世間で言う「地味」な女の子とスポーツ万能で人気者の男の子。

7人グループで過ごす男の子は学年中の人気者。片や1人お気に入りの場所で過ごしている女の子責任感が強い女の子は生徒会の仕事を手伝うことに。
そこで出会った2人は次第に距離を縮めていく。

自分が思っている気持ちが何なのかハッキリさせたい女の子。男の子に会って1日過ごしただけでモヤモヤしていたが、調べてハッキリさせた途端、スッキリとした気持ちで楽しみな気持ちになるほどだった。

本人には伝えるつもりはなかったが、ふと呟いてしまい……

急な展開ではあったが、それもまた2人の思い出となったのだった___。

この作品は小説家になろうにも掲載しています

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~学園~

地味でこれといった特技も特徴もない私と、スポーツができて学校中の人気者である彼。

 

接点なんてあの出来事がなければ関わることもなかった私たち。

 

______これは、全く違うタイプの私と彼の物語。

 

事の始まりは高校に入学して少し経った頃。クラスの人たちは慣れてきたのか、グループになって休み時間を過ごしている。そんな中私は1人で本を読んで過ごしていた。

私は人見知りが激しくて中学も友達という友達ができたことはない。近所の幼馴染が話しかけてくれていたが、その幼馴染は自分の進路のために全寮制の進学校へ入学した。私は地元の高校へ入学したが、基本的に話さない私と話す人はおらず、友人もいないため1人で学校生活を過ごしている。

 

休み時間が終わり、授業が始まる前に担任が教室にやってきた。次の授業は担任が受け持つ授業ではないはずだけど……。

 

 「月城。ちょっといいか?」

 

 担任に呼ばれた。今から授業なのに、授業に出席できないことが確定しちゃった。まぁ、次の授業科目は得意な数学だし、分からないところは後で聞きに行こうっと。

 

 「はい。今行きます」

 

 数学担当の先生に担任が耳打ちして、私が授業を抜けることを許可したみたい。教室を出ると「すまんな、佐野先生には言っといたから」と担任が言った。ちなみに佐野先生とは数学担当の先生で、担任は化学担当の天野先生だ。

 

 「ありがとうございます。ところで、なぜ私を?」

 

 休み時間に呼び出されることはよくあることだ。だって私はクラス委員に任命されてしまったため、先生に呼ばれて手伝うことはしょっちゅうだった。まぁ、クラス委員もクラスの人たちがやりたくなくて、いつまでも決まらなかったため私から立候補したんだけど。

 

 「ああ、実は生徒会が文化祭に向けて仕事をしてるんだが、人手が足りないようでな。毎年この時期は生徒会の人でが足らなくてな、例年クラス委員に助っ人を頼んでいるんだ」

 

 生徒会の仕事内容を所属していないのに手伝ってもいいのかと疑問に思ったけど、毎年やっていることらしいし、簡単な仕事なのかな。とりあえず先生について行けばいいかな。

 

 ついて行くと、学校の奥の方に【生徒会室】と書かれているプレートが扉の上にある教室に着いた。入学して少ししか経っていないからか、どこに何があるのかがわからない。教室や職員室、保健室までは知っていたが、その他の教室は未だに把握していなかった。

 

 「ここが生徒会室な。中に役員達が居ると思うから、詳しい内容はそいつらに聞いてくれ」

 

 先生は「頼んだぞ」と私の肩に手を置いて、そのまま去って行った。せめて扉を開けて紹介とかしてくれた方が助かったのに……。

 1人で扉の前に立ち尽くしていても仕方ないので、思い切って扉を開けた。

 

 「失礼します」

 

 室内はとても綺麗で教室とは違い、とても広かった。ホワイトボードもたくさんあり、何やら行事についてや予定など、たくさん書かれていた。初めて入り室内を見渡していると奥から声をかけられた。

 

 「君、天ちゃん先生のクラス委員?」

 

 声のする方を見ると、パソコンを打っている人。机の上に【生徒会長】っていうプレートが置かれているから、この人が生徒会長なんだ。

 

 「はい!1年3組のクラス委員です」

 

 私が言ったら生徒会長は手を止めてこちらに来た。

 

 「俺は榊悠一。この学校の生徒会長ってのは入学式で知ってると思うけど。君は?」

 

 榊先輩、ごめんなさい。私今彼方が生徒会長ということを知りました。……だって入学式に私は貧血で出席してないもん。そのせいでクラスに馴染めてないままですよ……。

 

 「私、月城詩音です。よろしくお願いします」

 

 「月城さんね、よろしく。来てくれて早々悪いけど、手伝ってもらっていいかな?」

 

 先輩について行くと、たくさんの紙が積まれて置かれている机についた。

 

 「これ右側の資料が文化祭のパンフレット案で、左側が完成したパンフレットを送る来賓者の送り先を書く封筒。封筒の方は来賓者の名簿順に書いてもらって、パンフ案はホッチキス止めしてもらっていい?」

 

 「わからないところがあったら聞いて。俺はあそこで作業してるから」と言って私が入った時と同じ場所に座った。次第にキーボードを叩く音が聞こえてきた。仕事をするのは構わないけど、私1人でこれ全部するの!?

