「またフレ姉に勝てなかった~!」
バトルを終えた三姉妹。セッションベースの前で大の字に倒れるルフスは悔しそうに口にするものの、その表情はどこか晴れやかである。
「あの状況なら勝てると思ったけど、流石は姉さんね」
アーテルは椅子型にした充電くんに腰掛け、目の前で得意気にしているフレズを称えた。
「えっへへ!当然!!でも、最後の一撃にはヒヤヒヤしたよー!アーテルもしつこかったし!」
「姉さんに勝つ為だもの。例え這ってでも、逃がすつもりはなかったわよ?」
満面の笑みでそう答えるアーテルだが、それを見たフレズは、
「バトルでそんな状況になるの嫌だなぁ……」
と若干引き気味に答える。
「まぁ滅多にそんな事にはならないでしょ。私達はともかく他のFAガールだって、這い
――相手を這い蹲らせたいっていうのなら二人いるけど……。
社内のスタッフですら手を焼く姉妹の存在を思い浮かべていたアーテル。
「それにしてもフレ姉凄いよねっ!あの一瞬でアタシ達をまとめて倒しちゃうなんて!」
「姉さんらしく、力でねじ伏せた勝ち方でしょ」
「ちょっと、アーテル酷くない?」
アーテルの悪態には訳がある。それはバトルが終了する直前、ルフスがフルチャージしたベリルショット・ライフルの一撃を放った時の事だ。
× × ×
「よーし、今度は当てるよっ!いけぇー!!」
ルフスから撃ち放たれた高出力のエネルギー弾が、フレズの眼前に迫る。
回避を選択しようにも、背部ユニットにはアーテルのベリルスマッシャーが引っ掛けられ、逃げる事が出来ない。
――このままボクが負ける?轟雷とのバトルじゃなくて、妹達との模擬戦で……?
「っ――まだ……まだぁぁぁッ!!!」
フレズは叫びながら両脚のスラスターを一瞬だけ全開で噴射し、そのまま両脚を振り上げる。その結果バク転をしたような形になり、背部ユニットから強引にベリルスマッシャーの刃を外す事に成功した。
「うそっ!?」
空中で逆さまになったフレズと、驚きで目を見開くアーテルの視線が交錯する。しかしそれだけでは終わらない。
「ハァッ!!」
「やっ!?」
もう一度フレズは脚部スラスターを全力噴射すると同時に、彼女はお返しとばかりに自身が持つベリルスマッシャーでアーテルの背中を引っ掛け、力任せに迫り来るエネルギー弾の射線上へと放り投げた。
「きゃぁぁぁ!」
突然の事で対処出来なかったアーテルにライフルの一撃が直撃し、これによってHPがゼロになってしまう。
「えぇっ!?アーテ姉!?」
さっきまでフレズがいた場所でダメージを受けるアーテル。それを見たルフスは思わぬ事態に混乱する。
そして――
「あうっ!」
状況を掴めずに動けなかったルフスの額に、フレズのランチャーから発射されたエネルギー弾が命中した。
『WINNER、HRESVELGR』
こうして三姉妹によるバトルロイヤルとは言えないバトルロイヤルは、フレズの勝利で幕を下ろしたのだった。
× × ×
「あそこで私を投げ飛ばすんだから、力でねじ伏せたって言われても仕方ないでしょ?」
「分かってると思うけど、ボクよりアーテルの方が単純なパワーは強いからな?」
笑顔を浮かべながら言い合う二人。
寝転がったままのルフスは何も言わず、今から二回戦を始めそうな姉達を見ているだけだ。
――アタシはどっちも似たようなものだと思うけど……巻き込まれるの嫌だし黙ってよーっと!エネルギーの残りもそんなにないし!
