人理の灰   作:終わり無き苦悩の針

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第六話

「明日詳しい会議を行ないます」と告げ、立香とマシュにしっかり休む様にと言い含めたオルガマリーにアッシュは連れられて行く。

施設内を歩く事しばらく、ついた部屋にはロマニ・アーキマンとレオナルド・ダ・ヴィンチの二名のみが待っていた。

 

「はじめまして、というのはちょっと違うかな。特異点で通信していたロマニ・アーキマンだ」

 

「私の方は正真正銘初めましてだね。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。気軽にダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ」

 

「——ロマニ・アーキマン、あの声の主か。そしてレオナルド・ダ・ヴィンチ。把握した」

 

朗らかな笑顔を浮かべ、手を差し出しながら挨拶をするロマニと、ニヤニヤとした怪しい笑みを浮かべながら自己紹介するレオナルド。

彼らの名前と顔を覚えたのか、アッシュもまた自らの仮の名前を二人に告げる。ロマニの手を取り握手はしなかった。

あっはっはと苦笑いしながら落ち込む素振りをみせるロマニと、一連の様子を見て笑みを深めるレオナルド。

その緩んだ空気を払う様に、オルガマリーは咳払いして本題を切り出す。

 

「さて。ある程度は現地でも聞いたけど、今度は詳しく事情を話して貰うわよ」

 

「——事情、とは。私に答えられる事柄は全て伝えた筈だが」

 

「聞きたいのは貴方自身の事よ」

 

オルガマリーは言う。貴方は普通の英霊とは違うでしょう?と。

ロマニもレオナルドも異常を感じている。彼は尋常の英霊ではないだろうと。

 

「カルデアでキミをモニターさせて貰ってた時から疑問ではあったんだ。それはあの特異点の異常のせいだと思ってたんだけど」

 

実際にこの目で見て、改めてそれを実感した。ロマニは真剣な表情で話す。

 

「あの特異点では味方してくれたキャスターのサーヴァントについてもイマイチ把握できなかったから、私は特に気にしていなかったんだけどね」

 

ロマンの心配性も、偶には約に立つ様だ。レオナルドも彼の意見に冗談めかしてだが賛成する。

 

あの特異点。

立香やマシュ、オルガマリーらが半ば偶発的に辿り着いた燃え盛る街。

そこは見た目だけなら近代の日本の様相を呈していながら、魔術的にはさながら別世界のようだった。

詳しくモニターできない。まるで霧に覆われているようだとは観測を試みたカルデアスタッフのうち誰だったか。

あらゆる手段を持ってしてもカルデアからは視覚的には何も確認できず、またその他数値的にも碌な観測結果を得る事はできなかった。

状況把握の手段は、あちらからの働きかけによって成功した音声通信と、その通信先である立香らにごく近い周囲の、一部の計測結果のみ。

サーヴァントとの契約状況もカルデアで使用している総電力量の変動を計測してそれから逆算して、といった回りくどい作業の末に確認できたにすぎない。

そういった具合に、そもそもの場所からして異常でしかなかった。

故にそこを『特異点』とし、カルデアの役割である人理修復の第一歩であるとして挑んだのだ。

 

その様な場所故に、契約したサーヴァントの霊基情報の確認も出来ず、通信を介して伝わるオルガマリーの疑念もカルデア側は正しく認識できていたとは言い難かった。

しかしそれも、そのサーヴァントが実際にこのカルデアに召喚され、それを観測し計測した事により異常を把握できた。

 

「ステータスは不明。その他詳しい霊基情報も不明。所持品の解析は出来るものの結果は芳しくない」

 

「そもそもが魔力の質が異なってるんだ。通常サーヴァントは召喚された時代に合わせて構成される。身体を巡る魔力から生態から何から何まで」

 

