高校生というものは何かと人の恋に敏感、というか貪欲なもので楽と桐崎さんが付き合っているということはあっという間にクラス全員が知ることになった。
まさか俺と小野寺以外に二人がデートしている所を目撃した奴がいたとは…全く世界とは狭いものである。
しかしクラス全体としては祝福ムードだった。まあ楽はクラスの一部の男子から嫉妬(もはや殺気のレベルだが)の目で見られていたが。
そして今日は家庭科の調理実習がある日だった。作る料理はケーキ、それもクラスメイトで交換可能ということで一部の男子がこぞって小野寺に集まり始めた。まあ別にそれはいいのだが、小野寺が困っていて尚しつこく言いよるのは見過ごせん。
「お前ら、いい加減にしろよ…小野寺が困ってんだろーが。ほら、ごめんなさいしなさい」
「「俺らは小学生か!」」
「…男なんて幾つなっても頭ん中は小学生みたいなもんだろ?」
「「いやそうは言い切れないだろ…」」
そんな感じで場の空気は有耶無耶になり男子達はそれぞれ散らばっていった。
「あ、ありがとう立川君」
「小野寺もああいうのはハッキリと言った方がいいぞ?『この薄汚ねぇハイエナ共が‼︎ドタマかち割るぞ‼︎‼︎』みたいな感じで」
「そ、そんな酷いことクラスのみんなには言えないよ!」
そうか?連中なら寧ろ喜びそうだけどなぁ…
「ところで小野寺は誰にあげるんだ?もう決まってるのか?」
「うん、お母さんにあげようと思って…いつもお世話になってるから」
これが天使か…どこまでも出来た子だよ本当に…
「そうか…お母さんも喜ぶだろうな」
素直に思った事を口にする。
しかしこんな娘が出来たら親は尊死しそうだが大丈夫だろうか…
「立川君はどうするの?…そういえば立川君って料理は得意?」
小野寺は首をコテンと傾けて聞いてきた。
「うん?…そうだな、両親が共働きだから自炊することもあるからね。得意だよ、ただ洋菓子を作るのは初めてだなぁ…和菓子ならあるんだが」
自慢じゃないが和菓子だけなら楽にだって負けてないと自負するね。
「そうなんだ…でもどうして和菓子はあるの?」
「どうしてってそりゃあ……」
小野寺の家が和菓子屋やってるから俺も多少出来た方が良いと思って…なんて言えねぇよなぁ、絶対引かれるし…
「……まあ好きだからかな」
「ふふ、そうなんだ。私と一緒だね…私も和菓子を作るの好きなんだ」
「……そうだな、案外気が合うんだな俺達」
最も俺は小野寺が好きって意味で言ったんだがな…別にいいけど。
その後も時間は流れ俺は無事ケーキを完成させた。可もなく不可もないケーキだったが満足感はあったので気にしなかった。因みにツカサは隣でクレープを作っていた。…いやケーキ作れよ。
クラスで一番人気を博したのは桐崎さんのケーキだ。見た目こそヤバそうな何かだったが食べてビックリとっても美味しいケーキだった。クラスのみんなに囲まれる桐崎さんはそれはもう嬉しそうだった。
そして授業は終了、教室を出ようとすると足下に何かがぶつかった。
「痛っ……くは無いな、何だ?」
足下に目をやると青い顔をした楽が転がっていた。
「楽ゥ!?どうしたよオイ!死んじまってねーよな!?」
呼びかけても反応なし、ただの屍のようだ…
なんて事だ、いくらヤーさんの息子だからって学校で命狙われるなんて怖すぎだろ!?…と思っていたら
「あ、何か痙攣してやがる…息もしてるし…生きてはいるのか?」
ほっ…と胸を撫で下ろす。原因は不明だがとりあえず無事なら安心だ、いや無事じゃ無い気もするけど…
「一条君大丈夫?…あ、立川君」
振り向くと小野寺が水の入ったコップを持って立っていた。
「小野寺か、一体どうしたんだ楽は?水は多分飲めないぞ、完全に意識を失ってるよ」
「やっぱりそうだよね…実はケーキの材料が余っちゃって、それで小さな別のケーキを作ったんだけど…それを一条君に食べてもらったら倒れちゃって…」
「何じゃそりゃ」
美味すぎて倒れたとかか?美味しい料理を食べたら全裸になる漫画は読んだけどあるけどその類なの?
