私は本当のところ、地図が読めないらしい。今まで読めているつもりだったけれど、気がつくといつも目的地と違う場所にいる。つまり、四文字熟語で言うと、方向音痴?迷って辿り着いたここは、コンビニだった。
「おぉ!!さすがはチャップさんでゴワス!!」
コンビニ店内で騒ぐ一行の声がする。あれはさっき(第3話)、泥棒と追いかけっこしていた一行か。何をしているんだろう?
「一発くじ、まさかのA賞、クリスタルソード当たっちゃったよ!早速デカ化してみるね!」
そう行って黄色いバンダナをした、逆立った白い髪の少年が、ジャラのクリスタルソードをフェアリポンにかざした。
「フォース オブ マ〜ジック♪ブリタニア、エンチャント♪”クリスタルソード”!」
クリスタルソードが読み込まれると、フェアリポンからどこか懐かしげなメロディが流れ、さっきまでキーホルダーサイズだった剣が、人が斬れるほどの大きさに”デカ化”した。
「スッゲー!かっこいいー!」
「ちょっとチャップ!店内でデカ化したら危ないでしょうがっ!」
「ブヒ〜〜!」
賑やかな人達だ。チャップと呼ばれた男の子は、えへへと笑いながら、クリスタルソードを元の大きさに戻した。
「だって〜、ついカッコいいなあって…あれ?君も一発くじを引きに?」
こちらに気付き、一行の視線が私の方へ向く。
「一発くじ…?」
少し俯きがちになってしまったが、言葉を自然に返せただろうか。
「今オレらが引いてたやつ!いくつか券が余ってるからキミにもあげるよ!」
明るさがまぶしい人だ。
「あ…、ありがとう。」
「ただ、A賞はチャップが今引いちゃったからもう無いぞい。」
タケノコモンスターが喋った。
「まあ、今引かなくても、次のが入荷された時に引けばいいかもね。」
黒いハート型の髪留めに、2つのおさげをした女の子が付け加えた。
「次の一発くじはダークワンドでゴワスか。」
わいわいと盛り上がっているチャップ一行。私は商品をひとしきり見た後、コンビニを出た。
フェアリポンが鳴った。王様からのスナラインだ。
「ミノリ!無事に辿り着けたかね…ってどうやらコンビニの近くにいるようじゃな」
「そんなことまで分かるの?」
驚いて王様に聞くと、どうやらフェアリポンにGPSが搭載されているらしい。つまるところ国家の犬か。言うなればフェアリポンはその犬の首輪…なんてね。
「コンビニはクエストに役立つ商品が取り揃えてある。行っておいて損はないじゃろう。だが、今行くべきはあっちじゃ。しばらくまっすぐ歩くと、宿屋が見えるじゃろう。そこの交差点を左に曲がるのじゃ。」
贅沢な事にも、王様による道順ナビゲートが始まってしまった。よっぽど酷い方向音痴だと思ったらしい。申し訳ないけれども、それに従って進む事にした。王様も意外に暇なのかな?
「決して暇ではないぞ、階段を上がったら右手にBarが見えるじゃろうが、そちらには行かず西の方へ進むんじゃ。そっちではない。逆じゃ。」
王様優しいなぁ。
「そのまままっすぐ歩くと、左手の方に靴のような看板をかけた家が見えるはずじゃ。そこに行って欲しい。」
「王様、見えました。」
王様の指示通りにその家に入ると、なんと中には、私を見つけてくれた、さっき(第1話)の金髪の女の子…シンデレラが居た。
「レクチャーをつけてくれる教官って…?」
シンデレラを見て、まさかとは思ったが。
「おお、無事に着いたな。実はシンデレラくんは、王宮直属の兵士訓練隊長なのじゃ。その昔、エリート特殊部隊「ガラスの靴」で大隊長まで上り詰めた、豪傑であるぞ!」
「ええっ…?」
私は困惑した。目の前にいるシンデレラも、困惑している様子だった。いや、彼女はいつも困惑した様子だけれども。
「…ふんっ!!」
俄かに、シンデレラは懐から指揮棒を取り出すと、天高くそれを掲げた。するとどうだろう。瞬く間にシンデレラの服は迷彩の軍服に変わり、目つきは鋭く、頭には赤のハチマキが巻かれ、ストレートだった金髪は荒々しいウェービィに早変わり。
「ミノリよ!王様から話は聞いている!」
先ほどからは思いつかないような、男性らしい野太い声が私に語りかけた。
「今日からは隊長のオレが、お前をみっちりシゴいてやる!」
えっ…えええー!!!??王様!これ、どういう事ですか!?スナラインの画面を見ようとしたが、シンデレラ”隊長”にそれを制止される。
「よそ見をするな!返事は!」
隊長に返事を求められる。
「は、はい?」
「イエッサー!!!だ!!!」
「い、い、イエッサー…」
「声が小さいぞ!!!」
「イエッサー!!!」
「うるさいぞーー!!!」
ど、どうすりゃいいんだ…!?
今日から隊長と2人、特訓の日々が始まった。