あとちょっとしたイメージビジュアルなども
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談話する二つの影があった。先を歩くのは長身で端正な顔立ちの男だった。長い髪が歩くたびに揺れる。
その少し後ろからついてくるのは顔から一切の感情が見て取れない銀髪だ。彼は右手を垂らしている。何かしらの不調を抱えているようだ。
「見つかりませんね。迷いの森に入るべきではないでしょうか」
「私たちが外敵にカウントされないと思うかい?」
「ソフィア・ミュラトールを有用だと判断したのならリスクは背負う必要があるかと」
命は等価ではない。ウィルは相変わらずの無表情で淡々と告げた。
「最初からその判断をするべきだったかなあ」
人々から話を聞いて結局決めた。森に入るべきだと。決定的な情報となったのはつい最近得たひとつ。透明な板に乗り空を飛ぶ男。
「本人でしょうか」
「彼には残るよう言い聞かせておいた。『右腕』がアレックス・バイロンの命令に逆らうはずがない」
「……そう、ですか」
「けれど万が一あれが本物なら少し困ったことになる、かな」
森に向かっていたその時だった。横から巨大な斬撃がバイロンに襲い掛かる。とっさに庇ったウィルがそれを真っ向から受ける。それでも表情は崩さない。
この時のバイロンは知る由もないが、ゼロスに迷いの森を教えた女だった。
だが、知っていた。アレックス・バイロンはその女を。
「リヴェン? 行方不明と聞いたけど生きてたのかい」
彼女は元々ノクサスで名を馳せた戦士だった。あの大剣も魔力が込められたもので、皇帝直々に贈られた一品だ。所々明らかに折れているというのにまだそれは剣の形を保ってリヴェンの手に収まっている。
長らく行方不明になっていたリヴェンについては戦争で死んだという噂が流れていたはずなのだが目の前で動いているのを見ると少なくともその噂は違ったらしい。
「外したか」
「身を挺して庇ってくれたからね。幸せ者だよ私は」
「どの口がそれを」
随分とお怒りのようだね。バイロンは状況を分析する。
風の音。剣が空を切る。
「悪いが、その右手を切り落とす!」
リヴェンの言葉は明らかにその性質を知ってのことだ。
「できるものなら」
表情を変えずにウィルが即答する。
大地から湧き出る骨をリヴェンは何度となく切り倒す。あちこちに骨が散乱しては消えていく。ウィルの魔法が呼び出すのは実際の人骨そのものではない。魔法で作り出された物質であり、本質はむしろゼロスの壁に近い。
「悪趣味な奴だ」
「骨だろうとなんだろうと使えるものは何でも使う。それの何が悪いんだい? まあ裏切り者にはわからないかな」
リヴェンは執拗にウィルの右手を狙う。ただでさえ不調を抱えた手をリヴェンは切り落としにかかる。
「首や心臓を狙おうとはされないのですね」
「同じだろう」
お前たちにとっては。
「こちらの方とはお知り合いで?」
ウィルはバイロンに聞く。
「悲しいことにその通りさ。昔『右腕』にならないかと打診したが断られてしまってね」
「誰が受け入れるかあんなもの!」
「『誰が』と言われたら君の目の前にいるじゃないかとしか言えないね」
リヴェンは叫びとともに剣を振り下ろした。ウィルの右手を狙うが間一髪で回避される。刃それだけを避けたとしても衝撃波が先まで届く。傷は入ったが、切り落とされるまでには至らない。
***
空中散歩で来た道を戻ったゼロスだが、妙に騒がしい。
地上からは迷いの森について教えてくれた銀髪の女が手を振ってきた。手を振って、地面を指さす。降りてこいということだろうか。
降りると女は真面目な顔でゼロスにこう言った。
「……この辺りは危険だ」
行きの時はそんなこと言ってなかったんだけど。何かあったんだろうか。
「避難しろ。高く飛ぶな。姿を隠せ。魔術師ほど危険だ」
「えっと?」
「アレックス・バイロンが来ている」
その言葉を聞きゼロスは目を見開いた。
「生きてるの」
「ああ。取り逃がした。因縁でも?」
「あ、まあ、そんな感じ。一人だけ?」
「いや、銀髪の男を連れていたな。傷を負わせたが逃げられた。私は行方不明者が出ないように村人に周知しているところだ」
銀髪っていうのはおそらくウィルだろう。だが他には誰もいないのか。
「じゃあもうバイロンは逃げたんだな?」
リヴェンは頷く。
「過剰に不安がる必要はない。イレリアが追いかけてるからすぐ捕まるさ」
ごめん。何だって? ゼロスは一瞬表情を歪めたがすぐにいつも通りを装う。
「……イレリア?」
時間が止まったようだった。名前しか知らない恐怖に足が震える。何故。わからない。妹のために死ぬことすら厭わないと飛び出したのに時々自分のことがわからなくなる。自分が自分でないような気さえする。
「どっちに行ったの」
絞り出すような声。リヴェンは道を指差す。行くな、という意味合いで。だがゼロスは当然のことながら逆の行動を取った。
空中に生まれる板。当然のように飛び乗り女の横をすり抜ける。
「なっ……!」
「待ってて。大丈夫だから」
それだけ伝えて、ゼロスは宙を滑った。