骸骨達とは一線を画す強さと厄介さに、アッシュとマシュは苦戦を強いられる。
そこに新たに現れ、一行に加勢するキャスターのサーヴァント。
彼はこの地で行なわれていた『聖杯戦争』の唯一の生き残りだと言う。
彼の協力もありシャドウサーヴァントを退ける事に成功した一行は、キャスターと情報の交換を行なう。
それにより、この特異点を形成するであろう『聖杯』は寺のある山の中腹、そこにあるのだと判明。
この特異点は、他の全てのサーヴァントを配下に至らしめたセイバーのサーヴァントが元凶だろうと。
立香はキャスターとの仮の契約を果たし、事態収束のため目的地へと進む。
特異点の原因を排除すれば、カルデアに帰還できるだけではなく、街を正しい形になおす事になるとオルガマリーとロマニは言う。
その言葉を信じ、聖杯を回収して、事態を収束させる為に。
キャスターのマシュへ対する戦いへの心構えのアドバイスもあり、使用不能だった宝具とよばれる切り札の解放、シャドウサーヴァントの時と比較して動きがよくなったように見えるアッシュ、オルガマリーとキャスターに軽く魔術のレクチャーを受ける立香。
どこからかの狙撃を受けるも、何とか被害を出さずに成功するなど、紆余曲折の末5人は目的地である山の中腹、そこにある洞窟の入り口へと到着する。
そこに居たのは、意志を持ちながらもこの特異点の原因となったセイバーと聖杯を守護する、アーチャーのサーヴァントだった。
一行を一瞥した彼は、マシュの存在に驚きながらも告げる
「カルデアを通す訳にはいかない」と。
カルデアの存在、またその使命を知る口振りに、一行は驚愕しつつも戦闘体勢に入る。
3対1の状況で尚、アーチャーは倒れる気配を見せない。
三人の連携が稚拙な事、アーチャーの立ち回りが上手い事、聖杯のバックアップにより相手の能力が向上している事が原因か。
埒が明かぬと焦れたキャスターは、自らの宝具の使用を提案するが、隙が大きく周りを巻き込みかねないそれを、意志を持ち巧みな戦いを行なうアーチャーへのみ当てる事は難しかった。
そこにアッシュは言う。「俺が奴を止める。先に進め」
立香は反対するも、オルガマリー、キャスターは「特異点の原因の回収が優先だ」と。
オルガマリーは「出来るのか」、と自らのサーヴァントに問う。「俺は死ねないんでね」と返すサーヴァント。
おそらくチャンスは一度だけ、しかし絶対に足は止めてみせる。
アーチャーと直接剣を交えるアッシュは、唐突に何かを唱えた。
何時の間にか左手にしていた杖らしきものを掲げると、彼の周囲に白い靄の様なものが浮かぶ。
それに触れた途端に、アーチャーの動きが止まった。
「行け!」足止めは成った。今アーチャーを倒してしまえばと思う立香に「多分ムダだ」とキャスターは言う。
あれはあらゆる戦闘行動を無効にする類いの何かであろうと。故に鎧のサーヴァントは倒せではなく先に進めと言ったのだろうと。
睨み合って動かない二者を尻目に、立香達は洞窟へと進む。
その最奥にあったのは、広大な空間と強大な魔術式、黒い剣を携えたセイバーの姿だった。
立香達の訪れを察知したのか、セイバーは突き立てた剣を抜き、有無を言わさぬとばかりに猛烈な勢いで斬り掛かってきた。
セイバーは恐ろしい程に強かった。
その膂力、速さ、耐久。全てを持って一行を凌駕していた。
マシュはその大盾で、キャスターの援護を受けてやっと辛うじてセイバーに食らいつくのみ。
何も出来ない状況に歯嚙みする立香を、オルガマリーは冷静に諭す。
「時が来るまで目を逸らさず、耐えなさい」
猛攻を加えていたセイバーは、唐突に一息に後ろへ下がり黒い剣を構える。
「その盾の担い手たらんとするならば、覚悟を示せ」
そう告げると、莫大な魔力がセイバーの持つ黒い剣に集う。
宝具だ。セイバーの相手を必殺に至らしめる最強の一撃。
オルガマリーは叫ぶ。「藤丸立香!令呪を使用しマシュ・キリエライトの宝具を開帳しなさい!」
その言葉に、セイバーの偉容に、マシュは背後の立香へと振り返る。
自信なさげに、怯えすら滲ませる少女に、立香は言う。「大丈夫だよ、きっと出来る」
前へ歩き、マシュの隣に立ち、盾を持つ彼女の手に自らの手を覆いかぶせながら。
「信じてる」
確信があった。この少女なら、きっと。
マシュは目を閉じ、息を整え
「はい!!」
凛とした表情を浮かべて、脅威へと向き直った。
