紫色の仮面ライダー大体ヤバいやつ説   作:瀬久乃進

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お久しぶりです。
以前に第1話だけ投稿していた戦極凌馬のお話は諸事情あってお蔵入りしました。すみません。
ゆっくり書いていこうと思います。


第1話:エグゼイドからの依頼

兄の仕事の手伝いを終えた呉島光実は、帰途に就いていた。今日も疲れた。兄・貴虎の肉体はオーバーロードとかそういうのとはまた違ったベクトルで人間離れしているため、彼のペースに合わせて働くと非常に疲れる。貴虎は、20時を回った今でもオフィスで残務と戦っている。

 

『兄さん、本当に僕はもう上がっちゃって平気なの?』

 

『大丈夫だ光実。あとは判子を押すだけだからな』

 

『うん、確かに判子を押すだけだけどさ』

 

問題は判子を押すべき書類の枚数で、どう見ても1,000枚は堅い。大人の仕事は未だ理解に遠い。何をそんなに押印する必要があるのか。

 

『大丈夫だ光実。経験上、300枚を超えた辺りから次第に気持ちが昂ってくる』

 

『それ危ないと思うんだけど・・・』

 

1枚1枚チェックの必要もあるようで、貴虎はそれを自分自身でやらなくてはならないとしたものだから、結局光実は兄を置いて先にオフィスを出た。

 

ここは沢芽市。かつて世界を襲った"理由のない悪意"の爆心地であり、激しい闘争の歴史を持つ街である。禁断の果実を巡るその争いの中で、光実は数多くの過ちを犯した。光実は代償として多くのものを失ったが、最終的には1人の男の"理由のない善意"に守られた。

 

信じられないことだが、禁断の果実を手にし、運命の勝者となったその男は今や銀河の彼方・・・ある惑星の王を務めている。物理的にも、精神的にも、彼は遠くへ行ってしまった。

 

・・・と、思っていたのだが。

 

光実のポケットの中で、スマホが振動した。着信。画面を見ると・・・

 

《葛葉絋汰》

 

最近、葛葉絋汰の治める惑星には携帯電話の技術が生まれたらしい。そして、地球との通話が可能になったらしい。禁断の果実、なんでもありかよ。光実は電話に出た。

 

「もしもし。光実です」

 

『おうミッチ!元気してるかよ?』

 

「元気ですよ。大学は春休みですが、今日は兄さんの仕事の手伝いをしてました。会社の決算なんですけど、かなり爆弾が残ってて後処理が大変らしいです」

 

『爆弾?大変だな!ドライバーはあるんだろ?作業にロックシード足りなかったら言ってくれな!』

 

・・・物理的な意味での爆弾ではないのだが、気遣ってくれているので素直にはい、と言って話を区切った。光実は絋汰に用件を訊く。

 

『おう、いきなりで悪いんだけどさ、ちょっとお願いがあってな』

 

「お願い?」

 

『ああ、って言っても俺じゃなくて、エグゼイドからのお願いなんだけどさ』

 

・・・エグゼイド。それは、少し前に世界を救った仮面ライダーの名前だった。沢芽市の闘争の後にも、この世界には様々な災厄が絶えず降りかかった。グローバルフリーズ。デミアプロジェクト。そして、直近のバグスターウイルス感染症。いずれも世界を崩壊寸前にまで追い込んだ大事件であったが、幾人もの仮面ライダーたちの活躍により、なんとか今日も人類は存続している。エグゼイドとは、バグスターウイルスのパンデミックから世界を救ったドクター・宝生永夢の変身する仮面ライダーである。

 

「はあ、エグゼイドの宝生先生が僕に?」

 

『いや、なんかさ・・・緊急で紫色のライダー探してんだって。バグスター絡みでクリアしなきゃなんないゲームがあって、なんか紫色のライダーじゃなきゃダメらしいんだ』

 

「ええ・・・僕、緑色じゃないですか?」

 

