「・・・それじゃ、光実さん。くれぐれもお気を付けて」
「はい」
聖都大学付属病院、CR。光実はドクターたちに囲まれ、右手に持ったブドウロックシードを解錠した。
『ブドウ』
天井に時空の裂け目"クラック"が開き、紫色の鎧が姿を現した。光実の上空に浮遊するそれは、彼が腰に巻いた戦極ドライバーのカッティングブレードを操作すると同時に、勢いよく落下する。
「変身」
『ブドウアームズ!龍・砲・ハッハッハ!』
龍玄のライドウェアが光実の全身を包み込み、頭からすっぽりと被ったブドウアームズが展開する。そうして仮面ライダー龍玄は変身を完了し、永夢は龍玄にそのガシャットを手渡した。
仮面ライダークロニクル紫バージョン。龍玄はそれを受け取ると、仮面の内側で深呼吸した。
「呉島さん、よろしくお願いします」
龍玄の前に歩み寄り、頭を下げたのは外科医の鏡飛彩。光実も彼に会釈した。
エグゼイドからの招集により、光実が初めてCRを訪れたのが昨日のことだ。依頼を受けることに決めてからは、1日を費やして紫バージョンを攻略するための準備を行った。そして日を改め、光実はいよいよ危険なライダークロニクル試作品の世界へ飛び込もうとしている。
『そうか。頑張れよ、光実』
昨夜、自宅にて事情を説明した際の兄の言葉が蘇る。兄は、貴虎は危険な戦いに赴こうとしている光実を止めはしなかった。それは、無関心や放任によるものではない。1人の男として戦いを選んだ弟の心を尊重したからだ。光実は、もう己の庇護のもとにある存在ではない。それが今の貴虎の考えであり、光実もまた、そのように考えていたからこそ独断でエグゼイドの依頼を受けたのだ。
『うん、頑張るよ、兄さん。兄さんは・・・その、大丈夫かい』
『ああ、やはり戦極ドライバーは素晴らしい発明だな』
昨晩の貴虎は光実が帰宅した頃には家にいたが、自室にて残務と戦っていた。・・・仮面ライダー斬月に変身した状態で。
『変身していると力が漲ってくるのを感じるよ。本来、戦極ドライバーはこのようにエネルギー供給手段として使うものだからな。使い方次第ではビジネスマンの強い味方になるというわけだ』
『そっか。くれぐれもベルトの誤操作には気を付けてね。先月は寝惚けてデスクにメロンスカッシュしちゃったんだから』
『大丈夫だ。今日はガムテープでブレードを固定した』
光実ははっと我に返る。兄の行く先も心配だが、今は目の前のことに集中しよう。・・・周囲を見渡す。
永夢と貴利矢、そして昨日は不在だった飛彩に、あと2名・・・協力者であるバグスターたちがいた。
「心が躍るな〜、紫バージョン、どのライダーが出てくんだろな」
「パラド。遊びじゃないんだ。お前はしっかり光実さんをアシストするんだぞ」
「わーかってるって、永夢。よろしくな、ミッチ」
「光実さん、でしょ!すみません」
「あ、いえ、ミッチでいいですよ。慣れてますし」
・・・パラド。宝生永夢に感染したウイルスから生まれたバグスターであり、仮面ライダーエグゼイドの力の根源でもある。自身も仮面ライダー"パラドクス"に変身し、かつては人類の敵として暗躍していた。今はCRの協力者であり、今回の紫バージョン攻略戦では光実のアシストを務めることとなった。パラドクス自体は赤と青の仮面ライダーなので、非戦闘キャラとしての同行である。これはバグスターならではの特権であった。
「じゃあ私もミッチって呼んじゃお!ミッチ、本当に気をつけて。こっちからも出来る限りのことはするから」
「ありがとうございます、ポッピーピポッパッ」
「・・・慣れないと、言い辛いですよね」
見事に噛んだ光実に、飛彩がフォローを入れる。もう1名の奇抜な色合いをした女性型のバグスターは、ポッピーピポパポ。ゲンムコーポレーションの人気ゲーム"ドレミファビート"に登場するキャラクターであり、彼女のことはゲームに疎い光実でも知っていた。かつてチーム鎧武のメンバーで市内のゲームセンターに遊びに行った際、ドレミファビートのアーケード版を舞がプレイしていたからだ。
(しかしあの時の舞さん、美しかったなあ)
流れる曲のリズムに合わせてボタンを押すという単純極まるゲームであったが、舞がその小さな身体を躍動させて懸命にプレイをする様は、まるで神事を執り行う巫女の如く神々しく光って見えた。・・・否。清々しく弾ける舞の汗によって、現実にそれは光輝いていたのだ。チーム鎧武の面々はそんな舞の姿ではなく画面上のスコアに気を取られており、光実は彼らの正気を疑った。こんなにも尊いものが目の前にあるのに画面ばっか見てるなんて勿体ない、ああでも逆にこれは今僕だけが舞さんを独り占めしてるってことで、つまり、ああ尊い、尊いよ舞さんああっ
「・・・大丈夫っすか?」
「はっ」
貴利矢に肩を叩かれ、光実は我に返った。いけない。また集中が途切れてしまっていたようだ。
