「ゼロス、この男は他に何か言ってなかったかい?」
「……これで全部」
バイロンはソフィアを一瞬見てからゼロスに視線を戻す。
「それならいいんだ」
バイロンは拘束した男から話を聞きだすといい、ソフィアはそこに同行した。
向かう直前、ソフィアはゼロスの頭を撫でて言う。
「おやすみ、お兄ちゃん」
***
息を吸い込むと、穏やかな自然を感じることができる。花畑だ。ピンク色が一面に広がっている。
どうやらソフィアが育てていたものと同じだ。
花畑を見回すと、長い黒髪の女が座っていた。そういえば前にも彼女の夢を見たような。
夢の乙女はゼロスに気づくと走ってきた。
「ふふっ……また会えた」
乙女は嬉しげにゼロスを見つめる。
「そうだな」
「ゼロス! その、少し話さないか」
「良いけど」
適当に花畑に座る。
「じゃあさ、まず名前教えてほしいんだけど」
「は?」
乙女は驚いている様子だった。
「だから名前だよ」
「――――」
乙女は口を開く。が、聞こえない。
「ごめんもう一回」
「――――」
同じだ。何度聞いても。
5回目くらいで乙女は流石に怒った。
「からかうのもいい加減にしないか!」
「本当に聞こえないんだって」
地面に文字を書くのも試したが何故かゼロスには理解ができない。でも、他の文字は読める。だが、時々意味が理解できないものもある。
「これはわかるか」
「名前の部分だけわからない」
「じゃあこれは」
「『ゼロス、お前は私の』まで。ここで途切れてる」
「……伝えられない? それなら別の話をしようか。何か。ゼロス……その、綺麗だろ? あ、ほら、花の話」
「そうだな」
花を見せる乙女にゼロスは同意する。
「……この花って珍しいんじゃないのか」
「何を言ってるんだ、どこにでも咲いているじゃないか」
乙女は意味がわからないとでも言いたげに答える。
「術師の薬にもなるしな」
「そうなんだ」
「苦いが効果的なんだ、これ」
その時、空が文字通り割れた。割れ目の間には果てのない漆黒が広がっている。
舞い上がる風。花畑の一角が地面ごとえぐり取られ空へと吸い取られる。足を取られゼロスは空中に浮かび上がる。割れ目の黒へとまっすぐゼロスは引き寄せられる。
「掴まれ」
夢の乙女は手を伸ばす。
「ゼロスっ……!」
乙女は表情を歪めながらゼロスへと届こうともがく。指先が一瞬触れ合い引き離される。ほんのわずかな差が2人を阻んだ。
地上から遠ざかる。涙を浮かべる乙女がただこちらに手を伸ばし続ける。ゼロスも手を伸ばしているが風は非情に2人を遠ざけていく。
***
ベッドの上で目を覚ます。眠っていたようだ。
扉の開く音。捕らえた例の男から話を聞き出し、バイロン達が戻ってきた。
「どうだった?」
起き上がろうとするゼロスをバイロンが静止する。
「無理に起きなくていい。……アイオニアから流れてきた人間だ。全部終わったし彼個人から危険を得ることはもうないよ」
お言葉に甘えて仰向けになったまま話を聞く。
「ん、良かった」
「ゼロス、ソフィアと共に旅に出てくれ」
「えっと……なんだって?」
「旅だよ、2人で。身体を癒してからでいいが早急に」
「ごめんもう少し詳しく説明してくれない?」
死ぬまでに研究を完成させたい。ポータルの動作を確認したい。彼はそのようなことを言っていた。浜から男が流れてきて、焦っているように見えた。