 

 「あの、これ全部私がするんですか?」

 

 さすがにどちらかならまだしも、これ全部を授業1時間分でかつ私1人でやりきることはできない。作業中に申し訳ないが聞いてみた。

 

 「そんなわけないだろ。4組の担任にも頼んで4組のクラス委員に来てもらうようにしている。まだ来ていないから、先に始めていた方が効率良いぞ」

 

 別に放課後で良ければ手伝うのは構わないし、何なら私1人で放課後に全部しに来るつもりだけど……毎年行っていることだから、担当を分けているのかな。とりあえず後から来るであろう4組のクラス委員には悪いけど、封筒から先にやろうかな。ホッチキス止めは後に回している方が簡単だし、作業している先輩の邪魔にもならないし。

 

 名簿と封筒を持って空いている机に移動した。胸ポケットからボールペンを取り出し、作業を開始した。

 

 

名簿順に書いていっていると、生徒会室の扉が勢いよく開いた。

 

 「遅れてすみません!4組のクラス委員の佐々倉です!」

 

 入ってきて早々名乗った4組のクラス委員もとい、佐々倉くん。いかにもスポーツマン的な感じ……というか、今や学校中で人気者の佐々倉陵じゃない。人気者もクラス委員になったりするんだ。

 

 「遅かったな。3組の月城さんには先に始めてもらっているから、彼女に聞いて」

 

 榊先輩、完全に説明を私に任せる感じですか。……待って、佐々倉くんに話すとか佐々倉のファンに知られたりしたら怖すぎるから正直イヤなんですけど!? それなら、なおさら放課後に残して私1人でやるよ!? 1人で内心戸惑いながら作業は続けていると、佐々倉くんは私のところへ来た。

 

 「遅くなってごめんね!俺、佐々倉陵。何したらいいかな?」

 

 「……月城詩音です。えっと、この封筒に名簿順に来賓者への送り先を書くのと、文化祭のパンフレット案をホッチキス止めして欲しいだそうです」

 

 「よろしくな! 月城さん! あと説明もサンキュ!」と佐々倉くんはファンが見たら黄色い歓声があがるであろう笑顔で私にお礼を言った。私は続きの作業を始めようとすると、佐々倉くんはまた私に話しかけてきた。

 

「月城さんは封筒の方やってくれてたの? ホッチキス止めの方が簡単なのに」

 

 「俺の方が遅れてきたから変わるよ?」と言ってくれたけど、途中でやめて任せるなんてことはしたくないし、どうせならやり遂げたい気持ちの方が強い。

 

 「お気持ちはありがとうございます。でも最後まで自分でやりきりたいので大丈夫です」

 

 私の反応に「そっか」と言って彼もホッチキス止めをし始めた。

先輩の打つキーボード音とホッチキスの音しか室内に聞こえない。宛先を間違えないように集中していたけど、意識しながら書いていると集中力も途切れるわけで。ふと時計を見るとあと20分ほどで授業も終わりだった。量的にはあと少しだからこの時間内に終わるだろう。

 

「月城さん、疲れた?」

 

ふとホッチキスを止める音がやみ、佐々倉くんが話しかけてきた。彼の方を見ると、ほぼ私と同じぐらいになっていた。あれだけたくさんの量があったのに、作業スピード早いなぁ。

 

「……少しだけ。ちょっと集中力切れただけだよ。それより作業スピード早いね」

 

「こういうのは得意だからな。あとちょっとだけど代わろうか?」

 

「ううん。大丈夫。……佐々倉くんてスポーツマンっていうイメージが強いからこういうのはあまり好きじゃないというか、得意じゃないんだと思ってた」

 

私の勝手な思い込みではあるけど、彼が人気者である理由の一つとして、バスケ部の次期エースと言われるほどスポーツ万能だから。部活はバスケ部だけど、動くことが好きなのか、彼と一緒に居る友人と休み時間に動き回っている所をよく見かける。だからこういう細かい作業はあまり得意ではないんだと思っていた。

 

「まぁ、動くのは好きだしスポーツは全部好きだけど。こういうのも得意だよ」

 

「そうなんだ。スポーツもできて人気者の佐々倉くんはすごいね」

 

あ、またやっちゃった……今すごく嫌味っぽかったから、私すごく嫌な人じゃん。自分の性格が本当に嫌になるわ……。

 

「んー……人気者かどうかはあれだけど俺からしたら月城さんの方がすごいと思うけど」

 

「……私が?」

 

まさか私がすごいなんて言われると思っていなくて、唖然としてしまった。

 

「うん。だって普通は難しいこととか大変なことを後に回したりするじゃん。でも今回もホッチキスの方を後においてたりさ。クラス委員も自分から立候補したって聞いたよ」

 

「……仕事はややこしいこととか、作業が多いことから始めた方が楽になるし、モチベーションも下がらずにできるから。立候補したのは他に誰もいなかったしいつまでも決まらなかったからだよ。だから私は佐々倉くんがすごいと思うほどの人じゃないよ」

 