令呪を持って告げる。「その宝具で持って示せ!」
人理の、カルデアの、マスターの守護者たる盾とならんと、少女は覚悟を決めた。
覚悟は決まった。それに答える様に内より湧き出る力も感じる。
後はその力を、覚悟をもって、己がカタチで示すのみ。
最後に必要な名は、オルガマリーに貰っていた。
「仮想宝具、疑似展開——『人理の礎』!」
果たして、マシュはセイバーの宝具たる黒い奔流を防ぎきった。
消耗しつつも何とか堪えきったと安堵する一行を前に、しかしセイバーはまたもや剣を構える。
「二発目——!?」あれほどの宝具をこんな短時間に再び、と驚愕するオルガマリーは、セイバーの足下に忍ぶ物体を見た。
一本の木の根のようなものがセイバーに絡み付き、その身を宙吊りにする。
すぐさま切り払い、地面に着地するも、今度は大量の木の根に覆われる。
セイバーを巻き込みながらも数を増す木の根は、遂に巨大な人形と言えるカタチをとった。
『灼き尽くす炎の檻』。キャスターの宝具たる細木の巨人は、その胸の檻にセイバーを抱きながら、自らを灼炎で包んでいく。
巨人を覆う炎は、その身全てを灼き尽くした。
煙を上げ、燃えるものは何もかもなくなったと火は消え去る。
だが、セイバーは立っていた。
あれだけの攻撃を受けて尚無事だとはと驚愕する一行に、しかし黒いセイバーは静かに告げる。
「これを」と黄金の輝きを放つ杯をその手に、それを差し出しながら。
『聖杯だ——』カルデアのロマニが零す。
特異点たらしめる原因。それを差し出すセイバーに一行は警戒するも、マシュはそれを恭しく受け取った。
これより貴公らを待つのは苦難の道だ。
そう言い放ち、最後にグランドオーダーは始まったばかりだと言い残して、セイバーは薄れて、消えていった。
特異点の原因を回収したからか、セイバーは消えた。
仮とはいえ契約したキャスターもまた、消え去ろうとしていた。
「ま、わかってた事さ」と気楽そうに彼は告げる。
機会があるなら、その時はランサーとして呼べと楽しそうに言い残しながら、彼もまたどこかへと霧散していった。
カルデアの最初の指令は達成された——のだろう。
安堵を浮かべる立香とマシュ、オルガマリーに、しかしカルデアのロマニは切迫した様子で。
『その場所はもうすぐ崩れる!帰還の準備をするから自分の事をしっかり思い浮かべて!』
確かに、辺りは大きな地響きを伴い、ぱらぱらと天井から小さな岩が落ちてくるなど、崩落の兆しを見せていた。
急いで退避しないと、そう焦る立香はふと最初に出会った鎧姿のサーヴァントの事を思い浮かべた。
彼はどうなったのだろうと言葉にする間もなく、カルデアの帰還プログラムが作動したのを感じた。
崩れゆく世界の中、足止めを買って出た恩人の一人の鎧姿と、そのマスターであるオルガマリーが何やら握りしめている何かの欠片が、やけに気になった。
「————帰還、成功しました」
そう声が聞こえ、目を開けると、そこは先程まで居た洞窟のような場所ではなかった。
響く歓声と、先進的で機械的な風景。
周囲には幾人かの制服を着た人物達が機材の前で配置についている。
正面には笑みを浮かべた優し気な風貌の男がおり——カルデアの臨時最高責任者となった医療部門のロマニ・アーキマンだ——傍らに、白衣を着た普段着とも言えるマシュの姿があった。
帰ってこれた。息をつく立香はしかし、ふとオルガマリーの姿がそこにはない事に気が付く。
「————あの、所長は……?」
その言葉に、ロマニは笑みを消して、沈痛そうな面持ちになる。
まさか、何かあったのか。立香はイヤな予感を感じながらも言葉を待つ。
「彼女は————」そう口を開くなり、背後から駆動音が聞こえた。
空気が抜ける様な音と共に、機械が動く様な音。
背後を振り返ると、肩で息をするオルガマリーの姿がそこにはあった。
「所長……!」
よかった、と胸を撫で下ろす立香と傍らのマシュ。スタッフからも安堵の溜め息が漏れ出る。
ロマニに向き直り皆無事でしたねと告げようとする立香は、けれど険しい彼の顔を見た気がした。
「えっ…………」
一瞬目を疑うも、彼は何時ものようなふにゃりとした頼り無さげな笑みを浮かべていた。
「所長、今の貴女は————」
「————解っているわ。多分ですけどね」
帰還を果たした立香やマシュ、オルガマリーらはすぐさま医務室へと連れられた。
何せレイシフトという現象を体感した後だ。それも不完全なものを。
