さっそくヤバいぞ、これ。
吹き飛ばされた龍玄はそのまま転がり、炎の向こう側に立つガンフォームはその姿を捉えた。龍玄は急いで態勢を立て直し、・・・一度休戦を意識してしまった頭を、再び戦闘へと切り替えて思考する。
「見っけ!」
龍玄の姿を認めたガンフォームは、デンガッシャーの引き金を引く。横転してそれを回避した龍玄は、カウンターの射撃を放つ。しかし、狙いが甘くその弾丸は空を切った。その間にも、ガンフォームは軽快なステップで距離を詰めてくる。・・・どうするか。
『ミッチ、見ろ!』
パラドがそう言うと、龍玄の視界に矢印が現れた。パラドの干渉によるものか?便利なものだ。
「あれは・・・」
『エナジーアイテムだ!あいつが壊した車の中にあったんだな』
パラドが龍玄の視界に出現させた矢印は、先刻のフルチャージでガンフォームが破壊した車の中に光る、灰色のアイコンのようなものを指し示していた。エナジーアイテム・・・ゲームエリア内に出現し、取得したプレイヤーに一時的な強化を施すアイテムだ。
『あのマークは、』
「"鋼鉄化"!」
『正解!』
光実は昨日の対策会で、ライダークロニクルに登場するエナジーアイテムの絵柄を全て暗記していた。素早くエナジーアイテムに照準を合わせると、ブドウ龍砲の弾丸でそれを打ち抜く。
『鋼鉄化!』
アイテムゲット成功を示す音声が鳴り響くと、龍玄のボディは、その堅牢な鎧の上から更に硬く、強くコーティングされる。
「あっ!ずるーい!」
鋼鉄化した龍玄を見たガンフォームが、子供のように地団駄を踏んで悔しがる。エナジーアイテムには時間制限がある。この好機をどう活かすか・・・ここまで防戦一方だ。こいつを倒すには、ここで攻勢に転じるしかない!
龍玄は鋼鉄化した身体で、ガンフォームにタックルを決めた。手応えを感じる。よろけたガンフォームに左手で掌底を叩き込み、次いで右手のブドウ龍砲で殴打。そのまま膝蹴りを一発・・・
「痛いなあっ!」
ガンフォームはそこで身体を身軽に翻し、龍玄の背後を取って羽交い締めにした。側から見ると銀色の像におんぶされているように見えるだろう。さすが中身は怪人、意外と腕力があって振りほどけない。身動きが取れなくなった龍玄は、鋼鉄化のタイムリミットが迫っているのを感じた。
『ミッチ!ガンフォームの弱点は、』
「だからそれは知ってるよ!お姉ちゃんだろ?!」
・・・鋼鉄化が切れてしまった。ヤバい!光実がそう思った瞬間、身体がいきなり軽くなった。ガンフォームによる拘束が解かれたことを光実が悟ったのは、一瞬遅れてのことだった。
「お姉ちゃん?」
予期せぬタイミングで拘束が解かれたことにより、龍玄は前方につんのめって転がった。焦って振り向いたが、意外にも追撃はなく・・・ガンフォームは、子供のような声で龍玄に問いかけた。
「お姉ちゃんがどうしたの?」
「え?」
「今、お姉ちゃんって言ったよね?」
・・・どう答えたものか。光実は直感していた。どう返すかが重要だ。こいつ、今は真剣に答えを訊いてるぞ。
一方、CR。
「ミッチとパラド、大丈夫かな」
ポッピーが心配そうな面持ちで言う。永夢は同様の表情を浮かべ、それに応じた。
「きっと大丈夫。・・・光実さんは、あの沢芽市の戦いを経験した仮面ライダーだ。対ライダー戦の経験は僕たち以上のベテランだよ」
「そうだけど、やっぱり心配だよ」
その時、室内の電話が鳴り響いた。電話機の近くにいた飛彩がそれを取る。
「はい、こちら電脳救命センター。・・・あ、はい、お世話になっております。はい。ええ、こちらこそ・・・ありがとうございます。はい。今、宝生に代わりますね。少々お待ちください」
飛彩は電話を保留にし、手招きで永夢を呼び寄せると、受話器を手渡した。
「電話だ」
「誰からですか?」
「呉島さんのご兄弟から。・・・呉島貴虎さんだ」
「えっ」
呉島貴虎・・・仮面ライダー斬月。永夢は一度咳払いをして声色を整えると、受話器を耳に当てて通話ボタンを押した。
「お電話代わりました。電脳救命センター、宝生です」
『お世話になっております。呉島光実の兄の貴虎です』
「こちらこそ、お世話になっております。すみません、この度は光実さんに急な依頼を・・・」