佐々倉くんに答えながら私は止めていた残りの作業を開始する。

 

「……月城さんはもっと自分に自信を持った方が良いよ。すごく魅力的なんだから」

 

あの佐々倉くんに言われたことが恥ずかしくて、「お世辞ありがとう」と言った。彼から小さい声で「お世辞じゃねーのに」って聞こえたが、私は聞こえないふりをした。

 

 

作業は全て終わって授業が終わるまであと10分ぐらいだった。先輩に終わったことを伝えて早めに教室へ戻ろうかな。次はお昼休みだし、終わってすぐに行ったらあそこも空いてると思うし。そうと決まれば行動するだけ。立ち上がり、終わった資料を整え先輩の元へ。

 

「榊先輩、終わったんで先に戻ってもいいですか?」

 

「ん? あぁ、ありがとうな手伝ってくれて」

 

……生徒会の仕事はまだまだあるのだろうか。先輩はさっきから変わらずパソコンに向かっている。私は放課後でもよければ手伝おうかと聞こうとした。

 

「あの、先輩、生徒会の仕事ってまだまだあるんですか」

 

私の横で急に言った佐々倉くん。しかも私が聞こうとしたときに……。

 

「あー……まぁな。役員も人数ギリギリで全員がほぼ掛け持ち状態で動いてる。文化祭自体はまだ先だが、他にも行事はあるしほぼ同時進行で動いているから終わりなんてほぼ無いかもな」

 

困ったような表情で笑う先輩。ほぼ終わりのないような生徒会で私はさっきすごく無責任なことを言ってしまったような気がする。

 

「あの、生徒会って今からでも入れますか? 俺入りたいんですけど」

 

佐々倉くんから思わないような言葉が出た。既にバスケ部に所属している彼が生徒会まで掛け持ちするとは……。

 

「入ることは構わないが、お前バスケ部に入ってるだろ? もちろん入ってくれることに関しては大歓迎だが、無所属か文化部ならまだしも運動部はなぁ……生徒会内でも文化部との両立なら時期がそんなに被らないから入っているやつもいるが、運動部は両立すること自体がしんどいぞ」

 

先輩が言うのも最もだ。運動部だけですら忙しく大変なのに……。

 

「……俺、正直バスケ辞めようかと思ってたんですよ。先輩方には申し訳ないですけど、元々生徒会とかに興味があって入ってみたかったんで。なので、途中入部になりますが入部させてください」

 

先輩は「まぁ、本人がいいなら……」と【入部届】と書かれた紙を彼に渡していた。この状態で「私はお手伝い程度で……」なんて言えないじゃん。

 

「わ、私も……入部届いただいてもいいですか? 生徒会に興味がわいたので」

 

生半可な気持ちではやりたくないし、私も入部することを決めた。部活には所属していないし、時間はたっぷりある。少しでも先輩達の役に立てればいい。そう思った。

 

「何から何まで悪いな。明日の放課後に全員集まってミーティングするんだ。良かったら来てよ」

 

先輩に言われて二つ返事をして生徒会室を出た。教室に戻ってカバンを取ってこなくっちゃ。ご飯を食べたあとに入部届書こう。

 

「月城さん、お昼って教室で食べるの?」

 

教室は隣のため、必然と佐々倉くんとは同じ方向に進む。ふと彼に聞かれて「え?」と間抜けな返事をしてしまった。

 

「もし月城さんが良かったらでいいんだけど、一緒にお昼食わない? いつものメンバーでもいいんだけど、今日は月城さんと過ごしたいなーと思って」

 

……お誘いとても嬉しいですが、ファンの方に知られたら私の今後は地獄となるでしょうね。

 

「……お誘いありがとうございます。でも他のメンバーさんにもご迷惑になるかと思いますし、何より私と一緒に過ごしても何にもなりませんよ。これといった取り柄もありませんし」

 

自分で言うのも悲しい話だが、事実。特にコレといった取り柄はない。人気者の彼が私と一緒に居たいという理由が私にはわからなかった。

 

「あー、メンバーは迷惑なんて思わねーよ(笑) 月城さんと話したのは今日が初めてだったけど、俺入学した時から月城さんのこと気になっていたんだよね。入学式の前に貧血で倒れたでしょ? 俺も入学式出てねーの。怪我して保健室に居たら月城さんが保健室に運ばれてきてしばらく保健の先生に頼まれて見てたんだ」

 

……私が気絶している間にそんなことがあったとは。でもあの時私が目を覚ました時には誰もいなかったのに。

 

「丁度入学式が終わった頃に俺は教室に戻ったの。だから月城さんが俺のこと保健室で見てないのは当たり前。目覚める前に戻っちゃったからね」

 

そうだったんだ。てか、初対面の人に気絶しているとはいえ恥ずかしい姿を晒してしまっていたんだ私……。

 

「だから、本当に月城さんがよければ一緒にお昼食お?」

 

「私は別に構いませんが、空き教室でもいいですか? この校舎の4階奥にある教室で」

 

「それはいいけど、なんで?」

 

本当は人に教えたくないが、あそこは私が入学してすぐに見つけたお気に入りスポット。誰も来ず、静かにお昼の時間を過ごすことができる。だから私はあそこがいいんだ。

 