英霊とは、過去あるいは未来を生きた存在だ。現在とは違った環境に生きていた生物である。

遥か太古、所謂神代と呼ばれる時代は神秘が今とは桁違いに濃かったと言われている。もしかすると空気の組成からして違っていたかもと言われている。

そんな彼らが当時のままで現代に現れた場合、下手をすると「適応できず、息すら不可能になって死ぬ」といった可能性すらある。

その様な事態を防ぐため、また現代へ可能な限り影響を及ぼさない様に『サーヴァント』というシステムはある。

英霊という存在を一定の枠の中に流し込み、それに沿って本来の力の一端のみを再現する。

召喚される先の時代に則した要素だけである程度の活動が可能な様に調整される。

効率の違いはあるだろうが、どの時代のどの国の英霊もその世界の魔力でやりくりできるのはそのためだ。

 

が、この『アッシュ』というサーヴァントは違う。

魔力の波形が異なり、そもそも『魔力に類似した何か』を持っていて、それで身体が構成されているその様がサーヴァントと魔力の関係に酷似しているので『それ』を『魔力』だと仮定し、『サーヴァント』だと認識しているにすぎない。

その身体も、通常のサーヴァントの霊子組成とは異なっている。

まるで現代に召喚されたサーヴァントではなく、どこか別の時代に召喚されたサーヴァントのような——

 

「——けどそれは有り得ないんだ、本来なら。カルデアで召喚された場合は、どの時代にも適応可能な特殊な処理等を施されて、その構成はどれも同じになる筈なんだ」

 

カルデアからレイシフトして様々な時代へ人やサーヴァントを送り込む。

レイシフト時にある程度各時代へ適応できるように処理はするが、それを簡略化する為にもサーヴァントは最初に処理を行なって情報を登録する。

言わば『カルデアという時代のサーヴァント』という規格で統一するように、召喚の段階で処理を行なっている。

けれども、アッシュはそうではなかった。

 

「つまりはそう——君は『座』から召喚されたのではなく、直接あの特異点から召喚されたサーヴァントだと考えられる」

 

英霊の『座』からの召喚ではなく、特異点からの転移に近い形でアッシュはカルデアに来た。そうロマニとレオナルドは結論付けた。

もっと言うなら。議論する中でどうしても浮かんできたもう一つの可能性。それをレオナルドは信じてはいないと言わんばかりの苦笑いで続けた。

 

「あの特異点で召喚されたサーヴァントではなく、そもそもがサーヴァントですらない————『別世界』から来た存在なのかもしれないけどね」

 

 

 

 

 

その言葉を————冗談混じりの最後の与太話を、アッシュは肯定した。

存外速く突き止められるものだな。そう零しながら。

オルガマリーは額に青筋を浮かべる。口元がピクピクと震え、わなわなと身体も震わせる。

それはつまり——先の言葉の通りなら、つまりは。

 

「——貴方、嘘をついたのね。何が『そういう事になる』よ!サーヴァントではないじゃない!!」

 

『サーヴァント』という言葉に対して、この男は「まあ、そういう事になるか」といけしゃあしゃあと嘘を言いやがった事になる。

オルガマリーはキレそうになった。だが大人なので堪えた。

ちょっと怒りが漏れたが少しは許されるだろう。契約相手への詐称は大罪である。

けれどももし、彼がいきなりどこへとも知らぬ世界へやってきたばかりで、先行き不安の中で私達と遭遇したのなら——まあ、理解はできる。

そうオルガマリーは、かろうじて最後の一戦を越えない様に、理性でもって堪えたのだが。

 

「嘘は言ってない。『サーヴァントだ』と述べてはいまい」

 

全く悪びれず、自分は悪くないと言わんばかりの態度で出られるとなると。

オルガマリーは、キレた。

 

「————令呪を以て告げる!!『私に聞かれた事は偽りなく答えなさい』!!」

 

マスターに与えられた三回限りの特権を、容赦なく行使した。

「嘘だろ!?」あまりにもはやく最終手段を取るオルガマリーに驚くロマニとレオナルドをよそに、当のアッシュは関係無いねと人ごとのように鼻で笑った。

 

「——は、聞くにその令呪とやらはサーヴァントに対するものだろう。サーヴァントではない私に通用するとは————」

 

「召喚された時に見た事ない剣を持ってたわね。あれは?」

 

「『火継ぎの大剣』という。篝火を構成するのを始め————何ぃ!?」

 