・・・永夢は貴虎と直接言葉を交わすのは初めてであったが、彼の変身する斬月の強さについてはよく知っていた。話に聞く沢芽市での戦いと、花家大我が苦渋の表情を浮かべて語った体験談がその情報源である。
『斬月な。ありゃめちゃくちゃだ。HP高すぎんだろ。その上第2形態まであるんだぜ』
というのも、・・・斬月は、大我のプレイした仮面ライダークロニクル緑バージョンに、ボスキャラライダーとして登場していたのだ。大我曰く、斬月は極めて高い戦闘技能を持つ上に異様な耐久力を持ち、その攻撃には一切の容赦がない。一度倒してもベルトを付け替えて弓を使う姿"斬月・真"への強化変身を行うという。それに対抗すべく、大我は自身の奥の手である仮面ライダークロノスへの強化変身を使わざるを得なかった。
『時間止めてもな、HP高いのはどうにもなんねーんだよ。マジでしんどかったわ』
・・・クロノスは"ポーズ"という時間停止能力を持つ仮面ライダークロニクル最強格のライダーであり、大我が変身するクロノスは時間制限付きの不完全版ではあるものの、その力を以ってしても相当な苦戦を強いられたという斬月の強さは、CRの面々の脳裏に深く刻み込まれていた。・・・上記の理由により、永夢の頭の中に"弟の光実を危険に晒したことによって激怒した仮面ライダー斬月"の姿が浮かび、緊張を与えたのも無理はない。大我が相手にしたのはあくまでも誇張された再現版であり貴虎本人ではないと、頭でわかってはいるのだが。
しかし、電話口の貴虎の声は、至って穏やかなものであった。
『光実は・・・もう行きましたか?』
「はい。あの、光実さんからお話は・・・」
『ええ、伺っております。此度のことはバグスターウイルスに関する大事であり、現状、弟にしか出来ないことであると』
「そうなんです。光実さんにお引き受け頂き、本当に感謝しています」
『いえ、こちらこそです。・・・ご存知だとは思いますが、私たち兄弟は、一度は人の道を踏み外した身です』
貴虎の言う通り、永夢もそれを知っていた。先の沢芽市の闘争の中で、貴虎は人類の6/7を間引くプロジェクトを取り仕切っていた。そして光実は、異世界の怪人"オーバーロード"に加担し、鎧武をはじめとする沢芽市のライダーたちに牙を剥いた。
『それにも関わらず、弟を信頼してこのような大事な仕事を任せて頂いたことを、ありがたく思います。弟は・・・自分にしか出来ないことを、ずっと探しているようでしたから』
貴虎が言うところの、彼らが"人の道を踏み外した"理由を永夢は知らない。しかし、実際に会って話をした今の光実と、電話越しにではあるが思慮深さの伝わる今の貴虎からは、一片の悪意も感じ取れなかった。ライダーとしての先輩・紘汰からの紹介だということもあるが・・・過去がどうあれ、この人なら大丈夫だと判断したからこそ、永夢は光実に紫バージョンの攻略を依頼することとしたのだ。
「こちらこそ、感謝してもしきれません。・・・すみません、光実さんを消滅の危険に晒すことになります。それはゲーム病のドクターとして、あってはならないことではありますが・・・僕は仮面ライダーとして、光実さんを信頼しています」
『いえ、いずれにせよライダーは命懸けですからね。お忙しいところすみませんでした。最後に、至らぬところの多い弟ではありますが・・・光実を、よろしくお願い致します』
「とんでもないです。こちらこそよろしくお願いします!あ、光実さんから聞いてますか?健康診断のお話」
『健康診断ですか?』
・・・貴虎の虚を衝かれたような口ぶりから、永夢は察した。いけない、きっとサプライズにしてるんだな。
「あ、いえ、なんでもありません」
『そうですか。それでは、失礼致します』
「はい。失礼致します」
終話。緊張の解けた永夢は一度深呼吸をした。ポッピーが永夢に駆け寄る。
「ミッチのお兄さん、なんて言ってた?」
「光実さんをよろしく、って。・・・なんか良いですね、兄弟って」
永夢は、光実の戦う姿を思い浮かべた。きっと大丈夫。龍玄は、沢芽市の戦いを生きた仮面ライダーであると同時に、仮面ライダー斬月の弟。その強さに、疑いの余地はない。
「ねえ、お姉ちゃんがどうしたの?」
