立香達に迫る謎の動く骸骨の集団を、鎧を纏った男は一掃。
彼曰く、名はなく、ここがどこだかもわからず、何が起きているのかもわからない。
自分とさして状況が変わらぬと把握した立香は、ひとまず辺りを探索することを提案。
了承した鎧の男と瓦礫が溢れる街を駆ける事少し、立香と鎧男を襲った骸骨の集団が、別の人物達を襲撃しているのを発見。
先程とは比べるべくもない大群を、鎧男は機転を利かせて退け、無事襲われていた二人を救出。
その二人とは、立香がこの事態に見舞われる前に出会っていた二人だった。
立香にとっての新天地たる機関『カルデア』の所長オルガマリーと、新人の立香の後輩を名乗るマシュ。
以前見た姿と変わらぬオルガマリーと、以前とは装いを大きく変えたマシュの姿を見、大きな怪我はなさそうだと立香は安堵する。
一方立香達に助けられた形になった二人は、立香の生存を喜ぶも、傍らの鎧姿の男を警戒する。
煤に塗れた様に黒く、熱で歪んだ様にいびつな形の鎧を着た男は、この燃え盛る都市に何らかの関係があるのだろうと——
「助けて貰った事には感謝します。ですが、貴方の事を知るまで信用する訳にはいきません」
貴方は何者?とカルデアの最高責任者であるオルガマリー・アニムスフィアは鎧の男に問いかける。
何者。それは立香も気になりつつも、つい先程知る事を諦めた事柄だった。
彼が言うには、名前はなく、場所に心あたりもなく、この街で何が起こったのかも知らず、襲って来た骸骨達に見覚えはなく。
つまるところ、この燃え盛るおそらくは日本の一都市であろう場所にいきなり放り出された形の藤丸立香が見を置く現状と大差ないのだと察せた。
そんな彼への詰問だ。確かに怪しいが自分だけではなくオルガマリーとマシュ、二人までもを助けてくれた彼をオルガマリーに受け入れられるようにするには。
さてどう説明したものかと頭を悩ませる立香を他所に、鎧姿の男は意外な言葉を発した。
「何者か、とは。恐らくは貴公らと同じ身の上で、貴公らと同じ使命を持つものであると思っていたのだが」
「——使命?」
自分が軽く聞いた時には聞かなかったその単語。
そもそもが立香の所属するカルデアの目的は、何だったか。
鎧姿の言葉に、オルガマリーは目を見開く。
使命。それを知るカルデア以外の存在とは、即ち————
「サーヴァント——!」
「と、なるのであろうな」
サーヴァント。
かつて人の世を生きた英雄達。
その彼らが死後、信仰によって昇華された存在、英霊。
英霊を使い魔の枠に落とし込み、人間に使役可能なものとされたされた存在。
時に彼らは、世界が破滅の危機を迎えた時に、顕現しうるものであるとも。
オルガマリーはその身を固くすると同時に、なるほど確かにと納得する。
先の戦闘で見せた骸骨達を一撃で戦闘不能にするその力と、辺りの建築物に見合わない時代錯誤とも言える鎧姿も、彼が英霊であるなら理解できる。
問題は、彼が本当に自分達と目的を同じくする存在なのか、という点だ。
カルデアが直面した未曾有の事態は、人類史上例がない。
何が起こっているのかわからないのだ。故にカルデアはそれを調査するためにあるし、ここに来た。
つまるところ、何が起こるかわからないのだ。人類の守護者たる英霊達が、もしや敵対するような事態であるかもしれない。
もっとも、つい先程助けられる形になり、カルデアのマスターである藤丸立香に同行していた事から察するに、敵対する存在ではないだろうとも思うが。
しかし、相手は英霊である。人間には絶対に太刀打ちできないであろう存在である。
警戒するに越したことはないと考えていると。
「ともかく」と鎧姿の男は溜め息をつくような仕草で言った。
「腰を落ち着けて話をしよう。ついてくるといい」
「——————これは」
「『篝火』だ」
「『篝火』…………」
言うなり背を向けすたすたと歩き出した鎧男に、慌ててついて行く事数分。
警戒しながらも辿り着いた目的地らしき所には、『何か』があった。
煌煌と静かに燃え盛る小さな炎。
その元に燃える様なものはなく、変わりに捩じれた棒のような物体が一本、火の中心に突き立っている。
それは燃え盛る街の中にあって、不思議と安らぎを覚えるような、何故だか違和感を感じるような何かだった。
「辺りの空気が違う……結界?…………いえ、それよりもむしろ次元を隔てても其処に有るような、楔のような…………」
「所長?」
『篝火』を挟んで向こう側に、こちらに向き直るように座った鎧男の姿と、それらを見て某かを呟きながら考え込んでしまったオルガマリー。
声をかけても反応らしい反応はない。
どうしたものかと頭を悩ませる立香に「よくある事ですよ、先輩」とマシュが告げる。
1度気になる事ができれば、じっと集中して思考する姿がよく見られるのだとか。
そんなものか、と体調を崩したのではとも心配していた立香は、杞憂と知り鎧の男にならい篝火の前に座り込む。