「お気に入りの場所ですから。これから生徒会として関わっていくんですし、別に教えてもいいかなと。あと佐々倉くん人気者だから一緒に居たらファンの人に何されるか……」

 

ファンのことまで言うつもりはなかったが、実際同タイミングで生徒会に入ったとなると、狙って入ったんじゃないかとか佐々倉くん目当てとかいちゃもんをつけられるのはご免だ。それで仕事に支障をきたしたくない。

 

「そっか。ごめんね、気を遣わせて」

 

……嫌味のように言ってしまったのに、彼が謝った。なんか罪悪感がすごい。

 

「……佐々倉くんが謝ることじゃないです。私は先に空き教室に行きますね」

 

「おう」と佐々倉くんは走って教室に向かって行った。成り行きとはいえ佐々倉くんと一緒にお昼を食べることになった。本当にいいのかな。

 

 

丁度授業終了のチャイムが鳴ったと同時に教室に入る。授業は既に終わっているため、クラス中がこちらに目を向けることはなく、各々がお昼に入っていた。私も自身の席からスクバを取りまた教室を出る。いつも教室ではなく空き教室で昼休みを過ごすため、クラスの人から声をかけられることはない。あとからついてくる人もいないため、少し浮足立って空き教室へと向かった。

 

 

空き教室につくと、もう既に佐々倉くんがついていて、教室の扉の前で待っていた。

 

「ごめんなさい、遅くなって」

 

「いや、俺が早く来すぎただけだから、気にしないで」

 

普通にそんなことを言えるってのが、モテて人気の男ということなんだろうな。2人で空き教室に入り、とりあえずお昼ご飯を食べる。まぁ、食べながらたくさん話してた。お弁当が小さいから足りるのかとか、人気者なりに大変なことがあったりするだとか、メンバーの話とかを聞いた。正直人と話すのがあまり得意ではない私は、佐々倉くんの話を聞いていた。

 

「なんか、ごめんな? 俺ばっか話して」

 

「いえ。むしろ助かってます。あまり人と話したりするのは得意ではないので」

 

食べ終わったお弁当箱をスクバに片付けていると、佐々倉くんが真剣な声で言った。

 

「なぁ、月城さん。俺の事名前で呼んでよ」

 

私は幻聴かと思った。私が彼のことを名前で呼ぶなんて。なんせ人気者の彼が一緒に居るメンバー以外は名前で呼ぶことを嫌っているっていう噂があるんだもん。私なんかが呼んでもいいのかな。

 

「……でも呼ばれるのは嫌なんじゃ」

 

恐る恐る私が言うと、佐々倉くんは驚いた顔をした。でもすぐに真剣な顔に戻る。

 

「なんで? あ、もしかして俺がメンバー以外に名前呼ばれるのがイヤっていう噂とかたってんの?」

 

言い当てられるなんて思ってもなくて、ビクついてしまう。俯いたまま、小さく頷く事しかできなかった。

 

「そっか。その噂なら本当っちゃ本当だ。正直本名ならいいが、名前で呼ばれて勝手に変な噂広められるのも困るからな」

 

人気者の彼の意見。それはそうだ。女子なんて男子のことを名前で呼んでいると、「そういう関係なのか」と周りが噂するんだから。

 

「……でも俺自身がいいって言ってる人は全然呼んでいいんだよ。むしろ、月城さんには呼ばれたい」

 

真剣な眼差しで言われてしまい、本当にいいのか。でも呼んだとしてもファンの方に知られたら……

 

「ファンとか、他の人とかはいずれ知れるけど、それは俺がいいって言ったからであって、月城さんが呼びたくなかったら無理して呼ばなくても良い。俺の我が儘だからさ」

 

少し困ったような表情で話す彼を見て心がズキッとした。この感情がどんなものなのかが私にはわからないが、彼が困った顔や悲しそうな顔を見るのは嫌だと思った。

 

「……別に私は呼びたくないという訳ではないですよ。ただ、ご迷惑ではないかと思っただけです」

 

私の言葉に首をかしげる彼。多分「ご迷惑」って言葉にいまいち理解が出来ていないんだと思うんだけど。

 

「これから生徒会役員として一緒に過ごしていくことはわかっています。しかし、私と佐々倉くんはそれだけの関係です。わざわざ佐々倉くん自身が嫌がっていることをいくら本人がいいとはいえ、呼ぶのは他の人にも反感を買うのではないのかと思って」

 

……正直虐めとかファンの嫌がらせがあるのではないかと思っているが、それを佐々倉くんに言うのは違う気がする。よくアニメや漫画では彼が助けるというシチュエーションがあるが、私はそんなのを望んでいるわけじゃない。

 

「……ファンの反感を買うってこと? 俺自身が守るつもりでいるけど、それじゃダメ?」

 

「ダメっていうか……それだとやっぱり佐々倉くんのご迷惑になります。それに、反感を買っての嫌がらせを受けるのは私なので……んーと、言葉が難しいですね。メンバーの方々にもご迷惑になるのではとか……とにかく、名前で呼ぶのはやめておきます」

