや先程から感じている奇妙な感覚は魔力なのでは?」と推測し、先程と同じく集中し“魔力操作”とやらを試みる。
由良が集中し始めると、青白い線が再び薄らと浮かび上がった。そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージ、つまり某オカンの姿をを思い描く。すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。
「おっ、おっ、おぉ~?」
何とも言えない感覚につい声を上げながら試していると、集まってきた魔力が何とそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。驚きながら錬成を試してみる由良。するとあっさり地面が盛り上がった。
「マジかよ。詠唱いらずってか? 魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……どうやら、使徒?と融合させた時に魔物の特性もくれたらしいな…」
大正解。確かに、由良は魔物を食べてはいないがこの世界の神、エヒトに器として見初められ死なぬようにと与えられたのだ。由良は、次に"錬成"から派生した"鉱物鑑定"を試そうとする。
"鉱物鑑定"は王都の王国直属の鍛冶師達の中でも上位の者しか持っていないという技能だ。
通常、鑑定系の魔法は攻撃系より多くの式を書き込まなければならず、必然、限られた施設で大きな魔法陣を起動して行わなければならない。しかし、この技能を持つ者は、触れてさえいれば、簡易の詠唱と魔法陣だけであらゆる鉱物を解析できるのだ。潜在的な技能ではなく長年錬成を使い続け熟達した者が取得する特殊な派生技能である。
早速、由良は周囲の鉱物を片っ端から調べていく。例えば、緑光石に鉱物鑑定を使うとステータスプレートにこう出る。
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緑光石
魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。
また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。
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何とも簡易な説明だ。だが、十分にありがたい情報である。由良はニヤリと悪巧みを考えついたように笑った。それからもあちこち役立ちそうな鉱物を探して彷徨っていると、遂に、由良の相棒にして切り札となる武器を作るために必要な鉱物を発見した。
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燃焼石
可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。
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タウル鉱石
黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。
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由良はこの説明を見た瞬間、脳内に電流が走ったような気がした。
燃焼石は地球で言うところの火薬の役割を果たせるのではないか? だとしたら、攻撃には使えない錬成で最大限の攻撃力を生み出せるかもしれない! と。
由良は興奮した。作成するには多大な労力と試行錯誤が必要だろうが、それでも今まで自分を幾度となく救ってくれた錬成で、遂に攻撃手段を得ることが出来るかもしれないということが堪らなく嬉しかったのだ。
10日後
そして、寝食を忘れてひたすら錬成の熟達に時間を費やした上、何千回という失敗の果てに、由良は遂にとある物の作成に成功した。
音速を超える速度で最短距離を突き進み、絶大な威力で目標を撃破する現代兵器。
全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った弾が12〜15発入るカートリッジ式の弾倉。長方形型のバレル。中には粉末状の燃焼石と細かく砕いたタウル鉱石が圧縮して入れてある。
すなわち、大型のセミオート自動拳銃だ。しかも、弾丸は燃焼石の爆発力を上げるため、細かく砕いたタウル鉱石が散りばめられた疑似炸裂弾、由良の全属性適正による“雷炎”により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対戦車ライフルの十倍である。ホーネットと名付けた。何となく相棒には名が必要と思ったからだ。
「……これなら、あの化け物も……ハジメを救出して脱出だって……やれる!」
由良はホーネットの他にも現代兵器と漫画などの記憶を元に参考に作った爆発属性を備えた剣を眼前に並べて薄らと笑った。
ただ、剣や防具を上手く作るだけ、そんなありふれた天職“錬成師”の技能“錬成”が、剣と魔法の世界に現代兵器と魔法兵器を産み落とした瞬間だった。
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余談だが、由良は新しく増えていた"空間操作"も試していた。
これは簡単に言うならギル○メッシュの"王の財宝"だ。簡単にものの出し入れが出来るため重宝することになるだろう。
とりあえず、中には弾倉の予備を少しと鉱石類を入れて置いた。
ハジメは【神結晶】で助かりましたが、【神結晶】は大変貴重なもの。そこで、どうやって由良を助けようかと思ったところこうなりました。
普通ならもっと工夫しろよとか思われるでしょうね(汗