続いてマシュも一応オルガマリーに声をかけつつ、立香の隣に腰を下ろす。
不思議な炎だった。
心が安らぐような、何かを訴えかけてくるような。
周りの空気もこころなしか落ち着いている気がする。
街を焼く炎からも、動き回り人を襲う骸骨からも、そんな異常からここだけが隔離されているかのように静かだ。
そうだ、と立香は思い出す。
「そういえば、サーヴァント……だったんだね、貴方は」
聞いてなかったよ、と立香は少し拗ねたように言う。
聞かれなかったからな、と鎧男は全く悪びれもせず返す。
ぶっきらぼうにも思えるその返答に、苦笑いを浮かべながらも「そういう人間なんだろう」と立香とマシュは察した。
ここまで歩いてくる時にも一切喋らず、戦闘の時にも特に言葉を発する事もなかった。
返事を聞かず歩き出したり、とにかく愛想がない。
しかし、自分達を助けてくれたのも事実であり、そう悪い人間には思えないと。
「名前がないっていうのは嘘?」
「いや。聞かれた事には全て偽りなく答えた」
必要があれば喋るし、必要なければ黙る。
聞かれた事には答えるけど、聞かれなかった事は口にしない。
そういう人間なのだろうとなんとなく察した立香は、まあいいかと少し落ち込んでいた心を持ち直した。
「マシュ達は、無事……だったんだね」
「はい、おかげさまで。この通り傷一つありません」
力こぶを作るような仕草をとるマシュに、ここに来る寸前の事を思い出していた立香は安堵した。
「で、これからどうしようか」
仲間、というか。
顔見知りと合流できたはいいものの、マシュとオルガマリーの二人は立香の元居た所での知り合い、つまりはこの異常と言える燃え盛る都市の事情を把握していると期待はできない。
また辺りを探索しようか、それとも——
「——————カルデアとの通信を試みるわよ」
何時の間にやら考え事をやめ、立香達の隣に淑やかに座り込みながら、オルガマリーはそう言った。
この場なら可能でしょう、と。
————オルガマリーの言葉通り、カルデアとの通信は成功した。
『篝火』のすぐ傍にマシュの持つ大きな盾を設置すると、間もなくノイズが混じったような声が聞こえてきた。
カルデアが発信する通信だった。
通信により判明したのは、ここがカルデアの任務の目的地である『特異点』であろうこと。
所長をはじめ責任者のことごとくがカルデアからいなくなり、順番的に残った人物の中で最高責任者となったのが医療部門のトップであるロマニ・アーキマンであること。
マシュがデミ・サーヴァントという存在になっていること。
通信が可能になったのは『篝火』周辺が霊脈の収束地ともいえる場であること。一度通信を繋げてしまえばよほどのことがない限りは好きな時に通信が可能になること。
その特異点を特異点たらしめる原因を取り除けば、立香達はカルデアに帰還できる様になる、ということ。
「————探索を再開しましょう」
カルデアとの連絡手段は確保できたものの、あちらからは碌な観測も干渉も出来そうにないらしい。
何が特異点と呼ばれる事態になった原因か探ることはできない、と。
大きな魔力反応や空間の異常などは認識できるとの事なので、オルガマリーが探索を決定するのも当然だった。
自分達がやるしかないのだ。
この事態に対処し、解決し、カルデアへ帰還を果たすには、今ここにいる人員で行動するしか。
一方で朗報もあった。
カルデアを通じて立香とマシュが契約を結べば、魔力を安定的に供給できる様になり、戦力を増す事が可能な事。
鎧の男とも契約できれば、同じく戦力の増加に繋がる事。
契約はこの霊脈付近でなら今すぐ問題なくできるとの事なので、早速と立香はマシュと契約を結ぶ事に。
それは無事に、難なく成功した。しかし——
『————立香くんと彼の契約ができない?』
カルデアのスタッフ曰く、何故か立香とのパスが通らないらしい。
カルデアと立香を繋ぐ回路は問題なく通っている。しかし、鎧男と立香を繋げる事が出来ない、と。
霊基情報の不足か?とロマニは推測する。
鎧の男が霊的な存在である事は確かであり、その情報をカルデア内に登録する事は可能だった。
だが、その情報が不足しすぎていたのかもしれない。
何せ名前すらない。一番重要とも言えるそれが無いともなると、しかし便宜上でも名前を付ければあるいは可能であるかも。
「名、か」
ロマニに名前を付ける事を提案された男は、悩む素振りを見せた。
名など、と。
今まで必要だとは思わず、実際必要だった事はなかった。
が、名がない事で不都合が生じるのならば仕方ないか、と。
「——————化身」
「…………え?」
「————いや、これは名ではない、か。ならば、そうさな————」
アッシュ、そう呼ぶといい。
黒い鎧の男は、灰を意味する言葉を告げた。
————鎧の男を『アッシュ』と呼称すると決定し、カルデア内の霊基情報にその名を登録するも、結局彼と立香の間に契約を結ぶ事は出来なかった。
各々が頭を捻る中、当人のアッシュは「そちらの御仁ならどうだろうか」とオルガマリーを指した。