「緊張してます?まあ、無理もないけど。今ポッピーが言ったように、自分らも最大限のアシストはするんで」
「はい、九条先生」
緊張していたわけではないのだが。光実は改めてもう一度深呼吸をし、昨日教わった通りに・・・CRの面々が見守る中、右手に構えた仮面ライダークロニクル紫バージョンを起動した。
『仮面ライダークロニクル紫バージョン』
タイトルコールが鳴り響く。これは昨日一度試した際に判明した通り・・・仮面ライダー龍玄は、紫色の仮面ライダーとして認められているようだった。
「じゃあ、行ってきます、皆さん」
「よろしくお願いします、光実さん」
CRの面々は、龍玄に一礼した。彼らの想いを背負った龍玄の身体は、紫バージョンのゲームエリアへと転送され、CRから姿を消した。
「・・・お気を付けて、光実さん」
「俺は?永夢」
「何してんの!早く行けよパラド」
「冷てーなあ」
パラドもまたいつも通りにやにやと笑顔を浮かべ、龍玄を追ってゲームエリアへと向かった。
「・・・思ったより普通だな」
紫バージョンのゲームエリアは、一見すると普通の街のように見えた。知らない街ではあったが、事前に想像していたような光景とは少し違う。ゲーム内とはいえ、もはや檀黎斗制作のそれは異世界の域に達していると聞いた。異世界といえば、もっとこう・・・禍々しい感じを想像していた。ヘルヘイムのせいに違いない。
「お待たせ!ミッチ」
「パラド」
「プレイヤーがいないと入れないからさ、俺も紫バージョンは初めてなんだ。心が躍るなあ」
パラドは紫バージョンを除く4バージョンの攻略を手伝ったらしく、この試作品群のセオリーをある程度把握していた。とはいえバージョン毎に仕様のばらつきも見られたようで、セオリーを過信するのは危険であったが・・・とりあえず光実は、パラドの意見を聞くこととした。
「で、何から始めればいいものなの?」
「これまでの感じだと、ボスキャラライダーは大体4〜5人いる。それぞれが支配してるエリアがあるから、そこに行ってバトルする感じだな。まあでも、大体最初は」
パラドがそこまで言うと、・・・街に、音楽が流れ始めた。大ボリュームのダンスミュージックである。
何事かと周囲を見渡す龍玄。1人、また1人と、人が集まってくる。彼らは音楽に合わせて踊っているようだった。
やがて彼らは龍玄とパラドを囲い、大きなサークルを描く。それだけでも異様な光景だったが、光実は彼らの顔が人間のそれではないことに気付く。・・・バグスターウイルス。かつてゲーム病のパンデミックが発生した際に、街を埋め尽くした感染者たちと同じ顔をしていた。
「早速始まったみたいだぜ、ミッチ。・・・大体最初はな、向こうから来るんだ」
音楽が止まった。その瞬間、龍玄たちを囲んだ群衆はぴったりとダンスを止める。しばしの沈黙が流れた。すると、龍玄たちの正面に位置していた数名が、道を開けるようにして横にずれた。その向こう側から、それが歩いてくるのが見える。
「・・・最初はあいつか」
「まあ確かに、彼は疑いの余地なく紫色だ」
歩いてきたのは、紫色の魔人。それはバグスターウイルスたちの輪に加わると立ち止まり、指をパチンと鳴らした。
再び轟音のダンスミュージックが鳴り響くと、魔人は誰よりもキレのある動きで踊った。ダンス経験者の光実の目から見ても、見事なブレイクダンスであった。・・・感心している場合ではない。
魔人は、それがまるでダンスの振り付けの一部であったように。どこからともなく取り出したベルトを腰に巻くと、そのバックル部分に備えられた4色のボタン・・・最も下段に構える、紫色のボタンを押した。
流れるミュージックとはまた異なる軽快なメロディが、彼のベルトから鳴り響く。2つの異なるメロディ、そしてリズムはその盛り上がりの頂点で交錯し、魔人はその一言を放った。
「変身」
『ガンフォーム』
魔人の名は、リュウタロス。流れる時間の"特異点"、野上良太郎に憑依したイマジンの1人であり、良太郎の持つ龍のイメージが具現化した存在である。彼が変身するのは、誰が見ても納得の"紫色"の仮面ライダー・・・仮面ライダー電王・ガンフォームである。
「お前、倒すけどいいよね」
そう言うと、ガンフォームは軽快なステップを踏み、腰部の武装"デンガッシャー"を銃の形に組み立てる。
「・・・ミッチ、あの質問は答えるだけ無駄だからな」
「わかってるよ。有名だし」
ガンフォームはデンガッシャーの銃口を龍玄に向けると、有名なその決め台詞(?)を放った。
「答えは聞いてない!」
お読み頂きありがとうございます!
平均的には1話につきこのくらいの文章量になると思います。
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