『え?ミッチは紫色だろ!ブドウアームズ!龍砲セイヤッハ』

 

「途中からキウイになってますよ」

 

エグゼイドからの依頼内容も含めて色々と意味がわからなかったが、ライダー絡みの案件で最初から意味のわかったことは経験上非常に少ない。基本的にはもう突っ込むだけ無駄だ。何より絋汰からの頼みとあっては、光実は断りたくなかった。この人には、一生を費やしてでも返しきれない恩がある。

 

「・・・まあ、いいですよ。よくわかりませんが、事情は直接宝生先生に訊いてみます。で、これからどうしたらいいですか?」

 

『さすがミッチ!助かるぜ!』

 

絋汰曰く、日程は明日。光実は特に予定もなかったので、それは問題ない。迎えが来るらしいが、時間帯のことは確認が取れ次第メールで伝えるとのことだった。

 

『マジでサンキューなミッチ!今度そっちで何か奢るわ!』

 

「え、こっちのお金あるんですか?」

 

『口座にバイトの貯金がちょっと残ってる!』

 

終話。歩きながら話していたため、光実はいつの間にか自宅の前に着いていた。

 

「・・・相変わらずだな、絋汰さん」

 

絋汰が人間であることを捨てた時。銀色の鎧に包まれて荘厳な雰囲気を醸し出すその姿を見た光実は、ああ、なんだかクールなキャラになってしまわれた、と思ったものだったが。

 

実際、特にそんなことはなかった。葛葉絋汰は今も昔も、あの闘争の1年にあっても、ずっと・・・お人好しでちょっと間の抜けた、光実の兄貴分であった。

 

 

 

翌日。光実は少し遅めの9:00のアラームで目を覚ました。エグゼイドたちの勤務地である聖都大学付属病院への迎えの車が10時頃に来るとのことだったので、光実は手早く準備を済ませて呉島家の邸宅前で待っていた。

 

ライダーとして呼ばれているので、光実のリュックの中には戦極ドライバーと手持ちのロックシードが幾つか入っていた。久しぶりに持ち歩くが、やはりフルセットだと重たい。地べたに鞄を降ろして待機していたところ、ふらふらと歩いてくる兄・貴虎の姿が見えた。

 

「に、兄さん・・・昨日も泊まり込んだの?」

 

「ああ、おはよう、光実。これから着替えてまた出勤だ。ははは」

 

「はははじゃないよ・・・」

 

貴虎の生気の希薄な骨ばった顔の中にあって、瞳だけが煌々と光を放っている。正直不気味であった。明らかに死相が出ている。これから迎えに来るであろう医療関係者に会わせたら、即刻病院へ連行されそうだ。

 

「光実は外出か?」

 

「うん、ちょっと聖都大付属病院に行ってくるね」

 

「具合でも悪いのか?体調管理はしっかりしろよ」

 

貴虎はそう言い残すと、ふらふらと邸宅の中へ入っていった。その言葉はそっくりそのまま返したい。

 

「・・・兄さん、ほんとに大丈夫かなあ」

 

前述の通り、絋汰とはまた違ったベクトルで人間離れしている兄ではある。しかし、さすがに最近は働きすぎなのではないか。ただ、きっと・・・今の方が、兄の性分には合っている。

 

かつて貴虎は、大企業"ユグドラシル"の主任として、人類の6/7を抹殺するプロジェクトを仕切っていた。幼い頃より冷静な体面の下にお人好しな理想論者の心を隠していた兄にとって、その選民的な計画を取り仕切ることは、大きな心的苦痛を伴ったに違いない。当時から激務であることに変わりはないが、現在は先の闘争によって疲弊した沢芽市の復興を目指して働いている。同じように身を粉にして働くにしても、目的の違いによって、貴虎の心は随分と楽になった筈だ。

 

