待て!と呼び止められたが私は「身体で支払え」と言われて大人しく待てるような人間じゃない。
後ろから数人の人間が追いかけてきている。
さっきの三百眼の男の仲間なのかそれとも別なのかわからないけれど、「売り飛ばしてやる」という物騒な声が聞こえてくる。
やはりここも危ない。どこか身を隠せる所を探さなければ……
太陽の光が届かない薄暗い路地を走りながら手近の角を曲がってすぐに左の角を曲がってまっすぐ駆け抜ける。
私は走りながら思った。
これは夢なのだろうか。
それともあり得ない現実なのだろうか。
人ひとり分が通れるほどの路地を道なりに抜けると行き止まりだった。
「…そんな…!」
きょろきょろと辺りを見回して隠れられそうなところを探していると、突然口を塞がれた。
「……っ!?」
ギシリと身体も固定される。
何が起こったのか、逃れようとしてもビクともしない。
「俺様から逃げるとは良い度胸だ……」
すぐ耳元で低い声がした。先程の三百眼の男の声だった。
「ー、ー!」
「大人しくしていろ」
男の息が吹きかかる。
全身に鳥肌が立った。
そのとき、
誰かの走ってくる足音がした。
おい、いたか?
いいや、そっちは?
すぐそこで誰か男たちの声がする。
東洋人の女だったよな。あんな上玉滅多に見ない。まだこの辺にいるはずだ!見つけたらまずは俺たちの相手をしてもらうか。東洋人なんて使い道なんていくらでもあるからなあ?
「……………」
全身の血の気が引いていく。私を狙っているのは今ここで私を捕らえている男だけじゃない。
「おい、あっちだ!あっちに逃げてったぞ!」
誰かの声で近くにいた男たちの声と足音が遠ざかっていく。
しん、とあたりが静まり返った。
「おい、女…、これ以上俺様を怒らせるな。大声を立てたら今ここでお前を殺す…」
男がぐっと私の身体を絞めた。
「……っ、」
「わかったか?」
男の言い分なんてわかりたくもないが取りあえずここは大人しくしたがっておいた方がよい。
そう考えて首を縦に振ると男は私を解放した。
バサリ
何かが私を包み込んだ。
大きなボロ布だった。
「それでも被っておけ。お前は目立ちすぎるからな」
そう言って男は私の手首をしっかりと握ると仲間を呼んだ。
「ファーラン、目をつけられたのはどこだ?」
「東のレイモンドのところがほとんどだが、あとは取るに足らない奴らだ」
「…早めに帰るぞ」
三百眼の男は私の腕を逃げられないようにがっちりと掴むと
「逃げようとしたらどうなるかわかってんだろうな……?」と脅してきたが、私はその眼をまっすぐに睨み返す。
「…………」
「……チッ…」
男は舌打ちをすると目を逸らして歩き出した。