カルデアとの仲介にすぎない契約であるのならば確かに、と試してみる価値はあると思案するオルガマリーに通信の向こうで息をのんだ気配を感じたような気がして、立香は首を傾げた。
果たして、アッシュとオルガマリーの契約は成った。
二人の間のパスは通じ、そこへカルデアからのパスも開通した。
立香とは出来なかった原因は立香にあるのか、それともアッシュの側に何かあるのか。
一同は疑問に思うも、ともかく成立はしたのだからとひとまず切り上げる。
二人のマスターに、二騎のサーヴァント。
二組の主従が出来上がり、先程よりは幾分かマシな戦力は出来上がった。
オルガマリーは、立香にマシュのステータスを確認する様に言う。
マスターとなった者は、サーヴァントの状態を確認できる筈だと。
なるほど、確かに確認したいと意識をすると、脳裏に情報が浮かんでくる。
視覚的にも見て取る事も出来るらしい。筋力、耐久、敏捷、魔力、幸運、と言った具合に、いくつかの項目がある程度の指標でランク付けされているのがわかる。
マシュの場合は耐久と魔力以外は平均的、というのだろうか。この表記だとCは真ん中に位置しているしと視界に映る表の様な物を見て立香は思う。
能力的には数値上は特に問題はなさそう、と非力にも見える見た目と違って一定の水準にはあるんだなと感心し、ふと身長と体重も表記されている事に気付き「こんな美少女のプライベート情報まで把握できちゃうのか」と、やってしまった感溢れる苦笑いを浮かべるしかなくなった所で。
オルガマリーが、険しい顔をしている事に気付いた。
「……所長?」
「————いえ、何でもないわ」
そちらに問題は?とむしろ聞き返された。
問題ありません。立香がそう答えると、緊張していたのかマシュは胸を撫で下ろした。
——————結局、何故オルガマリーが顔を顰めていたのかわからなかったが、一行は探索を再開する。
先程のオルガマリー達が骸骨に襲われていた場所にとりあえず向かってみたものの、骸骨達の気配も含め一切異常は無し。
街は焦土と化し、瓦礫が散乱するものの、それはもはや見慣れてしまった光景である。
幸い、この街の地理を示す看板(らしきものの残骸)を発見する事が出来たので、収穫はあった。
大きな橋があり、山があり、お寺があり、教会があり。名所といえばそれぐらいだと思ってしまう様な、ごく一般的な地方都市だと立香は感じた。
街のおおまかな地形は把握できたものの、さて。
オルガマリー曰くには、教会や寺院が建つような場所は概ね魔術的にも意味を持つような場合が多いとの事で。
この人知を越えた事態は何かしらの魔術的要素が関係している事はほぼ間違い無く、このような大規模な何かが起こったからには、その様な重要な場所が何らかの基点となっている筈だ、と。
流石、一組織の代表を務めるだけある冷静な意見だと立香が褒めると、「初歩的な事よ」とオルガマリーは鼻を鳴らしそっぽをむいてしまった。
怒らせちゃったかな?と立香は焦るも「照れているんですよ」とマシュが小声で囁いてくる。
素直になれないだけの人なんです、と。
把握できた現在地から一番近い魔術的に重要な地であろう場所は教会だった。
一行はまずはと向かうも、収穫はなかった。
道中ちらほらと骸骨達に遭遇するも、散発的な事もあり問題なく対処できた。
辿り着いた教会付近にも骸骨達は居たが、教会内部に特にこれといった手がかりはなく。
教会に骸骨達のような敵性存在が居た事が異常ではあるとオルガマリーや報告を受けたロマニは言うも、カルデアからも教会には特に重要そうな要素は確認できないらしい。
空振りに終わった事に溜め息を吐きつつも、今度は大橋を挟んでちょうど街の反対側にある山とそこにある寺を目指す事に。
だいぶ距離があるなぁと立香がこぼすと、オルガマリーが文句言わないと叱り飛ばす。
それにまあまあとフォローを入れるマシュに、我関せずと黙々と先頭を歩くアッシュ。
そういえばアッシュは教会内でなにかやってたような、と立香はオルガマリーの小言を聞き流しつつ思う。
教会から最初の『篝火』の地点まで戻ると、そこで小休憩。
苦戦しなかったとはいえ幾度か戦ったので、一応軽いチェックを立香とマシュは互いにしつつ。
カルデアのロマニと通信で報告まじりの雑談を交え、今後の方針を改めてオルガマリーが確認して、再度出発。
歩きながら立香はオルガマリーとアッシュは声を掛け合わずとも互いの状態を把握していたようだけども、と『篝火』で言葉少なめに休憩していた二人の様子を想い返す。
やはり自分のような素人ではない魔術師というのは何か違うんだろうなぁと自らとオルガマリーの違いについて思いを馳せ、大橋の手前に辿り着くと。
「————一旦止まれ、警戒しろ」
今まで骸骨を発見する前には軽いジェスチャーだけだったアッシュが、腰から剣を抜き放ちながら促した。
(第一話は)ないです
(続きも)ないです