見掛けは違っても、貴虎は絋汰とよく似ているのだ。心の中には自分の理想を持っていて、それに届かない現実に迷い苦しみながらも、それぞれのやり方で理想を叶えるための力を手に入れた。ただ真っ直ぐに、近道を考えることなどなく走り続けた兄と兄貴分。合理性と効率を追求するあまり、独り善がりになってしまいがちな自分とは違う。違うからこそかつては否定したかったし、今では尊敬している。

 

・・・この世界には、ヒーローがたくさんいる。葛葉紘汰こと"鎧武"。呉島貴虎こと"斬月"。これから相見えるエグゼイド、一度だけ一緒に戦った刑事"ドライブ"、あまり詳しく知らない坊主(?)"ゴースト"など。彼らはきっと、紘汰や貴虎寄りの人間だ。理想を強く抱き続け、ひたむきに戦って世界を救ったヒーローだ。

 

そんな彼らと自分が、同じ"仮面ライダー"として扱われることに、光実は些か疑問を抱いていた。やっぱり自分は、ヒーローなんて気質じゃないから。一度は異世界の蛮族に加担した後ろ暗い過去だってある。紘汰の頼みだからこそエグゼイドの招集に応じたが、果たして自分は、仮面ライダーの名に相応しい人間なのだろうか。・・・と、そんなことを考えていると迎えの車(?)が来た。

 

正確には車ではなくバイクだった。更に正確に言えば、その黄色いバイクはバイクではなく、そういう仮面ライダーであった。

 

「あんたが"龍玄"?」

 

迎えに訪れたのは、世にも珍しい喋るバイク。仮面ライダーレーザーこと、監察医・九条貴利矢であった。

 

「あ、 はい。アーマード・・・仮面ライダー龍玄。呉島光実です」

 

「自分は九条貴利矢。こんなナリだけど、一応仮面ライダー」

 

「存じております」

 

「いやほんと、急な呼び出しですんません。事情は・・・えっと、ちょっと長くなるんで、向こう着いてからで大丈夫っすかね」

 

「大丈夫ですよ」

 

ここで長時間こうしていると、通行人からはバイクと喋ってる変な人に見えてしまう。とりあえず光実はリュックを背負ってレーザーの背(?)に跨った。

 

 

 

「はじめまして、光実さん。宝生永夢です」

 

聖都大学付属病院、電脳救命センター"CR"。光実を迎え入れた永夢は、笑顔で彼に挨拶をした。

 

「呉島光実です。はじめまして」

 

「突然呼び出してしまってすみません。それと、本当にありがとうございます。紘汰さんからお話は伺ってます。光実さんはすごく頼りになる・・・紫色の仮面ライダーだと」

 

光実は苦笑いを浮かべた。貴利矢は光実に着座を促すと、目の前に紫色の液体の注がれたグラスを置いた。

 

「ブドウジュースっす。好きかなと思って」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

・・・特別そういうわけでもないんだけどな。

 

永夢は話を続けた。

 

「本来であれば院長の鏡から直接御礼申し上げるべきなんですけど・・・間の悪いことに出張に出てしまっていて。すみません」

 

「いえ、お気になさらず。それで、今回はどうしたんです?」

 

「えっと、そうですね・・・先の"仮面ライダークロニクル"に関連することなんですが」

 

"仮面ライダークロニクル"。バグスターウイルス感染症が取り沙汰された争乱の時期、その後半にて日本に混乱を巻き起こした、前代未聞のゲームソフトのタイトルである。この現実世界を舞台に、戦士に変身したプレイヤーたちが怪物・バグスターを攻略する・・・という名目で流通したそれは、蓋を開けてみれば残虐極まるデスゲームであった。ライダークロニクルの敗者は"肉体が消滅した状態"となり、エグゼイドたちの活躍によって事件が一応の決着を見せた今でも、消滅者たちの復活は果たされていない。光実の暮らす沢芽市でも、数名の消滅者が出ていた。

 

「開発者である檀黎斗のアジトより、そのプロトガシャット・・・えっと、つまり試作品が複数見つかったんです。ご存知の通り、ライダークロニクルは極めて危険なゲームです。なので破棄処分を試みたんですが、厄介なことに、無理やり壊すと大量のバグスターウイルスが散布されるような仕組みになってまして」

