「ねぇねぇ、トランクスのお父さんの戦い見てみたい! いいでしょ?」
ポロッツは息子のシャッツにねだられ、瓦礫と化した建物の影からベジータとトランクスに対峙している恐ろしげな男を覗き見る事になった。
鬼気迫る雰囲気にポロッツは恐れをなして額の汗をハンカチで拭うのを続けていた。
「見て見て! 本物の金色の戦士だ! 二人ともなってる!!!」
無邪気か、歓喜して父の裾を引っ張っている。
苛立ち気な表情でベジータは拳を握り締め、目の前の男を睨みつけている。
側にいるトランクスも金髪に逆立っていて身構えていた。目の前に立ちはだかる一角の男。ただならぬ威圧が滲み出ていて、思わず息を呑む。
「トランクス!! 後ろのあいつらを遠くまで連れて行け!! 気が散る!」
「あ、え!? オレも戦……」
ベジータに怒鳴られ、トランクスは戸惑う。
「フフッ、東の都を消した男が随分と優しくなったものだ」
鬼の男、ガナッシュは落ち着いた物腰で微かに笑う。
ベジータはギッと睨むが一筋の汗を垂らす。そしてポロッツは驚愕を露わに大きく口を開けていた。
「ほう。随分と物知りなようだな。だがオレはもう止めたのだ……侵略をな」
神妙な面持ちで静かに呟く。
ポロッツは腰を抜かし、尻餅をついた。シャッツは振り向き疑念を持つ。
悪夢を思い出したのかガタガタと震えだす。
顔面真っ青の父にシャッツは「ど、どうしたんだよ?」と困惑のままに問う。
「今は地球人のサイヤ人としてこの世界を守る!!」
強い決意を露わに気合を入れる。周囲に砂煙が吹き荒ぶ。ガナッシュはぶら下げていた拳を持ち上げ、臨戦態勢に姿勢を屈める。
「さっき言っていたな? 大した事ないと……。そのスーパーサイヤ人の力を思い知れッ!!」
地を蹴り、ガナッシュへ拳を振るうも腕で払われる。だがすぐさま蹴りを入れる。
「む!」
ガナッシュは腕を盾に受け止めるも重く圧し掛かかられ、それに呻く。
「はあああっ!!!」
畳み掛けるように拳と足を交互に繰り出し、ガナッシュを防戦一方に追い込み後ろへと押し切っていく。
尚も反撃を許さぬベジータの激しい猛攻とそれを捌くガナッシュの格闘で足元がクレーターに抉れ、破片が舞う。
周囲に衝撃波の波が吹き荒れ、トランクスは両腕で顔を庇う。
ポロッツはシャッツを抱きかかえ建物の影で目を瞑り身を縮こまる。地鳴りと共に建物の隙間から烈風と破片が飛んでくるのが見えていっそう恐怖が募った。
「ふんっ!!」
ガナッシュの拳がベジータの顔面を捉え、仰け反らせた。
しかしベジータは沿った背を起こし、垂れた鼻血を親指で拭う。そしてニヤリと笑む。
「所詮この程度だろうな。だが遊びはせんぞ……。街中で延々とやる趣味はないんでな」
拳を握り締め、厳しい目付きを見せ「かあっ!!」と咆哮一喝。
破裂音と共に電撃がベジータの全身を纏い迸る。
地鳴りが徐々に大きくなり、破片が徐々に舞っていく。ただ突っ立っているだけでも吹き荒れる巨大な力に大地は震えていた。
「ほう。それならば……。ふんっ!!!」
ガナッシュも気張り、全身に力を入れる。髪の毛がより逆立ちプラチナへと色を変え、電撃が全身を走っていく。
威風堂々とスパークを漲らせたガナッシュの姿にベジータは焦りに見開く。
「我が鬼の一族もその段階へ進める。先ほどは鬼神だったが、今は大鬼神だ!!」
「くそったれ! スーパーサイヤ人2の紛い物め……」
焦燥を胸に舌打ちする。
「確かに紛い物かもしれん」
肯定したガナッシュの言葉にベジータは眉を跳ね上げる。
「……なにしろ千年前のある事件でサイヤ人の一族の何人かが魔界へ移住して、我々の先祖になったのだからな」
「なん……だと……!?」
明らかにされたガナッシュの真実にベジータは驚きを隠せない。
(千年前のある事件……? もしやブロリーのような伝説のスーパーサイヤ人の事か?)
問い質したかったが、後方にいる一般人が気になって焦りが募っていた。
「さて……そのスーパーサイヤ人2とやらの更に先へ変身できるか?」
「何?」
ガナッシュの問いにベジータは顎を上げた。
その反応を見てガナッシュは不敵に笑んだ。恐ろしく戦慄を感じさせる顔だ。
それにあてられてかトランクスはおののき後退りする。
「かああああああ……!!!」
ガナッシュは更に前屈みに踏ん張り、全身から更なる気を噴き上げていく。
大地が更に震え上がり隆起を始めていく。
「ちいっ!!!」
ベジータはガナッシュへと鋭い蹴りを見舞う。が、周囲に膨れ上がった球状の気に阻まれた。
続く振動に近くの建物が続々と瓦解して行く。
それでも膨れ上がるガナッシュの気は留まる事を知らない。
少しずつ髪の毛に黒が差し込んでいく。そして背中へと伸びていく。頭上の角も徐々に大きく伸びていく。
恐怖におののくベジータは必死に両手から気弾を撃ち出すも連鎖する爆発は届かなかった。
焦って悔しがるしか彼は出来る事は他になかった。
「かああ――――――ッ!!!」
ガナッシュの咆哮。周囲を覆う閃光。ベジータとトランクスは目を瞑る。
上空の雲が渦を巻き、慌しくうねるように流れていく。
大地は絶えず震え上がり、瓦礫から破片が宙を舞っていく。そして激しく迸る稲光。
それを纏うガナッシュは尻にまで伸びる黒い髪の毛、額の大きな角、尖った大きな耳を備えていた。
威光を放ちながら威風堂々と立っていた。
(……か、カカロット!!!?)
畏怖に冷や汗を掻くベジータ。ガナッシュの後ろにスーパーサイヤ人3の孫悟空が映って見えた。
あまりの恐怖に耐え切れずトランクスは尻餅を付き、震えたまま涙が溢れる。
「ば、化け物…………!!!」
ポロッツはそれを目の辺りにして目をおっぴろげたまま顔面真っ青で震え上がった。シャッツも腰を抜かしたままちびってしまう。
ガナッシュはチョコットと同じく鬼の一族だった!?
しかも超サイヤ人3と同等の変身が出来るこの男は只者ではないぞ。
この激戦の行方はッ!!?