「どんなケーキを食べたんだ?」
「これなんだけど」
小野寺が見せたのはカップサイズのケーキ。見た目は店に並んでいそうな位凄く綺麗で美味しそうだ。
「え、普通に美味しそうだけど…俺も食べていい?」
「や、止めた方がいいと思うよ?」
大丈夫だと答えてケーキを一口方張る。
「ッ!?」
え、俺今爆薬食べた?不味いとかいう次元を超えた別の何かが口の中で暴れまわる。これに楽はやられたのか!確かに意識が飛びそうだ!何これ!?あの見た目にこの破壊力って兵器と言えるのではないか?
超刺激的な味がするケーキにより意識を手放しそうになるが寸での所で踏み止まる。
「だ、大丈夫!?顔色悪いよ?」
小野寺が心配そうな顔でこちらを見る。止めてくれ小野寺、そんな顔をするのは。君のそんな顔は見たくない。
「ぜ、全然大丈夫…心配すんな!」
耐えろ立川優人。これは『試練』だ…小野寺への愛を示す『試練』なのだ…この『試練』に打ち勝って、俺は小野寺に相応しい男になる!そう自分を鼓舞して気合いでケーキを飲み込んだ。
「あ〜、美味しかった…」
「もう無理しちゃって…ふふ、でもありがとう立川君。」
小野寺は呆れたように笑った。うん、やっぱり小野寺は笑顔の方がよく似合う。
「昔っからね、どうしてもこうなっちゃうんだ…飾り付けは上手くいくのに肝心の料理になると絶望的に下手になっちゃうの」
小野寺にそんな弱点があるとは知らなかった…
「お母さんの為にって思って作ったけど…やっぱりあげるのは止めた方がいいかなぁ….」
「………俺が初めて料理作ったのは中学の頃なんだけどな、」
「え?」
「母の日に母さんに何かしてやろうと思ってその日の夕ご飯を俺が作ることにしたんだ」
小野寺は静かに俺の話を聞いている。
「けどまあ、当然今までしたこと無いのにいきなり出来る訳も無くてさ。完成したときはとても料理と呼べるシロモノじゃあ無かったよ。」
今でも覚えてる、桐崎さんのケーキも見た目に難ありだったが俺の初手料理の見た目は更に上を行っていた。そりゃあもうぶっちぎりで。
「でも、それでも母さんは食べてくてな。美味しいよって言ってくれたんだ」
「優しいお母さんだね…」
「そうだな…けど俺はそんな訳ないじゃん!って食ってかかってね、情けない話だよほんと…自分が悪い癖にな」
すると母が言ったのだ、料理は味の良し悪しより相手への想いが大切だと。最愛の息子が自分の事を考えて作ってくれた料理が不味いわけがないと。
「いやー、ほんと親には頭が上がらないもんだよなー。小野寺の母さんだってきっとそう思ってるさ。愛は最高の隠し味だって言うだろ?大丈夫さ」
小野寺は黙って頷いた。
「そうだね、私ちゃんとお母さんに渡してくる。日頃の感謝を伝えなきゃね」
「そうこなくっちゃな!」
こうして今日も一日が終了していった。後から聞いたが小野寺の母への感謝ケーキは本当に美味しかったらしく、小野寺の母さんを驚かせたとか。
小野寺さんの料理の味の感想について爆薬だのなんだのは主人公の独断と偏見、そして作者の妄想です