故に詳しいバイタルの検査は必須であり、立香にはちらほらと小さな怪我も見受けられたためだ。
検査を受ける立香とマシュ。それを横目にオルガマリーと医療スタッフに指示を出したロマニは部屋を後にする。
病室の一つに二人は入り、オルガマリーは鍵をかける。
沈黙の後ややあってロマニが告げるその言葉に、オルガマリーは腕を組み、顔を顰めながらも冷静に返す。
今の貴女。その言葉が示すのは、つまり————
「やっぱり、死んでいるのね。私」
「————————はい」
そう。
既に死んでいるという信じられない言葉を肯定され、しかしオルガマリーは諦めた様に呟いた。
そもそもがおかしかったのだ。
オルガマリーは優秀な魔術師であったが、カルデアの使命————グランドオーダーに参加する事は叶わなかった。
レイシフトの適性がなかったためだ。
特異点修復に欠かせないレイシフトを行なえない、後天的にはどうする事もできない適性という才能。
それが、オルガマリーは持ち得なかった。どうしようもない程に。
そんな彼女が、レイシフトした先の特異点に存在した。
オルガマリーの肉体ではレイシフトはできない。けれどレイシフトを果たした先にオルガマリーは存在している。
それが意味する事はつまり。
「肉体がなくなり、霊体だけになったからレイシフトに耐えられた——といった所かしら」
「おそらくは……」
血の通った肉体をもったままではそれに耐えられなくとも、肉体を持たない魂である霊体であれば可能であるかも。
その考えは、多分当たっていたのだ。
薄々勘付いていた事だった。その疑念を無視できなくなったのは、鎧姿のサーヴァント——アッシュと契約を果たした時だ。
立香とオルガマリーの違い。魔術的な素養はオルガマリーが高いが、レイシフト適性、ひいてはカルデアとサーヴァントを結ぶマスターとしての適性は立香の方が高かった。
そんな彼に契約できず、自分には契約が可能だった。その違いは何か————
「アッシュとの念話で、察せられたわ」
貴公は肉の身体ではないだろう————
ステータスの不明瞭な部分を、周囲に悟られない様にパスを通じた念話を用いて問いただしていた時に告げられた言葉だった。
『篝火』の前で、そう告げられた時は————自分でも不思議と、冷静に受け止められた。
普段の自分であれば思わず喚き散らしていたであろう過酷な言葉に「ああ、もしかしたら」と。
それは眺めていると何故だか落ち着く、『篝火』の前であったからなのか、パスを通じて流れてくる彼の、得体のしれない静けさのせいなのか。
ともかく自分の今がどうであろうと、こうして意志を持って立っているのなら、やる事はひとつだ。
そう考え、ひとまず自分に対しての考えを切り上げて————そうして最後までやってきた中で、薄ぼんやりと確信していたのが。
「今の私は『幽体』。魂だけの存在が——あるいはその残滓が、仮初めの身体を持っている存在にすぎないのでしょうね」
検査と治療を終え、結果を待つのみとなった立香とマシュには、ひとときの休息が与えられた。
特異点はまだまだ存在するものの、今すぐにどうこう出来る訳ではないからだとか。
その辺りの詳しい事情は明日にでもと、とりあえずの所として今日はもう休んで欲しい、と告げられた。
本当は2、3日休んで欲しいんだけどね。とも。
けれども現在のカルデアにそのような余裕はない——らしい。
先の爆発事故のせいで、主要な人員は殆どいなくなってしまった故に。
一応の応急処置はしてあり、もしかしたらいつか蘇生が叶うかもしれない——現在は何故かカルデアの外部と連絡がつかないので今ではなく『いつか』である——らしいけれど、それはつまりいないのと同じだ。
人員に余裕はなく、現状何が起きているのかもわからず、更にいえばマスターとなりうる人間は藤丸立香をおいて他にはいない。
いなくなってしまった。一人残らず。
カルデアの最後の補欠だったマスターは、カルデアに残った最後のマスターになってしまった。
直接言われた訳では無いが、慌ただしく作業をするスタッフの会話とも愚痴ともつかないそれらは、自然と耳に入ってきた。
自然と、拳に力が入った。
「先輩……」
ふと、傍らのマシュが心配そうにこちらをみつめていた。
マシュだって、つらいはずなのに。
彼女の境遇を考えると、自分の事だけ考えている訳にはいかないのだと思い直せた。
そう。自分だけではない。
