紫色の仮面ライダー大体ヤバいやつ説   作:瀬久乃進

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〜前回までのあらすじ〜

ウッホッホウッホ!
仮面ライダー龍玄・呉島光実はCRからの依頼により仮面ライダークロニクルの試作品・紫バージョンの攻略に乗り出す。
ゲーム開始と同時に現れた1人目のボス・・・仮面ライダー電王・ガンフォームに苦戦した龍玄だったが、機転により激闘を制したのであった!


第5話:神の模造品は何を思うのか

『・・・まあ、とにかく第1ステージクリアだな、ミッチ!』

 

パラドはそう言うとバグヴァイザーの中から姿を現し、龍玄の肩を叩いた。それを受けた龍玄も肩を撫で下ろす。気絶したリュウタロスの身体が光の粒子に分解されてゆく様を見て、龍玄はパラドに問い掛けた。

 

「パラド、倒したライダーはどうなる?」

 

「ん?ああ、見てな」

 

粒子となったリュウタロスは・・・電王ガンフォームのイラストの描かれたメダル、つまりエナジーアイテムへと姿を変えて光実の前に浮遊した。光実は納得する。

 

「なるほど。・・・これをボス全員分集めたらゲームクリア、ってことか」

 

「そういうこと。ほら、早く取っちゃえよ」

 

龍玄がガンフォームのエナジーアイテムに手を触れさせると、それは紫色の光を放ちながら龍玄のバグヴァイザーに吸い込まれた。

 

『仮面ライダー電王・ガンフォーム』

 

アイテムゲットを知らせる音声が鳴り響いた。とりあえず戦いは終わったので、光実は変身を解除したかったが、ある疑問が頭に浮かぶ。

 

「パラド、プレイ中に変身って解いても大丈夫?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。それより早くアイテム確認しようぜ!」

 

「うん、ちょっと待ってね。・・・ふう」

 

龍玄は戦極ドライバーからブドウロックシードを取り外し、光実の姿に戻る。それにしても、初戦から随分とひやひやさせられた。着込んでいた鎧の下の衣服が汗で湿っているのがわかり、光実は着替えを持参しなかったことを後悔した。

 

「パラド、これはどんなアイテムなの?ていうか、今発動するわけじゃないの?」

 

光実は右腕を持ち上げ、バグヴァイザーの画面部分をパラドに見せる。パラドがそれを操作し、画面上に先ほど取得したガンフォームのエナジーアイテムを表示させた。パラドは興味津々でバグヴァイザーを覗き込んでふむふむ言っていたが、光実には見方がよくわからない。

 

「ライダーのエナジーアイテムは、取得したら好きなタイミングで効果を発動することが出来るんだ。で、こいつは・・・召喚の効果を持ってる。一定時間、電王ガンフォームを呼び出して仲間に出来るってことだな。消費アイテムとしての使用可能回数は2回までみたいだ」

 

「2回使ったら消えるってこと?」

 

「いや、消えはしない。ただ召喚の機能がなくなる」

 

あの勝ち方だ。呼び出したとて味方してくれるものだろうか?光実は少し不安を覚えながらも、パラドに礼を言って右腕を下ろした。

 

「経験上、アイテムはガンガン使った方がいいぜ。エリクサー症候群って知ってるか?ミッチ」

 

「何それ?」

 

「貴重なアイテムも、出し惜しみしてるだけじゃ宝の持ち腐れってこと。なんとなく、ミッチはそんな感じがするからさ」

 

・・・あまりピンと来なかったが、素直に聞いておこう。天才ゲーマーの言うことだ。

 

「わかったよ。肝に銘じておく」

 

「おう。じゃあ、俺はちょっと永夢に報告を・・・」

 

そこまで言ったパラドの表情が、突如として固まった。光実はパラドの異変に気が付くと、彼の視線の先・・・つまり、自身の背後を振り返って見る。

 

そこには、光実もよく知るその仮面ライダーが立っていた。いや、今のこの国に於いて・・・彼を知らない者などいない。彼はまるで最初からそこにいたかのように足音もなく現れ、光実たちを見つめていた。

 

少なくとも今の光実を含むCR関係者の中で、その姿を見て身構えない者はいない。その男の過去の所業も理由の一つだが、・・・人間の常識に当て嵌めて考えれば、このように存在していること自体がおかしいからだ。必然、彼は人間の常識を超えていることになる。

