羽沢つぐみ、絶賛店番中です。今日もお店はいつも通りゆったりとした雰囲気に包まれております。
「いらっしゃいませー!」
私はお盆にお手拭きとメニュー表を持って、ご来店したお客さんへお渡しします。メニュー表を渡してまじまじと眺め時間をかけて選ぶお客様もいれば、
「いつもの、コーヒーとラスク」
という感じで、すぐにオーダーを頼むお客様、いわゆる常連さんも多くいます。常連さんといえばお店にはよくAfterglowのメンバーやRoseliaさん、ハロハピの薫さんと美咲ちゃんと松原先輩、ポピパの市ヶ谷さんにパスパレの千聖先輩にイヴさんが良くお店に来てくれます。
「やっほー!つぐー!」
今日もひまりちゃんが巴ちゃんとイヴさんを引き連れてご来店しました。
「ひまりちゃん!それに巴ちゃんにイヴさんも、いらっしゃいませ!」
「おーっす!いつもの頼むよー」
「はーい、席で待っててねー」
「つぐみさん!私はホットココアとチーズケーキでお願いします!」
「はーい!」
イヴさんは特に決まったメニューは無く、日によって違った飲み物とケーキを頼んでくれる。ただし期間限定物には目が無く、絶対に毎回欠かさずに頼みにくる。逆にひまりちゃんや巴ちゃんはいつも同じもの。2人曰く、
「私メニュー表見たら悩んじゃって決められないんだよ〜」
「私は腹に入りゃなんでもいいよ」
とのこと。ひまりちゃんはともかく巴ちゃんはとりあえず選ぶのがめんどくさいのだろう。なんというか巴ちゃんらしい。
「いらっしゃいませ...友希那さん!」
「羽沢さん、こんにちは」
私は水色のマフラーを脱ぎ笑う。羽沢さんはいつもと変わらないふわっとした笑顔で出迎えてくれる。
「今日は練習もう終わりですか?」
「ええ、いつも閉店間際にごめんなさいね」
私は店の1番窓際の端っこの席に座る。この場所が1番落ち着く。羽沢さんはコーヒーとミルフィーユを持って私の前に置いてくれた。
「いいんですよ、来てくれてとても嬉しいです!」
「ふふっ、そう言ってくれると私も嬉しいわ」
彼女は笑顔だけ返してぱたぱたと裏の方に引っ込んで行った。私はコーヒーに砂糖とミルクを入れると一口飲んでふっと息を吐く。お客さんは私だけなので外の車の音と店に流れている物静かなBGMだけが私の耳に聞こえてくる。最近はバンド練習後にこうしてコーヒーを飲みに来るのが私の日課。羽沢さんとも会えるし静かな時間を過ごせるので欠かさずに通い続けている。
(思えばこうして静かに1人で居る時間なんて、前は自主練の時かニャーちゃん達に会いに行っていた時くらいね...羽沢さんと付き合い始めてから、色々と変わった気がするわ)
羽沢さんと付き合う前は私の隣にはずっとリサが居た。私はふと思う時がある。もしも付き合っていなかったら、今でも私の隣にはリサがいるのだろうか。そういえば最近話す機会も減っているような気がする。今度ここに誘ってみようかな、とミルフィーユを頬張りながら考える。
「友希那さん、隣いいですか?」
羽沢さんがココアを片手に私の所へと戻ってきた。まだ閉店にはもう少し早い気がする。
「ええ、いいわよ。店番の方は?」
「お母さんが今日はもういいから友希那さんとお話してきたら?って」
羽沢さんのお母さんには本当に良くしてもらっている。わざわざ気を使ってくれたのだろう、とても良い人だ。
「優しいお母様ね...Afterglowの方は最近どうなの?」
特にめぼしい話題も無いので自然と話はバンドの事になってしまう。これでも以前に比べたら話をするようにはなった。前はお互いにぎこちなくて会話もすぐに途切れてしまっていたので本当に進展したと思う。
「それで巴ちゃんがねー...あ、雪!」
羽沢さんがパッと目を輝かせ窓の外を見る。窓の外にはふわふわと空から小粒の雪が降ってきていた。
「本当ね...そういえば、もうすぐクリスマスだったわね」
「今年は何か予定あります?」
「CiRCLEで24日にクリスマスライブよ、確か羽沢さん達も出るはずよね?」
今年のクリスマスライブはAfterglow、Roselia、Poppin’Partyの3メインだったはずだ。
「そうですよ、頑張りましょうね!...ってそれはイブじゃないですか!私が言ってるのはクリスマス当日のことです!」
期待しているような目で私を見つめる。子どものようでついからかいたくなる。
「そうね...今年は好きな人と過ごす予定よ。私が1番愛している人と」
「えっ......」
ぷしゅーっと音が聞こえてきそうなほど羽沢さんは顔が真っ赤に染め上がった。かくいう私も心臓がバクバクと破裂しそうなほど高鳴っている。
「聞こえなかったかしら?私は...」
他に人が居ないことをいいことに調子に乗った私は羽沢さんの髪を耳に掛けて露わになった小さな耳に優しく囁く。
「羽沢さんと...クリスマスは過ごしたいのだけれど」
赤くなっていた顔が更に赤くなり、羽沢さんは何も答えずにただコクリと頷いた。
「友希那さんの....いじわる....」
羽沢さんは私の顔をこちらに向けると、不意に私の唇を奪う。甘いココアの風味を感じたがすぐにそれは溶けていつもの彼女の味へと変わる。数秒経った後に唇を離し私の胸に顔をうずめ、ギュッと私の裾を掴んだ。
「あんな言い方...ずるいです」
「私は羽沢さんの可愛い一面を、もっと見たいだけよ」
彼女の頭を撫で窓の外を見る。変わらず雪がしんしんと降り続いていて親に手を引かれている子どもがはしゃいでいる。
「つぐみー、そろそろお店閉めるわよー!」
店の奥から羽沢さんのお母さんの声が聞こえてきた。時計は20時前でもう閉店の時間だ。
「羽沢さん、そろそろ私も帰るわ」
彼女を引き離そうとするがふるふると頭を振って動こうとしない。
「もう時間でしょう?羽沢さんのお母様にも迷惑はかけられないわ」
「嫌だぁ...もっと一緒に居たい...」
珍しく子どものように駄々をこねる。私はため息をついて頭を撫でるが時間が気になりちらちらと時計の方を確認する。
「明日もまた来るから...今日のところは...」
「嫌...一緒に居て...」
結局その後も引っ付いて離れそうになかったので家に連絡して羽沢さんの家に泊まることにした。その日の彼女は妙に甘えたがりで私にくっついて離れない。心当たりは全く無いし可愛かったので特に気にはしなかった。けれど私も羽沢さんもこの時まだ再び彼女に起こる異変を知る由も無かった。
次回こそ、「つぐ×友希奈異世界転生」 するといいね