マスターであれるのは自分だけかもしれないが、カルデアにはロマニをはじめとしたスタッフが未だ多数残っている。
自分一人だけで戦う訳じゃないのだ。
この儚げで頼もしい後輩だって、一緒に戦ってくれるのだし、心強い事この上ないではないか。
「頑張ろう、マシュ」
はい、と静かに、けれど芯の強さを感じさせる返答をしたマシュに、戦闘時の頼もしさは凄かったなと思い出して。
戦闘時、一緒に戦ってくれた。そこから、炎に包まれた街で出会った一人のサーヴァントと、そのマスターとなった人が居る事を思い出した。
「そういえば、所長は……」
どうなったんだろう、と。
医務室までは一緒に来ていたはずだが、気が付けばいなくなっていたし、スタッフの会話からは「マスターは一人」としか聞けなかった。
あの特異点でオルガマリーもマスターとなって居た筈だけど。
自分とそれ以外に何か認識の齟齬があるのかも、と医務室を出てすぐの廊下で考え込んでいると、すぐ近くの部屋のドアが開き、そこから件のオルガマリーとロマニが出てきた。
「藤丸、マシュ。——丁度よかったわ」
ついてきて。
二人の姿を見て、そう声をかけるなり、オルガマリーは背を向け歩き出した。
「ロマニ、貴方はレオナルド・ダ・ヴィンチに連絡を入れてちょうだい」
「…………はい」
その場に居たからとついていこうとした臨時最高責任者に、使いぱしりをさせながら。
————オルガマリーの後に続いて辿り着いたのは、何やら様々な機材が隅にある、やや開けた部屋だった。
「ここは?」
「実験室よ。魔術的な研究の実証を行なう部屋の一つ」
説明もそこそこに、オルガマリーは部屋の中央、何もない床に屈み込み、懐から取り出した『何か』で地面に何かを描き始めた。
金属製の床に、削る訳でもないのに何故かしっかりと残るその跡。
しばしその作業を眺めていると、そこには一つの図形のようなものが出来上がっていた。
「————魔法陣?」
故郷の漫画やゲームなんかでよくみたような、魔法を使う者が用いるとされるものに、それはよく似ていた。
召喚の術式よ。簡単なものだけどね。とオルガマリーは言う。
召喚……人や物を呼び出したりするあれかな、と立香は先程思い浮かべたイメージのまま、陣からドラゴンやモンスターが出てくるのを想像する。
「マシュ、この上に貴方の盾を置いてもらえるかしら」
「盾を……ですか?」
「そう。要は特異点でカルデアと通信を試みた時と同じことよ」
その言葉に納得したのか、マシュはどこからともなく大盾を取り出して——「それってその格好のまま取り出せたんだ」と立香は特異点でのやたら扇情的な格好をして盾を持っていたマシュを思い出して驚きながら——オルガマリーの指示通りに、陣の中央にそれを設置する。
「————レオナルド、ロマニから連絡は行ってる?」
『はいはーい、ちゃあんと届いてるよ〜』
それを見届け、オルガマリーは部屋に据えられた機材の一つを操作し、どこかへと連絡をとったらしかった。
聞こえてきたのは、陽気な雰囲気が漂う女性の声。
レオナルド、という名前から察するに男性だと思っていたが違った様だ。
彼女は「そっちに回すぶんの電力は確保した。後は起動するだけだよ」と続ける。
起動……召喚の術式————召喚術。
「所長、英霊の召喚を行なうのでしょうか」
「そう——いう事になるのでしょうね。ええ、そうです。『彼』を呼びます」
『彼』。それはきっと恐らく、あの特異点で共に戦った鎧姿の彼だろう。
唯一あの後どうなったのかが知れなかった人物である。立香としても気になってはいたが。
部屋の中央に魔力が集まる。
集まった魔力は、くるくると回り廻りながら更に真ん中へ渦巻いていき——そして、陣の中央から炎が吹き出した。
その炎に特異点で街を焼いていた炎のような猛々しさはなく、むしろ『篝火』の様に静かでどこか懐かしい————
炎の中に、人影が見えた。
それは祈るように地面に膝をついていて——吹き出す炎が収まっていくと同時に、ゆっくりと立ち上がった。
煤で汚れた様な黒い色、熱で拉げた様ないびつな全身鎧に、一振りの捩じれた棒の様な奇妙な得物を携えて。
「————さて。私はアッシュだ——そう名乗った方がいいのかな?」
炎の中から現れた彼は、冗談っぽく第一声を上げた。
3話と4話はないし杖ではないしそんな類いの術ではないし英霊でもないし次の話もないです
ないです