無謀にも思える秘策。わたしはその全貌を改めてみんなに説明した。
「『時の塔』。……『その塔の頂上で死んだ人間は生き返る』っていう伝説の場所があるの」
わざわざ塔の上に登って、その頂上で死んだ人『だけ』が生き返る魔法。塔の頂上で死ぬ必要があるという事が知れ渡ってからわざわざ目指す人は絶滅危惧種になった。
『私を殺すより死人を生き返らせる方法を探した方がいい』ってバイロンさんが言ったのも根拠の一つ。
「彼の呪いは文字通り『死ぬまで解けない』んです。でも逆に言えば『一度死ぬと解ける』ってこと。死んだ人間が何らかの理由で生き返れば」
「そんな事できるんですか」
ソラカさんは目を見開いていた。
「失敗した逸話ならそれこそ世界中にあります。でも成功例となると私も知らないわ」
「失敗例か。どんな話なんですか?」
「例えば、そうね」
ソラカさんは様々な話を教えてくれた。
遥か昔、病で死んだ娘を生き返らせようとした癒し手の話。一度は娘が目を覚ましたというが、翌日彼女は心臓に棒のようなものを刺され死んでいたという。
肉体を機械に改造した者。確かに死の淵から蘇るほどの技術を持つ者もいたが、それでも流石に死んでしまえばそこから呼び戻すことはできなかった。
死霊術で蘇った剣士が術者に命令されるもそれを果たす前に獣に首を噛み千切られた事。
時を戻す少年の話。死んだ友達を救う為に何度も時間を戻して、それでも救えなかった友のこと。
「長い時を見守ってきた私ですら完全な成功例は見たことがありません」
「でもエズリアルさんは確かにそう書いてた!」
「彼を信じるのですか」
「うん」
「もしそれが嘘だったら」
「だとしても他に方法が思いつく?」
ソラカさんは首を横に振った。
「だから、もしダメだったら、その後考えてみませんか」
ちょっと理解が追い付いていない様子のお兄ちゃん。その手を取ってわたしは説得を試みる。
「わたしを信じて、一緒に塔に登ってほしいの。イレリアさんを恨むのはその後でいい」
「……えっと」
今の彼は命令をこなすだけみたいになってる部分がある。その命令を下すのはバイロンさんだったけど、彼がいないときはわたしがやっていた。だから彼がいない今、わたしの命令聞いてくれる、といいな。
「簡単に言うとね。お兄ちゃんこのままだと死んじゃうの。でも時の塔の頂上で死ねば生き返れる」
壊れた思考回路。それが治ったら彼はわたしをどう思うだろうか。不安がないわけじゃない。冷たい目で見られたらきっとわたしは壊れちゃう気がする。でも、きっともう、それしかないの。
「……何それ。生き返らせるとかできるの」
「できるよ。ちゃんとこの耳で聞いた」
わたしがそう主張するとそれもそうか、と納得してくれた。お兄ちゃんは本当にそういうところ素直だ。
イレリアさんはわたしをというよりソラカさんを信じてるような感じで最終的に受け入れてくれた。ソラカさんですら癒せない傷の解決法が簡単なわけがない、って。
「ソフィアは」
どきり。イレリアさんの声にわたしは反応する。
「はい、なんでしょうか」
「人を疑わないな」
「かもしれません」
「今までどうやって生きてきたんだそれで」
「運が良かったんですよ」
本当に。この力がなければ今頃わたしは存在価値を失ってどこかで死んでいたと思うから。
「少しは人を疑うことを覚えた方がいいぞ」
その言葉が彼女の善性を証明する。わたしをお人よしなどといえるのは誠実な人だけなのだから。
「ところでソフィア」
「はいなんでしょう」
「本当の妹でないものがお兄ちゃんなどと呼ぶことを許した覚えはないが」
うっ。なかなか刺々しい。
「は? 妹だけど? ってか何でイレリアが怒ってんの?」
「だが血は繋がってない」
「何言ってんだよ、ソフィアは」
本当なの、それ。ごめんね。
わたしはお兄ちゃんの手を引いて答える。
「それ、嘘じゃないの。今まで言えなくてごめんね。でもわたしは、血は繋がってなくても、それでもあなたのこと大好きだよ」
「偽物だがな」
「……ごめんなさい」
「あんまりソフィアをいじめないでほしいんだけど」
「待ってよ、
「確かに」
「確かにじゃない! ソフィア、私はいつでも貴様を殺せるんだが?」
殺すことができるのは事実だよね。今殺す気があるかは別の話だけど。
「そういうこと言うとお兄ちゃんに嫌われちゃいますよ。今の彼はわたしに従ってるんです、あなたじゃない」