 

「……じゃぁ、俺の我が儘として聞いてよ。俺のこと名前で呼んで。我が儘ならファンとかに何言われても俺が我が儘言ったってことにできるじゃん。それに、メンバーに迷惑なんて思うやつは居ないし……だから、ダメ?」

 

彼に「ダメ?」と聞かれるたびに胸が苦しくなる。本当に、なんなんだこの感情は……

 

 「……わかりました。陵くんと呼びますから、そんな顔しないでください」

 

 私が折れて名前で呼ぶというと、すごく嬉しそうな顔をした佐々倉くんもとい、陵くん。その顔を見て私まで嬉しくなった。顔が熱くなってるような気がしたため、隠すように後ろを向いた。

 

 「そ、そろそろ教室に戻りましょう。お昼休みももう終わりですし」

 

 これ以上2人で居るのはマズい。彼に対する気持ちが何なのかはわからないけど、とりあえず自覚したらそれこそダメなやつだ。

 空き教室から2人で出るが、教室に戻るのは別々にした。私が先で、陵くんが後。このあとは午後の授業だけで、放課後も特にすることはない。

 

 「……放課後も生徒会室に行こうかな」

 

 1人ぼやきながら、午後の授業を受けた。

 

 

 授業が終わって、部活に行く人や下校する人、各々分かれて放課後を過ごす。私は生徒会室に行くことにした。身支度を整えて教室を後にする。生徒会室に行く途中、担任の天野先生と会った。

 

 「月城。今日はありがとな」

 

 「いえ、あの……私生徒会に所属することにしました」

 

 担任には報告していないといけないと思い言った。すると、少し驚いた顔したが、「そっか」と言って何やらブツブツと独り言を話していた。

 

 「生徒会は行事全てに関わるからな、色々と大変になるが月城なら大丈夫だろ。授業もいくつか抜けないといけなかったりするからな。何かあれば相談しろよ」

 

 先生から「相談しろよ」と言われて二つ返事で返したら、「俺も学生時代は此処の生徒会に入っていたから何かとわかると思うしな」と不意に言われた。え、初耳だし、先生ってこの高校の生徒だったんだ……。

 

 「そうなんですか!? その時はよろしくお願いします」

 

 「おう」と言われて先生と別れた。生徒会室までは恐らく人と会うことはないでしょう。

 

 「……仕事あるならやって帰って、あ、今日特売日だからちょっと早めに帰らなきゃ」

 

 独り言を言いながら生徒会室についた。本日2回目だけど、やっぱり入るのは緊張するな……

 

 「失礼します……」

 

 ノックをしてから恐る恐る入ると、榊先輩ともう一人男の人が居た。たぶん、他の役員の人だろうな。

 

 「あれ、君ってさっき手伝ってくれた月城さんだよね? どした? 忘れ物?」

 

 さっきとは雰囲気が少し違って、なんか、柔らかい感じで話しかけてくれた。

 

 「あ、いえ……何かお手伝いできたらいいなと思って。あまり遅くまでは残れないんですけど」

 

 私が言うと、榊先輩は「マジで!? 助かる!」と笑顔で言ってくれた。役員の人に何か伝えたあとに私の所に来た。役員の人も、私に軽く会釈した後に、奥の部屋へと入って行った。挨拶とか、自己紹介とかしなかったけど、大丈夫かな……。

 

 「あ、アイツは副会長の宮本尋。挨拶とかは明日のミーティングに来てくれたらそこでしてもらうつもりだから、今日は大丈夫だよ。でも、放課後まで手伝ってもらっていいのか?」

 

 あの人が副会長の宮本先輩。明日、ちゃんと挨拶しなきゃ。あと、榊先輩ものすごく困った顔しないでください……なんかこっちが申し訳ない気持ちです。

 

 「ご迷惑でなければ。私は部活に所属してないので、時間はありますから」

 

 さすがに「スーパーの特売日だから早く帰る」なんて言えないから、とりあえず仕事を早めに片付けさせてもらおう。

 

 榊先輩と一緒に宮本先輩が入った部屋の隣にある部屋に入ると、コピー機がたくさん置いてある部屋だった。先輩に頼まれた仕事は、印刷機での印刷だった。しかも500部の印刷。まぁ、社会に出たらこんなのもやるんだろうと思うけど、やっぱり部数を聞いた時は聞き間違いかと思った。

 

 「この書類を500部刷ってもらって、刷り終わったら今日は終わりでいいよ。印刷機はちょっと古いから紙詰まり起こすかもしれないけど、表示の指示に従ってもらえれば、ちゃんと動くと思うから。分からなくなったら呼んで」

 

 榊先輩は仕事内容を告げてさっきの部屋に戻っていった。印刷機の使い方は、壁に貼ってあったからそれを見ながら操作する。使い方の説明書を見ると、【輪転機】と書かれてあって、しかもコピーのデータを機会が覚えて印刷するため、最初だけ資料を置いて、後は使わないため、同時進行で隣にある同じ機械を使う。時間短縮になるから効率いいな。とりあえず進めていこうと思って集中し始めた。

