「なん...で?何で羽沢さんがここに...?だってあなたは...」
目を丸くして私を見つめる。その声は泣いているせいなのか震えている。
「わ、私が倒れたのは...ただの貧血と寝不足ですよ。連絡できなかったのはごめんなさい」
私は息を整え、まっすぐと彼女と視線を合わせる。
「もういいの?無理するとまた倒れるんじゃない?」
「大丈夫だよ、いっぱい寝たから。それより友希那さん、とりあえず蘭ちゃんの上からどいてあげて...そこに正座してください」
友希那は小さく頷くとベッドの上に正座をする。私は腰に手を当てて仁王立ちになり頬を膨らませた。
「それで、私が言いたいことは分かりますよね?」
「......わかっているわ」
「なら何で自分が1人だなんて思ってるんですか?友希那さんにとって私はなんだったのですか?遊びなんですか?」
「そ、それは違うわ!」
「そういう事ですよね?...少しでも足崩したら別れますから絶交ですから二度と口聞いてあげませんから」
厳しい視線を友希那へと送る。いつもなら甘やかしていたが今日ばかりはビシッと言っておかなければ。
「友希那さん、私怒ってます。紗夜さんから聞きました、さっきの話もそこの影から聞いてました」
「......私は自分が迷惑をかけてみんなが離れていくのが怖いのよ...羽沢さんを、失うのが怖いの」
「私が怒ってるのはそこじゃありません。それに燐子さんや今井先輩は言いすぎたって、友希那さんのことすっごく心配してました。後でちゃんと謝ってあげてください」
私は一旦呼吸を整える。蘭ちゃんは黙って私たちの行く末を見つめている。
「友希那さん...私が本当に頭にきてるのは友希那さんが今井先輩と紗夜さんに、恋愛なんてするんじゃなかったって言ったこととさっき自分なんていなければよかった、なんて言ったことです」
友希那は目を逸らすように俯いたが私は友希那の顔を掴んで無理やり目を合わせる。
「何でですか?何で私との時間を、思い出を否定するような事言うんですか...友希那さんにとって、私と過ごした時間はなんだったんですか!!」
悔しくて涙が流れてきた。怒りより友希那に思ってもらえてない自分が情けなくて、悔しかった。
「私は......私にとっては...!羽沢さんとの時間は何より大切よ!けど...もうわからないのよ!!みんなの...あんな顔を見たら....!私は......どうすればいいのよ!!!!」
悲痛な叫び声が響き渡った。
何で?友希那さんには言葉は届かないの?
友希那さんにとって私ってその程度のものだったの?
......違う...友希那さんはいつもそうだった。言葉より行動で示す...
そうだ...簡単だったんだよ、伝え方なんてはじめからわかってたじゃん
暗い...少し前まではこんなに心の中は、暗くなかった
紗夜が居て、リサが居て、燐子が居てあこが居て......羽沢さんが居た
それを私は、手放してしまった...私のせいで、みんな離れていってしまった...
もう、わがままは言っちゃいけないのよ。私が望めば望むほど、それは離れていってしまうのだから...
だから...私は......
「友希那さん...もう、自分の気持ちを抑えなくても...良いんですよ」
心に光が差した気がした。暖かい、私のよく知る匂い...私のよく知る柔らかい感触...私のよく知る声...
「気づけなくてごめんなさい...」
何で羽沢さんが謝るの...?謝らないといけないのは、私の方なのに...
「わがまま、言ってもいいんですよ。私は友希那さんの恋人ですから」
頭を優しく撫でてくれる。とても気持ち良くて、もっと撫でてほしくて私は彼女の肩に顔を埋めた。そしてそのまましばらく羽沢さんは何も言わずに頭を撫で続けてくれて、私は誘われるように夢の中へと落ちていった。
ようやく落ち着いたのか友希那はすーすーと私の胸で寝息をたてる。
「つぐみ、おつかれさま」
「うん、ありがとう」
蘭ちゃんと一緒に友希那さんをベッドへと運んで布団を被せる。ただ彼女の手は私の袖を掴んで離さなかったのでベッドの脇に座って一息つく。
「ライブ、すっぽかしちゃったね」
時間はいつの間にか16時を回っている。私たちの出番は14時だったのでもうライブ自体終わってしまっている時間だ。
「仕方ないよ、また来年頑張ろう?」
「うん、そうだね」
ちょっと残念だけど友希那さんの無垢な寝顔を見れただけでも満足だ。
「みんなに連絡は入れといたから、つぐみはこの後のクリスマスパーティーどうする?」
ライブの片付けが終わったらみんなでパーティーをしようと計画していた。そういえば私の両親も料理を持って行くと言っていた筈だ。
「うーん...友希那さんと一緒にいるよ。もし友希那さんが行くって言うなら私も後で行くから」
「そっか、わかった。つぐみのお母さんには私から伝えておくから」
「うん、よろしくー」
蘭ちゃんはCiRCLEに戻って、部屋には私と寝ている友希那さんだけになった。彼女の小さな手は、私の袖をまるで子どものようにギュッと握っている。
「友希...那...」
何かあったわけじゃない、いわゆる私の気まぐれで呼び捨てで呼んでみた。うーん...ちょっと小っ恥ずかしい気がする。そういえば私はさん付けだけど下の名前で呼んでるのに友希那からは苗字で呼ばれている。
「友希那...下の名前で呼んでほしいなー...」
起こさないように小声で呟く。ただ、ちょっぴり起きて甘えさせてくれないかな...なんて思ったり思わなかったり。
そんな私の小さなわがままは、今はまだ叶わない。
fateのアニメ面白いですよね