見つかったらまた連れ戻されてしまう。それだけは何とか避けなければ!
私は家の敷地から飛び出して通り出た途端、横から何か重い塊の衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。
ばしゃん……
水溜まりが跳ねる音と共に急に気配が後ろに現れた。
振り返ると何かの塊が水溜まりに落ちていた。
近づくと薄暗い路地でもわかるほど白い肌、艶やかな長い黒髪をした東洋人らしき女だった。
規則的に上下する身体は生きている証拠だった。
気を失って目を閉じているので瞳の色まではわからないが、瞳の色がどうであれ、ここ地下街では五体満足の生きている東洋人にお目にかかることはまずない。
大抵は貴族の豚共がコレクションにしたり、もし生き残りがいるとしても殺されて身体をバラバラに切り刻まれて売られる。
地下街で出回っているのは髪や目玉、指くらいだが、眉唾ものが多く本物かどうか怪しい。
運良く生き残っても奴隷になっていたり、娼館で客をとらされていたりしている。
目の前に倒れている東洋人は女だ。
東洋人の女は高値で取引される。
運良く命を取られなったとしても身体の一部を売られたり、その見目麗しさのため娼館で客を引かされたりするだろう。
酔っぱらいの男たちの声が近くで聞こえている。
女をここに放置したままにするのはどうしても気が引けたリヴァイはその女を抱き上げると帰路についた。
***
「天使って本当にいるんだなー」
生きた東洋人を間近で見たことがないイザベルは瞳を輝かせてベッドの上で眠っている女を見つめている。
「しかし、何でまたこんな所に東洋人がいるんだ。オレはもう絶滅したかと思ってたけどな」
「さあな。こいつの服装からして貴族の豚野郎の手から逃げてきたと考えるのが妥当だな」
女が身に付けている服は上質なものばかり。ただの奴隷が身に付けられるものではない。傷ひとつない透き通った白い肌につやのある黒髪は相当な金をかけているにちがいない。
「それに……」
リヴァイがテーブルの上にコトリと置いたのは葡萄の蔦模様があしらわれた銀色の食用ナイフ。
「……こんな代物は金持ちの家にしかない」
ファーランはテーブルの上に置かれた銀のナイフを手にとって確かめる。
紛い物じゃない。本物の銀食器だ。
「これだけで相当な金になりそうだな。この子はどうする?」
「さあな」
リヴァイは女の寝ているベッドに近寄り、女をこれでもかと眺めているイザベルを遠ざけると、眠っている女の上のシーツを乱暴に剥ぎ取って怒鳴りつけた。
「おい、起きろ!いつまで寝てやがる」
その言葉にピクリと反応した女はパチリと瞼を上げて飛び起きた。
瞳の色は黒。吸いこまれそうな漆黒に全部持ってかれそうになる。
女は純粋な東洋人だった。