脈絡のないオルガマリーの質問に、即座に口を開いた己が信じられぬとアッシュは驚愕した。

令呪が機能している。いくら契約は果たしているとはいえ、サーヴァントでない自分に聞く筈が————

狼狽するその鎧姿を見て溜飲を下げたオルガマリーは、してやったりと笑顔すら浮かべて解説する。

 

「令呪なんてものは対サーヴァント様に調整されただけの呪いの一種よ。効果の対象を人間に変えるなんて私にかかれば雑作もないわ」

 

オルガマリーはレイシフトの適性はなくとも、魔術師としては必ずしも劣っているという訳ではない。

それに加えて、カルデアのトップたるアニムスフィア家の人間だ。そこで行なわれた研究の内容など把握している。

特に令呪関連——マスターに関連する事柄は、概ね知り尽くしていると言っても過言ではなかった。

故に、令呪の構成を変更して対象を人間にする事など、簡単に出来た。

 

令呪が通用したとわかり、アッシュは大人しく観念した。

そこからオルガマリーの怒濤の様な質問責めを受け——ロマニやレオナルドが気になった事はオルガマリーを仲介して——彼についてのおおよその事情は把握される。

名前については偽りは無し。記憶もなく必要もしなかった事から個人を指す名称はない模様。

人間への対象となる令呪が効果を発揮した事から、人間であると判明。

人間ではあるが、身体の構成はサーヴァントのそれに近いものである。

特異点に居た個体と今の個体は全くの同一の存在、カルデアによる英霊召喚の産物ではない。

「どこから来たのか」という質問の答えは、結論から言えば「世界の成り立ちから違う異世界」だと判明。

その異世界は『火の時代』と呼ばれる、かつて神が支配していた世界。

今この場で重要そうなのはこのあたりか。雑多な質問を纏めて記したレオナルドはそう結論づけた。

 

「『火の時代』……ね」

 

「ステータスは無尽蔵に伸ばせるかもしれない、か……これってこっちの英霊にも応用できないかな」

 

「魔力じゃなくて『ソウル』——形あるもの全てが持つ力の源……」

 

尋問が一段落し聞き出したそれぞれの事柄の中、各々が気になった事について考え込んでいる所に連絡が来た事を知らせる通知音が響いた

 

「————おっと、現状に関する調査が完了したようだ。明日の会議の為にもチェックしなければね」

 

という訳で今日はお開きでいいかな?とレオナルドは所長に呼びかける。

最高責任者に対して酷く自己中心的な物言いだが、確かに必要な事であるし、聞きたい事はあらかた聞いたし——令呪は今この場限りではない。

聞きたくなった時には聞けばいいだろうと、今回はここまで。とオルガマリーが解散を告げた。

レオナルドへは今判明した情報の反映、ロマニへは後日オルガマリーとアッシュの身体検査を行なう為の準備を命じて。

人員が減り仕事量が激増した事を思い出したロマニは沈痛そうな面持ちで部屋を出て、レオナルドは知らない世界の情報にどこかウキウキとした様子で次の仕事へと向かって飛び出していった。

部屋に残ったオルガマリーは、罰も兼ねて正座させられていた——馴染みのない体勢は相当に苦痛である。何故ロマニは日本の文化など知っていたのか——アッシュの正面に、溜め息しながら膝をついた。

 

「————けど、こうして私が今ここにこうやって居られるのは、多分貴方のおかげなのよね」

 

そこだけは感謝するわ。自分から正面にきていながらそっぽを向いて呟くオルガマリーに、アッシュは「別に貴公の為ではない」と返す。

でしょうね。義理はもう果たしたと鎧男の兜を小突きながら立ち上がり、レオナルドらに合流し明日の為の情報の整理を行なうべく、オルガマリーは部屋を出た。

 

「これから扱き使ってあげるわ。私の『サーヴァント』」

 

今のうちに休んでおきなさい。吐き捨てる様なその言葉から、これから自分を襲うであろう苦難と言外の優しさを想い、異世界よりの来訪者は「さて」と頭を悩ませた。




勢いで出来上がった今回の惨状を見て封印すべきか迷ったので初投稿です。
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