 

 

 紙詰まりを起こすことなく順調に印刷をしていたが、紙が足りなくなって止まってしまった。そのタイミングで一旦集中力が切れた。

 

 「あと半分もないぐらいかな。時間まであと1時間ぐらいあるし間に合うね」

 

 時間内に終わらせるために作業を再開する。少し多めに紙をセットしたため、止まることは恐らくないと思う。さて、最後までやりますか。

 

 

 再度集中して作業を進めると、気が付けばそろそろ帰らないといけない時間となっていた。丁度作業も全て終わったところだったので、先輩に知らせるためにさっきの部屋に戻る。すると、榊先輩は居らず、代わりに宮本先輩が居た。

 

 「あ、お疲れ様。榊ならちょっと会議に出てて席外してるよ。月城さんだっけ? 俺は宮本尋。一応副会長やってるよ。明日のミーティングでも自己紹介とかやるだろうけど、これからよろしくね」

 

 「月城詩音です。よろしくお願いします。あの、そろそろ帰らないといけないので……任せていただいた印刷は全て終わりましたので、あの部屋に置いています」

 

 「OK。ありがとうね」と笑顔で言われた。そういえば、生徒会の先輩方ってクラスの人や他の生徒たちに人気なんだよね。陵くんと並ぶぐらいにファンクラブあるとか聞いたことあるし。とりあえず、仕事も終わったしカバンを持って挨拶してから生徒会室を後にする。ちょっと早めにスーパーに着いて目星をつけておこうっと。少し小走りで学校を後にした。

 

 

 無事特売に間に合って、たくさん買い込んだ。今週残りは大丈夫そうだな。少し重いが、頑張って帰路に着く。

 

 「あれ? 月城さん?」

 

 後ろから声をかけられたため振り向くとそこには陵くんの姿が。なんでこのタイミングで、しかも、ここに居るんですか。

 

 「すっごい買い込んだね。持とうか?」

 

 なんか、嬉しい反面恥ずかしい気持ちでここから走って逃げたい気分だけど、生憎本当に重くて、走ることはできない。

 

 「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。それより、どうして陵くんはここに?」

 

 まず何よりも聞きたかった、彼がここに居る理由。このスーパーは学校から結構離れているし、あまり見かけないから同じ学校の人に会わないだろうと思っていたのに……。

 

 「俺はジョギングの帰り。水分補給に水買おうと思って寄ったんだ。……やっぱりその荷物持つよ。すごい重そうだもん」

 

 確かに彼の格好はスポーツウェアだった。しかも私が持っていた袋両方とも持ってくれた。重いのに軽々と持っているのがすごいのと、持たせてしまって申し訳ないな……。

 

 「なんかごめんなさい。全部持ってもらっちゃって」

 

 「いいよ。気にしないで。あとこんな重いのに女の子が持っちゃダメだよ」

 

 荷物を持ってもらっているため、必然と一緒に私の帰路に着くことになった。一緒に居てふと思ったが、今日あったはずの部活はどうしたんだろうか。時間帯的にまだ部活の時間だし、もし終わった後だとしても、スクバもなければ手荷物も少ない。気になるけど、聞きにくいなぁ。

 

 「あ、俺部活辞めてきたんだ。生徒会に入るってのとやりたいことをしたいって先輩達に言ったら、分かってくれてさ。辞めるのはできたけどやっぱいつも体を動かしていたから動かないってのが性に合わなくて」

 

 私が気になっていたことをすんなりと言ってくれた。気づいてくれたのかな。

 

 「てか月城さん、いつもこんなに買っているの?」

 

 恥ずかしかったが、ここまできたら言ってしまった方が楽だと思った。

 

 「……お恥ずかしい話ですが、今日はあのスーパーで特売日だったんです。買えるときに買っておかないと勿体ないので」

 

 「そっか、そうだね。月城さんがいつも買い物行ってるの?」

 

 「そうですね。ほぼ一人暮らしに近いので自分でできることは全て自分で行ってます」

 

 「すごいね!」と陵くんは言ってくれたが、やるしかないからやっているだけ。でも他の子達だったら、私が「ほぼ一人暮らしに近い」って言ったら事情を聴いてくるんだけど、陵くんは聞いてこなかった。なんか、逆にそれがもどかしくて、私から聞いてしまった。

 

 「気にならないんですか? 私がなんでほぼ一人暮らしに近いのかって」

 

 「……確かに気になったけど、誰にでも言いたくないこととかあるし。無理に聞くのも無責任だしね」

 

 そう言ってくれたことが嬉しくてお礼を言うと「なんでお礼言うの」と笑いながら言った。陵くんと居ると、なんかいつもと違うくて普段の自分で居れるけど、恥ずかしい自分が居る。自分の気持ちは分かっているはずなのに、この気持ちがわからなくてどうしたらいいのかもわからない。1人モヤモヤとしながら隣を歩く。

すると、彼から聞いたことある音楽が聞こえた。携帯の着信音だろうけど、この曲は私が好きな曲だ。陵くんは「ごめんね」と一言謝って電話に出た。電話に出るときぐらい荷物を私に渡せばいいのに、持とうとするとジェスチャーで「いいから」ってやって電話に出ている。本当に申し訳ないな……。