 

「それは本当に厄介ですね」

 

「はい。これら試作品を破棄するには、一度起動して、ゲーム内にいるウイルス感染源・・・つまりボスキャラを倒して無害化する必要があるんです」

 

わかるようなわからないような説明だったが、目の前にいるのはこの分野の専門家だ。とりあえず専門家がこう言っている以上、そういうものなんだろう。光実は自分自身を納得させた。

 

「さっきお話したように、試作品は複数ありました。で、その・・・複数あったということの意味なんですけど、光実さんって、ゲームはよくやりますか?」

 

「僕ですか?いえ・・・」

 

「そうですか。あの、なんて言うんでしょう・・・ゲームソフトには"バージョン違い"っていう商法があって。基本的には同じゲームなんですけど、細かい部分の仕様を少しだけ変えて、別の商品として発売することがよくあるんです」

 

「ああ、はい」

 

ゲームには疎いとはいえ、そのくらいの知識ならある。子供の頃に流行した、モンスターをコレクションして育成するゲームの記憶。赤とか緑とか青でソフトの色が分かれていて、色が違うと作中に登場するモンスターの種類が違う。つまり、一作だけではコンプリートが出来ないようになっており、優れたビジネスモデルである。

 

「ポケモンみたいな感じですね」

 

「そうです!え、やってました?ポケモン」

 

「あ、僕はやったことないんですけど、友達がやってたなって」

 

少し苦い記憶だった。家庭の方針により、ゲームの類は買い与えてもらえなかったのだ。クラスメイトたちがゲームの話題で盛り上がる中、話に入ることが出来ず寂しい思いをした。

 

「そうなんですね・・・機会があればやってみてください。子供向けに見えて、大人が本気でやっても楽しいゲームです。大会なんかもありますし。あ、もしよかったら最新作のサブROMが余ってるので一つお貸ししま痛っ」

 

「名人。話逸れてるって」

 

貴利矢が永夢の尻に軽く蹴りを入れ、スイッチの入ってしまった彼を制止した。宝生永夢は、CRのドクターで仮面ライダーであるとともに・・・かつてその界隈で一世を風靡した伝説の天才ゲーマーであったという。ハンドルネームは"M"。ゲームのことになると人格が変わるというが、光実はその片鱗を垣間見た気がした。

 

「失礼しました・・・話を戻しますね。で、試作品が複数ある理由なんですが」

 

「檀黎斗は仮面ライダークロニクルに、当初は複数のバージョンを用意していたと」

 

「その通りです」

 

永夢が頷き、テーブルの上にあったジュラルミンを開封した。中には5つのガシャット・・・すなわち、幻夢コーポレーション制のゲームソフトが入っていた。それらは5色に色分けされている。

 

「これらがその試作品です。左から順に、仮面ライダークロニクル赤バージョン、緑バージョン、青バージョン、黄バージョン、そして・・・問題の紫バージョンです」

 

「はあ」

 

「仰る通り、檀黎斗はもともと仮面ライダークロニクルを複数バージョン発売する計画を立てていたようです。押収した手記を読むと、プレイヤーは購入したバージョン別に色分けされた戦士に変身し、同色で纏まってのチーム対抗戦を行うような構想でした。・・・これは光実さんをお招きしたこととは関係がありませんが、沢芽市の"インベスゲーム"から着想を得たようです」

 

「・・・懐かしいですね」

 

インベスゲーム。禁断の果実を巡る闘争の下地となった、かつて沢芽市に存在した特有の文化だ。当時、沢芽市の治安は極端に悪化していた。派閥の異なるダンスチーム同士が、市内のステージで踊る権利を巡って対立。怪物・インベスを召喚して戦わせることによって決着を付ける領土争い。それがインベスゲームである。・・・その後のことを知る今となっては寒気のする異常な文化だったが、当時は無邪気にも熱中したものだった。