「いやぁ~流石フレズヴェルク!見事な勝ちっぷり!」
「あ、大塚ー!」
そんな姉妹の前にバトルを見ていた大塚と後輩スタッフの二人がやってきた。
「アーテル、最初に止めなかった私も悪いけど、石塚先輩から頼まれてたのがバトルロイヤルのデータ収集だってのは覚えてるよね?」
「と、当然覚えてるわよ……?」
目を逸らしながら答えるアーテル。
「誘いに乗ったルフスもだよ?」
「はぁーい」
「全く、怒られるのが担当してる私だからって……」
「あら、それじゃあ今回はアーテルとルフスにもお仕置きが必要かしらね」
後輩スタッフが呆れていると、研究室にもう一人のスタッフが入ってきた。
「い、石塚先輩!?」
フレズ班のソフト開発担当で、今回のデータ収集を指示していた石塚
「ちょ、ちょっと待って!私達も!?」
「い、今は充電の残りが少ないから見逃して欲しいなー……なんて」
お仕置きをされるかもしれないとなっては、アーテルとルフスも慌てるしかない。
「データ収集は急ぎではないからいいけれど、テストの予定は決まっているのよ?ここだって、いつでも自由に使えるわけじゃないの」
笑顔で二人に語りかける石塚の声音は柔らかいものであるが、その雰囲気は許されるというものではなかった。
「フレズヴェルク……いいえ、あなた達三人を強くする為にしている事なのよ?」
これを言われてしまうと二人は何も言えない。
「分かってくれたかしら?」
「……そうね、テストの予定を潰しちゃったのはダメだったわね」
「うぅ~……」
石塚の言葉――何よりテストの予定や研究室の使用権を持ち出され、アーテルとルフスは抵抗を諦める。
「んで、お仕置きって何するんだ?」
石塚と妹達の会話を見ていたフレズも、これから二人がされる内容が気になるようだ。
「充電くんの刑よ」
「充電くんの刑?」
「な、何よそれ!?」
石塚が口にした不穏なワードにフレズは首を
「皆、ユーザーテスト用の轟雷の話は知ってるでしょ?」
「……ええ、世界で一体しか起動しなかった轟雷よね」
「そう、その轟雷をメンテナンスで一時的に回収した時に、データの抽出をしたらその事が記録にあったらしいの」
楽しそうに話す石塚だが、苦い表情を浮かべるアーテル。
ルフスはこっそりと逃げ出そうとしたが、後輩スタッフが見逃さず捕まっていた。
「それでデータを見たスタッフの話だと、何回も充電くんの充電ケーブルを抜き挿ししてたって――」
「いやぁぁぁぁっ!!」
これから自分達に行われるお仕置きの内容を聞いた途端、堪らずアーテルも逃げ出す。
だが、これもルフスと同じく失敗して捕まってしまった。
「はっ、離して!もう聞いただけで十分!やる必要はないでしょ!?」
「いやいやぁ~そういう訳にはいかないなぁ~」
そう言いながら捕まったままのアーテルに迫る大塚。彼女の手には、アーテルの充電くんと充電ケーブルが握られている。
「も、もう反省したから!ね!?」
「アーテ姉、もう逃げられないよ……」
「諦めないでルフス!きっと何か手が――」
「えい」
「――――ッ!?」
こんな恐ろしい罰から逃れようと抵抗するアーテルに、大塚は容赦なく充電ケーブルを挿し込んだ。
突然の事に、アーテルは声にならない悲鳴を上げ身悶える。
「ほい」
しかし大塚はそれを気にする事なく、挿したばかりの充電ケーブルを抜いて再びアーテルの充電用ジョイントに挿して、と同じ動作を繰り返す。
「まっ、待って!んっ、お、大塚ぁ!やぁっ!」
「おおーこれ結構楽しいねぇ~」
何度も充電ケーブルを抜き挿す大塚。
これからこの充電くんの刑をされるルフスは自身の充電が残り少ないのもあり、そんな大塚と姉を見て完全に諦めた表情をしていた。
「それじゃあ大塚が遊んでいる間に、私はバトルデータの確認しておくわね」
お仕置きとして充電くんの刑を提案した張本人である石塚も、あっさりとそんな事を言ってログ確認をし始める。
「……アーテルがんばれー」
未だお仕置きを続けられる妹に対し、フレズもとりあえず応援しておこうといった感じであった。
「もっ、もうやめてぇぇぇぇっ!!!!」
ちょっと間が空きました。
当初はここまでを一つの短編(ホントはちょっと短めで内容も少し違うけど)として作る予定だったので、これで一旦フレズ三姉妹はお休みです。
Twitter:https://twitter.com/Masa_GPB
マシュマロ(感想などに):https://marshmallow-qa.com/masa_gpb