陵くんの反応的にあまり良い知らせの電話ではなさそうだった。電話を切ったらまた「ごめんな」って謝ったので「全然、大丈夫」って言った。でも陵くんは「どうしよっかな」ってボヤいていた。さっきの電話で何かあったのかな。

 

 「どうかしたの?」

 

 いつもなら聞かないであろう言葉を彼にはすんなりと聞いた。すごく困った顔をしたから。

 

 「ん、いや、今日親が仕事で帰ってこれないってなっちゃって……夕飯どうしよかなって」

 

 苦笑いしながら言われたけど、どうするつもりなのかな……。

 

 「もうちょい早く連絡くれたら何か買って帰ったのになぁ」

 

 確かにさっきまでスーパーに居たなら買い物もできただろうに……「どうすっかな、コンビニでもよるかな」って言った陵くん。それを聞いた私はふと口走ってしまった。

 

 「……よかったら、家で食べていきますか?」

 

 急な誘いに驚いた顔をしている陵くん。そりゃそうだ、言った私も驚いてるんだから。

 

 「そりゃ有難い話だけど、いいの? 親御さんとかさ、それにお邪魔じゃない?」

 

 「……親なら家も居ない同然なので、お気になさらず。私の味付けなので、お口に合うかはわからないですが、それでも良ければ」

 

 「全然! 俺も手伝うから!」

 

 お客さんに手伝ってもらう訳にいかないから「大丈夫です」って言った。結果的に一緒に帰ることになった。

 

 

 家について、持っていてもらっていた買ったものを冷蔵庫に入れたりしていた。その間に陵くんには座って待っててもらおうと声をかけたけど、中々座ろうとしなかったため、どうしたのか聞いた。

 

 「あ、いや、俺ジョギングしたから汗とかすごくてさ……やっぱり家に帰ってシャワー浴びてくるわ」

 

 そんな面倒くさいことしなくてもいいのに……やっぱり気にするのかな? 私は全然気にしないけど……

 

 「それなら先にお風呂でも入ってきていいですよ。服なら父親ので良ければありますし」

 

 と言いつつお風呂の支度をする。ちょっと無理矢理だったかもしれないけど、その間に制服から私服に着替えて夕食の支度をする。今日はオムライスにしようかな。

 料理をしながら音楽を聴くのが習慣になってるため、いつものように音楽を流そうとしたけど、今日は陵くんがいるため、いつもは移動の時にしか使用しないヘッドホンをつけて料理をする。もちろん私が大好きな曲で。

 

 

 あとは卵をケチャップライスに乗せて真ん中に切れ目を入れるとオムライスの完成。ってときに陵くんがお風呂からあがって来た。聴いていた音楽を止めてヘッドホンを取った。陵くんは私が脱衣所に置いてた父親の服を着ていた。でもサイズが大きいからか、すごくダボっとしていた。

 

 「お風呂ありがとう。ごめんな、夕飯だけじゃなく風呂や服まで借りちゃって」

 

 なんか、普段と違う陵くんが目の前に居て、すごくドキドキするし、色気がホントにすごいです。皆が黄色い声援を上げるのも無理ないなと改めて思った。

 

 「大丈夫ですよ。父親の服、サイズが大きくてごめんなさい……あとオムライスにしたんですけど、大丈夫ですか?」

 

 大丈夫か聞いたけど、今更「食べれない」って言われても困るけどな、と思いながら聞いてしまったことにちょっと後悔した。

 

 「オムライスめっちゃ好き! ありがとう!」

 

 オムライスって聞いて目を光らせて嬉しそうに言われた。……作って良かった。

 できたオムライスをテーブルに置いてスープやサラダもテーブルに持って行く。準備が終わって陵くんと向き合った状態でご飯を食べる。

 

 「めっちゃ旨い! 卵もフワフワだし、めっちゃ好みの味付けなんだけど」

 

 喜んでいただけたようで良かったです。自分以外の人に食べてもらうなんて久しぶりすぎて、ちょっと自信がなかったから素直に嬉しかった。

 

 

 余程美味しかったのか、いつの間にかペロリと平らげていた陵くん。元気よく「ご馳走様でした!」と言われて、「お粗末さまでした」という会話をしていると、いつもはやらない会話に少しむずかゆさを覚える。

 

 時間も遅くなってきたため、陵くんも家に帰ることに。服はそのままで、また後日返すということにした。まぁ、私は気にしなくてもいいけど、汗だくになった服をもう一度着るのはさすがに嫌だろうと思って「着て帰っていいよ」と言った。

 

 「ホントにありがとう。ご馳走様でした。また明日ね」

 

 「うん。こちらこそ荷物持ってくれてありがとう。また明日」

 

 陵くんを玄関まで送って後ろ姿を見送ろうとしたけど、中々帰ろうとしない。……忘れ物でもしたかな?