 

彼は、自身を"神"と標榜した。ある意味に於いてそれは間違っていない。神とは、もたらす者。彼はこの世界に様々なものをもたらした。それは彼の考案した様々なゲームやそのキャラクターたちであったり、世界を救ったCRの仮面ライダーの技術であったり、・・・そもそも世界を脅威に陥れた災厄であったり。そして、今光実の立つこの世界もまた。彼の手により生み出されたものであった。

 

 

 

「・・・いるじゃないか。プレイヤーが」

 

 

 

仮面越しに笑顔が伝わるような声色で、彼はそう言った。

 

「ゲンム・・・!」

 

「檀黎斗」

 

・・・パラドと光実はその名を呼ぶ。仮面ライダーゲンム、檀黎斗。バグスターウイルスに関する全ての事件の元凶であり、仮面ライダーレーザーとの死闘の末、消滅したとされる男。彼もまた、・・・その身体に紫色を刻む、仮面ライダーである。

 

 

 

「一向にガシャットが起動されないものだから、この試作品はお蔵入りになったものだとばかり思っていたが。・・・仮面ライダー龍玄、呉島光実くん。まずはプレイしてくれてありがとう、そして」

 

光実たちの緊張をよそに、ゲンムは明るい調子で手を叩いた。拍手をしている。

 

「第1ステージ、クリアおめでとう。少々搦め手ではあったが、変身者の弱点を衝いた素晴らしいプレイだったよ」

 

「ゲンム、今度は何を企んでる?」

 

ゲンムの言葉の一切を無視して、パラドが食って掛かる。警戒を解いてはならない相手だ。相手は変身もしている。光実はパラドに目配せをし、先ほどドライバーから外したばかりのブドウロックシードを手に取った。

 

「勘違いしないでくれよ、パラド。オリジナルの私が何をしたかは知らないが、今ここにいる私はただのゲームのキャラクターさ」

 

「オリジナルが何かやらかすのはわかってるんだな」

 

「まあね。私自身のことでもある。大体はわかるさ。光実くんも、そんなに警戒しなくていいよ」

 

光実くん。その呼び方といい、芝居掛かった喋り口調といい、光実は檀黎斗に戦極凌馬を重ねて見ていた。それは仮面ライダーのベルト開発者である狂人、という事前のイメージも手伝ってのことだったかもはしれないが・・・つまり、好感は持てない。

 

「さっきも言ったが、私はこのパープルクロニクルのキャラクターだ。厳密に言えば、隠しキャラ。いわゆる裏ボスさ。つまり、私の存在はゲームクリアには影響しない。戦うつもりはないから安心してくれ」

 

「・・・どうだかな」

 

パラドが吐き捨てるように言う。話によると、檀黎斗はCRを何度も裏切った大嘘つきである。パラドの態度も無理からぬところだ。

 

「随分信用がないな。まあ、構わない」

 

ゲンムはそこで一呼吸置くと、少し声のトーンを落として続けた。

 

「クリエイターにとって、最も悲しいことは何だと思う?・・・作品が誰の目にも触れないまま埋もれてゆくことさ。だから光実くん、君がこのゲームをプレイしてくれて本当に嬉しいよ」

 

「それはどうも。ところで、このガシャットは自壊を進めているようです。何か知ってることはありませんか」

 

光実は、あくまでも冷静に目の前の男から情報を得ようとする。あっさりと本当のところを口にするとも思えなかったが、目の前のゲンムが檀黎斗の再現キャラクターであるとしたら、このゲームのことはそれこそ神のように把握しているはずだ。問いを受けたゲンムは、くるりとターンして光実たちに背を向ける。

 

「ネタバレはしない主義でね」

 

・・・そこで半身を逸らしてゆらりと振り向くと、ゲンムは低い声でこう続けた。

 

「ゲームを進めたまえ、仮面ライダー龍玄。答えはその先にある」

 

ゲンムはそう言うが早いが、どこからともなく現れたサイケデリックな色彩の自転車に跨り、ペダルを高速で漕いで駐車場から出て行った。やけに速い。ゲンムの発する高笑いは瞬く間に遠ざかってゆく。

 

