Zelos - the Dreamer   作:Moa

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包囲網

 

 逃げてきたゼロスとバイロンは、背後から追いかけてくる存在に気付く。

 そこには、あり得ざる者が立っていた。

「ウィル! 生きてたんだ」

 ゼロスは駆け寄ろうとするがバイロンに肩を掴まれる。

「駄目だ、あれは」

 

「ころ……す」

 隻腕の術師は確かにそう言った。地面から骨が生えてくる。即席の兵士を指揮するウィルは、ゼロスが見たことのない表情をしていた。今までゼロスはウィルが怒るなんてこと想像できなかった。いつだって淡々と仕事をしていたウィルが。淡々と間違いを指摘するのではなく、『怒って』いるのが不自然だった。

「おま……え…の…せい……」

 

「ウィル! 俺だって! ゼロスだよ! ゼロス・ミュラトール!」

「……て、る」

 止まる気配はない。スケルトン軍団が襲い掛かる。攻撃自体は壁で防げるが数が多すぎる。

「もう駄目だ、あれは。死霊術による蘇生は不完全だから何かしら歪められているらしい。例えばウィルには私が別の何かに見えているとか」

「……う。ころす、ころしてやる!」

「あれ死霊術なの?」

「自分にかけたとみて間違いないだろう。絶対に一度死んでるはずなんだ。『右腕』がその象徴を切り落とされたのだからね」

 首みたいなものだよ。バイロンの言葉はゼロスの胸に重くのしかかった。

「腕斬られただけで死ななかったってことは?」

 両足を失ってもそれでも生きていた人がいた。ゼロスが救いきれなかった女の事を思い出す。

「無いね。死と文様の消滅は片方が起こればもう片方に連鎖して反応する」

 ゼロスは左横をちらりと見る。何かに疑いを覚えた時、あるいは……真実を受け入れられないときの癖だった。

 

「とはいえ彼も長くは保たないだろう」

「そう、なの」

「せいぜい一日が限度だろう。……禁止してたんだけどな」

「ん、なにか言った?」

「ああこちらの話」

 ウィルの攻撃を受け流しながらバイロンは指示を出す。

「彼に、相応しい最期を」

 

***

 

「……おやすみ」

 ついに動かなくなった。

 追われている身ゆえにじっくりと葬儀をするわけにもいかず、放置に近い状況だったが。

 

 

 そこで2人は、何かが追いかけてくる事に気づく。

 声が聞こえた。

「そいつがバイロンだ! 離れろ!」

 と叫ぶリヴェンを見てゼロスは首を傾げる。

「何で?」

「何でも何も、そいつは」

「私の忠実なる部下、ゼロス・ミュラトールに何か用かい」

 言葉を詰まらせる。

 

 そしてどうやら彼女一人じゃなかった。

「待ってくれ、思ってたより到着速すぎないかい?」

 イレリアも追いついてきたとなると。

「諸事情でな。さて……返してもらおうか」

「返してもらおうか、ねえ。肉体は引き渡せても魂は死ぬまで私のものだというのに?」

「それなら肉体だけでも」

「困るよ」

 

「降伏してくれませんか」

 紫の肌が控えめに姿を現した。角の生えた女性が悲しげに見つめている。大きな杖を持っているからどうやら魔法の使い手らしい。バイロンの瞳で見る限りではさほど暴力性は高くないが、それすなわち無害という意味ではない。

「三人目だと」

 

 ゼロスは壁でバイロンと共に飛び立とうと試みる。何も起こらない。

 妨害された様子だ。

「させません」

 地面が光り始める。角の生えた奴が何かしたらしい。

 どうするの、これ。ゼロスはちらりとバイロンを見た。

 どうやら魔法を封じる領域みたいだね。そう言いたい所だったが口から言葉が出てこない。

 

 角娘が降伏するかどうかの返事を聞きたかったのだろうかやっと喋ることを許された二人だったが、今度は動きを封じられる。

「流石にこうなると分が悪いな。逃げるだけでも難しくなってきた」

 一人ならまだ対応できたものを。三人って。バイロンは思考する。ゼロスを手放すのは確かに惜しい。だが代用は可能な能力だ。守りも空中浮遊もさほどレアじゃない。

 

 だから、代用できない能力を確実に取り戻す。

 

 それにゼロスがここで囚われたとして裏切られる心配はない。そんな事はあり得ない。

「死の瞬間まで君は忠誠を誓うのだから」

「バイロン?」

 

「決めたよ。ゼロス・ミュラトール。私が逃げるまで時間を稼いでくれ」

「ん」

 『右腕』はそれを断らない。だって『そういうもの』だから。ウィルが生きていたとしても間違いなくそう動いただろう。

「君の事は忘れない。祖国の為に散った盾の魔術師としてね。妹君にも伝えておくよ。ゼロス・ミュラトールは立派だったってね」

 刃がバイロンの顔めがけて向かう。それをゼロスは何とかして術で弾く。

「……黙れ」

 この女はどうやら怒っているらしい。

 

 ゼロスはただ言われた通りに使命をこなした。自分の命を度外視すれば案外一人を逃がすことはできるらしい。少しだけにやけた。それでいい。命の使い道としてこれ以上のものはないと思えた。

 

 女たちの発する雑音はゼロスの思考を動かさない。

 誰に恨まれようとも全てを終わらせる銀糸の覚悟も、害意すら癒そうとする決意も。

 

 奪われた夢を取り戻そうとする氷山の熱情も。

 

 

 

 

 そしてゼロスは、囚われの身となった。

 

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