 

光実の所属していたチーム鎧武は青、ライバルチームのバロンは赤といった具合に、確かにそれは色別のチーム対抗戦のようであった。つまり壇黎斗は、あれを世界全土でやろうとしていたのか。

 

「また、それぞれのガシャットの中にはお助けキャラである仮面ライダーのデータが複数存在し、プレイヤーはレベルアップによってその力を得て戦うことが可能、というものでした。・・・どのようにしてデータ収集をしたかわかりませんが、過去にこの世界で、果ては並行世界で活躍したとされる歴代ライダーたちを登場させているんです。彼ら歴代ライダーたちは、その"色"によってバージョン分けされています。例えばドライブの"タイプスピード"なら赤、というように」

 

永夢は話を続ける。

 

「結果的にはゲームバランスの観点から登場ライダー数を絞ることにしたようで、この案は一旦お蔵入りになってます。後のアップデートでの導入は考えていたらしいですけどね。これら試作品の中には、檀黎斗が収集した歴代ライダーたちのデータを元にしたバグスターが入ってるんです」

 

「つまり、先程仰ったボスキャラというのは」

 

「はい。つまり、歴代のライダーたちです。・・・僕たちはこれら試作品の破棄を行うため、敢えてガシャットを起動してゲームエリアへ向かい、攻略を行いました。ここにある5つの試作品のうち、紫バージョンを除く4つの無害化は完了しています」

 

「名人の担当、酷かったよなあ」

 

「いや、ほんとに。赤に強いの寄りすぎでしょ。カブトとかディケイドとか冗談かと思いました。データであれなら本物ヤバすぎますよね。そもそもディケイドは赤じゃなくてピンクでしょあれ」

 

「いや、それ言ったら名人もピンクだけどな」

 

なんとなく話が見えてきた。光実はCRのライダーたちの姿を思い浮かべる。

 

「つまり、宝生先生は赤。ブレイブは青で、九条先生が黄色。緑は・・・スナイプが攻略したってことですか?」

 

「そうです!理解が早くて助かります。これら試作品は、檀黎斗基準で、各バージョンに対応した色のライダーでしかプレイ出来ないようになってるんです」

 

「なるほど」

 

そうか。今のCRには、紫色の仮面ライダーがいないんだ。それで顔の広い紘汰さんに依頼が入り、僕に声が掛かったと。

 

話は大体わかった光実だったが、一つ疑問点があった。

 

「事情は大体わかりました。・・・ただ、一つお伺いしてもよろしいですか?」

 

「はい」

 

「あの、確かに危険な試作品の破棄は行うべきだと思うんですが、・・・昨日の今日でお招き頂いたということは、何か緊急性があるってことですよね?つまり、先延ばしに出来ない理由が」

 

「・・・そうなんです」

 

永夢の表情が曇る。光実は彼の次の言葉を待った。

 

「解析を進めた結果、新しい事実がわかりました。原因は不明ですが、ガシャット内部で何かが起きていて、このままだとあと1週間ほどで紫バージョンは自壊するようなんです。つまり、放っておけば」

 

「ガシャット内部のバグスターウイルスが散布される」

 

「・・・はい。檀黎斗の変身した"仮面ライダーゲンム"は、見方によっては紫色のライダーでした。それが何か関係してるのかもしれません」

 

「前にも一回あったんだよ。あいつは自分が消滅した時に備えて、事前に用意してたガシャットに自分自身のバックアップデータを入れていた」

 

貴利矢の言葉に、永夢が頷く。苦い表情をしていた。

 

「・・・これが、光実さんの力をお借りしたい理由です。お願いしたいのは、仮面ライダークロニクル紫バージョンの無害化。仮面ライダー龍玄として紫バージョンのゲームエリアに向かい、ボスキャラライダーたちを攻略してほしいんです」

 

永夢はそこで言葉を一度区切った。

 

