時の塔
ソラカの予言とそれに対するソフィアの証明を頼りに砂の上を低空飛行で塔へ近づいて行った。
近づけば近づくほど禍々しく変わる風景。それでも行くしかないらしい。
飛んでいる間イレリアがずっと隣にいることに違和感を覚えながらも俺が怒りのまま彼女に魔法を放たないのは、ただ妹がやめてと言ったからにすぎない。
ソフィアに血は繋がってないのだと突然言われたのはちょっと驚いたけど、自分が思った以上に冷静で戸惑った。だけど、それ自体は別にいいんだ。血が繋がってなかったからといってソフィアがソフィアでなくなるわけじゃない。
妹の話によると俺の命はもうすぐ尽きることが決まっていて、これからも生きるためには一度死んで生き返るしかないらしい。
「死人が生き返るなんて、そもそもあり得るの」
「やっぱりまだ信じてない? わたしが話を聞いたことは証拠に不十分?」
俺を見上げて微笑むソフィア。俺が何かを話す前に言葉が割り込んだ。イレリアは冷たく言い放つ。
「ただの言葉が証拠になると思い込んでいるとは貴様の頭には花畑でも詰まっているようだな」
「違うよ、『ただの』じゃなくて『ソフィアの』だ」
イレリアの周りを飛ぶ刃がソフィアに切っ先だけを向ける。咄嗟に壁をもう一つ貼ると、イレリアの叫び声が届いた。
「何故その女の言葉だけ素直に信じる!」
説明していいの? と思ってソフィアを見ると俺の代わりに答えてくれた。
「わたしの言葉には信用する価値があるって彼が判断してくれているからですよ」
舌打ちが聞こえた。俺は威圧感に身構えて壁の強度を上げる。壁が一瞬白く光った。
そうしてるとソラカがイレリアを言葉で制止した。
「辛い気持ちは察するけれど、塔に登ってから考えましょう」
イレリアはそうだな、と言って刃を下ろした。
全てがわからない。俺はもっとアレックス・バイロンの仇を取ろうと動いてもいいはずなのに、感情が動かない。
それもこれも、イレリアが何を考えてるかわからないのが悪い。
ついに塔の真下までたどり着いた。
目の前には巨大な扉がある。
飛ぼうかとも考えたけど上は見えない。途中で魔力が切れたりしたら考えるのも恐ろしいし、上から入れないかもとソフィアが言ってたから素直に扉から入る。
軽く扉に触れただけなのに巨大な扉はひとりでに音もなく開いた。
隣で息を吐く音が聞こえた。
***
扉を開けた目の前には巨大な時計がひとつ飾られている。時計を避けるように左右に分かれて敷かれた赤いカーペットの先はそれぞれ階段につながっており、二階の通路へ登るのが見える。一旦分かれた階段の先は二階の廊下でつながり、合流した先に見えるひとつの扉へと導かれる。
老人らしき声が聞こえた。聞こえているのは確かなのにそれがどの方向からか全く知覚できない。
『時の塔へようこそ』
武器を構えた皆をどこから見ているのか、声はほっほっほと笑った。
『傷つけるつもりはない。じゃが、望むようなこともできんぞ』
その声に対してイレリアは叫ぶ。
「急がないと手遅れになるんだ!」
『手遅れ?』
「登らないと、生き返らせないといけない。二度と彼を手放したくないんだ」
『残念じゃがこの塔に死人を登らせても蘇らせる事は不可能じゃ』
その言葉に対してはリヴェンが訂正する。感情を爆発させているらしいイレリアとは対照的に、冷静に。
「生き返らせたいのは生者よ」
『おぬし、何を言うておる?』
疑問符を浮かべた声が返ってきた。
「どうしてもここに登る必要がある」
『うむ? 塔の頂上に辿り着いたとしても人が望む蘇生は起こらんぞ』
「塔の上に登った人がその場所で死ぬと生き返るんでしょう。それで充分。むしろそれを求めに来た」
『妙な要望じゃな。そんなもの求めに来るとは珍しい客人じゃ。ただ塔に登ってみたかった少年といい、今回のおぬしらといい変わった来客が増えたのう』
『望むなら、上の扉に入るがよい』
そこで男の声は聞こえなくなった。