目を覚ました俺は見知らぬ部屋にいた。木造だってことくらいしかわからない。部屋の中に何故か木が生えている。まるで木が自分から椅子になったかのような形をしているそれに女が座っている。黒髪の女だ。……って、これ明らかに。
「イレリア!?」
そこで俺は思い出す。バイロンを逃がす為に自分が捕まったことを。今目の前にいるこの女は仲間の一人を殺し俺を捕まえた奴だ。
ずっと恐ろしい存在だと言い聞かされてきた相手だった。見つかるべきじゃないと言われたけど俺は見つかった。助けるためだから、後悔はしてないけど。
戦闘態勢に移ろうとしたけど何かに拘束されているようで動けない。妨害されているようで魔法も使えない。
「起きたか。暴れないよう拘束させてもらっている。すまないな」
イレリアが口を開く。その表情は正直読めない。めちゃくちゃ怖い。目が合う。右手に痛みを強く感じる。またこれか。最近多い。模様も薄くなってるしもうすぐ死ぬのかな。まあこの状況はもう死んだようなものだけど。
「言っとくけど拷問とか無駄だから」
「落ち着け、拷問するつもりはない」
「じゃあこれ解いてくれない? 痛いんだけど」
「安心しろ、『右腕』の文様が消えたらすぐ解くから。……救ってみせる」
何言ってるんだ?
「矛盾したこと言うなよ」
拷問はしない。殺す。ってそれ安心できるわけないんだけど。
「私の中では矛盾しているつもりはないんだが」
矛盾してない? そんなことあるわけがと思った直後、かつてウィルが話したことを思い出す。幽霊が住む呪われた島には死は救済と主張して人間を殺しまくる奴がいるらしい。
そういうことだったわけ?
わからない。こういう奴に対してどう接すればいいのか。
「これ消しても俺は救われないよ。むしろ逆。このままにしといて」
「断る」
そりゃそうだよな。知ってたけど聞いてみただけ。
「ゼロス、お前はそれを望んでない」
胸の中を切り裂かれたような不快感。何それ。殺すとか言われるのは別にいい。善意で殺そうとしてくるっていうのはすごく困るけど、それでもすごく困るってだけ。殺されるのは困るから戦うけど、それだけ。
だけど俺の心の中まで勝手に決めないでほしい。
「本気でそう思ってるんだけど」
「あり得ない。……あり得ていいはずがない!」
これがソフィアなら俺が本気でそう思ってること絶対わかってくれるのに。
「俺の心は俺が決めるし、絶対祖国を裏切ったりもしないよ」
一瞬の沈黙。周りの静けさの中、彼女が息を吸う音だけが聞こえた。
「黙れ」
怒られた。
「……やはりアレックス・バイロンを殺すしかないようだな」
「それは駄目!」
言葉は考えずに口から出てきた。だけどどうすればいい?
イレリアが何を考えているのかを考えてみる。人を殺して救済するサイコパス。だとしたらバイロンの事も助けたい? 違う? 何考えてるの?
あ、でも確か軍を率いてるとかそんな感じの人だっけ。人殺しが趣味なら確かに優秀な軍人になる……のかな。
何か思いつきそうなんだけど、右手が痛んでそれどころじゃなくなる。呻いているとイレリアはちょっと待ってろと言って出ていった。
しばらくしてイレリアは他のやつを連れてきた。紫の女。俺を捕まえた三人組の一人。
「ソラカ……頼む」
「はい」
額に汗が滲むほど力を込めて杖を握りしめる。俺に魔法をかけたらしい。
傷が癒える感覚と右手の痛みが同時に訪れて身体が混乱する。プラスとマイナスが両方増えた感じ。
結構粘ったけど彼女の魔法で俺の模様は消えなかった。しばらくして彼女は続けるのを諦めたらしい。勝った。
「あまりに強力な術です」
そうだろ? かけたの俺じゃないけど認められると嬉しい。たとえそれが敵からでもね。
「彼の命を度外視すれば解除も可能ですが、それでは意味がない。一旦中断します」
「わかった。……だが、もし上手く行かないのなら最終手段も考えておく」
イレリアの言葉を聞いてソラカは黙った。何かを言いたいけど言えずにいるみたいな顔だった。
どういうことだ? 失敗したら殺すぞソラカ、ってこと?
俺を色々調べたソラカは結局監視を付ける条件で少しだけ拘束を緩めてくれた。イレリアは少し悩んでたみたいだけど。
***
窓から夜空が見える時間。茶を飲みながら談話しているが彼女たちの表情は険しい。
「イレリア、伝えなくて良かったのですか?」
ソラカは悲しげにイレリアを見つめる。
「むしろその方がいい。今伝えたところで寝返るなんてありえないから」
「……わかりました。せっかくご家族に会えたのにこんなのって」
「今更戻ってきて傷を抉るか。残酷な奇跡もあるものだ」
「これが彼のやり口ですからね、悲しいことに。今回の件で行方不明になった人がいないのは不幸中の幸いでしたが」
「攫われて洗脳されたら手遅れと言われているが、私は信じない。やはり仕留めに行くべきか」
「くれぐれも無茶はなさらないでくださいね」
星はただ見守っていた。