光実は考えた。ガンフォームの弱点はお姉ちゃん・・・その意味を考えろ。光実はイメージを膨らませる。
お姉ちゃんに執着を抱くというリュウタロス。それだけ聞くと、当然行き着く帰結・・・リュウタロスには、姉がいるのではないか?イマジンは怪人のような見た目をしているが、その正体は未来人の精神体であると聞く。つまり、元は普通の人間なのだ。姉がいたとして不思議はない。
姉。真っ先に思い浮かぶのは、紘汰の姉である葛葉晶。優しくも厳しい人で、かつての紘汰はしばしば姉の小言についての愚痴をこぼしていた。紘汰は姉に叱責されることを恐れてもいた。
自身の経験にも当て嵌める。兄、貴虎。今でこそ兄弟間のわだかまりは解消されたが、主に生活態度について"呉島の男として"の振る舞いを自身に求めた兄を光実は時として疎ましく思い、同時に恐れたものだった。
・・・これで合ってるかはわからない。ただ、もしリュウタロスにこの手の攻撃が効くとしたら。永夢たちの攻略本と、自身の閃きに賭けてみよう。龍玄は立ち上がると、ガンフォームに向けてこう言った。
「・・・お姉ちゃんがね、喧嘩しちゃダメだって」
「お姉ちゃんが?そう言ったの?」
光実の想定はこうだ。リュウタロスには比較的厳しめの姉がいて、彼はその振る舞いについてしばしば叱責を受けていた。リュウタロスはそれを恐れており、その上でちょっとシスコン気味。だから、電王ガンフォームの弱点は"お姉ちゃん"なのだ。目の前にいる"誇張された"リュウタロスは明らかに危険人物だったが、・・・子供っぽさが目立つ。姉を話に出すことにより、目の前の戦闘からリュウタロスの思考を逸らすのだ。
結論から言うと、その想定は実際のところとは違っていた。リュウタロスの言うところのお姉ちゃんとは彼が憑依した野上良太郎の姉・野上愛理のことであり、愛理は光実の考える厳しめの姉とは真逆の天然系の人物である。リュウタロスは愛理に一方的な好意を抱いており、お姉ちゃんと呼んで慕っていた。
このように光実の想定そのものは間違っていたものの、この場に於いて彼が可能な限り最大公約数的な言い回しになるよう選んだ言葉は、リュウタロスにとって、愛理が口にしても不自然ではない内容ではあったのだ。
「そうそう。喧嘩したらお姉ちゃん怒るって言ってたよ」
「ほんとに?」
光実は、子供に語り掛けるようなトーンで言葉を続けながら、そろりそろりとガンフォームから距離を取る。・・・リュウタロスの不安そうな様子を見るに、どうやら効いているぞ。
「ほんとほんと。だから喧嘩はやめよう、ね、リュウタロス」
「・・・うん、」
光実は、ガンフォームに気取られぬよう慎重に、左手を戦極ドライバーのカッティングブレードに添える。・・・こういう手は、もうあんまり使いたくないんだけどなあ。背に腹は代えられないか。
「わかった。お姉ちゃんがダメって言うなら、僕、喧嘩はやめ」
『ブドウスパーキング!』
「喰らえぇーっ!」
龍玄はブレードを素早く3回倒し、右手のブドウ龍砲にエネルギーをチャージした。動きを止めて武器を下ろしていたガンフォームが危険を悟る頃には・・・巨大な龍のようなオーラを纏ったエネルギー弾が、ガンフォームの装甲を撃ち抜いていた。
『・・・ミッチ、それはちょっとずるくないか?』
「・・・勝てばいいんだ。勝てば」
龍玄ブドウアームズの必殺技。ブドウスパーキング"ドラゴンショット"のクリティカルヒットを受けたガンフォームの身体からはエネルギーが抜け、変身が解除された。パラドはバグヴァイザーのディスプレイの中で苦笑いを浮かべている。
「う、嘘つき・・・」
変身を解かれて仰向けに倒れたリュウタロスは、力なく龍玄を指差してそう言うと、気を失ったようだった。光実は返す言葉が見当たらなかったので、心の中でだけ一度、ごめんねと言った。
ともあれ、仮面ライダークロニクル紫バージョン、最初の戦いは仮面ライダー龍玄が制した。沢芽市でのライダーバトルに於いて、光実が最も得意としたのは"騙し討ち"。皮肉なことに、過去の行いを反省した彼が封印しようとしている、最大の武器が活かされた形となった。
お読み頂きありがとうございます。
今週のビルド、ローグがかっこよかったですねえ。
彼は最新の紫ライダー。みんなで応援しましょう(笑)