 

 「月城さんさ、連絡先交換してもいい?」

 

 ……今日初めて話して、すごく1日で仲良くなったけど、そういえば連絡先を交換していなかった。ポケットに入れていた携帯を取り出して連絡先を交換した。

 

 「ありがとうね。あと月城さんのこと、詩音ちゃんって呼ぶな!」

 

 私のことを名前で呼ぶのは家族ぐらいだったので、「え……?」と驚いている間に彼は歩き出していた。

 

 「じゃぁね、詩音ちゃん! おやすみ~!」

 

 驚きが隠せていない状態でテンパっていたし顔が熱くなってきたため、少しの間外で顔を冷やしていた。

 帰り際に爆弾を落とさないでよ!!すごく恥ずかしいじゃん!!

 

 気を紛らわそうと家に入ってお風呂に入る。その間も考えるのは陵くんのことだった。明日からも会うのに、どんな顔して会ったらいいの!?

 

 若干のぼせつつもお風呂からあがって明日の準備をして寝る。いつもならすんなりと寝れるのに、中々寝つけれなかった。だから、携帯を弄りながら眠くなるのを待っていると、陵くんから連絡が来た。まさか陵くんから連絡来るなんて思ってもなくて、ビックリしていた。内容はお礼の言葉と服をまた返すね。ということだった。

 初めての連絡だったけど、気持ちがドキドキしてた。最後に送られてきた「おやすみ」のスタンプが可愛くて、思わず笑ってしまう。

 

 今日1日思っていたことをハッキリさせたくて、ネットの検索欄に私が思った気持ちを入力して検索した。そしたら、出て来たのは私には無縁のものだと思っていたことだった。

 

 「……私、陵くんに恋してるんだ」

 

 ポツリと呟くだけで恥ずかしくなったが、不思議とこの気持ちが何なのか知ることができて気持ちが落ち着いた。明日、彼に会う時にどんな顔をして会えばいいのか、結局わからないけど、でも自分の気持ちに気付けただけでもいいかなって思えてきた。

 そう思うと自然と瞼が下りてきた。いつの間にか寝てて、その日の夢は凄く幸せな夢だった気がする。

 

 

 翌朝起きたとき、いつもより目覚めが良く、こんなにも学校に行くのが楽しみになったのは初めてかもしれない。なんだか視界がクリアになったような気がする。気のせいかも知れないけど、恋するとこんなにも世界がクリアになるなんて思ってもなかったし、私が恋するなんて思ってなかったけど、すごく陵くんに会うのが楽しみになって来た。

 

 学校に行っても陵くんに会うのは放課後にある生徒会のミーティング時だろうけど、放課後がこんなにも楽しみで仕方がなかった。

 

 

 お昼の時間もいつもの空き教室で食べて、持ってきていたヘッドホンで好きな音楽を聴く。陵くんは来なかったけど、お気に入りの時間を過ごして、午後の授業を受けたらもっと放課後が楽しみになった。

 

 

 授業も終えて放課後になる。生徒会室に向かっていると、後ろから「詩音ちゃん!」と声をかけられた。私のことを名前で呼んでかつ、あの声は彼しかいない。

 

 「陵くん!」

 

 私が会うの楽しみで仕方なかった人。やっと会えた……。

 私が名前で呼んだことにも驚いていたが、私の横まで走ってきてくれた。それだけですごく嬉しい気持ちになる。

 

 「……やっぱり好きだなぁ」

 

 ポツリと呟いてしまったみたいで、陵くんも「え?」と戸惑っていた。まさか声に出ているなんて思ってもなくて、私も陵くんも顔を赤くしていた。

 

 「……それ、本当?」

 

 彼の顔を見ることができなくて、俯いていると私の腕を掴んで引き寄せられる。その反動で私は陵くんの腕の中にすっぽりとおさまった。その行動にも驚いていると、陵くんが私を抱きしめながら言った。

 

 「俺、初めて詩音ちゃんを見た時から一目惚れだったんだけど。詩音ちゃんも俺のこと好きならスッゲー嬉しいんだけど」

 

 まさか、昨日の今日で好きになった人とこうなるなんて、思ってもみなかった。

 恥ずかしいけど、ちゃんと答えなきゃ。陵くんとちゃんと向き合うために、胸板を軽く押して陵くんの顔を見て言った。

 

 「……私、陵くんとちゃんと話したのは昨日だけど、これから陵くんのことをもっと知りたいと思ったし、えっと……私恋なんてしたことないけど、こんな気持ちになったの、陵くんが初めてだったから、なんか、嬉しいな」

 

 照れながら笑うと、陵くんも笑顔になった。その笑顔にまた嬉しい気持ちになる。

 

 「ほら、早く生徒会室に行こ。詩音ちゃん」

 

 私の手を握って生徒会室に向かって走る。いつもなら走らない廊下を私は笑顔でついて行った。

 

 

 

 

 

___________これが地味な私と人気者の彼との出会い。

 

 たった1日で一気に距離が縮まり、まさかの恋仲にまで発展してしまった私達。

 

 これから先、色んな事があると思うけど、せっかくの青春を楽しむために、頑張っていこうと思った。

 急な展開すぎて、私も陵くんも驚いていたけど、それもまた、私達の思い出になった。

 

 -fin-

 


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