「・・・お返事を頂く前に、伴う危険についてはっきりお話します。仕様上、クロニクルのゲームエリア内で敗北したプレイヤーは・・・つまり、ゲームオーバーになった場合には、肉体が消滅する可能性が非常に高いです」

 

そうだろうな。光実は頷く。

 

「光実さんはバグスターウイルスの抗体はお持ちでないと思いますが、試作品のゲームエリア内ではウイルスは感染能力を持たないようです。なので、試作品のプレイ中にバグスターウイルス感染症・・・ゲーム病に罹る心配はありません。ただ、プレイ中にガシャットが自壊してしまった場合、光実さんは解き放たれたバグスターウイルスに晒されることになります。その場合、ゲーム病感染のリスクは非常に高いと考えられます」

 

永夢は真剣な眼差しで光実を見つめ、言葉を続ける。光実もまた、永夢の目を真正面から見る。・・・水晶のような人だ。光実は、漠然とそんなことを思った。

 

「いいですよ。僕がやります」

 

「えっ」

 

永夢が驚いた表情を浮かべた。それもそのはず、永夢はまだ、試作品の攻略に伴う"危険"の部分しか話していない。危険への対策についてと、協力に対する対価の話をまだしていなかったからだ。光実はそんな永夢の心中を見抜き、言った。

 

「ただ、僕の方から1つだけ、お願いしたいことがあるんですけど。ゲームクリアの報酬として」

 

「はい、僕たちに出来ることなら」

 

「もし僕が、仮面ライダークロニクル紫バージョンをクリアしたら・・・」

 

永夢と貴利矢が少し身構えるのがわかった。・・・ちょっと意地悪な間の取り方をしちゃったかな。光実はそこで笑顔を作ると、出来るだけ声のトーンを明るくして、こう続けた。

 

「この病院で、僕の兄の健康診断をしてくれませんか?あの人ずっと働きづめで、どこか悪くしてないか心配なんです」

 

永夢と貴利矢は予想外のその一言に目を丸くして、その1秒後には笑みをこぼした。

 

「喜んで」

 

 

 

光実が永夢を信用したのには、大きく分けて3つの理由がある。1つは、永夢がきちんと順序立てて、事態の背景とやるべきことを具体的に説明したこと。これは、いざ頼みごとをする側に立つと、案外見落としてしまいがちな部分なのだ。特に、仮面ライダーには説明が雑な人種が多い。これだけで、光実的にはかなりの好感度アップであった。

 

2つ目は、永夢がリスクから先に説明をしたこと。永夢の職務から考えて、これは断られてはならない依頼である。そういった交渉の場にあって、話しづらいことから・・・つまり、依頼を断る理由になり得る部分から先に話すというのは、なかなか出来ることではない。

 

3つ目は・・・光実の好感を買ったこれら2つの要因が、打算や計算によるものではなく、宝生永夢という人間の心から、自然と生まれたものであることが伝わったから。光実の疑り深い人となりを知って、言うことを聞かすために組み立てた会話ではない。自分の頼みを聞けば危険に身を投じることになる光実を慮りながらも、世界に迫る災厄を防ぎたい・・・そんな想いが、光実に伝わったからだ。

 

以上の理由から、光実は宝生永夢を、信頼に足る"大人"として判断した。今日光実がここに来たのは、紘汰からの頼みごとを断りたくなかったから。その上でもう一度龍玄として戦うことに決めたのは、ライダーとしての光実の判断だった。

 

「・・・ここまで話しておいてなんですけど、僕、言うほど紫じゃないです。それは大丈夫ですか?」

 

「・・・それは正直やってみないとどうかわからないんですよね。その確認も含めて、今日一日は準備に充てたいです。ご予定は大丈夫ですか?」

 

「はい、休み中で暇なので」

 

こうして、仮面ライダー龍玄・・・呉島光実と、仮面ライダークロニクル紫バージョンとの戦いは幕を開けたのであった。




第1話、お読み頂きありがとうございます。
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