「あっ待て!追うぞミッチ。あいつをボコって情報を吐かせよう。見た感じレベル0だから多分大したことないぞ」

 

「それには賛成だけど、ちょっと待ってパラド。・・・使ってみよう」

 

光実は、腰に下げたロックシードのうちの1つ・・・ロックビークル"ローズアタッカー"を手に取って解錠した。使えるかどうかはやってみるまでわからなかったが、その赤いロックシードは巨大なバイクへと変形し、光実の前に現れた。よし、これは使えるみたいだ。

 

「なんだそれ!心が躍るな!」

 

真紅のバイク・ローズアタッカーを見たパラドはその変形ギミックに男心をくすぐられたようで、何やら嬉しそうだった。

 

「行くよ、パラド!」

 

「ああ!」

 

光実は右腕を振ってパラドをバグヴァイザーの中に吸い込むと、急いでローズアタッカーに跨り、・・・遠ざかる高笑いを追って走り出した。

 

 

 

自転車(パラド曰く"スポーツゲーマ"と呼ぶらしい)に乗ったゲンムは妙に速く、ローズアタッカーでもなかなか追い付くことが出来ない。ただ、速度そのものは流石にバイクであるローズアタッカーの方がありそうだ。直線の道路が長く続けば追い付けそうなものだが・・・ここでも土地勘がないことが不利に働いている。歩道と車道の区別なく縦横無尽に街を駆け抜けてゆくゲンムを追い掛けるのは、かなり骨が折れる。

 

『永夢、聴こえるか。ミッチが第1ステージをクリアした。相手は電王のガンフォームだ。・・・で、そのあと早速ゲンムのお出ましだ。逃げたから今追い掛けてる。また連絡する』

 

パラドはバグヴァイザーの中で意識を集中し、宿主である永夢の心に直接語り掛けていた。彼らの精神は深い場所で繋がっており、身体の距離が遠くにある際にはこのテレパシーのような方法で連絡を取る。

 

もうかなりの距離を走っているが、ゲンムは一向にバテる様子はない。高笑いも健在である。どんな体力してるんだ。しかし・・・光実は、ゲンムが高速道路に入ってゆくのを見て勝算を得た。直線であれば追い付ける。

 

光実を乗せたローズアタッカーもまた高速道路に突入する。アクセルを回し、より速度を上げる。不便なことにローズアタッカーは速度を上げすぎるとヘルヘイムへ突入してしまうので、そのギリギリまで攻める。ここからヘルヘイムに繋がるとは思えなかったが、念のためだ。このスピードで充分追い付ける。

 

心なしかゲンムのスピードも落ちてきたようであり、高笑いも少しずつ威勢を失っていた。次第にゲンムとの距離は縮まって、あと10秒もすれば追い付ける。光実がそう確信した瞬間・・・

 

それは訪れた。

 

視界がどんよりとした紫色のオーラで包まれたかと思うと、光実と、彼を乗せたローズアタッカーの時間は止まった。

 

(これは・・・!)

 

自身の肉体が紫色のオーラに押し潰されるような感覚を覚えながら、光実はこの能力を使う可能性のある仮面ライダーについて思考を巡らせていた。

 

・・・これは、重加速だ。

 

後方より迫る、バイクの走行音。今の光実には振り向くことさえ叶わなかったが、・・・そうする必要もなく、その仮面ライダーは停止した光実を追い抜いて、彼の眼前に躍り出た。

 

「止まれ」

 

髑髏の装飾の施された紫色のバイクを駆るは、それと同じく・・・このゲームの世界にあって当然のことではあったが、紫色の仮面ライダー。

 

『ミッチ、ハメられた。俺たちはゲンムに誘導されてたんだ。ここは・・・あいつのステージだったみたいだ』

 

バグヴァイザーの中から、パラドが語り掛ける。口を動かすこともままならない光実は、その仮面ライダーの名を・・・心の中で呟いた。

 

・・・仮面ライダーチェイサー。

 

「バイクに乗る時はヘルメットを着けろ。それが人間のルールではないのか?」

 

それは、誇り高き追跡者の名である。




お読み頂きありがとうございます。
ライダーチェイサーも勿論ですが、魔進チェイサーも大好きなキャラクターです。
ああいう擬似ライダー的な存在っていいですよね!
次回もお楽しみに!

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